vol.128
- By the Pricking of My Thumbs -
●豪華なフレンチディナーに舌鼓。
---- 『アガサ・クリスティーの奥さまは名探偵』
〜「親指のうずき」より〜
©AH ! VICTORIA ! FILMS/FRANCE 2 CINEMA/RHONE-ALPES CINEMA
9月9日よりシネスイッチ銀座ほかにてロードショー
さあ〜おいしい秋がやってきますね。
梨とか、栗とか、柿とか、
秋刀魚とかね‥‥。ごっくん。
いやいや、食べるばかりじゃなくて、
なんといっても芸術の秋ですから、
これから観る映画も、
こう、なんか、文化っていうんですか、
芳醇、エレガントな感じがいいですね。
たとえばワインでいうと、
熟成されたフルボディな感じ‥‥?
そんな映画があります!
『アガサ・クリスティーの奥さまは名探偵』
〜「親指のうずき」より〜、です。
長いタイトルだけど‥‥。
今年の3月の「フランス映画祭」で
上映されたときは、『親指のうずき』
だけだったのだけど、いつのまにか、
「奥さまは名探偵」という冠がついたんですね。
で、まさにそのとおり、この映画は、
“奥さま名探偵”が大活躍します。
原作の「親指のうずき」とは、
アガサ・クリスティーの大人気シリーズ、
「トミー&タペンス」のひとつです。
今回、アガサ・クリスティー作品の、
初めてのフランス映画化だそうです。
アガサ・クリスティー没後30年記念!
やはり記念ですから。観ないと。
原作にある英国の品格に加えて、
フランス映画ならではの、
エスプリというかユーモアというか、
小ネタというか、軽快な味がおいしい、
コメディタッチな仕上がりです。
しかも優雅で大人のディナーな感じ。
アペリティフから食後酒まで、
フルコース、存分に堪能したいです。
さて主人公の“おしどり夫婦”は、
名前を「トミー&タペンス」から、
フランスの「ベリゼール&プリュダンス」
に変えて登場します。
優雅なフランスの田舎暮らしを楽しむ夫婦が、
ある日、高級老人ホームにいる叔母を訪ね、
そこで出逢う一枚の絵と、
謎の婦人に興味を抱きます。
好奇心旺盛なプリュダンス(奥様)が、
不吉な予感に“親指がうずき”出し、
探偵よろしく事件を追いかけ、
舞台はフランスアルプスの怪しい屋敷へ。
いよいよ、プリュダンスの身に危険が‥‥。
果たして絵の謎とはなにか、
そして殺人の真犯人は誰?
というアガサ・クリスティー十八番の
謎解きミステリー。
「フランス映画祭」に来日した
パスカル・トマ監督と、
主演女優のカトリーヌ・フロさんに、
楽しいお話を聞きました。
コメディの達人のトマ監督は、
話している時もおもしろくて、
「いつそんなジョークを考えてるの」
と、気になってしまい、
ほんとにしょうもない質問から
始めてしまいました。
── いっぱい笑わせていただきました。
気になっているのは、監督の場合、
脚本にユーモアを入れていくのか、
ユーモアがあって脚本を書くのか、
どっちなのでしょうか。
変な質問ですけど‥‥。
トマ その都度変えていきます。
撮影のときに途中で変えたりもします。
風景が思っていたのとは違っていたり、
俳優たちの意見を聞いたり。
即興ってことはほとんどないです。
大きな流れというのはあるんですが、
その都度、現場に合わせていきます。
あとはユーモアシーンじゃないけど、
編集のときに作るものもあるんです。
たとえば幻想的な“夢のシーン”が出てきますが、
あれは編集のときに作ったんです。
── “笑い”はどうやって作るのでしょう。
トマ “おもしろさ”とは計画通りにいかないものです。
同じセリフでも言い方によって、
間のとり方とかでちっともおもしろくない
こともあるし。
セリフを言った相手がどう出るかとか、
そんなことの繰り返しです。
俳優にも依ります。
いるだけでおもしろい人もいますし。
全体の雰囲気から醸し出されるもので
それを観客がキャッチできるかどうかなのです。
おもしろかったですか。
── 最高に!
たとえば、頭から湯気が出ているところ。
スイスの国旗が入ったワインボトルを見て、
「消火器じゃないの」というところ、
プリュダンスが「足をどけて下さらない?」
というと、足がとれちゃうところ、などなど。
ウケました。
トマ 湯気が出てるのは、撮影のときに偶然というか、
やってみたらそうなったんです。
足のところは、計画的です。
シナリオ通りで、しかも2回やるところがね。
おもしろいでしょ?
