OL
ご近所のOLさんは、
先端に腰掛けていた。

vol.134
- Bushi no Ichibun 2 -


徳平さんに聞く、
----『武士の一分』その2



©2006「武士の一分」製作委員会

笹野高史さんの第2回です。

『武士の一分』の中で、
主人の三村新之丞と中間の徳平を演ずる、
木村拓哉さんと笹野高史さんの
ややトボケたコンビネーションが絶妙です。
では、その誕生秘話からどうぞ。
前回の「失敗しちゃった」ことって何?
え? 息子さんのせい?

□モーガン・フリーマンのような役‥‥?

笹野 ただ1回、失敗したなと思ったのはね、
   木村さんが「笹野さん、今日終ったら何もないの?
   飯食いに行くんだけど、一緒に行きます?」って
   誘ってくれたんですよ。


── おお。

笹野 そういうのやっと言ってくれた、
   と思ったんだけど。
   「うわっ、ごめん、やっちゃったなー、
    木村さん、ごめん。今日、ヤボ用なんだ。
    息子の用事で。息子をオーディションかなんかに
    連れて行かなきゃいけなくて。
    俺の帰りを今待ってる。ゴメーン。」
   ってね、それ断ったの。
   それで、二度目がなかったものでね‥‥。


── 最初で、最後だった。

笹野 そう。ごめんねー、って。

── なかなかスケジュールも合わないですし。

笹野 木村さんは、すぐに「スマスマ」の収録に
   行ったりしてたし。
   あれだけは、未だに悔やんでいるんです。


── そういうつきあいがあるとないのとでは、
   映画が違ってくるものですか。


笹野 そういうの、信じたいじゃないですか。
   たくさんムダなお話したり、仲良くなったり、
   役作りでこーじゃないか、あーじゃないかって
   いや、それは止めとこうとか‥‥。
   ムダなことを山のように積んどかないと、
   なんか、いいものがこっちにギューっとね。
   ゴミの山から汁がジューっと出るみたいな、
   そういうのが、なんかいいじゃないかっていう
   感じがするものですからね。


── 葉っぱ一枚にも気を遣うような、
   山田組の緻密な演出の現場で、
   笹野さんの、その雰囲気作りで
   きっと和らいだりするのでしょうね。


笹野 山田さんが僕を使って下さるのは、
   なんか物語の脈拍と違う脈拍を、
   僕に求めていらっしゃるようなところが、
   わりとあったように思うんですよ、
   今まではね。

   で、今回はこんな大役ですから、
   ずっとこんなことしてたら、
   この芝居が壊れてしまうみたいな。
   わりとなんでもない日常生活の中の、
   家の中の芝居が続いていきますから。
   僕はいったいどういう役割をすればいいんだろう
   と思ってたんですが。

   監督は『ミリオンダラー・ベイビー』の
   モーガン・フリーマンみたいな役ですよ、
   って言ってくれたんです。
   「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って下さいよ。
    それって、と、と、とっても大事な役
    じゃないですか、ハハハハ」っなんか言って。
   「監督、僕にそんな役でいいんですか」
   って思って。
   僕は1、2日来て、パッと雰囲気の違うことを
   おもしろおかしくやって帰っていくような役者
   なのに、「だ、だ、だ、大丈夫ですかー?」
   僕に懸けてくれたのか、と思ったら、
   責任重大になっちゃって。
   どんなことをしたらいいんだろうかと思って。

   まあ、僕もバカですから、
   現場に行ったら行ったで、
   毎日なんかバカなことしたり、
   おかしなことしたりして。
   「笹野さん、そういうこと、要らない、要らない」
   って、ずっと怒られてね(笑)。


── うわぁ〜。

笹野 「そうじゃなくて、普通にいって、普通に」
   って言われて「普通ですけど」ってね。
   私は普通なんですけど、
   もう撮影の六さん(長沼六男さん)なんかも
   「そういうことしないの、
    この映画でそういうことしない、
    転んだりしない」って言って。
   「転んだりしなくていいんですか」
   「しない、しない」って言われちゃって。


── じゃ、いっぱいカットされたところが‥‥?

笹野 そうそう。
   監督が「笹野さん、ここでそうして下さい」
   って言って、やると、
   「いやいやそうじゃなくて、いやー、ハハハハ」
   って喜んでくれるから、
   いい気になってやっちゃって、
   そうするとそういうこと全部要らないって言うし。
   「なんなんだよ」って思って。


── その中でも残ってましたね。残り香。
   笹野さんならではの可笑しさみたいな。


笹野 木村さんもそういうところ、敏感ですから、もう。

── ウケが居たんですね。

笹野 カットがかかったとたんに
   二人で「アハハハー」って笑って。


── シリアスシーンの直後に?

