OL
ご近所のOLさんは、
先端に腰掛けていた。

vol.132
- Hazard 2 -


たやすい道を歩むな!
---- 『HAZARD』その2



©HAZARD project

  1991年、主人公のシンは、大学生。
  “眠い国、でも眠れない”
  ぬるま湯のような日本に嫌気がさし、
  おもむろにニューヨークへ旅立ち、
  自ら危険な場所へと飛び込んでいく‥‥。


さて『HAZARD』の園子温監督の第2回です。
本日(11日)シアターN渋谷で初日を迎えましたが、
園さん、今日は素でした(笑)。

『アカルイミライ』のころのオダギリジョーさん、
「ガス・パッ・チョ!」CMでもお馴染みの
躍動感あふれるジェイ・ウエストさん、
それから演技派の深水元基さん。
この美しい3人。(ためいき〜)
伸び伸びと、瑞々しいぶつかり合いは、
またと見られないトライアングルです!

それでは、園監督のほろ酔いトークをどうぞ。

□「眠い国、でも眠れない日本」

─── 私、園さんが詩人だというところで、
    感じ入っているんです。


園子温 僕、もう詩を書いてないけど‥‥。

─── そうなんですか。
    でも映画を作る時「詩人である」
    という意識はナイんですか。


園子温 僕、来年から「詩人」って出さないから‥‥。

─── ‥‥。
    じゃあ、いつごろから
    映画に没入したのでしょう?


園子温 簡単に言うと、詩を書いていて、
    普通に書いててね、
    怒っているときは筆圧が強くて
    書き殴った感じの字で、
    優しいときの気持ちは綺麗な字なのに、
    それが雑誌で活字になると、すべてが
    “明朝体”とか“ゴシック体”とかになるのが
    ちょっと違うかな、と思っていたので。
    それが嫌でカメラで撮るようになって‥‥、
    みたいな感じなの。
    最初は、ストーリーとか撮る気はなかったんです。
    ストーリーに興味が無くて。
    でも「ぴあ」に出品したときに
    「ストーリーがないと‥‥」と言われて。

    (『俺は園子温だ!!』『男の花道』PFF入賞)

─── 物語ろうとしたんですね。

園子温 物語ったら、家賃も払えるしね。
    家賃ってキーワードだよね(笑)。


─── 家賃=プロ。

園子温 大事だもの。

─── あ、園さん、引っ越しが好きとか。
    どうしてですか。


園子温 脱出願望かなあ。耐えられなくなるの。

─── 『HAZARD』も『自殺サークル』も、
    『紀子の食卓』からも、
    園さんの叫び声が聴こえるんです。
    何を叫んでいるかは、
    観る人によって違うと思いますけど。
    あと、観たくないシーンも沢山あります。


園子温 だから、日本人は『‥‥そうそう』とか
    観てりゃいいんだな。
    「時効警察」観てればいいよ。


─── 「時効警察」好きですよ〜。
    でも最近は、観たいものを見せてあげるよ、
    っていう気持ちになってますよね。


園子温 まあね。

─── 『HAZARD』はやさしいです。

園子温 いや『気球クラブ、その後』もやさしいですよ。
    あ、宣伝しちゃった。(園監督の次回作です)


─── その言葉、でも信じられません(笑)。
    『紀子の食卓』も
    やさしいタイトルからは想像もつかない
    激しさでしたしね。


園子温 『気球クラブ』はある意味、やさしいですよ。

─── なにか心境の変化が?

園子温 ナイです。
    「園ちゃん」っていう一面を見せたんです。
    出ちゃったんです。


───(笑)。『HAZARD』に戻りますけど、
    マンハッタンが見えるシーンは、
    ブルックリンから?
    かなり南の方ですよね。


園子温 そう。全体的に見渡せるところね。

─── “911”の直後に撮影されましたね。

園子温 関係ないですね。

─── なんにも?

園子温 なんにも、関係ない。空気さえ出してない。

    ちゃんと撮ろうと思えば撮れるんだけど、
    ちゃんと撮ればいいってものじゃないから。
    キャンバスの真ん中から縦に割ってみた、
    っていうね。


─── 右だけ、とか?

園子温 そうそう。
    そういうのは(一緒に作るにあたって)
    オダギリくんじゃないとわからない、
    みたいなところありますけどね。


─── 飢餓感とか、渇いた感じがあって、
    園さん自身も「眠たい日本」を飛び出す、
    という気持ちを持っていたのですか。
    つまんない国だなー、と?
    それってアメリカに住んだから、とか?


園子温 いやいや、前からあった。
    変わってないです。
    基本的に大学のときも思ってたし、
    変わんないですね。


─── 眠たさが変わらないのですね。

園子温 眠いです。

─── 「眠れない」っていうのはどういう意味?

