vol.130
- Kireina-Mizu -
●どこまでも幻想的な青い光…。
---- 『いちばんきれいな水』
©2006「いちばんきれいな水」フィルムパートナーズ
10月7日よりユナイテッド・シネマ豊洲、
渋谷シネクイント(今秋レイトショー)ほか全国順次公開
の〜んびりした休日。
光が燦々と溢れるカフェ。
コーヒーの香りとよい音楽に身を任せて、
ゆったりとした時間を過ごすしあわせ。
‥‥そんな居心地のい〜い映画が、
『いちばんきれいな水』です。
それもそのはず、この映画は、
椎名林檎、サザンオールスターズ、一青窈など
かっこいいミュージックビデオを作ってきた、
気鋭のウスイヒロシさんが監督。
音楽は、ショーロクラブのベーシストの
沢田譲二さんで、ゲストアーティストには、
アン・サリー、比屋定篤子、ジョイスが参加。
このサウンドに身を任せるだけでも、
いい時間が過ごせてしまうというメンバーだし、
AMADORIのテーマ曲もナイス。
大好きなミュージシャンのSaigenjiくんも、
「沢田さんの音楽が最高」とお薦めです。
原作は、個性的な漫画家の古屋兎丸作品。
(兎丸さんは、園子温監督の『紀子の食卓』に
俳優として出演中! 独特のいい味〜。)
©2006「いちばんきれいな水」フィルムパートナーズ
さて、どんな映画かというと、
仲良し姉妹のファンタジックなお話です。
両親が急な旅行に出かけてしまい、
病気でずっと長く眠ったままの
姉の愛ちゃん(加藤ローサ)と
家の留守番をすることになった、
マジメな小学生の妹、夏美ちゃん(菅野莉央)。
眠りから覚めた「いばら姫」(姉)と
受験勉強で忙しい「メガネザル」(妹)が
過ごす不思議で幻想的な夏の物語。
可愛いらしくて、ふわ〜んとしてて、
なんともいえず爽快な気分。
それにしてもこのごろのコミック映画化、
留まることを知らぬ勢いですね〜。
“すでに出来上がっている”世界を
映像化するっていうのは、
原作ファンの期待も大きいだろうし、
きっと監督は神経遣うのでしょうね‥‥。
そのあたりを、今回は、MVではなく、
長編映画に初挑戦したウスイヒロシ監督に、
伺ってみました。
自分のことを「落武者」と言っちゃう風貌。
ユルユルした笑顔が優しくて、
何時間でも一緒にしゃべっていたくなるような、
リラックスした空気がありました。
だからこんなに居心地のいい映画が
できるのだろうな‥‥と。
□寝ないとダメだなと思って‥‥。
─── これは初長編映画なんですね。
ウスイ そうですね。
でもそれほど気負いはなかったです。
もともとPVを作る前から、
映画の現場でアルバイトをしたりして、
その頃から映画を撮ってみたいなという
気持ちはありました。
今回、この原作を読ませてもらって、
原作の持つ雰囲気自体が、透明感とか、
ふわっとした空気感とかがあって、
自分の中ではPVと近い感覚で撮ってましたから、
そういう意味では気負いなくやってました。
撮影初日、南果歩さんのシーンで、
南さんが声をかけてくれて
「監督、昨日は寝れました?」と言われて、
「寝ました!」と答えたんです。
いや、寝ないとダメだなと思って。
そしたら、
「私は寝れなかったわ。初日は、
気持ちが高まっていつも眠れないんですよ」
とおっしゃって。
「あ‥‥、寝れなきゃよかった‥‥」って思って。
「すいません」って言いました(笑)。
でも本当に寝ないとダメだろうと思って、
寝るようにしてたんです。
食事もそうですね。
ちゃんと食べないとって。
昔だったら「寝ない、食べない」
って感じだったんですけど。
─── エネルギーコントロールしてたんですね。
ウスイ ええ。スパンも長いし。
撮影は20日間だったんですが、
企画から考えると1年半かかってるから、
エネルギー配分をどうしたらいいんだろうって、
考えました。
─── この映画を作るきっかけというのは?
