OL
ご近所のOLさんは、
先端に腰掛けていた。

vol.74
- game and art 5 -


こんにちは。

ICO(イコ)』のお話の最終回です。
ICO制作チームの
上田文人さん、海道賢仁さん、
それから友人のマサ斎藤くんに
いろいろお話を伺ってきました。

ICOファンの方も、そうでない方も
日頃ゲームをあまりやらない方にも、
ICOの世界を楽しんでいただけたら
うれしいのだけど。いかがでしたか?

ico graphic3

今回お会いした
ディレクターの上田さん。
彼の登場で、すっかりICOという
ゲームのもつ空気感をナットクできた私です。

どんな空気かというと、
たとえば、ほんわかしながら鋭い感性と
性別や時間を超えるような普遍性をもつ
大島弓子ワールドとか、
スガシカオの歌でいうと、
「黄金の月」が放つ空気の温度や色とか。
(まあ、まーしゃ的勝手な想像ですけど。)

なんだか消えちゃいそうなはかなさと
強い存在感が共存してるような
そんな佇まい、です。

そして出てくる言葉にドキっとすることも。
ぽわーんとしたやさしい空気と、
「予告編以上の本編はないと思う」というような、
鋭いクリエイター魂を併せ持つ上田さんの世界。
じわっじわっと惹きこまれちゃいました。

クリエイターの持つ魅力がそのまま作品になる
っていうのは理想なのだろうけど、
そんな簡単なわけにいかない
壁、壁、壁の連続だろうしねー。
でもそんな壁なんかぶっとばしてしまう、
ICOチームの情熱とか夢とかがひしひしと
私の細胞に浸透してきました。

今日はICOのエンディング(これがまた味がある!)
みたいに、未来へつながるいい話になっていきます。

ではどうぞ。


(上田さんとマサ斎藤くん)

日本の文化…。

まーしゃ: 上田さんは「そこはやりすぎじゃないか」
みたいにブレーキかけたりするんですか?
上田: いえ。
やり過ぎたからもう少し落としてくれ
ということはほとんど言わないですね。
「そこまではできない」という方が多い(笑)。
じゃあこういうやり方でやれば
表現できるんじゃないかと提案するという…。
斎藤: あ、ちょっと補足しますけど、
上田さんタイプの人は、
ゲーム業界には、ボクの知る限り、
マジョリティではないと思います。
ゲームのことをよく知ってるんだけど
ゲームの言葉だけでものを作らないというか
バランス感覚をきちんと持っている。
まーしゃ: 斎藤くんが、私に話を聞いたらどう?
って思ってくれた動機って、
もしかしたらそれなんじゃないですか?
ICOが好きで薦めたというのも
もちろんあったと思うけど、
そういう「言葉」を持つ人がいるってことが、
前提としてあったのかなって…。
斎藤: そういうのも、あるね。
それとICOは、もっと、
カルチャーで見せていく分野かなと思ってて。
ゲームっていうたまたま容れものなんだけど
それをやったときに、たとえば中国人でもいい
アフリカ人でもいいけど、
「あ、日本の文化っていうのは
こういう文化なんだな」と、
いい意味で勘違いしてくれたらと…。
結構それに誇りをもてるという感じですね。
まーしゃ: いいですねえ。外国の友人に薦めたい。

ICOはミソスープ?

まーしゃ: 上田さん、この『ICO 公式ガイドブック』
のインタビューの中で
「ICOはみそ汁みたい」って話してますが、
それはどういう意味で?
上田: みそ汁ってダシにこだわるじゃないですか。
うす味なんだけど、その中にはいろんなダシが
入っている。ICOの場合は、正直に言うと、
ダシの順番を間違えたりなんか
してたんですけど(笑)、
ま、みそ汁みたいなものにしたかったんです。
まーしゃ: ああ、そういう意味だったのかあ(笑)。
日本人が「みそ汁」を出すときって、
お母さんとか故郷とか、
演歌な感じしますけど…。
上田: ぼくの場合は、”ミソスープ”なんですね。
まーしゃ: カップで食べるんだ。おしゃれに(笑)。
上田: というか、ほかの国の食べ物と比べると
ずいぶんうす味ですよね。
そういう意味もあって。
まーしゃ: なるほど…。
私は日本の昔からの色彩がすごく好きなんです。
タタミの色とか、ヘリの黒だったりとか
要らないものは、全部削ぎ落として
ほんとうに必要な色が存在しているような
それが自然とマッチしているとか。
そういう意味で、ICOも、削ぎ落とされたというか、
シンプルさにこだわっている気がするんです。
上田: 色彩については、そこまで削ぎ落としては
いないけど、内容とか、中身部分については
ずいぶん削ぎ落としましたね。
なんで削ぎ落としたかというと
リアリティを保てないから、というので
どんどんじゃがいもの皮をむいていくみたいに。

