vol.61
- semantic transcoding 3 -
●Webはいい!だからトランスコーディング
またまたトランスコーディングの世界へようこそ。
前回はお休みしたので、先を急ぎながらも
今日は少し脱線気味で進みます。
今のようにWebで、マルチメディアな
情報の発信が盛んになったのは、
WWW(World Wide Web)が誕生し、
ブラウザという閲覧ソフトが発達してきた
ついここ5、6年のことですよね。
長くても10年くらいの間の話です。
じゃ、それ以前のネットワークでの情報交換は
どんな感じだったのか?
それはもっぱらテキスト(文字)を送ることでした。
回線も細くゆっくりで、文字を送ることが精一杯。
そのころ主にネットワークの住人だった研究者たちは
限られた資源の中でどうやって
自分の意見を正しく伝えるか
良いコミュニケーションを図るか
そういうことにも頭を使い工夫を重ねてたんですね。
絵文字、顔文字が生れたのもその工夫のひとつでした。
言葉だけでは、誤解が生れることもあるし、
今の自分の表情をテキストで表現できたら…。
たとえ怒った文章を受取っても、
最後の絵文字で、
ニヤッとすることもあったでしょう。
ま、使用については好き派と
そうでもない派に別れるからね。
(「ほぼ日」は後者、でしたね。)
とにかく、そんなひとつの
「ネットワーク文化」のようなものが
形成されていた場所があったのでした。
fj(from japan)などがあった
ニュースグループもそのひとつ。
ニュースグループは
話題別にツリー構造になっていて、
とにかく膨大なツリーです。
その枝葉のところの
例えば「fj.rec.disney 」は
「from japan recreation disney」のこと。
つまり「日本語で、娯楽の中の、ディズニーの枝」
ということで、そこではディズニーの話が
盛り上がっているという具合。
個々のツリーを辿れば
エンターテイメントの話、テクニカルな話、宇宙の話…、
それぞれのコミュニティの中で、
存分に意見を交わしたり、
あるいは読むだけの人がいたりして。
有意義な情報を健全に交換するために、
ある種のコミュニケーションのルールが働いていて
一定の秩序を保ちながら
独特の文化が花開いていたようです。
私はもっぱら読むだけだったけど
ネットの中の「コミュニティ」の存在が
とてもおもしろいと思っていました。
あ、そうだ。
そのうちに紹介しようと思っているのですが
Emacsというフリーソフトウエアの
メンテナンスをしている
Martin Buchholzさんというハッカー。
この間のLinux Worldでお会いして
ネットのコミュニティ社会学みたいな話を
聞かせてもらったのですが
それはすごくおもしろいです。
待っててください。
とにかく、
そんなひとつの時代を経てWebが生れ、
その成長とともに、
情報の形式も画像、音声、動画というふうに
バラエティに富み
ネットワークユーザは一般化しました。
Webの世界は、楽しさも増す反面、
複雑で手に負えない問題も増えました。
この先ブロードバンド時代になると
情報を活用する上でのユーザ側の悩みは
さらに大きくなると
長尾さんは読んでいるのです。
では、未来のWeb生活のために
必要な技術はなんだろう?