ウスイ プロデューサーから、
兎丸さんの原作を読ませてもらって、
原作の持っている雰囲気だったり、
透明な空気感、それに行間だったり、
もともと20ページに満たない短編だったので、
凝縮されているんだけど、広がっていく、
という印象が残る原作が好きになりました。
PVに近い感覚でできるかも‥‥、
って思ったのがきっかけですね。
で、90分の長さにするにあたって、
原作をどう膨らませていこうかというとき、
脚本家の三浦有為子さんとのいい出会いがあり、
新たに「真理子」というキャラクターも
生まれました。
─── カヒミ・カリィさんの役ですね。
ウスイ そう、そう。
ある時期、兎丸さんに一度「感想を聞こう会」
みたいなのがあって、どこどこのファミレスに
来てくださいって言って。
兎丸さん、どんな人なんだろうと思ってたら、
すごく二枚目の方が現れて、かっこよくて。
「初めまして」って挨拶しました。
で、原作に無い新しいキャラクターも
「すごく面白い」と言ってくれて、
いろいろアイディアもいただけました。
そのとき、PVの作品集をお渡ししたんです。
それからプロデューサーを介してのメールで、
「作品集を見て、お任せできると思います」
って言葉をもらって「よし!」と思いました。
脚本の三浦さんとも「がんばろうね」って。
そうやって進んでいきました。
─── 莉央ちゃんの印象がすごくて、
夏美役は、子供なんだけど冷静な、
大人っぽい役でしたよね。
ウスイ 菅野莉央ちゃんは、
「子役オーディション大会」みたいなのがあって、
その中で会いました。
そういう難しい役だったのですが、
意外と、オーディションに来てくれる
子たちってカンのいい子が多くて。
その中でも、莉央ちゃんは、
状況に応じていろいろ変えられる感じでした。
最初は、3人のグループで、
1人ずつセリフを読んでもらいました。
で、3番目が莉央ちゃんで、
前の2人をずっと観察してるんですよ。
2人に対して「自分はこう行こう」
っていう感じがあって。
それとか、3人の中で、
夏美役、お母さん役とか、
交代して演じてもらったときに、
切り替えの幅がすごく豊かだったんです。
─── 田中哲司さんは、今回は、
南果歩さんとピースな夫婦で、
どこまでもホンワカしてて、
なんかいつもと違う田中さんで、
楽しかったです。
ウスイ 田中さんは、ご指名でお願いして、
やっていただいてすごくうれしかったです。
□絶対負けられないし、越えたいし。
─── もう1つ、楽しみだったのは、
撮影の蔦井さん、照明の中須さんです。
大好きな作品を作ってきた方々で、
蔦井さんは、『ジョゼと虎と魚たち』や
『メゾン・ド・ヒミコ』とかで、
中須さんは、『トニー滝谷』だったり。
ウスイ そうなんです。
以前、PVで一緒にお仕事してて、
今回、お二人にお願いしたんですけど。
じつは、蔦井さんと中須さんのペアで
作ってるPVがあって。
ともさかりえさんの「木蓮のクリーム」っていう、
(椎名)林檎ちゃんが曲書いているんですけど、
その感じを、今回すごく見たくて‥‥。
─── わぁ〜、それ探します。
そのすごいスタッフの方々と作られた、
あの幻想的な水のシーンですが、
ほんとにキレイですね。
ウスイ すでに、原作のマンガで
表現されている部分というのがあったので、
絶対負けられないし、越えたいし、
という気持ちがありました。
光に関して「青」が基調になるんですけど、
その青はどんな青なんだろうとか、
衣装に関して言うと、
水の中で服を着て泳ぐシーンで、
どんな服でどんな色なんだろうとか、
ディスカッションしました。
実際、服を着て泳ぐテストとかして確認したり、
ひらひらしたもので魚のように見えるものを
探したり、そうやって撮っていきました。
場所に関しても、
制作部に3ヵ所くらい出してもらって、
組み合わせを考えました。
─── 5メートルのプールもあったとか。
下に潜ってたダイバーさんもいたりして?
ウスイ いました、いました。
「次いきます〜」とか、
骨伝導で話せる機器を使って、
上の僕たちと交信してましたよ。
─── ところで監督は、
いつごろから映像に興味を持ったのですか。
ウスイ 大学2年生くらいからです。
小学校から剣道をやってて、
大学1年のときは、剣道部と
トライアスロン部を掛け持ちしてて。
─── 体育会系ですね!
ウスイ でも、なんか作りたいと思い始めて。
─── 突然?
ウスイ 映画館でアルバイトをはじめて。そこからです。
─── きっかけの映画ってあったんですか。
ウスイ 『カミーユ・クローデル』を観た頃です。
そこから映像を作りたいと思ったんです。
─── 「この夏は1回きりなんだよ」と言われて、
夏美ちゃんは冒険をしますが、
監督が冒険をするとしたら?
ウスイ そうですね‥‥、海外に行きたいです。
南米にずっと行きたくて‥‥。
じつは大学を卒業したころ、
青年海外協力隊で
中南米とかに行こうかと
説明会に行ったこともあって。
なんかそういう想いが、
この映画の中の“ブラジル”
というところに出てるのかも。
原作には無い話なんです。
おわり。
記者会見のとき、
自分がいちばん緊張してて、
次に緊張してたのは加藤ローサちゃんで、
いちばん落ち着いてたのが莉央ちゃんだった、
なんて話す“かわいい”ウスイ監督でした。
お会いしてみると、
すごく柔軟で子供のような純粋な感覚と、
同時に芯のある包容力も潜んでいて、
それはきっと剣道で鍛えたというような、
精神力や運動能力みたいなものなんだなと。
おそらく、監督の現場を包む空気って、
すごいいい感じだろうな‥‥、
なんて想像しました。
では、東京の新名所、
アーバンドックららぽーと豊洲の
ユナイテッド・シネマ豊洲。
夕日がきれいらしいから、
夕方にお出かけして観ましょう。
★『いちばんきれいな水』
Special thanks to director Hiroshi Usui and Astaire.
All rights reserved.
Written by(福嶋真砂代) |