vol.110
- su-ki-da, 3-
●「カコクな現場」の真相は‥‥。
---- 『好きだ、』
『好きだ、』渋谷アミューズCQN他でロードショー中
『好きだ、』初日は、舞台挨拶の回どころか、
次の回にも通路に座布団が出るほどだったとか。
すごい勢いで『好きだ、』現象が、
これから日本中を駆け巡る前兆のよう‥‥。
「過酷だった」という現場を越えて、
この初日を迎える感動ったらないでしょうね。
日ごろ「現場大好き!」とおっしゃる
西島秀俊さんでさえ、その口から
「決して楽な現場じゃなかった‥‥」と
出てしまうくらいの現場って、
どんなふうだったのでしょう。
その西島さんにもお話を聞いたのですが、
西島さんと言えば、
『あすなろ白書』(お〜懐かしい!)って、
そうじゃなくて‥‥。
いまものすごい忙しさで、
日本映画には無くてはならない俳優さんで、
どの作品でも、どんな役でも、
「いる、そういう人」と思わせてしまう
なんというか“無理のない存在感”と、
深い内面性を伝えるのが際立ってる人、
‥‥だと思っています。
そんな西島さんを観ていると、
“不確実な確実性”みたいな
意味不明な言葉が浮かぶんですが、
インタビューしたときにナットクしたのは、
「僕は“キャラクター”というものには
それほど興味が無くて、それよりも、
“関係性”を大事にしてやっていきたいんです」
とおっしゃったことです。
「監督と自分」「役と自分」「役同士」
「役と作品」とか‥‥、そういう“関係性”に
とくに集中して演じたい、と。
それを聞いたとき、
「さすが理科系」と思ったのですが、
(大学で理科系に進学されたんですよね)
“関係性”というのは、数学ではないかと。
相手が出してくるリクエストを理解し、
高度な関係式を適応して高度な計算を繰り返し、
的確な答を常に出していける、いわゆる、
“数学力”があるのだろうなと、
数学が苦手な私は勝手に思ったんですけど。
多分、西島さんは、あの飄々とした感じで、
「違うんじゃないかと思いますけど‥‥」と
笑っちゃうとは思いますが‥‥。
□「違うんですよね」と言われて‥‥。
たとえば、石川寛監督の話の中にある、
「キーワード」の話を、
西島さんはこういうふうに感じて、
演じられていた、という部分を
ちょっとだけご紹介すると‥‥。
── 「キーワード」を渡されて演技をする、
というのがすごく興味深くて、
どういう「キーワード」を渡されているんだろう
って思って観てたのですが。
それは、人物によって違うとか‥‥?
西島秀俊(以下、西島)
そうなんです。
お互いに何言われてるかわかんないんです。
── それは不思議な感覚ですね。
西島 そうですね。
『tokyo.sora』のときはそれでも、
「こういうことになるんじゃないかな」
みたいなことを言われたシーンはあったんですけど、
今回は、とにかく一切、ここに着地してくれ
ということは言われなかったんです。
でも、石川監督の中では、
この二人が偶然会ったら、
ほんとに自然に進むとこうなるはずだ、
というのがあるらしくて、
そこに到達するまでは、
絶対オッケーが出ないんですよ。
だから何度も、何度も‥‥。
で、当然、どうなるか教えてくれないから、
話によっては、二人が
「じゃ、もう会うのやめよう」になるし、
「もう1回会おうか」とか、
いろいろあるわけじゃないですか。
でも、それも教えてくれないんです。
それが、偶然だか必然だかわかんないんですけど、
一致したときにやっとオッケーが出るんで、
それまではずっと本番をやり続けるんです。
「違うと思うんですよね‥‥」と言われて
「はい」って。
── 「違うと思うんですよね」と言われたときに、
もう一度、こう、考えて、
動いてみるということですよね。
何通りも自分の中の引き出しから出して?
西島 そうですね。
でも、多分、なにか道筋をつけてやると、
監督は絶対にオッケーを出さないと思うんですよ。
なんか自然ぽいとか、そういうのは
嫌いな方なんだと思うんです。
だから本当にそうなるまで‥‥待つ‥‥。
□「キーワード」で演じる、ということ。
そして、監督は‥‥。
では、西島さんのお話を胸に、
監督のお話をまた伺いましょう。
── 17歳の秋田の現場と、34歳の東京の現場は、
雰囲気が違ってたと、西島さんは
感じていらっしゃったようですが。
監督 場所の違いも関係してるんでしょうね。
秋田は気持ちいい場所で、食事もおいしくて、
そういう撮影現場だったので、あおいちゃんも
とても楽しんでましたね。のびのびとしてて。
スタッフもそれにつられて、
みんな「楽しい、楽しい!」と。
僕は、そうでもなかったですけど(笑)。
── (笑)苦しんでましたか?
監督 いちおう僕なりに‥‥。
僕は、それぞれ等しく、
それぞれに苦しみがあったんですけど、
後半の出演者の人たちは、
みんな「カコク」だと。
── 撮影のやり方は、どちらも、
「キーワード」を渡して、
着地点が見えない状態で演じる、というのは、
同じだったのですか?