園子温 眠いけど、何が起るかわからない、という意味。
    不安でしょ?


─── 不安の中味は?

園子温 年金はもらえるだろうか、とか。

─── 心配ですか。

園子温 心配ですよ。


©HAZARD project

─── 園さんは、何かに怒ってますか。

園子温 俺、怒ってる。空気に。

─── 1991年を選んだのは?

園子温 バブル崩壊の手前だから。

─── いちばん眠い感じですか。

園子温 わかんないけど。

─── 熊切(和嘉)さんが脚本協力ですが、
    どういう形で?


園子温 もともとは、熊切くんが書いてた台本を、
    俺が撮ることになって。
    そのなかの主人公の回想シーンで、
    「アメリカじゃいろいろあったよな‥‥」
    っていう一行があって、
    それが『HAZARD』になったという‥‥。


─── 熊切さんの台本の一行以外は生きてないんですか。

園子温 オダギリくんがおしっこをするシーンで、
    アメリカに“マーキングする”っていうところ。


─── ああ。

園子温 (アメリカでおしっこ)“してる”ってとこね。
    マーキングまで書いてあったかな?
    ちょっと覚えてないけど。


─── それが「協力」だったんですね。

園子温 そう。

─── で、園さんは日本が好きですか。

園子温 大好き!
    これだけ日本のことを揶揄してるとしたら、
    日本のことが好きに違いない(笑)。

    とにかく、青春っていうのは、
    岡本太郎が言ってたけど、
    危険な道とたやすい道があったら、
    絶対、危険な道を選びます、ってこと。
    「たやすい道を歩むな!」ってことです。
    冒険して、いろいろやって生きろ、と。

    もうちょっと言うと、
    ゲーテの詩に、
    「もしもあなたが地球に傷をつけなければ、
    あなたは地球のお客様でしかない」
    みたいなのがあってね。
    何かを残さなければ、
    1回もこの惑星に生きた
    ということにならないだろう、と。
    そういうことを『HAZARD』で言いたい!


    おわり。

オダギリさんの音楽で始まってから、
最後までそのかっこいい映像に
釘付けになる『HAZARD』。
"眠い国、でも眠れない日本”
を飛び出したシンが右往左往しながら、
"自分”を確かにつかんでいく姿が
たまらなく愛しくなるのです。
いまどこでなにをしているだろうか‥‥。

******
ここからオマケです。

というわけで、シンはココにいました。
シアターN渋谷の舞台の上、園監督の隣で、
アンニュイに立っていました。


左からジェイさん、深水さん、オダギリさん、園監督

なんだかみんな叱られた生徒みたいですが、
オダギリさんのNYロケの想い出は、
「朝食がおいしかったこと」という、
もっとも大事なことを思い出してました。
ではちょっとだけ、
とても仲良しなオダギリさんと園監督の
不思議なやりとりを‥‥。

園子温  現地の人に、
     NYでいちばん危険なところはどこか、
     と聞いて撮影してました。
     現場でも本当の撃ち合いが起きたりとか、
     いろいろありました。

司会者  オダギリさんは、それを知っていましたか?

オダギリ たしか知らなかったんじゃないですかね。
     ただ役者ですから、どこかへ連れて行かれる
     わけじゃないですか。
     どこに連れて行かれるかもよくわかんないまま。
     あとで(危険を)知らされることも
     多かったですね。

園子温  現場でオダギリくんはビビってましたね。
     「ここで撮影したら死ぬ」って。

オダギリ ブルブル震えてました。

園子温  怒ってんの?

オダギリ ブルブル怒ってました。

園子温  「安全は保障されてるか」って聞いてきたから、
     その辺にいるおっさんを指して、
     「大丈夫、あれは実は私服(警察)だから。
      いざとなったら彼が守る」
      ってウソついて‥‥。

オダギリ あはは、ウソだったの?

司会者  今、気がついたんですね‥‥。
     監督、これから観る方にメッセージを。

園子温  たとえると、『HAZARD』は、
     生意気なパンクバンドが
     ファーストアルバムを作ったという感じです。
     スタジオに籠って音作りをするというよりは、
     12曲くらいを1日で、
     「ちょっとぐらいミスっても演っちゃえ!」
     って作りました‥‥、
     という感じで観ていただければと思います。

******

黒田光一さんが撮影した、
『HAZARD』撮影現場密着写真集、
「four years ago」が発売になりました。
役者オダギリジョーのオフショットも満載!
NYに残した貴重な足跡を観てください。


発売元:リトルモア / 定価:2310円

『HAZARD』
『園子温ドットコム』


Special thanks to director Sion Sono,
Takeshi Kato(Unplugged), Little More.
All rights reserved.

Written by(福嶋真砂代)

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2006-11-15-WED

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