川上弘美さんと
相づちを打ち合う。
『MOTHER2』を切り口に
「そうそうそう!」

第10回
『タイタニック』と柴門ふみ


糸井 あの、それはもう、ギリシア神話の時代から、
ヤキモチの描き方ってずーっとあって。
『タイタニック』って、ご覧になりました?
川上 いえ、観てないです。
糸井 あのなかにも、ポーキー的な人物が
出てくるんですよ。ヒロインの婚約者で、
金と名誉と力と、ぜんぶ持っていて。
要するに、そういう男が、
労働者階級のディカプリオに負ける話なんです。
けど、ぼくは昔からずっと思ってるんですよ。
主人公が有利すぎるだろうって(笑)。
そのときに主人公が持っているものが
何かっていうと、たいてい、
「いい男」だったりするんですよ。
つまり、「金持ち対いい男」なんですよ。
それは、きったねーなって思う。
川上 ああ、そうですね(笑)。
それ、負けるほうがかわいそう。
糸井 でしょう?
「富山のダイヤモンドに目が眩み」って、
文学者は書くわけだけれども、
富山がダイヤモンドを買うのに
どれくらいたいへんな思いを
したのかっていうことは
書いていないわけですよね。
川上 そうですよね(笑)。
そこを考えるのが、文学なんですよね、
ほんとの意味では。
糸井 そうそうそうそうそう。
で、そっちを書くっていうのは、
めっちゃくちゃたいへんでしょう?

川上 たいへんですね。
糸井 でも、川上さんは書いてますよね。
川上 そうですね。でも、そこまではね、
まだうまく書けない。やっぱりね、
様式化されたものからの
回避を最初にもってきて、
そこから持っていかないとうまくいかない。
糸井 両方貧乏にしちゃって、
そのバランスのなかで差を書くような。
川上 そうそう(笑)。
だからその域ではできるんだけど、
やっぱりある絶対的な部分では、
「世間様はこっちのいい男を味方する」
っていうふうに感じたりして……
あ、でも『先生の鞄』では、
ちょうどそれをしたんだなー。
糸井 うん。
川上 それでもね、先生はけっこう有利ですよ。
糸井 ああ、有利ですね(笑)。
川上 そういう意味でね、
すごいなと思ったのが、柴門ふみさん。
彼女のマンガは、ときどき、
爽やかな青年が負けるんですよ。
あれは画期的だったと思うんですよ。
糸井 柴門さんは、
そっちを包み隠さずに言える人ですね。
女の子は、あれを、
ほんとは知ってるはずなんですよね。
川上 ね(笑)。ただ、その、
お金持ちっていうだけじゃ、ダメなんで。
そこはやっぱりね、
悪辣な人物に見えるけど魅力もある、
かといって「いい悪役」というわけでもない、
というような、すごく微妙なところに
着地させなければいけないんですよね。
糸井 うん。で、そこんところを、
認めすぎるとまた僕らもひねくれちゃうんで。
逆に、上手くいかないほうを
絶えず選ぶようなことにもなっちゃう。
川上 そうなんですよね。
うーん、難しいなあ(笑)。

(続きます!)

2003-08-15-FRI

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