── そんなおもしろいこと、いつ考えてますか。
トマ フランスの人間はね、
「笑わない日」というのは、
失敗の日なんですよ(笑)。
1日たりとも楽しいことを欠かすことは、
ありません! じゃね。
と、ひとしきり場を笑わせると、
ご友人との楽しい約束を思い出し、お出かけに‥‥。
あれ‥‥? 監督〜。
というわけで、カトリーヌ・フロさんに、
じっくりたっぷり伺うことになりました。
それにしてもフランスの大人の女性って、
なんて佇まいがかっこいいのだろう〜。
フロさんもコメディの達人ですが、
身に沁みついた優雅な身のこなしで、
エレガントにコケティッシュに
コメディをやってのけるところが、
おかしくて、素敵で、憧れます。
── トマ監督との撮影はすごく楽しそうですね。
フロ ええ、もちろん。
だけどね、
自分はマジメにやらなきゃいけないから、
一生懸命マジメにやってましたけど、
どうしても笑ってしまって‥‥。
── 今回、孫のいる“おばあちゃん”という役で
びっくりしました。
フロ トマ監督と最初に撮った映画では、
そのとき39歳だったのに、
50歳の元気なおばちゃん役を
演ってくれって言われて。
「え、どうするの」って言ったら、
「なんとかやってくれ」って(笑)。
衣装合わせのとき、
ディオールやシャネルとか、
いまからするとちょっと古くさい、
流行遅れのものを着せられて、
髪の毛もきっちりとパーマをかけられ、
その段階で、ちょっと老けた感じが
自分でしてきましたね。
結局、トマ監督の求める女性像は、
「年齢不詳の女性」なんです。
歴史や経験は積んでいるけれども、
これから人生、先にもいろいろやることがあって、
元気いっぱい、可能性を秘めていて、
そんな「年齢不詳」のような人。
だからおもしろいのです。
── 映画の中に見られる「親離れ、子離れ」の
ことについて伺いたいのですが、親と子の
極端に自立した関係性が描かれてました。
日本とは違うなあ、と思ったのですが、
フロさんは演じたとき、
どんなふうに感じてましたか。
フロ フランスでも「自立の問題」はあります。
老人ホームの話も映画に出てきますよね。
トマ監督が撮影中によく言っていたのは、
このカップル(プリュダンスとベリゼール)は、
自己中心的、「ジコチュー」なカップル
なんだよ、ということです。
だから、フランス人にとっても、
この映画の親子の状況は、
ちょっと普通じゃないですね。
でもこういうカップルを映画で見ると、
自分の持ってる「罪悪感」が薄まるでしょ。
そういうのがいいのよ。
©AH !VICTORIA ! FILMS/FRANCE 2 CINEMA/RHONE-ALPES CINEMA
── フロさんの前の作品の
『女はみんな生きている』がすごく好きです。
今回は、あれに比べて熱いカップルでしたよね。
フロ あっちはもうおしまいのカップルでしたが、
こちらはずっと恋愛中のカップルでしたからね。
── 日本でなにか楽しみにしてたこと、ありますか。
フロ 25年前、女優デビューしたころに、
じつは日本映画のオーディションを受けて、
本決まりになったんだけど、
その時、舞台公演と重なってしまい、
どうしても出来なかったんです。
25年経ってこういうふうに日本に来られて、
もしかしたら日本で有名になっていたかも‥‥、
なんて思ったりしましたね。
── では今後、日本の映画に出るなんてことも?
フロ ええ、お話があれば。
まだ女優になる前のことだけど、
パリで日本人の観光客に
「写真撮ってもいいですか」って
言われて、「なぜ?」と訊いたら、
「あなたは完璧なパリジェンヌだから」と。
なんでだろう、と思っていたんだけど、
きっと「日本人好みのパリ人」なのかも、
と思うの、不思議だなと思ったのよ。
まさに完璧なパリジェンヌです。
演じることの楽しさを伺うと、
「人を笑わせたり、感動を与えたりするのが好き。
そして、自分も“何か”を受けとるんです。」
フロさんの「美しさと元気の秘密」は、
受けとる“何か”にあるんですね。
こんなに楽しいパスカル・トマ監督と、
カトリーヌ・フロさん。
そして、今回は来日されなかったけど、
絶妙なコンビを演じたダンナ様役の
ベテラン俳優、アンドレ・デュソリエ。
こんなに楽しくてオシャレな会話が
できる夫婦になりたいものだ〜。
©AH !VICTORIA ! FILMS/FRANCE 2 CINEMA/RHONE-ALPES CINEMA
最後にシェイクスピア「マクベス」の一節を。
“By the pricking of my thumbs
Something wicked this way comes.”
(親指がうずいてる、
なにかよくないことが起りそうだ。)
★『アガサ・クリスティーの奥さまは名探偵』
Special thanks to director Pascal Thomas,
Catherine Frot and Cetera International.
All rights reserved.
Written by(福嶋真砂代) |