監督 それがですね。
多分、みんなは長いシーンの話をしていて、
それ以外のところは、具体的な話をしている
シーンもあるんです。でもそれ以上に、
長いシーンの印象が強かったんでしょうね。
「その言葉」を通らないと、
ストーリーが進んでいかないシーンについては、
ちゃんと具体的な話もしてるんですね。
でも、その記憶が無くなるぐらい、
長いシーンの印象が強いんでしょうね。
確かに「キーワード」を渡して、
それを頼りに、次のシーンはお願いします、
というシーンもありましたけど。
── 全部がそうではなくて?
監督 全部じゃないんですよね。
そのシーン、そのシーンで、
話すことがいつも違っていて。
西島さんに話すことも、
毎回、次のシーンに合わせて話すことで、
次のシーンにほしい雰囲気というか、
どういうふうにその場に居てほしいか、
みたいなことを、
西島さんにふさわしい話し方で、
西島さんが僕の言葉にどう反応するか、
どういうふうにあろうとするか、ということが
なんとなく撮っていくうちにわかってくるので。
どういう話し方がいいか、ということを考えて、
それぞれの出演者に違う話し方をする、
というのが、僕の映画を撮る「スタイル」です。
それは、その人のいちばんいいところを、
ちゃんと引っ張ってこれて、且つ、それが、
役柄に重なるような方法として、
いちばん相応しい話をしたいんです。
□覚えられるのは、ちょっと苦手で‥‥。
── だんだん、役を演じているのか、
役者さんが「素」でいらっしゃるのか、
わからなくなってくるくらい、
「素」な感じがして不思議でした。
監督 僕なりに、ひとつの理想型として、
「その人が、そこに座っているだけ」
「その人が、なにかを話してる」
みたいなのがあるんですね。
でもそれだけじゃ、映画にならないので(笑)
いろんな要素を入れて。
今回は脚本を自分で書いてまして、
細かいところまで書いたんですけど。
自分で書いたというのもあるので、
脚本に書いてあることが大事じゃなくて、
そのウラに潜んでいる、
それぞれのシーンの「何か」のほうが大事で。
その「何か」に少しでも触れるために、
現場で僕が何をすればいいか‥‥、
どういう話をすればいいか、という
役割だと思ってるんですね。
出演者には、
「一度読んだら、忘れてください。」
「セリフを決して覚えないでください。」
と言いました。
覚えられるのは、ちょっと苦手で、
やっぱり覚えたセリフというものは、
ある意味、何も通らずに、
そのセリフを話す可能性があるわけです。
それぞれ役柄の感情というものを
通った言葉であるはずなのに、どうしても、
そこを通らずに話してしまう可能性が
あるんですよ。
覚えれば覚えるほど、それに捕われて、
そこからもう進めなくなっちゃうかも
しれないんですね。
‥‥という経験をコマーシャルとか、
一本目の映画でしてるので、まずは、
セリフと思ってほしくないから、忘れてもらって、
次のシーンの話をそれぞれにして、
それを「キーワード」にするんです。
そうすると、
それがそのシーンに相応しい言葉になったり、
「流れ」になるはずなので、
「キーワード」を渡すんですね。
でもはじめのうちは、出演者に、
僕のやり方も含めてある戸惑いがあって。
「ある所」に来てほしいんですけど、
来てほしいところになかなか来れない、
‥‥みんなそうなんですよ。
おわり。
石川監督の、
私は勝手に、“気持ちのリアル追求法”と
呼んでるんですが、
イギリスのマイク・リー監督とか、
タイのアピチャートポン・ウィーラセータクン監督とか、
「即興」やドキュメンタリー性を追求する監督を
思い浮かべながらも、やっぱりかなり違う、
まったく独特のやり方の風景というものが
お話の中で、形になってきてくれました。
「来てほしいところになかなか来れない」
ということは、そこに行くまでに、
現実問題として、時間がかかるわけで、
西島さんが「ワンシーンに5時間かかってた」と語る、
睡眠時間がほとんど無いくらいの現場の状況が、
まざまざと浮かび上がってきますね。
じつはまだまだ深いお話はつづくのですが、
ネタバレしてしまうところもあるので、
しばらく、ちょっと時間を置きます。
また、みなさんが映画を観た頃、
続編を始めたいと思ってます。
次回は、『タッチ・ザ・サウンド』の
エヴリン・グレニーさんにお話を伺ったので、
またすごいタッチィな話をお届けします。
**西島秀俊さんのインタビューは、
丸の内周辺(丸ビルや丸善書店本店など)で配布中の
『Amazing Tomorrow』誌に掲載されています。
こちらの雑誌に関するお問い合わせは、
ametomo@appealing.co.jp まで。
Special thanks to director Hiroshi Ishikawa,
Hidetoshi Nishijima, Hiroshi Nirei and Bitters End.
Photos for Ishikawa and Nishijima except first one by Hiroshi Nirei.
All rights
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Written by(福嶋真砂代) |