川上弘美さんと
相づちを打ち合う。
『MOTHER2』を切り口に
「そうそうそう!」

第11回
客観視できる女の人と『じみへん』


川上 たとえば小説のなかで
女の人に何かの選択をさせるときに、
いつもよくわからなくなるんですよ。
というのは、キレイな女の人だとか、
幸せな結婚に対してだとか、
そういうものに対して、
世の中にはいくつかの定理みたいなものを
認めているような気がするんですけど、
そういうものがほんとうかどうか
わからなくなってくるんです。
ほんとうにそういうものが
どこかにあるのかもしれないけど、
私は見たことがないんですね。
まわりの友だちなんか見ててもね。
少なくとも、この数年間で、
これまでの定理ではくくれないものが
だんだん世間でふつうになってきてますよね。
糸井 この数年間の変化は大きいです。
川上 大きいですよね。だから、たとえば、
女の人は自分を客観視できない、
っていう神話が崩れたみたいな
ところがありますよね。
最近のものを見ても、
女の人が自分をすごく客観視して
書いてるものが多い。
糸井 昔は、女の人がものを考えてない、
って思い込むことで社会が成り立ってる
みたいなところがありましたから。
川上 あるときまでは、それがありましたよね。
で、反対にそれに反対するっていうことで、
成り立ってる女の人たちもいたし。
糸井 そうでしたね。ものすごく考えてます、
みたいなことをことさらに主張したり。
あの、中崎たつやの『じみへん』っていう
マンガがあるんですけど……。
川上 あ、大好きです(笑)。
糸井 あ、やっぱり(笑)。あのなかで、
実家に帰った男とその母親が
居間で会話する話があるんですよ。
なんかこう、髪がちりちりっとした、
もみあげの長い男が実家にいるんです。
で、見開きページの3分の2くらいまで、
その男と、母親が、ずーっと、いるんです。
淡々と、漠然と、ただいるんですよ。
そのおふくろは、例によって、生活や苦労が
そのまんま姿形になったような人で。
川上 わかりますわかります(笑)。
糸井 息子のほうも、
まさにその息子っていう感じで。
で、いよいよ最後のほうになって、
息子が母親に話しかけるんですよ。
「おふくろ、何かものを
 考えたことがあるのか?」って。
すると母親が、しばらく考えて、
「あるよ」って答えるんです。
で、いよいよ最後の一コマになって
母親が言葉をつけ足すんです。
「寝る前に、ちょっと」って。
川上 すごい(笑)!

糸井 すごいでしょ?!
それね、たまんないですよね。
川上 それって、ものすごく正解ですね。
すごーい(笑)。
糸井 で、川上さんの小説を読んでると、
僕、その気分になるんですよ、けっこう。
川上 あ、そうですか?
それだとうれしいけど(笑)。
糸井 なんていうのかな?
全員、ものを考えてる。
で、いっぱいは考えてない(笑)。

川上 うーん、いっぱいは考えてないですね。
いっぱい考える人も、ほんとは、
いるのかもしれないんですけど、
そういう人は出てこないですね。
自分がそういう人になれないから。
糸井 たぶん出てこないんですね。
(続きます!)

2003-08-18-MON

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