私もそれを考えてみることは
すごく重要なことだと思うのです。
ここはちょうどトランスコーディングの
大切なコンセプトに関わる話だと思うので
耳を貸して下さいね。
●でもWebは違う。
マーシャ |
Webの世界もさー、
なんかゴミの山になりつつもあるよね。
すごい価値のあるところもあれば
あまり価値が見あたらないものも
山ほど増えていってる気がするし。
(今、世界のWebページ数は30億ページにも
及ぶと言われています。) |
ナガオ |
それが今のWebの弱点ですね。
僕はそれは前から気がついていたんだけど。 |
マーシャ |
ふふふふ。 |
ナガオ |
でもそれでもいいんです。
昔のニュースグループの世界よりはいい。 |
マーシャ |
あー、fj(エフジェイ)とか?! |
ナガオ |
そう。あの頃はひどかったね。 |
マーシャ |
うー!! |
ナガオ |
もちろん、僕はアメリカにいるときも
fj.rec.なんとか、とか。
そういうの読んでたんですけど、
退屈しのぎに(笑)。 |
マーシャ |
すっごい量だもんね、アレ(笑)。 |
ナガオ |
毎日読んでも内容が
全然減らない…っていうか。 |
マーシャ |
ほんとに、いろんな議論が
毎日展開して…。 |
ナガオ |
でも、ふと気がつくと、
今日はニュースしか読んでいないって…(笑)。 |
マーシャ |
ハハハハー、朝から…? |
ナガオ |
こりゃいかん!と思うようになって
パタッて読むのやめたんですけど。 |
マーシャ |
ほんと?
fj、今もあるんですかねー。 |
ナガオ |
いや、全く見てない。
あとあれ、文章しかナイっていうのもツライなー。 |
マーシャ |
うん、うん。 |
ナガオ |
でもWebは違う。
Webはイメージもあれば、
音声もあれば、ビデオもあるし
その意味ではひじょうに自然な方向ですけどね。
文字だけの世界はやっぱりなんか
ひじょうに窮屈だった。
文字によって誤解を与えることもあるし。 |
マーシャ |
ええ。 |
●僕はその時機が来たと思うんです。
ナガオ |
もちろん、正しい文章を書いていれば
誤解を生みにくいんだと思うけどね。
でもやっぱり文字だけのニュースグループよりは
イメージその他を含むWebの方がわかりやすいし。
でもWebがゴミじゃなくて宝の山かというと
やっぱりまだそうじゃないし。 |
マーシャ |
まだっていうか、これからさらに
ゴミの山になる可能性もありますね。 |
ナガオ |
でも、いいことじゃないですか?
みんながWebにコンテンツとか
コメントを出していけるっていう
その…パブリッシュメントができるっていうのは
いいことじゃないですか! |
マーシャ |
いいことだと思います、私も。 |
ナガオ |
僕はそれの恩恵を考えると
たとえゴミになったって
その恩恵の方がはるかに大きいと思うから
我慢できますよ。 |
マーシャ |
それを使うツールを作る? |
ナガオ |
そうそうそう。
だとしたら、今度はみんながパブリッシュして
情報を出していくっていうことが
当たり前になったときに
次にどうやるかっていうこと。
次にどうその情報を整理して
キレイにしていくかってことを
考えるべきだと思うんですよ。
僕はその時機に来たと思うんです。 |
●次のステップ
ナガオ |
95年頃から5年くらいは
そういう情報を「出す」ことが
メインだったんです。
ともかく情報を出して、
それを一般に流通させることが
メインの目的だったんです。
それはいい!
それは正しい!
正しく働いたし、それに関して
ティム・バーナーズ・リー注
っていうWebの発明者は
すばらしい、偉大なことをしたんです。
だけど、次のステップはもう、
責任のある研究者たちのやるべき
ことだと思うんです。
Webを流行らせたのは
専門家じゃない人たちだったんです。
ネットワークでも、データベースでも、
そういう研究者でも何でもない人たちが
それを作ったんです。
ブラウザを作ったのは大学の人だけどね。
だけど、ま、学生だし、
そんなに責任のない人たちだった。
それに目を付けてビジネスをやる人が
そういう今のWebの文化を創った。
それはそれでいいんです。 |
(つづく。)
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注:Tim Berners-Leeについての参考資料
1.『Weaving the Web(Web の創成)』(Harper San Francisco)
Tim Berners-Lee他、著(和書は毎日コミュニケーションズ)
2.W3Cのページ
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セマンティック・トランスコーディングが
なぜ必要なのか?
研究者として長尾さんのWeb世界観は?
いろいろとWebの奥底を探る気持ちで
もう少し、続けます。
marsha
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