vol.144
- Life can be so wonderful 3-
●忘れかけてたあの感触、この気持ち‥‥
──『世界はときどき美しい』その3
© 2006「世界はときどき美しい」製作委員会
『世界はときどき美しい』の
御法川 修監督&西 健二郎プロデューサー、
とうとう最終回になりました。
歌劇『ルサルカ』のアリア、
『月に寄せる歌』を唱う
鈴木慶江さんの荘厳な歌声で終りを告げるまで、
御法川監督の研ぎ澄まされた感覚が
行き渡っている『セカトキ』なのです。
エンドクレジットが流れ終るまで、
こだわってこだわって作られていますので、
どうか耳と目を凝らしてみてください。
御法川監督の鋭いカンで、
アンテナにひっかかった人々を巻き込んでいくエネルギー。
そしてそれを実現させる西プロデューサーとの
息の合ったコンビネーションが素晴らしい!!
私の印象では、
「毛細血管の隅々にフレッシュな血が行き届く」
映画だなあと。それゆえに、観ているうちに、
身体の中に新しい細胞が次々生まれるような、
そんな感覚がするんだろうなあと思います。
まさに“若返り”の映画かも‥‥!
1つのストーリーにつき約3日間の撮影。
理想的なチームで挑んだ分、ハードルも高い。
松田龍平さんの函館ロケからスタートした
撮影のお話を聞きましょう。
□その方には、ほんとに恋しているように‥‥
御法川 エピソード1本に対して、
キャストの拘束は3日間でした。
厳しいところからインしようと思って、
いちばん最初は龍平さんの函館ロケから
始まったんです。
─── 龍平さん、厳しい‥‥んですか。
御法川 やっぱり、ハードル高いじゃないですか。
僕はどっちかというと、
(年齢の)上の方のほうが、
自分をあずけられて、
変な遠慮をせずに向っていけるんです。
きっと龍平さんのほうは、
僕が年齢的には上なんで、
いろいろ立ててくれるんだけど、
感覚的には彼の方が数段上です。
だから、その“差”が嬉しくもあり厳しくもありで。
ボキャブラリーも、言い回しも、
観てきた物も、日常触れているものも、
何がおもしろいかと思う“差”も、
龍平さんから刺激されたことは多かったですよ。
─── ふーん、そうなんだ‥‥。
御法川 そこで、こう、探り合うみたいな‥‥。
─── へえ‥‥、そ−か。
御法川 だから「ハードルの高いところから」
というので、龍平さんの函館から始まって。
で、帰ってきて、第2ラウンドが、
柄本 明さんの大阪ロケで、
柄本さんには心置きなくあまえさせてもらって、
最後は市川実日子さんの美意識に染まる、
というね。どれも緊張したな(笑)。
─── 市川さんは東京ロケですか。
御法川 そうです。
その間に、片山 瞳さんとは、
新人女優と新人監督の“新人”同士で、
時間をかけて撮影を進めていったわけです。
© 2006「世界はときどき美しい」製作委員会
─── 片山さんとは、どういう出逢いだったんですか?
モデルをなさっていたと‥‥。
御法川 僕のアイディアストックがいっぱいあるんですが、
そのなかから、7年前の『流行通信』にあった
沢渡 朔さんが撮った片山さんの写真を
心に留めていて。
それをイメージキャストとして提案したんです。
西 まだそのときは芝居ができるかどうか、
なにもわからなかったんですけど、
とにかく監督が写真を持ってきて。
言わんとするイメージはよく分ったんで、
キャスティング担当が探し出したんです。
監督の触覚が凄いなと思うのは、
スチル写真を撮ってくれた大橋愛さんも、
監督が、全然面識も無いのに、
ある写真集を僕に見せて
「西さん、この人、いいと思うんだよ」って。
どんな人かわからないので、
とにかくお会いしてみよう、と‥‥。
そうやって出会う人みんな力になって
くれましたね。
─── 監督自身の作品ですから、
すべて分かってるというか、
誰がいいとか、こんな感じの人とか、
やってもらいたい人がいるんですね。
それは固有名詞じゃなくても‥‥?
御法川 いや、固有名詞なんですよ。
代わりは効かないんです。
─── その人しかいないんだ‥‥。
御法川 西さんに確認をして、
西さんが乗ってくれたら動くという段取りなので、
全部、西さんは承知しているわけです。
今後活かしていきたいと思ったのは、
「会いたい」と思って、本人と会う前に、
今回の福嶋さんもそうですけど、
書いたものとか、撮ったものとかを拝見していて、
そこに自分が「好き」っていう
尊敬の気持ちが動いたときには、
絶対間違いが無いってことですよね。
何度か駆け引きめいたことを
僕がやろうとしたときには、
ほぼ、ダメでした。
西 そうそう(うなずく)。
─── そういうこともあったんですか。
御法川 少し、“大人として”振る舞おうなんて、
できもしないことを考えてしたこととか。
─── 無難に‥‥。
御法川 普通にいこうとか‥‥。
だけど、全部ダメ。
つねに当たり前を超えていかないと!
西 うん(うなずく)。
─── いつも作品を作るときは、
アンテナを張り巡らして、
ココにはこの人とか、描いているんですか?
