OL
ご近所のOLさんは、
先端に腰掛けていた。

vol.139
- Paris Je T'aime 1 -


ガイドブックに載ってないパリ案内
──『パリ、ジュテーム』その1



©Frederique BARRAJA / Victoires International 2006
2007年3月3日よりシャンテ シネ、恵比寿ガーデンシネマ、
新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー


ずっと以前、2週間ほど、
パリの安アパートホテルに滞在して、
ひとりブラブラ、パリの街を歩き回っていました。
まるで住んでいる人のように、
パリを歩いてみたいと思って。
カフェに日がな座ってぼーっとしたり、
バケットやパテを買い込んで“生活”してみました。
もちろん、疑似体験だけど、
めちゃくちゃしあわせでした。
路地裏をめぐり、猫と遊んだり、
ご近所の人と話したり。
古い街や、新しい街、移民の街、
観光客としてではなくて、住んでみてわかる、
私しか知らない「モンプチパリ」を探しました。

結局は、異邦人であることを噛み締めるのですが、
そんなちょっとメランコリーな時間も、
パリの憂鬱、っていう感じでいいんですよね。

そして2007年、
むぎゅーっと抱きしめたくなるような、
本当にParis, Je T'aimeな映画の
気取らない素顔のパリに涙が溢れました。
あ、あのときのパリだ、と‥‥。

この『パリ、ジュテーム』という映画は、
18人の映画監督が撮った、1本5分間、
18本のショートムービーオムニバスです。
世界中から集まった監督たちが、
パリへの熱い想いをこめて、
パリの1区から20区までで撮影した作品です。
たった5分間だけど、宝石のように輝く世界。
ショートムービーの醍醐味が贅沢に味わえます。

その監督陣は、もう、
ヨダレが出そうなくらいの豪華さ!
『ハリーポッターとアズカバンの囚人』の
アルフォンソ・キュアロン監督はじめ、
もうすぐ『パフューム ある人殺しの物語」が
公開される『ラン ローラ ラン』の
トム・ティクヴァ監督、
『恋する惑星』『天使の涙』の撮影監督の
クリストファー・ドイル監督、
『セントラル・ステーション』の
ウォルター・サレス監督。
ほかにもコーエン兄弟、ガス・ヴァン・サント、
オリヴィエ・アサアスなどなどの面々‥‥。

キャストもすごい!
脚本でも参加しているジーナ・ローランズと
共演のベン・ギャザラ。
ナタリー・ポートマン、イライジャ・ウッド、
スティーブ・ブシェミ、マリアンヌ・フェイスフル‥‥。
聞いただけで、震えがくるようなメンバーが、
次から次へと印象深く出てきます。

□諏訪敦彦(すわのぶひろ)監督

このすごいメンバーの中で、
日本からただ一人、脚本・監督で参加した、
諏訪敦彦監督にお話をうかがいました。

諏訪さんの作品『2/デュオ』『H story』
『M/OTHER』に、ある衝撃を受けました。
台本がほとんど無い、と言われていて、
独創的な、即興を多用する演出法、
現場の、奇跡のように生まれる瞬間の空気を
そのまま映し出す圧倒的な臨場感や緊張感に、
戸惑いながらも不思議に惹き込まれていきます。

さて、そんな諏訪マジックは、
どうやって生まれるのか‥‥。
今回は、パリ2区を舞台に、
ジュリエット・ビノシュ演じる母親が、
死んでしまった息子を想い哀しみに暮れ、
そこにウィレム・デフォーのカウボーイが、
馬に乗って現れ、母をある場所へと誘う、
というアンデルセン童話を下敷きにした、
ファンタジックなストーリー。
「むむむ、いつもの諏訪さんっぽくない」
っていう新鮮な驚きもあり、
しっとり雨に濡れるビノシュの背中が
やっぱりどうしようもなく美しい‥‥。
味わい深い濃厚な5分間に酔いしれます。

少しだけ、今回の映画の作り方や、
諏訪監督がこそっと教える、
『パリ、ジュテーム』お宝裏話も伺いました。
プチ連載でお届けします。



□映画は求めるものでなく、
 向こうから来るものを待つ‥‥。


── じつは、東京フィルメックスの
   トークショーにおじゃましました。

   (2006/11/26、有楽町ホール、
      ゲストは諏訪監督、西島秀俊さん、チェン・シャンチーさん)


諏訪 あれは、場つなぎで‥‥(笑)。

── あのときの話で印象に残っているのは、
   「ホウ・シャオシェン監督の台本には、
   何も書かれていなくて、
   『ジュリエット・ビノシュが、ここで素敵な
   ことをする』って書いてあって、撮ってる」と、
   諏訪さんがおっしゃっていたことです。
   本当にそうなんですね‥‥。


