OL
ご近所のOLさんは、
先端に腰掛けていた。

vol.69
- GRID computing -


どんどんつなぐのだ。

『The GRID』という本のイアン・フォスターの
言葉をちょっと訳してみました。

「アナロジーというものは危険なものだ。
 それに電力の話は、
 実際、コンピュータのことを語るのとは、
 多くの点で同じじゃないことはわかってる。
 それでもなおかつ、電力送電網の話は、
 僕たちがここで展開するコンピューティングの話に
 びっくりするくらいぴったりなんだ。」

要するに、グリッドコンピューティングは
エレクトリックパワーグリッド、つまり
「電力送電網」のコンセプトから
きている、という話です。

というわけで、今日は一緒に
グリッドコンピューティングってなんだ?
ということを考えてみましょう!

GRID
さて、上の一見むちゃくちゃに見える絵は、
ワタシがむちゃくちゃに描いたんですが(笑)、
なんというか、こういうのが
グリッドコンピューティングかなあ、という
私なりのぼんやりとしたイメージングです。

グリッドコンピューティングは、
☆頼もしくて(信頼性)、
☆落ち着いてて(安定性)、
☆やさしくて(柔軟性)、
☆自分で問題解決ができて(自律性)、
☆みんなとよく助け合い(協調性)、
☆そのうえ経済的な(低コスト)。
(なんだか素敵な人のようですね〜)
そんな夢のアクセスをめざしています。

そうやって、
ハイエンドコンピューティングの性能を、
無数につないでいくための、
新しいインフラストラクチャ技術です。

つまり、さまざまなリソースが、
“いつでもだれでもどこでも使えるように”
高速ネットワークでつながるのです。

世界に散らばるスーパーコンピュータ、
あちらの街にある観測用大規模センサや望遠鏡、
そちらの街にあるデータアーカイブ、
さまざまなコミュニティ、そして人々‥。
どんな形態のリソースをも、
つないで、つないで、つないでいく。
マシンもつなぐ、情報もつなぐ、人もつなぐ。
そんな世界を作り上げるプロジェクトです。
そして、それは、まだはじまったばかり。

「グリッド」というコンセプト

最初のイアンフォスターの言葉に戻りますね。
電力送電網とコンピュータの関係です。

--電気がいったいどこでどうやって発電されて、
どこを通ってやってくるのかとか、
どの技術に対していくら料金を払っているのか?

なんて、コンセントにプラグをつなぐ時に
人は考えて、いちいち電気を使うだろうか。
あなたは、考えて使っている?
普通は、なにげにプラグを入れて、
家の契約電力量の制限内であれば
気軽に使うのではないか。
私はそうだなあ。
あー、でも、ワット数は考えなくちゃね。
ブレーカーが落ちて
突然の暗闇の中で、一瞬頭の中は真っ白…って
ことはしばしば起こるからね。

ま、それはそれとして、
今のこの電気は水力なのか、原子力なのか、とか
利根川なのか、木曽川なのか、江戸川なのか、
とかいう意識はないけど、夏の水不足のときになって
やっと、ここらの電力源は、
その、今、まさにカラカラになっている
その水系だったのね〜大変!大変!
と慌てたりするんだよね。

で、グリッドとどう関係があるかというと、
そんなふうに出所を気にすることなく
使っている電気と、同じ感覚で使える
コンピュータパワーを
電気が送られるように
地域の隅々にまで行き渡るシステムを
実現しようというのが、
グリッドコンピューティングの設計図
というわけです。

グリッドコンピューティングで、どうなるのか?

たとえば前に紹介した
世界最速「地球シミュレータ」級のコンピュータ。
すでに1つ1つがすごーいコンピュータですけど、
力を集めてまたさらに大きくなり、全体にすると、
スーパーコンピュータをはるかに超える
「超超スーパーコンピュータ」がネットワーク上に、
あっという間に「バーチャル」にできてしまう。
簡単にいうとそんなからくりです。

それどころか、
その「超スーパーコンピュータ」を
使いたいときにすぐ使えるようにしたい!という、
オッソロシクすごいプロジェクトなわけです。

どっちかというと、
今のインターネットという世界は、
情報を取りに行くという
わりに「受け身」な「静的」な
つながり方だけど、

グリッドコンピューティングの
つながり方は、
もっと「積極的」で「動的」な
“アクティブ アンド ダイナミック”な
つながりをめざしていると思います。
もしかしたら、わたしなんかの
想像をはるかに超えているのかもしれないですが。

グリッドで地球を感じる。

さて今、この原稿を書いている
コンピュータパワーは完全に、
目の前のIBM ThinkPad R31のWindows XP搭載、
『スプートニク』(命名、私)であるのは、
(私にとって)明らかです。
そして、そのコンピュータパワーで、
この仕事は十分まかなえることも確かです。

しかし、だ。
仮に、もし仮に、私が科学者で(かっこいいー)、
ゲノム配列の解析をしたくて
世界の研究者とただちに協力して
何テラフロップスもの処理能力と
何テラバイトもの記憶装置が
今すぐ!必要になったら、どうしよう!?