笹野 そう。たまらないから、って言っちゃってね。

── そんなユーモラスな中でも、
   しっかりと新之丞を支えていた徳平さんが、
   口上を言いに行くシーンは、ゾクゾクしました。


笹野 あそこは難しかったですね。
   僕も藤沢さんの原作はとても好きな小説だし、
   僕なりのイメージがあったんですけど、
   監督がおっしゃるイメージはそうじゃなかったり、
   ちょっとしたズレがありますから、
   そこをどうやって埋めたらいいのか、
   どこで崩したらいいのかと。

   でもこの人(島田藤弥)はとてもエライ人で、
   もう斬られるかもしれないと思って来てる。
   そこでリアリズムとウソとの掛け合いみたいなのを、
   どこらへんまでやったらいいのかって、
   とても悩みましたね。

   量りに正確なグラム数を出すのに、
   ピンセットで砂粒一個を置いていくような、
   デリケートな作り方でね。
   もう綱渡りみたいな気持ちでした。


── そうやって、あの緊張感が生まれたわけですね。

笹野 監督ってうまいなーって思うんですけど、
   そういう雰囲気を撮ろうとするんですよね。
   こっちは、役者はバカですからね。
   求められたことを「ハイ、やります」って。
   だって「パンツ脱げ」って言われたら
   パンツ脱ぎますから、平気で、カメラの前で。
   そうじゃなくて、パンツを脱ぐかもしれないって
   思わせる、そういう空気が欲しいんだ、
   ってことですよね。
   コイツ、いまにも人を刺しちゃうかもしれない、
   危険なその匂い。
   「そうそう、いいよ、いいよ、その匂い、
   撮ります、ハイ! そう、”匂い”撮った!」
   みたいなね。
   そういうすごくデリケートな作業なんですね、
   映画作りって。

   それがね、終ってから気がつきましたね。
   アハハハー、バカですねー(笑)。
   そんときはただ無我夢中でね。


   
   ©2006「武士の一分」製作委員会

── 今回の脇役は豪華な顔ぶれですね〜。

笹野 豪華ですね〜。

── 小林稔侍さんに緒形拳さんに、桃井かおりさん‥‥。

笹野 桃井さん! よかったですねー。
   スタッフがね、真似してました、ラッシュ観てから。
   「誰もいねえの?」っていうね。
   「御免、誰もいねえの?」っていうのを真似してね、
   「オーイ、なんとかを持って来いよ、
    誰もいねえの?」なんか言うごとに
   みんなで大笑いしてね。


── 桃井さん節ですよね。

笹野 あの「音」ね。見事ですね。

── 空気が変わりますよね。

笹野 かと言って、緊張感を損なわないでね。
   ずっと作り上げていく感じが、
   すばらしい女優さんですね。


── ここのところ、またパワーアップされてますね。

笹野 普通、どんどん萎んでくるのが、ブワーっとね、
   あーいうふうにありたいもんですなー。


── 笹野さんもますますですよね。

笹野 そうだったら、いいんだけど。

── すごいパワー感じます。

笹野 それはきっと中村勘三郎さんの歌舞伎に
   出していただいたりして、
   そんなことが培われたのかもしれませんね。


── いまは、中村獅童さんとの「獅童流 森の石松」
   を終えられたばかりですね。
   そうやって舞台、テレビ、映画と、
   全部の魅力を笹野さんはご存じなわけですが、
   とりわけ映画は、笹野さんにとっては、
   どこがお好きなところでしょうか。


笹野 やっぱり現場の雰囲気ですね。
   僕、舞台の稽古なんかで待たされたりするの、
   すごい苦痛なんですけどね(笑)、
   映画ですと、どーーんなに待たされても、
   苦にならない、心地いいんです。


── その違いは?

笹野 なぜだろう、って僕もある時考えたらね。
   みんな職人なんですよね。
   プロフェッショナルでしょ。
   照明さんにしても、音声さんにしても。
   重たいマイクをカーッと持って、
   家帰ったら肩揉んでもらわないといけないだろうな
   と思うくらいがんばって、担いでいく。
   キャメラの人も、もろともせずに階段を
   駆け上っていく。
   あの、みんなで1つの作品を作り上げる
   パワーの中に身を置いているのって、
   これは快感ですよ。
   それ、見てるだけでも楽しくって。

   なんか母親の腕の中にいるみたいに、
   安心感があるんですよ、現場にいると。


   つづく。

笹野さんのお話のリズム感が、
すごく心地いいんです。
なんだかどこかで聴いた感じがする、このリズム。
なにかなあって思ったら、あの感じですよ。
「帝釈天で産湯を使い、姓は車、名は寅次郎。
人呼んで、フーテンの寅と発します。」

次回は、笹野さんの“心の師”の寅さん、
渥美清さんの想い出話をたっぷりと。
お楽しみに。


Special thanks to Takashi Sasano, gran papa
and Tomoko Hosokawa. All rights reserved.

Written by(福嶋真砂代)

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2006-12-13-WED

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