vol.65
- semantic transcoding 6 -
●新しい教育のシステムをつくる。
2002年初のこんにちは。
いかがお過ごしですか?
今日はちょっとあたたかい石垣島から
「おーりとーり(いらっしゃいませ〜)」。
さて「トランスコーディング」の最終回。
ですが、ちょっとその前に、本日の、
この冬お薦め、あったかメニューが、
みっつくらいあります。
★★ひとつめは、大好きな音楽〜。
BAKED APPLE というニューアルバム。
(FABFOUR 限定販売 CD \2,940)
豪華なアーティストたちによる
ビートルズのカバーアルバムなんですけど
その多彩なサウンドは、
いやもうマジカル!ミラクル!!スプレンディッド!!!
愛しいビートルズサウンドが
こーんなに楽しくなるなんて!
この冬、必聴の一枚。いいよ〜。
詳しい入手先はFABFOURでネ。
★★★もうひとつは、本です。
「インタラクティブな環境をつくる」。
(共立出版 \2,472)
これは、今回トランスコーディングと
ロボットのPong、QBと人工知能のことを
紹介してくれた長尾確さんの著書です。
きっと本屋さんでは、日頃は近づかない、
技術書関係の棚にひっそりと並べられている
種類の本かもしれません…。
でも、専門家だけに独り占めされるのは
あまりにも惜しい!のでご紹介しちゃいます。
この本は、
人間とコンピュータのコミュニケーションの
基本的なしくみと研究のことについて、
とてもわかりやすい言葉で
丁寧に教えてくれていて、
単なる「技術書」を越えた
”大丈夫な AI 入門書”として、
やさしく語りかけてくれます。
難しい概念や、新しい言葉は、
わかりやすくパラフレーズされているので、
私にしては珍しく、へこたれないで、
最後まで読み切れました(笑)。
実は、これは1996年の本です。
なので、紹介されている技術の中には
もう実用化されているものもあります。
でも逆に言えば、
それがこの本の中で予測されているから、
「あ、これは今使ってる!」なんて、
今読んでも十分価値があります。
この冬、必読の一冊。かなりいいよ〜。
★それから、長尾さんが編者の新作。
「エージェントテクノロジー最前線」。
(共立出版 \3,800)
人工知能のことをもっと深く知りたくなったら、
とても役に立つ、最新情報満載の本です。
これは技術的ですが言葉はやさしいし、
チャレンジしてみてね。
-------というわけで、
(いつも前置き長くてすみません。)
トランスコーディングの最終回です。
アノテーションとトランスコーディングの
まとめとして、
「ほぼ名古屋大学の授業」って感じで、
「長尾助教授」のクイック講義をまずお届けします。
これできっと頭がスッキリ整理されると
思います。あーよかった!
*** by nagao-san ***
★アノテーションの仕組みは
コンテンツに誰かが付加価値を与えるだけでなく、
責任の所在を明らかにするものです。
★トランスコーディングは、
受信者の好みと発信者の意図を
適切に結びつける仕組みです。
僕が、これらの仕組みから、
最終的にもっていきたい方向は、
教育の仕組みを新しく構築することです。
情報の受信者は学習者となり、
発信者は教育者となります。
もちろん、発信者は
間違いを犯すこともありますから、
それを受信者側が訂正したり、
軌道修正することも必要でしょう。
言語的なアノテーションは、しだいに、
言語(の伝えたいこと)の本質は何かということを
考えるきっかけになると思っています。
それは、自分が文章を書くときにも
よい指針になります。
それから、
マルチメディアのアノテーションと
トランスコーディングは、
ビデオなどをさまざまな形で
再利用する手段を与えます。
今後は、遠隔教育などで、
ビデオを教材とする機会は
ますます増えるでしょうから、
その教材をみんなでアノテーションして
よりよい教材に発展させることができるでしょう。
そうなると、
学習者は単なる受身の学習者ではなく、
自分から学んだことをフィードバックする
能動的な学習者となり、そのような経験に基づいて
将来は自らが教育者にもなれるようになるでしょう。
この、能動的になるということが、
とても重要なことで、多くの人々がシステムの
内部に積極的に関わっていくことによって、
教育や知識共有のような高度に複雑なシステムは
初めて有効に機能しうるのだと思います。
ノウハウや知識は蓄積され、
何度も何度も再利用されることになります。
その再利用の過程でさらなる知識が生まれ、
生産と再利用が繰り返されていくわけです。
僕がやりたいことは、
まさにそういう世界をつくるきっかけを
提供することであり、
それに比べたら、Webのビジネス利用とか
流行のeビジネスなんて、
とても小さなことだと思っています。
****** ******
人生を豊かにし、また社会生活に必要な、
「教養」というものを、いったい、
今、どこでどんなふうに養ったらいいんだろう。
家庭の問題、現場の問題、教育制度の問題。
そうやってたらい回しや、
問題の先送りをしているうちに
今度はITが教育に入っていく。
ITのスピードについていけない
組織的な柔軟性の無さとか、
人材不足、設備不足とか。
新たな問題に首を突っ込まざるを得ない。
わたしの姉は中学校の教員なのですけど、
今の教育の現場は、理想ばかりが先走り
何かと矛盾に満ち満ちているみたいです。
これからおそらく社会基盤となっていく
ITがもたらす情報の波に立ち向かうための
果敢な波乗り技術(判断力)を身につけ、
コンピュータの下僕となることなく
最大限にコンピュータを有効活用する
人間の知性育成ができるのか。
今考えなくちゃ、とても危ないと思います。
長尾さんの研究のもっと先を見ると、
このツールを利用するとユーザが賢くなれる、
アノテーションとトランスコーディング技術を
普及する、というところに留まっていない。
この技術を使って、
新しい教育のシステムをつくりたい!
