vol.143
- Life can be so wonderful 2-
●忘れかけてたあの感触、この気持ち‥‥
──『世界はときどき美しい』その2
© 2006「世界はときどき美しい」製作委員会
『世界はときどき美しい』のお話。
略して『セカトキ』第2回は、
"セカトキができるまで”の「後編」です。
この記事を書くにあたり、西さんや御法川監督と
メールのやりとりをしているなかで、
よく「映画の持つ不思議な魔力」というか、
作品を通してさまざまな不思議な出逢いに驚く
という話を交わしていました。
そんな感激と感謝を日々噛み締めている
お二人(+私)なのでした。
こうして、御法川さんと西さんの出逢いが、
こんなに素敵な作品を産み落とすことになるのですから、
映画の神様は、なんか粋だなあ〜。
なんといっても「ピンチが無ければ、チャンスは来ない」
なんだな‥‥、ふーむ、がんばろ。
さて、「ショートムービー」を作ってほしいという
またとないオファーをもらった御法川 修監督。
「ちゃんとしたものを作ろう」と勝負に出ました。
しかし、襲ってきた「納品拒否」という厳しい宣告。
そこへシュワッチと現れた西 健二郎プロデューサー。
(ウルトラマン‥‥?)
ではつづきをお聞き下さい。
御法川さん、ピーンチ、でどうなったか‥‥。
どんな覚悟をしたのでしょう。
□その代わり、僕は一歩も引くまいと‥‥。
御法川 とにかく、出来上がったときに、
これはオンエアできないねって
言われちゃったんです。
─── 何かが合わなかったってことなんですね。
ほかの作品と一緒に放映をする際に‥‥。
御法川 すごく気負ってしまったので。
たとえばショートムービーって、見てると、
最後に用意されたオチに向かっていくでしょ。
─── そんなのもありますよね。
御法川 だけど、そうでなくても、
短い尺の中でしかできない
映画の語り口を探りたいじゃないですか。
全編モノローグで、
ストーリーテリングじゃなく
画面と言葉がリンクしながら、でも、
ストーリーを流すための場面展開じゃなく、
写真集をめくっていくように、
つながっていったりする。
こういうのもショートムービーの語り口として
あり得るんじゃないかと、
一生懸命考えて作ったので‥‥。
─── 新しい提案ですよね。
御法川 プレゼンも、いまよりさらに下手だったし、
出来上がったものも‥‥。
いまも商業的には厳しい評価もあって、
それはあまり変わらないけど、
でも結果として残っちゃったんですね、丸ごと。
自分たちもそこにやっぱりかかったお金が
ありますし。
─── おぉ〜っ、ピンチです。
御法川 それで結果として、僕はそれを抱え、
松田美由紀さんも出演したり、
スタッフも錚々たる顔ぶれだし、
自主映画とはもう言えないくらいのね。
でもとにかく出来てしまったので、
これをもうちょっとちゃんと膨らまして
いきたいなと思ってました。
でもそのときは、これを自分のデビュー作として
というところまでの心構えは
正直言って無かったんです。
そこへ西さんが入ってくれて、
これをひとつの商品として作っていくという
枠組みが見えてきたときに、
自分の中で覚悟が出来たところはあります。
たとえば「オムニバスで撮る」ということも、
商業映画としてはハンデになる部分が
絶対あるだろうと。
それは西さんと企画の段階で、
沢山やりとりしているなかで出ていたんですが、
そういうのももちろん、自分はわかった上で、
これは自分の“劇場デビュー作”という
枠組みでやるんだと覚悟を決めました。
それはやはり、西さんがプロデューサーとして
入ってくれて、準備が始まった頃からです。
─── プロデューサーとして入るというのは、
マーケットで競争できるものを作ろうと
段取りをすることですよね。
で、御法川さんは勝負の覚悟をなさったと。
御法川 僕はその代わり、一歩もひくまいと。
これも自分の中でやりながら
固めたことなんですけど、
つまり、西さんはビデオメーカーの
プロデューサーだから、
これを劇場でかけた後のDVDのセールスによる、
回収、つまり「リクープ」までを、
当然きちんと、
僕にはわからないところで計算をした上で、
予算も設定しているんですよね。
西さんが事業構造として枠組みを
固めてくれるから、
もちろんさらに商業的に寄り添っていければ
いいのでしょうけど。
西さんも映画少年がそのままオトナに
なったような人なので(笑)、
そういう方とご一緒できるんだったら、
エンタテインメントの語り口と違うものに
なってしまうけれど、
とにかくやろうと思うことは必ず、
西さんに、1つ1つ、現場においても、
どういう試みをしようとしているかということを、
極力事後報告じゃなく、その都度、
報告していこうというスタンスで、
ここまで一緒にやってきたんです。
結果こういうものが出来て、西さんが、
商品としてこれから売っていくという面では、
いろいろ苦労があると僕は知っていますが‥‥。
─── この作品を観て感じるのは、
ひじょうに“異質”な感じの映画だな、と。
いま上映しているどの映画とも違う、
オリジナリティの高さでハッとする映画です。
観たことの無い“映像詩”という世界に、
「なんだこれは」というドキドキがあるので、
心にひっかかるんです。
“世界はドキドキ美しい”(笑)。
