vol.116
- Praha! 4 -
●黄金の夢が見たい!
---- 『プラハ!』
『プラハ!』渋谷Q-AXシネマでレイトロードショー
チェコはピルスナービールの発祥地、
なんですね(知ってました?)。
おいしいビールを飲みながら、
世界遺産なる華麗な都、プラハで、
ステファン君と楽しい時間を過ごした加藤さん。
…じゃなくて(笑)、
『レベロベ』というチェコ映画を買い付けるための
マジメな話は順調にまとまり、
あとは東京で公開へと準備をすることに。
しかし、公開するには、さらなる困難な壁を
乗り越えなければならなかったのです。
『プラハ!』配給秘話の最終回です。
「これを読むと、外国の映画を配給する、
という仕事がどんな過程で行われているかも
分かるので、学生さんにも面白いと思います」
と、加藤さん。
ほんと、タメになりますよ!
□タイトルを変える?!
加藤 買うまではスムーズに行ったんですけど、
日本で公開するというところが、
やっぱり大変なんですよ。
『プラハ!』という日本語タイトルをつける前、
「レベロベ」というタイトルそのままで
行こうと思ってたんです。
(レベロベ=REBELOVE=REBEL+LOVE)
LOVEという言葉も入っているし、
多少かわいらしさも伝わるのかな、と。
レベル(REBEL)は、
チェコ人の気質とか背景として、
社会主義に静かに反対する…というか、
そういうメッセージも含んでいるから、
わりといいタイトルだなと思ってて。
これでうまく持っていけないかなと
いろんな劇場に持ってまわったんです。
でも、持ってまわり始めてから、
時間のかかること、かかること。
都内のだいたいの劇場は行きました。
女性にも、男性にも受けるだろうし。
かわいらしさもあるから、
渋谷、恵比寿、銀座とかの劇場で、
行けるんじゃないかと思って、
まわったんですけど…。
ほとんどダメだったんですよ。
作品を観てもらったときに、
タイトル(レベロベ)も含めた、
社会主義が背景になっているところが、
気に入ってもらえない、というか、
どちらかというと、もっと暗くて、
人が死んでしまって、悔しくて、
どっぷり社会主義に入り込んだものの方がいい、
という方もいたり。
逆に、歴史の背景なんかいらないから、
ミュージカルだけでイケるものじゃないと、
という方がいたり。
時期的に上映スケジュールが合わなかったり、
とか、結局どこもダメだったんです。
── そうだったんですか。
加藤 わりとそれは、予想外のところで、
デザイン的にも、ある程度カワイク作れる
という自信があってやってたんですけど、
ネガティブな要素のうち、
社会主義が背景になっているのは、
僕らが思った以上に、
ネガティブ過ぎることに気づいてきて。
たとえば『ベルリン、僕らの革命』みたいな、
マジメな感じで、さらに海外で賞を取っていて、
すでに映画的にハクがついている作品だと、
なんとなくいいと思うわけだけど。
これは、賞を取っているわけでもなく、
ものすごい悲恋でもない、
と、わりと評価は低かったんです。
ちょっと困ったなーと思って、
チェコの人に申しわけないけど、
とっかかりを低く、というか、
窓口を広くしないと、と思って。
観た後に、もっとチェコのことが知りたいとか、
いろんなことを思ってくれるというのは、
それでうれしいのだけど、
最初の段階で、中途半端な社会主義の映画だと
とらえられるのはもったいない。
実際に、劇場の人にそうとらえられるということは、
結局、お客さんにもそうとらえられるかもしれない。
それだと、観てもらえないんじゃないかと、
恐怖心がだんだん湧いてきたんです。
── すごくリアル。いや〜現実的ですね。
加藤 じゃあ、作品を売っていくのに、
最初のビジュアルと、タイトルを変えなきゃ
いけないということになったんです。
□「君にタイトルを任せる」と言ってくれた。
加藤 「プラハの春」でもいいんじゃないかなと
思ったんですけど、そうなると、
当然、チェコをよく知っている人は、
昔の大事件のことを思い出してしまうので、
プラハ、チェコという言葉を入れたいのだけど、
「プラハの春」じゃなくて…といろいろ
考えはじめたんです。
本国にも投げてみました。
やっぱり彼らにしてみれば、本音でいうと、
「レベロベ」でいいんじゃないかな
というのがあったんですけど、
日本の事情を説明すると、ステファン君が、
上司にかけあってくれたんですね。
「できればこの作品を、日本で公開してほしい。
ついては、君にタイトルを任せる」
と言ってくれたんです。
それで「プラハ」、それから「!」が、
元気で明るいミュージカルのシーンを
表しているんです。
ただ、じつは、本当のことを言ってしまうと、
映画は、プラハの事件そのものではないんですね。
「プラハの春」はプラハですし、
この映画が撮られたのも、
プラハに間違いは無いんですけど、
この映画のモトになった事件の場所は、
プラハよりもちょっと北のドイツ国境に近い街
というところなので、
チェコにひじょうに詳しい人からは、
それをつっこまれるんですね。
たとえば「東京ディズニーランドは千葉にある」
と同じでね(笑)。
そう言われると、ツライところなんです。
でも、このタイトルは、
「プラハの春」から「春」を抜いた「プラハ」
なんだという想いがあるし、
プラハの人の映画でもあるし。
プラハへの興味から入ってもらって、さらに、
ほんとうのところがわかってもらえば本望だと。
そうやって、チェコ人とか、
チェコに詳しい人とかを、
ひとりひとり説得してまわって、
ようやく応援していただけるようになったんです。
その間、7、8カ月かかってますね。
意外に、日本で公開するということの方が、
(本国の説得よりも)難しいんだなと、
思いました。
── 最後に『プラハ!』の見どころを。
加藤 とにかく素材がかわいいです。
チェコの文字だけでも、不思議に、
かわいい感じがします。
そういうビジュアルもいいので、
チェコ好きの方にも、'68年のプラハの春に
興味がある方にも、いろんな層の方に
観ていただけると思います。
主演のズザナさんもかわいいですし、
ほんとにいろいろと楽しみどころがある
作品だと思います。
ぜひ、観に来て下さい。
おわり。
『プラハ!』は、こうやって、
加藤さんやアンプラグドのみなさんの
手塩にかけた映画なのですね。
ざっくばらんなお話に感謝です。
細かい作業の積み重ねで、睡眠時間もなく、
惚れ込んだ映画のために奔走する姿が、
目に浮かんで、ホロリときました。
加藤さんにとって『プラハ!』は
「目に入れても痛くないくらい、
かわいい子どものようです。
こうやって育てていけるのは、
映画をやってる喜びですね」
と語る表情がほんとに幸せそう。
そんなあったかい“温度”も感じながら、
観ていただけるといいなと思います。
あ〜つぎの三木作品の『ダメジン』も楽しみ…。
次回は、
『ビッグリバー』の舩橋淳監督が登場する予定です。
どうぞお楽しみに。
Special thanks to Takeshi Kato and
Tomoko Ogawa (Unplugged).
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Written by(福嶋真砂代) |