OL
ご近所のOLさんは、
先端に腰掛けていた。

vol.106
- Believe 3-


「信じる」とは「信じるチカラ」
── 『ビリーブ』



『ビリーブ』シアターイメージフォーラムで公開中

□「信じる」とはどういうことだろう。

ひと言で「信じる」と言っても、
実際には、どういうことだろう。

特にいまの目まぐるしい世の中、
「信じる」ということが
難しくなっているような気がします。
人物を信じて株を買ったのに裏切られた、
なんてこともあるし、
信じて子どもを預けている学校や塾で事件が
起きる、なんてこともあったり。

こんな奇妙な社会で、
何をどう「信じる」ことができるのか、
果たして「信じる」ことは必要なのか、
ふと頭が真っ白になります。

でもやっぱり、
「信じる」ことは必要で、
「信じる」ことができる、
なんというか、体温の感じられる社会に
生きたいなあと思うんですよね。

映画の『ビリーブ』は、
本当に「信じる」ってこんなことなんだよ!
と教えてくれるような気がします。
小栗謙一監督に、この映画の「信じる」ということ
について、聞きました。



──監督がクルーを信じることで、
  クルーが自分自身を信じる。
  自分を信じられると、
  周りの人を信じることができる、のような
  よい「相乗作用」が起きている気がしますが。


うん。言葉で「信じる」っていうけど、
つまりは、「信じるチカラ」ですよね。
信じることにチカラがいるじゃないですか。
自分の「意識力」ですよね。
「信じるよ」って軽く言ったって、
それは突き放した関係ですよね。

──監督は、長い時間、
  彼ら一緒に過ごしたわけですが、
  彼らの長い話をじっと聞いてあげたり、
  待っていたり、それは忍耐なのでしょうか。


忍耐というより、すごく興味深いんですよ。
いまどこの話をしているんだろう、
いまこの子の意識はどこを彷徨っているんだろう、
というのを僕も一緒に探しているわけです。
そのことを楽しんでいる。
そうすれば退屈でもないし。

他の人が理解できない、
僕とその子との共通項みたいなのを
見つけてしまうと、
それはまたすごくうれしいですよね。

半年前には、彼らが何かを話そうとしても、
お母さんや先生が代弁して話しちゃう、
ということが起ったと思うのね。
食べるものも、「これを食べたいのね」と
与えられてしまったり、
まだ食べたいのに取り上げられてしまったり。
おそらく小さいときから、
すべてが管理されていたり、
そういう習慣だったりすると思うんですね。
着るものも用意されたものを着ていくとか、
他に着たいものがあったかもしれないのにね。

周りの健常者のスピードが速くて、
なかなか自分の意見を言えないで、
人生、ずっと来てしまっているんですね。

でも、「自分の意見を言いなさい」とか、
「食べたいものを言ってごらんなさい」と
聞くと、言わないんですよ、なかなか。
言うと怒られるかもしれないと
思っているのかもしれない。
でもこっちも延々と待つんですよ。
すると、ポツっと言うんです。
僕らが考えていたのと違うものを
食べたいって言ってることがあるんです。

「あーそうなの、やっぱりコレだったか」と。
それでふと隣の人のがおいしそうだと、
「あのー」と言ってる。
「どうしたの」と聞くと、
「こっちが食べたい」と言う。
そしたらちゃんと変えてあげればいいんです。
それを用意してね。
そうして、「自分の本当に食べたいものに、
行き着く喜び」というものを
味わってもらいたいと思うんです。

そういう作業をやってきたんです。
そうすると、「アレが食べたい」と
思うときには、早く言わなければならないと
思い始めるのか、2、3回後には、
すごくスンナリ言うんです(笑)。

──意思表示をしっかりはじめるんですね。

そうです。

★勝又由貴ちゃんは、朝起きるのが苦手で、
 起きるのに、2時間以上かかってしまい、
 たとえば6時に起きるときには、
 由貴ちゃんを3時半に起こさなければならず、
 合宿中、女性サポートスタッフは大変で、
 音を上げてしまったそうです。