諏訪 そのとき、僕がパリに別の用事で行っていて、
   ジュリエットが「いま撮影中だから、
   見学においでよ」って言ってくれて、
   見に行ったんです。

   ホウ監督にお会いしたりして、
   現場を見てたんですけど、
   中国のスタッフがけっこう来てましたね。
   で、台本が置いてあったんです。
   「どんな台本なんだろ」って見たら、
   中国語だから読めないんですけど、
   やっぱり10ページぐらいしかないんですよ。
   僕の台本と見た目がすごく似てるんです。

   あ〜そうだよね、これでいいんだよねって、
   すごく安心して、勇気づけられたというか(笑)。


── はい(笑)。

諏訪 でもプロデューサーにとっては、
   厳しいことなんですよ。
   ジュリエット・ビノシュが主演で、
   ホウ・シャオシェンが監督でっていう
   プロジェクトでも、やっぱり台本が薄いと
   とても大変なんだと。
   制作が大変というよりは、
   お金を集めてくるのが大変。

   ホウ監督に伺ったときも、
   「私の撮影はこんな感じなんだよ、
    ぜんぶ自由なんだ」って。
   「僕もこういう風にやりたいんだ、
    でも問題なのはお金を集めることですよね」
   って言ったら「アハハ、そうだ」って
   顔してるんですよね。


── ホウ監督には、いま日本からの応援も
   けっこうありますね。


諏訪 日本はいいと思うんですよね。
   やっぱりヨーロッパとかは、
   かなり台本重視というか、
   ジャック・リヴェットでも落ちますから、
   台本が不備だって言われて。


── そんな厳しい状況の中で、
   台本無く映画を撮るということは大変ですね。


諏訪 ただ、ヨーロッパから見ると、
   ホウ・シャオシェン、ウォン・カーウァイ、
   ツァイ・ミン・リャンとかもそうですが、
   「アジアの監督って脚本書かないの?」って
   思われてるかもしれない。
   アジアでも多いわけじゃないんだけどね。
   でも、そう言われてみれば、
   アジア的なところもあるかもしれない。

   「モノゴトは、自然に生成していくもの」
   っていう「成るようになって行くんだ」的な
   感じのものはあるかもしれない。

   ホウ監督がそんなこと言ってましたね。
   「映画は、求めるものではなく、
    向こうからやってくるのを待ちなさい」
   みたいなことを。


── 諏訪監督の『2/デュオ』とか『H story』とかも、
   “来る”のを待ってるんですけど、
   女優さんにとってもなかなか難しい‥‥。
   その場面すらも映してしまうという、
   どこまでがフィクションで、
   どこからがノンフィクションなのか、
   観てる方には見分けがつかない
   ‥‥ところもおもしろいんですよね。


諏訪 そう。『H story』でよく訊かれるのは、
   ほんとにベアトリス(ダル)とうまく行かなくて、
   『二十四時間の情事(Hiroshima Mon Amour)』
   をリメイクしたかったけど、できなかったから、
   ああいう映画になったんですか、と。
   いや、全然、そういうことでは無かったんですけど。
   ほんとに喧嘩したんじゃないかって言われたけど、
   ベアトリスとはすごく仲良かったし(笑)。


── あれは町田(康)さんを出すための
   仕掛けだったのでしょうか。


諏訪 いや、町田さんは先に決まってたんです。
   町田さんも町田さんでなかなか難しくて‥‥。


── ほう‥‥。
   聞きたいことはいっぱいあるのですが、
   そろそろ『パリ、ジュテーム』のお話を伺います。

   そういう、諏訪さんの作りの作品を
   観てきた者にとって、
   今回、少しびっくりしたのは、
   ショートストーリーということもあるのですが、
   その中で、見せ場がガンとあるという感じで、
   圧倒的なシーンとか、作り込んであるシーンとか、
   イメージが諏訪さんとは違う気もふとしたんです。
   思いつかれたのは、アンデルセン童話からとか‥‥?


諏訪 そう。ちょうどこの映画を考えていた時期が、
   2002年だったんですけど、
   僕が撮った「2区」というのは、
   プロデューサーから提案されたんです。


   つづく。

おっと、ここから『パリ、ジュテーム』の話が
ちょうど始まるところで「つづく」で、すみません。

現在、東京造形大学助教授でいらっしゃる
諏訪敦彦監督ですが、
いつも静かなフランス哲学者のような佇まいで、
穏やかに語ってくれる諏訪先生の“授業”は、
ここからがまたおもしろいんです!

ウィレム・デフォーの前に
キャスティングを考えていたのは、
なんとあの人‥‥?

ではお楽しみに。

『パリ、ジュテーム』


Special thanks to director Nobuhiro Suwa and
TOHOTOWA. All rights reserved.
Written by(福嶋真砂代)

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2007-02-27-TUE

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