ここがこの研究の「壮大な野望」、
つまりゴールであることがわかってきました。
コンピューティングとネットワークの時代には
「知識を集める」というしくみをつくれば、
エンドユーザサイドからシステム構築できる
という考えです。
他には、たとえばエージェントを使った
コンピューティングが、どうやって
教育システムをつくるのか。
「インタラクティブな環境をつくる」の
その部分に触れている一節を紹介します。
「たとえば、実世界エージェントが
常にある生徒の状況に注意を払い、
その人の興味や探求心に関して
何らかのヒントが得られた場合、
教育システムへのアクセスを促します。
(注:実世界エージェントというのは、人の生活する
現実世界の状況(今いる場所など)や
その人の行動履歴(訪れた場所や話した内容など)
などの情報に基づいて、
その人に、より適した支援を行なうシステムのことです。)
もし、それに同意した場合、
教育システムは、実世界エージェント
からその人に関する情報を教えてもらい、
できるだけ適切なレベルで教授を行う、
というものです。
エージェントが生徒に適切な教師を
紹介する、という形もあるかもしれません。
(中略)
マイクロソフト社の会長ビル・ゲイツも
「教育は最良の投資」だと言っています。
(『ビル・ゲイツ未来を語る(The Road Ahead)』Gates,1995)
これからの時代を担う子供たちが
正しい判断力や想像力を持つように、
うまく導いてあげることができなければ、
いずれ社会全体が衰退してしまうでしょう。
情報化によって
社会がよくなるように導いていくためには、
経済や文化活動の利便性を向上させることよりも、
教育をどう変えていけるかということについて
もっと考える必要があるのだと思います。」
これは長尾さんが6年前に書いた内容ですけど、
とうとうこの教育への想いは実現。
去年の終わりに企業から大学へと乗り込みました。
以前から学生研究員とチームを組んで
研究活動をしてきているから、
もうずいぶんと人を育ててきていますが、
これからは、評価もしなくてはいけないし、
混沌としている教育問題にも体当たりですね。
そんな長尾研究室のこれからの活躍を
今から楽しみにしています。
さしあたっては、新しい研究室の
レイアウトなどの物理的環境の設計に
真剣に全力ふりしぼってるみたいです(笑)。
ロボットに書籍管理をしてもらうとか
部屋はいつもきれいに整理整頓を、
学生に徹底させるためのシステム化をするとか。
よりコミュニケーションを活性化するための
研究室内のコンピューティング環境の設計とか。
サイバーとアナログが入り混じり、
おもしろいアイディアと(おやじ)ギャグの
あふれる研究室になるみたいですよ。
願わくば学生にもギャグがウケますように…。
また追跡取材に出かけますのでお楽しみに。
というわけで
トランスコーディングについて
1〜6と書いてきましたが、
みなさん、いかがでしたか?
人工知能を使った技術としては
これからも表立って商品名にもなることはないし、
みなさんの目に触れることはないかもしれません。
だけど、とても地味に、
知らず知らずに人間の役に立つような、
いわば「縁の下の力持ち」になり、
そして、すごーい可能性を秘める研究で
あるのは間違いありません。
まだ読んでいない回があったら、
ぜひ戻って読んでみてください。
もしご感想などありましたらお寄せください。
長尾さんと一緒に考えてみたいと思います。
今年もおもしろいセンタンの研究の話を
脱線がちにお送りしていきたいと思っています。
どうぞよろしくお願いします。
2002年が平和で楽しい年になりますように。
いい音楽といい研究を!!!!
marsha
Special thanks to Dr. Katashi Nagao and FABFOUR
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