vol.109
- su-ki-da, 2 -
●魅惑のキャスティング
---- 『好きだ、』
『好きだ、』2月25日より渋谷アミューズCQN他でロードショー
じつは、石川寛監督にお会いする前に、
主演のお一人である西島秀俊さんにも、
某誌のインタビューのためにお話を伺いました。
映画の不思議な引力のせいなのか、
なにやら“縁”が“縁”を呼ぶ『好きだ、』
のようです。
映画のことを聴くにあたって、
監督と出演者の両側から、
しかも別々に、聴くことができることほど
幸せなことはなくて、
ひとつの宝石を多角度から観ると、
見事な3Dの輝きが、目の前に浮かび上がり、
“親指がうずく”んですね。
(アガサ・クリスティーみたい‥‥。)
お二人とも明晰でお話がとてもクリア、
しかも、ある意味、“マニア”‥‥なだけに、
深い話がおもしろ過ぎます。
では、石川監督の第2回目のテーマは、
「キャスティング」です。
ちなみにキャストは、
宮崎あおい、西島秀俊、永作博美、瑛太。
それから、大森南朋、加瀬亮、小山田サユリ、
野波麻帆、他の方々です。(敬称略)
なんというか、もうこれだけで、
魅力的でどうしよう〜、ですね。
□なんだろう、この二人の関係は…。
── 西島さんにお話を伺ったとき、
東京編は、とても現場は過酷だったと。
監督 過酷だったでしょうね〜。
── 秋田編にも西島さんは出演されてるんですってね。
それが、じつはわからなかったんです。
監督 あ、西島さん、どこのシーンか言ってません?
じゃ、秘密にしておきましょう。
(探してみてくださいね。)
これは、ほとんどの人がわからないと思います。
そういうふうに撮ってますから。
西島さんにお願いしたときも、
ああいう役だからこそ、雰囲気のある人が
いいんだけど、正直、事務所の人には、
「西島さんが、誰だかわかりません。」
と伝えてあったんです。
『tokyo.sora』に出てもらったのもあって、
僕は、雰囲気のある人がいいなと思って、
西島さんに、秋田に来てもらったんです。
それが結果的に、
瑛太くんと一緒にいる姿を見て、
「いいんじゃないか」と‥‥。
西島さんには、『tokyo.sora』が終って、
ごはん食べたり、飲みに行ったりしたときに、
『tokyo.sora』でキーになってる役の人たちは、
出てもらわないという話はしていたんですね。
それは、単純に、あまりにも『tokyo.sora』の
役の印象が強すぎて、すぐに違う役というのが、
浮かばなかったんです。
西島さんにも他のキャストの人にも、
「申しわけないけど、次の出演はないよ。」と
はっきり言ったんですね。
言ってしまったんです(笑)。
僕は、一度言ったことに対しては、
責任を持つタイプなので(笑)、
最初は、東京編に、
西島さんをキャスティングしなかったんです。
でも、秋田で、
瑛太くんと一緒にいる二人を見て、
もう不思議な感覚に陥ったんですね。
── 不思議な感覚ですか?
監督 あとから思うと、二人は会った瞬間から、
初対面にも関わらず、話ははずんだんですけど、
なんだかお互いを、こう、認めてないというか、
牽制し合ってたんですね。
「なんだろう、この二人の関係は‥‥」と。
いま思うと、10代と30代の自分自身が、
もし、会うことがあったら、
お互いに認めたくないんじゃないかな、きっと。
「オレはこういうふうになっちゃうの?」とかね。
それに似た感じがしたんですよ、二人に。
それと、瑛太くんが脚本を読んでいるときに、
後半の「ヨースケ」は、
西島さんを思い浮かべてたらしいんですよ。
── え? そうなんですか? すごい。
監督 そう、それをあるとき、ポロっと言って、
それを言われたときに、初めて、
それまでの感覚が、「あー」と繋がって、
それから、ごはんを食べたときに、
二人が歩いている姿を見て、
なんか不思議だったですね。
もうその時点で、「あ、西島さん“か”」と。
“か”っておかしいですけど。
だって、西島さんには
「無いよ」と言ってましたからね。
── それを蒸し返すわけですからね(笑)。
監督 でも、僕は、基本的には、カンに頼るほうで、
カンっていうか、
「感じる」ことを信じるほうなので。
そのときに感じたことを大事にして、
西島さんにお願いしたんです。
── 西島さんに、「映画の中とはいえ、
17歳の自分が居るというのは
どういう感覚でしたか」って聞いてみたんです。
でも、「楽しい現場だったからうれしいです」
みたいな感じで。
監督 うん。本人同士はそうだと思う。
でも、二人を見てておもしろかったですよ。
僕には“そう”見えたんです。
この間も、ウチでひさしぶりに
二人が会ったんですけど、そんな感じでした。
もうおかしいですよ、この二人が会うと。
── 瑛太さんは、どういう経緯で?
