OL
ご近所のOLさんは、
先端に腰掛けていた。

vol.73
- game and art 4 -


こんにちは。
ICO(イコ)』の話の第4回目です。
今日の話の中にはICOのツボがありますよ〜。
さてどこでしょう?

手をつなぐと…。

コントローラを握る自分の手が、
ブルッと振動し、
「あ、今、手をつないだ」という
感触がしっかり身体に伝わる…。
hands
***

前回、上田さんの話の中に、
絵として「手をつなぐ」ことの効果、
みたいなことが少し出てきたのですが、
まさにICOというゲームは
女の子と男の子が「手をつなぐ」
という行為に全てがある、
と思ってもいいかもしれないです。
…なんて、私が断言しちゃってどうする、
ですね。スイマセン。

だって、手をつないであげないと、
女の子は敵にさらわれてしまうので、
いつも右手の人差し指は「R1」ボタンを
押したまま、他の指でいろんな操作を
しないといけないのです。

これはけっこう制約で、
思うようにイコを動かすことが
できないから、汗をかきます。
でも、この制約の中で
敵と戦ったり、飛んだり、泳いだり、
イコがめいっぱいがんばるからこそ
「ボクが守る!」という気分が
だんだん昂揚してくるみたいですね。

私も思いっきり少年にシンクロして
がんばってしまいました。
ゲーム、慣れてないのに…(笑)。

さて、この「女の子の存在」。
これが大きなキーワードになっています。
いつも手をつないで、傍にいる女の子は
どんな意味を持つのだろう?
そこでAIはどのように使われているか。
さらに「女らしさ」の表現とは…?
すごくすごく興味が湧いてきましたよ!
今日はそんな話題です。どうぞ。


ひじを触る女の子の謎

まーしゃ:

ぜひ上田さんに聞いてみたかったことが
あるんです。
女の子が、ときどきひじを触るしぐさを
するのがとても気になってて。
なにか重大な意味があるのかなあと
思ってたんです。

上田: あれはね。当初の設定として、
女の子は拘束されているというので、
身体に刺青があったんです。
まーしゃ: えっ! イレズミ!
あ〜、そうなんだ。
  ueda-san (ディレクターの上田さん)
上田: ええ、特に腕に入っていたんです。
で、女の子の意識が戻りはじめて、
腕に何があるんだろうって
不思議そうに腕を見ているという
動作だったんです。

ただその刺青の設定は無くなってしまって。
でもそのときの名残で腕を触っているんです。
まーしゃ: なるほど〜。名残だったんですか。
女らしい無意識の動作なのかなと
思っていたんだけど、違ってましたか(笑)。
でも、そういうちょっとしたしぐさが
女らしくて。女から見ても。
あ、それとね。
あるとき、イコがやるべきことを
やらないで先へ進んでセーブしてしまった
ことがあったんですよ。
で、次にゲームを再開したときに
女の子が先へ進みたがらないんです。
それどころか、ズルズル後ずさりして
しまうんです。

そこで初めて「あー!」って、
イコがやり忘れていた仕事を
思い出したんですけど…。
上田: それは、ヒントですね。
女の子にはタイマーがしかけられていて、
そのステージで、
プレイヤーがどれだけ悩んでいるかを知って、
ヒントを出すというAI設定がされているんです。

他には大きな音をたてると興味をもつとか、
イコのステータスに興味をもつように
してあるんですね。
イコを心配そうに見ているなどです。

ギャラリーがゲームの中にいる。

 

kaido-san (プロデューサの海道さん)

海道: 上田さんのコンセプトは、
ゲームを1人でやっているのではなくて
誰かが見ているというコンセプトなんですね。
いわゆる「アーケードゲーム」というのは、
ギャラリが見ていることが快感だった。
まーしゃ: その意味で、
女の子の役割は相当重要ですね。
何もしないのではなく、
そこにいることによって存在感を
出している、ということですか。
上田: ええ。この「女の子」には、
だいたい4つの意味があるんですけど、

1つは、ヒントを出す存在として、
2つめは、パズルの偶然性をより高くするため、
3つめは、見せるキャラクタとしての存在、
4つめは、モチベーションを維持するための存在、

