vol.137
- Sakaike no Shiawase 2 -
●家族ってなんだろう‥‥、
----『酒井家のしあわせ』その2
©「酒井家のしあわせ」フィルムパートナーズ
□友近さんに、脚本を読んでもらうのは
緊張しました。
呉美保監督の第2回です。
家族の話を「独特の笑いのリズム」で、
表現している、と前回書いたのですが、
その、「リズム」はどういうのかというと、
ドカンとくるところが、
予想している山の頂上じゃなくて、
しばらく降りたところでドンと来る、
みたいな微妙なテンポのズレを感じたのです。
つまり、観客をいい意味でハズしていると。
もしかしたらそれは、
私だけが感じたのかもしれないのですが、
そのタイミングの秘密を聞きたくて、
前回の家族の話から続いているわけです。
友近さんという個性派な芸人さんを、
主演女優として起用されたのも、
監督の独特の笑いのリズム感を、
友近さんの中に発見したからなのだろうと、
そのあたりも興味深いところでした。
もちろん、ユースケ・サンタマリアさんも
そうなんですが。
それから、最近気になるちょっとシビアな話や、
山崎まさよしさんの音楽のことも伺いました。
では呉監督どうぞよろしく〜。
── どこか、その、変な言い方ですけど、
テンポのズレた「笑い」を感じたんですが、
それは外からの影響というよりも、
やはり監督の中にある感覚っていう気がして、
日常の家族の会話ってどんな感じでしたか?
たとえば褒めるときは、ストレートじゃなくて
外してたとか。
呉 この映画の家族とは、まったく真逆なんです。
ウチではお父さんがまず第一だし、映画は、
ウチとは全然違う家族を描いているんですけど、
自分の家族でいうと、褒められた記憶はあんまり
なかった‥‥逆に、平気でパシパシでしたね。
女とか男とか関係なく。
── お父さんもお母さんも?
呉 そうですね。
── 厳しいですね。
呉 けっこう真剣な話ですけど、
たとえば、家を燃やしたりする子が
いるじゃないですか。
あれぐらいの気持ちって納得できるんです。
別に自分の家が教育一家だから
そうなったんじゃないんですけど。
親に対するものすごい憎しみみたいなのって
絶対持つ時期はあると思うんですよ。
理屈じゃなくてね。
それを乗り越えられるからこそ、
次にまた大事に思えるんだろうし、
私もほんとに(親が)いなくなってしまえば
いいのに、って思ったし。
それってもちろん、
思っちゃいけないことなんだけど、
誰もがきっと思うときがあるんです。
── わかります。
行動に移すか移さないかの違いですね。
呉 それは大きな違いですよね、そのラインは。
だからそういうものを伝えたいっていうのは、
ありますね。
── けっこう大事なことだと思うんです。
なんで行動に移すのだろうと考えると、
なにか「愛されていない感覚」とか、
どこかにいちばん大事な信頼関係が欠けてたり
するのではないかと。
呉 それを越えて、なにか、そんなことしちゃいけない
っていう親への、また別の分厚さがないといけない。
── そこが無い、というのが哀しい‥‥。
呉 でも、ともすればそういう物語に
なったかもしれない要素はあると思うんですよね。
だけどそうさせずに、むしろ逆に笑える、
でも泣ける、みたいなところへ持って行くのは、
その「さじ加減」はもう、
手探りでしかなかったです。
10人いたら10人の感想があるけど、
まずは「このさじ加減でどうですか」
みたいな感じです、今回は。
── 長男の次雄くんが、裏切られまくるんですね。
最後にも、信じてたのに‥‥みたいなとこがあって、
でも結果としてなんか丸くなるとことが、
監督の「信頼」とか基本的な気持ち、
「どうなろうが、家族は家族だ」
みたいなのが見えてきました。
呉 絶対切れないものってのを描きたかったから。
さっきも言ったように「切りたい」と
思うことはあると思うんですけど、
切れないし、切っちゃいけない。
それがたとえば、この映画で言ったら、
「まったく血のつながらない人」に対しても、
そういう感情は芽生えるものなんだ
っていうことを描きたかったんです。
── お父さんと次雄の関係ですね。
お父さんゲイで、みたいな展開は衝撃です。
ユースケさん、おもしろいですね。
呉 情けな〜いところがね(笑)。
©「酒井家のしあわせ」フィルムパートナーズ
── 話題の友近さんの起用ですけど、
脚本を“アテ書き”されてたって
どこかでおっしゃってましたが。
呉 そうですね。
決まってからも何回か直したっていうのも
もちろんありましたけど。
── お母さんの役は友近さんで行こうと
決めてらしたのですね。
呉 友近さんのネタは、
ほんとに天才的だと思うんですよ。
掴みどころが、私の琴線に触れまくるんです。
だから脚本を読んでもらうのは緊張しました。
── 相手もクリエイターですものね。
呉 そう。“ネタを見てもらう”じゃないですけど。
── 友近さんは、脚本を読んでどんなふうでしたか。
呉 「なんか、うん、わかる」って。
いろいろネタの話とかもしてくれましたし。
ってことは、一応、心は開いてくれてると
思ってますけど。
── ??
