川上 |
たとえば小説のなかで
女の人に何かの選択をさせるときに、
いつもよくわからなくなるんですよ。
というのは、キレイな女の人だとか、
幸せな結婚に対してだとか、
そういうものに対して、
世の中にはいくつかの定理みたいなものを
認めているような気がするんですけど、
そういうものがほんとうかどうか
わからなくなってくるんです。
ほんとうにそういうものが
どこかにあるのかもしれないけど、
私は見たことがないんですね。
まわりの友だちなんか見ててもね。
少なくとも、この数年間で、
これまでの定理ではくくれないものが
だんだん世間でふつうになってきてますよね。 |
糸井 |
この数年間の変化は大きいです。 |
川上 |
大きいですよね。だから、たとえば、
女の人は自分を客観視できない、
っていう神話が崩れたみたいな
ところがありますよね。
最近のものを見ても、
女の人が自分をすごく客観視して
書いてるものが多い。 |
糸井 |
昔は、女の人がものを考えてない、
って思い込むことで社会が成り立ってる
みたいなところがありましたから。 |
川上 |
あるときまでは、それがありましたよね。
で、反対にそれに反対するっていうことで、
成り立ってる女の人たちもいたし。 |
糸井 |
そうでしたね。ものすごく考えてます、
みたいなことをことさらに主張したり。
あの、中崎たつやの『じみへん』っていう
マンガがあるんですけど……。 |
川上 |
あ、大好きです(笑)。 |
糸井 |
あ、やっぱり(笑)。あのなかで、
実家に帰った男とその母親が
居間で会話する話があるんですよ。
なんかこう、髪がちりちりっとした、
もみあげの長い男が実家にいるんです。
で、見開きページの3分の2くらいまで、
その男と、母親が、ずーっと、いるんです。
淡々と、漠然と、ただいるんですよ。
そのおふくろは、例によって、生活や苦労が
そのまんま姿形になったような人で。 |
川上 |
わかりますわかります(笑)。 |
糸井 |
息子のほうも、
まさにその息子っていう感じで。
で、いよいよ最後のほうになって、
息子が母親に話しかけるんですよ。
「おふくろ、何かものを
考えたことがあるのか?」って。
すると母親が、しばらく考えて、
「あるよ」って答えるんです。
で、いよいよ最後の一コマになって
母親が言葉をつけ足すんです。
「寝る前に、ちょっと」って。 |
川上 |
すごい(笑)!
|
糸井 |
すごいでしょ?!
それね、たまんないですよね。 |
川上 |
それって、ものすごく正解ですね。
すごーい(笑)。 |
糸井 |
で、川上さんの小説を読んでると、
僕、その気分になるんですよ、けっこう。 |
川上 |
あ、そうですか?
それだとうれしいけど(笑)。 |
糸井 |
なんていうのかな?
全員、ものを考えてる。
で、いっぱいは考えてない(笑)。
|
川上 |
うーん、いっぱいは考えてないですね。
いっぱい考える人も、ほんとは、
いるのかもしれないんですけど、
そういう人は出てこないですね。
自分がそういう人になれないから。 |
糸井 |
たぶん出てこないんですね。
|
(続きます!)