© 2006「世界はときどき美しい」製作委員会
□これは実験ではなく、僕はその先が見たいんです。
御法川 僕がいちばん心配しているのは、
これが実験に終らないようにということです。
たとえば、映画のなかだけに閉じてしまうと、
おしゃれなアート系の作品で終わってしまうけど、
その先が僕は見たいんです。
映画のダイナミズムみたいなのを。
語り口は特殊かもしれないけど、
なにか映画監督が自意識高めちゃって、
自分の世界を展開してるっていうところに
収まらないようにしたいなと思ってました。
スタッフも、自分の同世代で固めないように
しようと、自分が言葉を尽くして説明しないと
作業が進まないような方々を選んで。
─── つまり、ベテランの方々ですね。
御法川 僕がいちばん年下だったわけです。
そのぐらいしのぎを削っていかないと
いけないと思うんです、作業っていうのは。
─── 厳しい環境の中に自分を置く、と。
御法川 それがおもしろいんですよ。
キャストも、この予算規模に見合った人、
っていうのじゃなくて、
劇中で描かれる日常のトーンやテンションを
すくっと立ち上げてくれる人が、
画面の中で日常を送ってくれないとね。
僕たちの鏡になるわけですから。
─── そう! 映像の中にはやっぱり
ハッとするくらいの人がいてほしい。
御法川 そういう想いで、このメインの5人は、
自分たちの第一希望をつらぬいて、
ひとりひとり西さんと
お会いして口説いていった方々だから。
─── 美由紀さん、龍平さん、柄本明さん、
市川実日子さんと、
片山 瞳さんは新人の方ですね。
美由紀さんと龍平さんが、
親子で、共演はしていないけど
「同じ映画に出てる」というのは、
東京国際映画祭のときも、
振り向かせるものありましたよね。
龍平さんは、ドキュメンタリーのころから
ご存じだったのですか?
御法川 そうですね。
きっと美由紀さんも気にするだろうし、
龍平さんもこういう枠組みに収まっちゃうと、
僕らがいくらガードしても、そういうふうに
露出されちゃうだろうから、
マズイかなというのがあったけれど、
逆に、それはレベルの低い心配でしたね。
ご一緒してみたら、当然ですけど、
自立したお2人で、それに、
俳優として別々に確立してる方たちですから。
変な神経をこちらで遣う必要はなかったです。
そのことで結果的に随分救われてるし。
─── いい存在感ですね。
独特の強さを感じます。
© 2006「世界はときどき美しい」製作委員会
御法川 すごくいいですよ、松田龍平!
ちょうど西さんも『長州ファイブ』観てきて。
─── 私も観ました。よかったですね〜。
御法川 第2シーズンが始まったような気がしますね。
─── 出始めのころの妖艶な少年美から脱却して、
自分本来のやんちゃな部分とか、
手のつけられない部分も、
そのまま魅せてくれてる気がします。
『プルコギ』っていう焼肉ムービーもありますが、
それもやんちゃでいつもと違うんです。
こんな人だったのか、なんて驚きます。
『世界はときどき美しい』の龍平さんの
普段の感じの柔らかい表情も素敵ですし。
□埋められない“穴ぼこ”がある‥‥
御法川 俳優って本当にすごいなと思うんですが、
彼のなかに、ある埋められない“穴ぼこ”が、
‥‥僕にも小さいのがあるんですけど(笑)、
彼のは大きくて、とても埋められないくらいの
穴ぼこが、こう、あるんですね。
もう、“闇”みたいなもんですよ。
松田優作さんの存在が大きすぎて
色眼鏡で見られるふしが
まだあるんでしょうけど、
そのこととはまったく関係なく、
映画俳優でしかありえない光と闇を
生まれ持っちゃってるんですよね。
だから、被写体としての魅力だけじゃなくて、
こういうふうに演者になっていかないと。
仮の役を演じることでかろうじて、
その瞬間を保てる何かがあるんですね。
うまく言えないですけど、
この間観た『バベル』の菊池凛子さんにも、
その闇みたいなのを感じました。
彼女が評価されてるのがわかりますよね。
─── うん、うん、すごくわかります。
つづく。
そうそう「市川実日子さんのキャスティングは?」
とその理由を聞くと、
監督と西プロデューサーは
「僕らファンなんです!」と仲良く合唱。
そうなんだ〜(笑)。
『ダメジン』もここで取り上げましたけど、
可憐な雰囲気と存在感が私もとても好きです。
ファンなんですね、ふふふ。
大事だと思います、そういう気持ちは。
次回はいよいよ制作のことを。
まず龍平さんとの函館のロケから始まり、
御法川監督、ちょっと緊張した模様ですが‥‥。
それから、この映画のひとつの特徴として、
全編8ミリカメラで撮影していることがあります。
だからこそ感じられるパーソナルで親密な風景。
そこに込められた監督の想いも興味深いです。
いまは東京だけの上映なのですが、
ご覧になった方のご感想をお待ちしてます。
★『世界はときどき美しい』
まだまだつづきます。
Special thanks to director Osamu Minorikawa and
producer Kenjiro Nishi. All rights reserved.
Written by(福嶋真砂代)
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