っていうのがあって。
斎藤: ああ、ここはゲーム制作者が、
真似したくなる部分かもしれません。
この「ギャラリーを中に持つ」
というところですけど‥。
上田: たとえば「見せるプレイ」とか、
「仮想のギャラリ」ですけど、
自分がうまいプレイをしたときに
「うまい!」とか「すばらしい!」
とか言ってくれるよりもね。
まーしゃ: あはは! それは太鼓もちになっちゃう。
上田: ふふ。だからリアリティを出すためには、
「もしかしたらこの女の子は
生きているんじゃないか」という
ぐらいの生命感がないと
生きている感じが出ないんです。
その積み上げにいちばん時間が
かかりましたね。
海道: アクションゲームの中で、
主人公が2人というのは多いです。
たとえば、ゲームのガイド役、
主人公をスウィッチさせるとか、
ストーリーを語らせる語り部的役割とかね。

でも、ICOのような形で、
もう1人を使ったのは今までにはないですね。

ヒロインのAIっていうと、
駈け引きを楽しませるために、
相手が人間であるかのように見せる方向ばかりで
使われていたんですが、
こういうふうに感情移入のために
AIを使ったのは新しいです。
まーしゃ: そうなんですか。
海道: AIテクノロジーはいろいろあるけど、
まだ3割くらいしか使われていないし、
我々のやっているのは
多分まだ初歩的な部分でしかないと
思いますけど。
斎藤: AIをどこにもっていくかということですね。
ICOの場合「協力プレイ」的でありながら
あからさまに「協力プレイ」に見えないです。
まーしゃ: 恣意的じゃないんですね。
斎藤: そう。恣意的じゃないというのは、
イギリスのメディアも言ってて。
ま、物理的パズルも確かにICOには
何個かあるんですけど。
そればかりじゃなくて。
まーしゃ: そうすると、このゲームは
けっこう女の子が中心で
「目的」がついて歩いている、
ということなんですね。
海道: ええ。それからおもしろいのはね。
プレイヤーが、女の子のAIに対して
過大に反応してくれているんです。
たとえば、手をひっぱりすぎて、
女の子が冷たくなった気がする、とか。
序盤と終盤では男の子と女の子の
親密度が上がった、とか、
感想を送ってくれるんですけど。
上田: あと女の子がツラそうなので、
2人でテクテクずっと歩いていた、とか(笑)。
まーしゃ: ああ、やさしい〜。
海道: そういう意味では、
命あるものに見せる手法は
成功していますね。
まーしゃ: そういう何かメッセージ性みたいなのは
意図していらしたんですか?
たとえば「命を大切にしよう!」とか?
上田: いえ。ICOによってメッセージ性は
もたせてはいませんね。
まーしゃ: それよりは、この空気感とか
雰囲気とかを通して、いたわる気持ちとか、
何かを感じるんですね。

影の AI のこと

まーしゃ: 敵は「影」ですよね。
何かあるんでしょうか?
上田: プレイステーション1で開発してた時は、
生身のキャラクタだったんですよ。
それがプレイステーション2にもってきた時に
あまりにも生々し過ぎたんですね。
まーしゃ: えっ? なまみ?
上田: そう。生身の人間が女の子を
かついでいくというのもね。
肌が接触している感じが生々しいので…。
まーしゃ:

最初は人間だったんですか。
一体一体が?

上田: そうです。
あとは、ま、たくさん敵を
出したいというのがあって。
生身だと、ディテールを
作り込まなきゃいけない。
そうするとたくさん出なくなっちゃうんですね。
もう1つは、
女の子のAI以上に、AIを作り込まないと
リアルな生身の行動にならないっていうので。
こういう抽象的な存在だと、
少々バカな行動をしても許されるというか。
リアリティは保たれるんですけど
ここで生身の人間が、
たとえば壁に向かって歩いているとかに
なっちゃうと、
そこでもう終わってしまうというのか…。
ハードが進歩したからといって
自分の頭でこういうものを作りたいんだと
描いているほど、受け皿が広くないというか、
その受け皿の中でいかにリアリティを保つか
っていうのがすべてなんですよね。

こういう絵にしたのもそうですし、
女の子の存在もそうです。
  --敬称略です--

つづく。

boy&girl いこ!

「誰かが見ていてくれる」状況を
ゲームの中に作るという発想って
すごいなーと思います。
一人じゃないよ、という心強さって
確かにあります。
それに、彼女にかっこいいとこ見せたい!
なんてがんばるモチベーションにもなるし。
これが私の「ICO ツボ」です。

次回は、ICO の最終回。
上田さんにフォーカスしながら
海道さんの反省もあり…。


marsha
Special thanks to Ueda-san, Kaido-san, Koji-kun
and Sony Computer Entertainment Inc.

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2002-08-23-SUN

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