vol.121
- It's Only Talk 2 -
●カマタもワタシも好きになる、
---- 『やわらかい生活』
©「やわらかい生活」製作委員会
渋谷シネ・アミューズ、新宿K's cinema、キネカ大森
他全国ロードショー
ちょっと意外な妻夫木さんが‥‥。
『やわらかい生活』の第2回です。
前回、「第3コーナーを回ったあたりで、
ふと自分が何に向って走っているのか
見失ってしまう、“魔の時間”が訪れる‥‥」
と書いたのですが、
“魔の時間”ってなんだろう、ですね。
まだまだ先が長いと思っていた人生が、
第3コーナーを回るころになると、
チラチラとゴールが見えてくるときで、
親を亡くすとか、親友を亡くすとか、
そういう大きな衝撃も受けたり、
はたまた恋人と別れるとか、
いままでは確かにあると思っていたものが
スルッと簡単に消えてしまったときに、
それまでがんばっていた人であればあるほど、
とつぜん空虚になってしまったり。
そんなときふと自分を見つめると、
なんだか何も無いような気がしてしまい、
日本の几帳面な教育の賜物かどうかわからないけど、
与えられたことにはとてもマジメに取り組み、
ソツなくやることにかけては上手だけど、
それはどれも自分の選択じゃなかったことに、
唖然としてしまうのかもしれません。
そんな相談はなぜかこのごろ多くて、
「わたし、何をしたらいいのか、
何をしたいのか、わからないの‥‥」と。
だけど「何をしたいか」を考えてあげるのは、
ムズカシイ。結局、自分にしか
わからないことですからね‥‥。
『やわらかい生活』の優子は、
その点、会社社会で数々の修羅場をくぐり抜けた
だけあって、そんな「わからなさ」ではなくて、
なにかに依存してしまう弱さでもなくて、
ただただいろんなことがありすぎて、
「いっぱい、いっぱい」になってしまい、
バーストしてしまった。でもちゃんと
自分の基準で癒す方法を知っている‥‥大人
であるように思います。
ある意味、「わかっている」かっこいい女性です。
おっさん指数の高い生活をしてきたからでしょうか‥‥。
そんなときそばに居てほしい人は、
どんな人だろう‥‥。男は‥‥といい直しますが。
彼らとの関係性がなんとも素敵です。
・5歳年上の九州弁のイトコの祥一(豊川悦司)、
・うつ病のヤクザの安田(妻夫木聡)、
・建築家で痴漢のkさん(田口トモロヲ)、
・EDの都議会議員の本間(松岡俊介)。
とくに九州弁のトヨカワさんが、
軽くてかわいくてやさしくて、大きい。
こんな人が実際いるわけが‥‥。
とにかく、変だけど素敵な男たちに囲まれた
「やわらかい生活」がとても魅力的です。
写ってないけどお花がいっぱいの蒲田タイヤ公園
では、廣木隆一監督とのお話を続けます。
やっぱりこれも"It's only talk‥‥"です。
廣木 『やわらかい生活』は、優子と
いろんな人との、芝居のコラボレーションという
のもあって、それを受ける芝居を寺島さんは、
全部できるので、それが逆に言うと、
僕が楽しみだったんです。
ワンキャラクターじゃなくて、相手との、
芝居のおもしろさというのが、なんかいいなと。
豊川さんは明るい感じでやってくれて、
そこで寺島しのぶが「軽く」というのは、
きっと無理だろうし。
“優子”というキャラクターがあるので、
優子がいろんな人を相手に芝居が変わってくる
というときに、寺島さんの軸が揺れないので、
やりやすかったですね。
── 揺れませんね。
廣木 揺らしてやろうかと思ったりしてね(笑)。
女の監督が男を視るのが厳しいのと一緒で、
男の監督が女を視るのは厳しい‥‥、
厳しいという言い方はアレですが、
よく視てますよね、実際。
だから厳しくなるんだと思いますよ。
── それでも寺島さんはブレないというか、
受けて立つ力がある‥‥。
廣木 受けて立って、倒れましたね‥‥。
── 病院に入っちゃったんですって‥‥。
廣木 それぐらい入り込む人なので。