監督 まず、あおいちゃんしか考えられなくて、
いちばん始めに、あおいちゃんの出演が決まり、
前半は「女のコの視点」で、
後半は、「男の人の視点」なので、
この順番でキャストを決めたかったんです。
でも、あおいちゃんが、
18歳になる前に撮りたいと、
そこにはすごくこだわりがあって。
時間が経てば経つほど、
そのときのあおいちゃんの雰囲気が
大人になって、変っていくので、
「17歳のうちに撮影をしたい」という
話をしたら、思ったよりも、
早いスケジュールで動いたんですね。
それで急遽、後半のキャスティングはしないで、
始めることになったんです。
それで、17歳のヨースケを選ぶのに、
いろんな俳優さんに会ったりして、
瑛太くんに辿り着いたんです。
彼は、気になる存在だったんです。
『青い春』という映画で、「オバケ」の役で、
あまり出番は多くない役でしたけど、
印象に残る人でした。
メイキングか何かで、彼が話していることを聞いて、
僕はすごくピンと来たんです。
「オバケ」という役は、あの中で、
輪に入っていない役です。
だから、普段も彼は、
「撮影以外のときも、輪に入らないようにしてた」
みたいなことを言ったんですよ。
「あー、こういうタイプか、
そういうところから入って来るんだ、
いいなあ、このコ」と思ったんです。
基本的には、どんなときも、
決定する前に会わせてもらって、
いちばん雰囲気が合うかどうかを
判断させてもらうんですけど、
会った瞬間に、「もう彼しかいないな」
っていう感じでした。
── 瑛太さんは、芯がしっかりしてて、
「まっすぐ」な方というふうにお見受けしてます。
監督 そう。自分でも言ってますけど、
かなりまっすぐな人ですね。
こちらが戸惑うくらい、まっすぐな人ですね。
── やっぱり。
永作さんは、どのように?
監督 17歳のユウが、17年後、
どういう人になっているのか‥‥。
ああいう、かなしい出来事があったからこそ、
暗い人ではなくて、
明るさを身につけてるんじゃないか。
抱えていることを、他人に気付かれないために、
身につけた明るさ。そんなことを考え‥‥。
永作さんは、たぶんもともと
明るい人なのでしょうが、
大人になるにつれて、
その明るさをより身につけていったというか‥‥、
そういう人なんじゃないかと、
会う前から思っていて。
そこが、かさなっていたから、
永作さんにお願いしました。
つづく。
西島さんと瑛太さんの関係がおもしろいですね〜。
自分の17年前、17年後が、バーチャルとして
現れると思うと、妙な感覚でしょうね。
「誰?、あなた」「おまえ、誰?」
認めたいけど、認めたくないみたいな感覚に
襲われるのだろうと、
西島さんと瑛太さんの秋田の遭遇を想像して、
「そーだったのか」と思うと同時に、
映画で二人が醸し出す存在感というか、
もう、自然に
「瑛太さんが、西島さんになるのね」
と納得してしまう、
すごいリアリティを見せてくれましたから、
監督の目は、というか、
「カン」は、只ものじゃないです。
そして、不思議な二人です。
さて、次回はいよいよ、「過酷な現場」編です。
お楽しみに。
*宮崎さんの「崎」の字は、正確には「」です。
ウエブページでは表示できないため、
「崎」の字を使わせていただきました。
Special thanks to director Hiroshi Ishikawa
and Bitters End.
Photo for Ishikawa: Hiroshi Ninrei
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