呉 友近さんは、ほかの芸人さんもそういう人多いと
聞くんですけど、人見知り、なんです。
最初、硬かったんですけど、
本当に時間をかけてわかり合えていく。
こちらが一生懸命接すると、応えてくれて、
だんだん開いてきてくれる、というのが、
日を追って感じてこれたので、
そういう作業は楽しかったです。
── セリフとか間とかは、相談しながら、ですか。
呉 私も、もうはっきり言わしてもらいましたね。
絶対違うと思っても、
「そうですね」って言っちゃうと
後で後悔すると思ったので、
とにかく、言うことは言おうと。
別に友近さんだけじゃなくて、
どの役者さんに対しても。
仁鶴師匠にも。
自分の中で違うものは違う、と言った上で、
向こうがどういうふうに出してきてくれるか、
というふうにやりました。
みなさん、ほんとに真摯に受け止めて下さって、
納得した上でやって下さいましたね。
ユースケさんもそうだし。
── 今回音楽は、テーマ曲もですけど、
山崎まさよしさんが担当してますね。
監督が希望されてたと伺ってますが。
呉 今回のユースケさん、友近さんの
醸し出す匂いって、どこか山崎さんに、
たぶん、似てると思うんです。
笑いの中の切なさ、ちょっと不器用というか、
山崎さんからも同じものをすごく感じるんです。
武骨な感じ‥‥メロディメーカーだし、
素晴らしい曲を書かれるんだけれども、
その中に素朴な部分が頑としてある、
それはその人本来のものだから。
最初、なんで山崎さんかというと、
もともとのタイトルが「よもやまブルース」
っていうのだったんです。
で、プロデューサーが「こんなタイトル売れない」
って言うんで、これになって、いや、よかった
っていう話なんですけど。
で、ブルースってちょっと悲しい歌っていう
意味合いがあって、その切なさ、悲しみ、
みたいなのをメロディにつけたいなと思ったんです。
じつはロードムービーにしたいなって
思ってたんです。
実際、ロードムービーじゃないけど、
次雄の「心のロードムービー」‥‥クサいな(笑)。
ま、それをなぞってるというか、
一緒に探ってくれた人が山崎さんなんです。
── ブルースの人ですものね。
呉 最後の曲とか、いい意味で
裏切ってもらったんです。
自分が思ってたのより、明るいラテンの、
ノリノリの曲で来てくれたから、
それ、すごくうれしくて。
途中、切ない音楽とかも入ってるんだけど、
楽器を多用して、登場人物の数が楽器の数で。
ほとんどお任せしてやってました。
おわり。
いいんですよ、ラストテーマもいいですし、
途中のブルースハーブとか、マンドリン、
アコーディオン‥‥、笑って泣かせます。
山崎さんの音楽も含めて、
必見、必聴! なのなのです。
では、次回は『ダーウィンの悪夢』話で
盛り上がり(下がるかな、怖いし)ましょう。
★『酒井家のしあわせ』
Special thanks to director Mipo O and Lem.
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Written by(福嶋真砂代) |