寺島さんが“優子”を一生懸命やってる姿を撮る
ことは、逆に言うと、
「一生懸命やってる女の人」を撮る
ということなので、
彼女が一生懸命やってくれないと成立しない。
それを芝居でやると、違って見えてしまう。
ほんとうに一生懸命やっているので、
倒れたわけですけどね。
── ふ──ん。
寺島さんのエネルギーはすごく強い‥‥。
映像から受けとるエネルギー、ですけど。
廣木 僕は「一生懸命やって」って言わないですけど、
それを態度で示すと‥‥。
── やるんですね。
廣木 それで、一生懸命やってる女のコをみると、
切なくなるじゃないですか‥‥。
「そんなにがんばらなくても‥‥」と、
思うじゃないですか。
そういう目線でおれはいたので。
── ‥‥(笑)、寺島さんの勝ちですね。
東急プラザの屋上のかわいい観覧車
── 豊川さんはノリの軽い役柄ですが、
女性をぜんぶ受け止める、だんだん、
頼りがいのある「キャッチャー」になっていき、
なんだかいままでの豊川さんに感じたことのない
大きさを感じてしまいました。
こんな人いたらいいな〜と、
誰しも思うわけですが‥‥。
廣木 いるんだけど、気づかないだけですよ。
── そうですかね〜(笑)。
女もツライけど、男もツライのよ、
みたいなのってありますけど、
醜い部分もさらけ出せる女の強さみたいなところと、
そこから逃げ出さなかった豊川さんがいたという
ところが、ジーンときます。
妻夫木聡さんの役(うつ病のヤクザ)もおもしろい
ですね。
廣木 よかったですか? じゃ、よかった。
妻夫木さんがやったことのない役だし、
いつも主役やっている人じゃないですか。
彼が本読んで最初、
「どうやったらいいかわからない」と言ってて。
で、話をして納得していただいて。
出ていただいて、すごい助かりましたね。
彼はいまちゃんと主役をやってるから、
映画というものを体現してるので、
そういう人がああいうシーンで出てくれると、
こう、抜ける感じじゃないですか。
ずっと同じ感じじゃなくてね。イマ的で。
実際、イマ的な若者だから、そういうのが
出来ちゃうんで、すごく楽だったしね。
── きっと妻夫木さんも楽しんでるなと‥‥、
いつもは主役で重責を負ってしまうでしょうし。
廣木 そう。いい子ですからね、そういう意味では。
豊川さんがいて、妻夫木さんがいて、
俊介(松岡さん)と、田口(トモロヲ)さんと。
みんな芝居の出てくるものが違うので、
そこに寺島しのぶが舞台をメインでやってる人で、
映画に出てきて、というところでは、
すごくおもしろかったし。
1人の観客の立場で観るとね(笑)。
── はい。撮影中はコワかったけど‥‥(笑)。
田口トモロヲさんは、
監督の作品の常連さんですけど、
味がありますよね。変な役ですけど‥‥(痴漢です)。
廣木 トモロヲさんってのは、微妙ですよね。
痴漢にも見えるし、普通のサラリーマンにも見える。
出過ぎてないし、かといってヘコんでないでしょ。
ヘコむというか、地味じゃないし。
── いやらしさも出せて‥‥。
『ラ・マン』でもいやらしかった(笑)。
そんなキャラクターに対する寺島さん、
というバランスがおもしろいし、
見どころなのですね。
おわり。
がんばりすぎて疲れてしまったときに、
ちょっと休んでみるのもよしですよね。
また、スタートすればいいし。
レースも人生も、きっと、
最後の直線がいちばんおもしろいのだもの。
映画では、原作とはまた違う風味で、
キュンとして、ふーっと肩の力が抜けるような、
『やわらかい生活』が待っています。
★やわらかい生活
次回は、『ジャスミンの花開く』の
ホウ・ヨン監督のお話です。
お楽しみに!
Special thanks to Director Ryuichi Hiroki
and Naoko Ishida (Lem). Kamata photos by marsha.
All rights reserved.
Written by(福嶋真砂代) |