これをいうと身もフタも無いかもしれないけど
ぼくは映画とか観るときに、
予告編以上の本編は存在しないんじゃないかと。
まーしゃ: おお!
上田: 予告編を観たときに、自分の頭の中で
ふくらました想像以上のものはなくて
本編を観ると、確かに充実感はあるけど
どこかでガッカリしている気持ちがあったり。
まーしゃ: すごいわかる…。
上田: 音楽は、多分そうなんだと思うんですよ。
頭の中で想像して、音っていうのはこう
順次こう流れていっちゃう、そういうものが
ぼくは作りたいなーって。
  ico graphic4
上田: ICOの場合は、
テキストであるとか、設定であるとか、
ほとんど語られていないんですよ。
いわゆる予告編なんですよ。
そこで、予告編で、
受けた人の頭の中で膨らましてもらって、
本編を作ってもらうっていう、
それがメディアとして、
何かうまくいかないかなっていうのも
あるんですよ。
まーしゃ: ドラマなんかでも、
あまりにも語りすぎるとおもしろくなくて。
想像できる部分を残してほしいですね。
上田: ぼくは、コマーシャルとか好きで
よく見たりするんですけど
コマーシャルは15秒とか30秒で
そこでそれ以外の世界を想像させますね。
だから、人は感動したりすることに
情報量の多さとか、 関係ないんじゃないのかなあ。
まーしゃ: ICOのコマーシャル、好きなんですけど
あれは上田さん?
上田: ぼくが作った映像コンテンツもあったんです。

ターニングポイント

海道: 60秒CMはそうですね。
多分、ICOは、いろんなところに、
実はけっこう影響を与えているんじゃないかって。
上田さんは、気恥ずかしくて多分言えないと
思いますが(笑)。
そういう意味で、ターニングポイントを作った
みたいな気がしているんです。
ゲームっていうメディアが
こういうこともできるんだよっていうことを
示したという点では、
大きいものだったかなとは思いますね。
まーしゃ: ゲームの可能性ですか。
海道: ま、すごくわかりやすく言うと
ゲームって、やって楽しいかとか
やって気持ちが動くかどうかっていうのを
もうちょっと重要視すべきなんじゃないかっていう、
そういう提言になっているのかなと思います。
プレイステーション2の
フォーマットコンセプトで
エモーショナルなゲームというものを
一番体現できているゲームかなというのが
ひとつあるのと、

「エモーション・シンセシスとは何か」っていう
久多良木さんから出された挑戦状に、
はじめてちゃんと答えた、
いちばんいい点を取っているんじゃないか
というのがひとつと、

それ以外に、技術的にもて余して
一方的にみせるゲーム。
操作できない時間がどんどん増えていく。
そいういうのはそういうので
またおもしろいとは思うんですけど。

ICOは、そうじゃなくて、
逆に昔のトラディションのほうに
流れを戻している、というのもあります。

これで興行的にも成功すれば
いうことなしかと思うんですけど。
ゲーム市場というのは、すごく大きいので
変に方向を変えるというのは
なかなか難しいんですけど。
まーしゃ: 一石を投じたんですね。
海道: 玄人受けするっていうのも、
ゲーム文化が育ってきて、
その人たちが影響を受ける形になって、
ICOみたいなゲームの
フォロワーができてくるのがいいかなーと。
上田さんもそこらへんを
気にしていたみたいですけど。
でも、ICOを表現するのは難しいです。
登場キャラクタは総勢何十人とか
武器100種類!というほうが
わかりやすく伝わるし。

ゲームのよさを伝える方法っていうところも
開発しないといかんなーというのも
反省点でもあるんです。
まーしゃ: やってみるのがいちばんいいですよね。
ICOは、大人が楽しめそうですが、
特にターゲット年齢ってあるんですか?
海道: どっちかっていうと20代からわれわれ世代。
上田: 「懐かしい日々の想い出」みたいな世代、
ですね。
  --敬称略です--

おわり。

ほわーんとしたいい取材でしたけど、
その中に鋭い視点がいっぱいつまってて、
私みたいにゲームのことをよく知らなくても
興奮してしまったし(笑)、
ゲームを作る人々には、もっと違うふうに
響いているのじゃないかと思ったりします。

PS2の『エモーショナル・シンセシス』
という壮大で深いコンセプト。
これこそまさに、私がとても興味を持っている
コンピュータと人間の関係性に迫っていくもの。
「コンピュータ・フォース」に果敢に挑戦を
しかけていて、そこで表現されるゲームは、
もっと深く人間を考えざるをえなくなって行く。
人間の感情や情緒的なものをコンピュータで
どう表現できるのか。それは可能なのか…。
それは計算機科学者の夢でもあると思う。
これからのゲームはおもしろくなりそうです。

そして、ICOチームは、
新たな次回作に向けて始動しています。
こちらでスタッフを募集のお知らせも!
http://www.i-c-o.net/wanted/
次はどんな世界を展開してくれるんだろうね。
また新しい作品の話を聞きたいなあ…。

と書いているうちに、夏も終わりに。
そしておいしい秋です。
では、元気に楽しくイコ!(笑)
boy&girl
ICO公式サイト

marsha
Special thanks to Ueda-san, Kaido-san, Koji-kun
and Sony Computer Entertainment Inc.

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2002-08-26-MON

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