 でも、合宿も終り、映画撮影本番のころには、
 朝5時半に自分で起きて、身支度をすべてやり、
 6時には、「朝でーす」とみんなを起こす係が
 できるようになっていました。ミラクルですが、
 何かが由貴ちゃんを早起きさんにしたのでしょう。
 (映画の中でもそのシーンは感動です。)


そういうふうになれるんですよね。
‥‥というようなことが、この映画の中での
まさに「ビリーブ」ですね。



──現代社会では、障がい者でなくても、
  自立できなかったり、道が見つからなくて、
  悩んでいる人もいます。


そうですね。
自分の人生に閉塞して出口が見つからない
男の子、女の子がいっぱいいると思うんだけど、
それは、そういうチャレンジをしていないんですよね。

だから、こういう映画を観て、自分も何か
熱中するものを見つけてくれればいいですね。
たった半年で(9人のクルーは)
ここまで変われるんですから、
半年がんばってくれれば、
自分の人生の出口みたいなものを
見つけられると思うんです。

僕なんかも、自分自身の人生もそうですから。
やっぱり若い頃は、ひじょうに閉塞すると、
親のせいにしてみたり、社会のせいにしてみたり、
生まれてきた環境のせいにしてみたりして。
でもそれは逃げなんですよね。
それを打ち破るには、自分が何かに没頭するとか、
熱中するものをみつけて熱中し、それを打破したとき、
自分が自信を持って生きていられる、
というふうになる。

でもちょっと油断すると、またすぐに元にもどるんです。
僕も、今でも、こうやって映画を作ってますけど、
日々不安になったり、自分自身の才能に疑問を生じたり、
そしてすごく落ち込んだり、っていうことの
繰り返しですよね。
でもそこをどう打破していくかということの
繰り返しです。
絶対に人のせいにしない、
社会のせいにしない。
それ、基本ですよね。

──自分を信じるチカラと、もうひとつは、
  誰かが自分を信じてくれていることの気づき‥‥、
  ですね。


そうです、そこは重要です。
自分だけではやっていけないじゃないですか。
自分ががんばれば、必ずそれを人が見ていてくれて、
そこに一人、二人と信頼のおける人が生まれてくる。
そして必ず、そういう人は、力を貸してくれます。
それが重要なんですね。

□『ビリーブ』をこれから観る方に監督から
 メッセージをいただきました。


いろんな立場で、いろんな感じ方を
してもらえればいいと思います。
決して深刻な映画ではないし、楽しく、笑えます。
笑ってもらっても、彼らは傷つかないし、
むしろ笑ってもらいたいと思っている方ですから。
大いに、多くの人に楽しんでもらいたいと思います。



★★★
みなさん、ぜひ、『ビリーブ』の
9人の素敵なクルーに会いに行ってね。

Believe 1 へ。
Believe 2 へ。

★9人のクルーの撮った写真や活動ぶり、
エピソードを収録した
写真集『ビリーブ』の刊行を記念して、
写真展が開催されます。

Believe刊行記念写真展
Believe
僕らは自分の目で見た、撮った
2005年スペシャルオリンピックス
──冬季世界大会・長野の記録


場所:クレヨンハウス
2006年2月4日(土)〜21日(火)
クレヨンハウス
東京都港区北青山3-8-15
TEL:03-3406-6465
営業時間:11:00〜19:00
定休日:年中無休
アクセス:地下鉄「表参道」駅から徒歩3分
クレヨンハウスHP

こちらが写真集です。

『Believe──僕らは自分の目で見た、撮った』
小栗謙一編・著
文/細川佳代子 写真/倉智成典、ほか
求龍堂/刊
定価2,100円 (本体2,000円)
求龍堂HP


Special thanks to nine wonderful crews,
director Kenichi Oguri
and Moviola.

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2006-01-27-FRI

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