あるいは、もし仮に、私が天文学者で、
地球外生命体を探す
途方もない計算を頼まれて
今すぐ!それを実行しないと
お給料がもらえないとしたら…。

「そりゃー無理だ、マーシャ!」と
スプートニク君は言うでしょう。
いくら有能な君でも、まっさかさまに
フリーズするでしょう。

じゃーん!そこでご登場いただくのは
グリッドコンピューティングです。
もうグリッドしか手はありません。
だって、今、居ると仮定されているのは
「地球シミュレータ」のある研究機関でもなければ、
カリフォルニア大学の
ローレンスリバモア研究所でもない、
この自宅の話なのですから。

今すぐ移動はできない。
でもスーパーパワーを使いたい。
そうなったら、電気を使うように
コンセントにつなぐだけで
スーパーコンピュータを
自分んちで使えるようにしてもらうのは、
すっごいよい提案です。
これなのです。

今は仮に「自宅」という場所を想定しましたが、
これは、どこに居ても同じことです。
たとえ移動中でも、つながる仕組みです。

人類の様々な大きな課題、つまり、
環境、宇宙、地球変動、生命、金融、医療、etc.
のような問題を取り扱うとき、
ちょっと一台のPCじゃ無理、
いやスーパーコンピュータが何台かは
欲しいという計算が必要となります。

そんなときに、
「おーい、空いているリソースを貸してくださーい」
呼びかけると、
世界中のコンピュータやら、センサーやら
望遠鏡やら、データベースやら…。
ありとあらゆる資源が
「あーい!」と応えてくれるのが
分散コンピューティング
それこそ、「地球はひとつ」
な感触があると思いません?
もうインターネットで出会い探し
なんて言ってる場合じゃないかも…。

「グリッド」は品質向上委員会!

日本の、いやアジアのグリッド親分!の
関口智嗣さん(下の絵の人)は、
独立法人産業技術総合研究所の
グリッド研究センターの センター長で、それから
ハイパフォーマンスコンピュータ研究の
リーダーでもあります。
分刻みのスケジュールの中、
グリッドの話を聞かせてもらいました。


(satoshi by tomoko)

「グリッドは、コンピュータ環境の
 ”品質向上委員会”なんですよ!
 人からは見えないところで
 『良いサービス』を提供するシステムです。

 点(リソース)と点(リソース)を
 つないで行くのですが、
 その「つないでいる線やその周辺」
 の品質を向上させれば、
 全体が向上する、という考え方です。
 なかなかいいでしょ?

 それから、グリッドという言葉に、
 今ものすごく”力”があることは事実です。
 今、グリッドについて大いに語るべきです!」

さすが、アジアのグリッド宣伝部長(仮称)!!

「そのために、ミドルウェアの開発、
 標準化、セキュリティ、
 あるいは、社会的、政治的な問題に至るまでの、
 さまざまな課題に取り組んでいるのが、
 グローバルグリッドフォーラム(GGF)です。

 日本はアジアグリッドフォーラム(ApGRID)
 中心として、アジアグリッドを牽引する役目です。

 ヨーロッパには
 ヨーロピアングリッドフォーラム(eGRID)があります。」

たしかに「インターネット」という言葉、
はたまた「リナックス」や「モバイル」という言葉、
もちろんそれは実力があってこその言葉だけど、
可能性、未知数という、未来に向かう力に対して、
市場を動かすほどの威力が付加されていったのを
私たちは目の当たりにしてきました。

今、グリッドもそんなベクトルを持っているようですね。

ソニーの次世代ゲーム機、プレステ3は、
「Linux上でグリッドのプロトコルに基づく
分散コンピューティングを実現する構想」
なんていうすごい発表もしましたし、
IBMやサンのグリッドプロジェクト参画も
いよいよ本格的になってきました。
企業もだんだん本気出してますねー。

さて、グリッドの威力や、いかに…?

その未知数の可能性も含めて
パワーみなぎる技術だということが
わたしのめちゃくちゃの絵くらいは
伝わったかなあ?

次にお話する予定の『ICO(イコ)』は
プレステ2のゲームですが、
その幻想的な世界観は、
これまでゲームになびかなかった女性の心をも
ギュッとつかんで離さないみたいですよ!
なぜでしょう?
お楽しみに。

    * * * * * * * *

今日は終わりに告知を2つさせてください。

★ひとつめです。

以前『BAKED APPLE』という
ビートルズカバーのCDを紹介しましたが、
そのプロデューサーの山崎さんの元へ、
難病に苦しむかれんちゃん(4歳)
小さな命を救う協力依頼の
メールが突然届きました。
山崎さんはその情報を確認した上で、
立ち上がり、FABFOURを愛する人たちにも、
声をかけました。
私もささやかな「力になろう」と思います。
詳しくはFABFOUR をご覧ください。

★★ふたつめです。

宣伝会議 私のコラムが増えました。わーい!
『環境マーケティング&ビジネス』という、
「宣伝会議」から4月25日に新創刊された
雑誌の中でセンタンの話をしています。
IT環境ビジネスという市場も
4年で3.4倍に伸びたという成長株。
この時代、見逃せないかも!

marsha
special thanks to Dr. Satoshi Sekiguchi

2002-05-21-TUE

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