御法川 作品づくりには限らないけど、
こういう方とご一緒してみたいとか、
こういう人の力を借りて、
こんなことをしてみたいとか、
そういうストックは沢山ありますね。
たとえば、全部が映画を作ることに
繋がらなくても、こんなおもしろいことを
している人ってどんな人かなあって、
素朴に思ってて。
─── 会いたくなるんですね。
私も同じです。
いてもたってもいられない(笑)。
御法川 それだけですよね。
─── 一緒に仕事が出来たら、ますますよいし、
それが今回、実現したわけですね。
御法川 だから原動力は、自分がまず興味を持って、
その人にアプローチしてるから、
おもしろいんですね。
気持ちとしては、まず嫌われたくない(笑)。
プロデューサーに対しても、
まず“西さん”という個人に、
もちろん会社の力があることをわきまえた上で、
実行するのはやはり個人ですから、
個人と個人が出会うことで、
何かモノゴトが動き出すわけですから。
その方には、ほんとに恋しているように、
嫌われたくないっていう素朴な気持ちが働くと、
どういうふうにその人に好かれようかとか、
素朴なやりとりになるんですよ。
喜んでくれるようになんとかしたいと
思ったりするわけで、
それが仕事の上でも、普通に成立するんです。
段取りとして「場」があるから、
何かをするんじゃなくて、
こういうふうに用意されたら
(相手は)気分いいかなっていう発想で動くと、
うまく噛み合うんですね。
─── 凄いですね‥‥。
私に対しても、監督は、
ご自身の作品のDVDをすぐに送って下さり、
すごく感動していたのですけれども。
西さんが、いままで一緒に仕事をなさった監督たち
とは、御法川監督は違いますか?
西 いろんな意味でやっぱり違いますよね。本当に。
─── こんなつきあい方は‥‥。
西 一本作るまでに、すごく長い時間をかけたのは
ありますけど、こういうつきあいは無いですよね。
御法川さんをなんとなく知ってる方とかいらして、
一緒に仕事をしてると言うと、
「御法川さんとやるのは大変じゃないの?」
と言う人はいるんですよ。
何をもって大変かというのはありますけど。
基本的にきちんと時間を取って、
人と接しなきゃいけないというのを
大変だというなら、大変ですけど。
それは、人と人との基本的なことなので、
それが大変なのかなあ(大変じゃない)、
とは、思いますけど。
でも、とてもモノゴトを考えて、
いろいろな提案をしてくれるとおもしろいし、
僕もうまく乗せられていくというか、
そういうところはありますね。
何が普通かわかりませんが、
監督は、すべて自分がみていきたいという
ところはある方なので、
今回は、ポスター1枚作るにしても、
いろんなことがあったんですけど(笑)。
それを苦労と思うかどうかというところですよね。
御法川 (苦笑)
─── 西さんは楽しんでやられてた‥‥。
西 大変なこともありましたけど、いろいろ。
でも、いまのところは楽しんでますね。
御法川 僕はいつもこだわらせてもらうんですけど、
僕の趣味を通したいわけじゃないんです。
慎重になるのは、
ちゃんと伝わるのかってことです。
僕を離れ、西さんを離れ、
一本の映画を伝達する大事なツールになるものが、
ポスターだったりパンフレットだったりします。
そこの責任はちゃんと取りたい。
商業的な判断も考え合わせなければいけないから、
西さんは調整するのが
大変だったでしょうね(笑)。
□マッサージじゃないんで(笑)。
─── そうですよね、血がほんとに
毛細血管の隅々に届く感じがします。
お話を聞いてて、なおさら作品の包容感がわかる
感じがしてきます。
御法川 僕は、これは癒しの映画では絶対無い
つもりなんです。
マッサージじゃないんで(笑)。
気持ちよければいいわけじゃなくて、
強く生きる眼差しを取り戻すことが「癒し」
なので、そこに向ってみたいという気持ちは、
100%あるんですけど。
こんな感じが気持ちいいでしょとか、
きれいでしょ、というところによりかかった
つもりは全然無いんです。
─── 画面の質感のざらつきとか、
簡単に“キレイ”とは言えない、
もっと内面を感じることができる、
8ミリカメラの使い方が印象的でした。
御法川 8ミリフィルムを使ったのも実験じゃないんです。
映像的実験として8ミリを選択したのじゃなくて、
提示された予算から逆算したら、
デジタルビデオで撮ることになるんです。
でも、それは当たり前の判断です。
僕はフィルムを過信しているわけじゃないけど、
自分たちが語ろうとしている物語を、
どんなメディアに記録するかということは、
僕たちで選びたい、というのはありましたね。
たとえば、この予算規模だったらビデオだよな、
という時点で、発想が止まってるんです。
それが言い訳にすり替わって、
撮影現場を貧しくしている部分てあるんで。
今回はさすがに35ミリで撮影するのは、
不可能なことくらい分ってます。
だからってビデオに落とし込むのは嫌だなと。
僕らの作品独自の語り口と画面を
どんなものにしようかと最初から考え直して、
経済効率も含めて、35ミリでも16ミリでもなく、
アマチュア仕様の8ミリというのはあり得ないか、
と議論したわけです。
8ミリフィルムを選択するという
冒険に挑むと決めた時点で、
機材の調達も現像のことも、
ひとつひとつ新しい制作環境を
整えなければならなくなるんだけども、
スタッフはルーチンの仕事ばかりで
ふだん力を持て余しているから
本当に意欲的に取り組んでくれました。
監督ひとりの自意識とか世界に固執して
成立できたことじゃないんです。
おわり。
最後に監督は
「僕は、何かを生活のなかに
生かせる要素がある映画が好きなので、
この映画が、観た人の生活のなかに、
ちゃんと生かされる要素をもってくれると
うれしいです。」
西プロデューサーは、
「朝起きたときに、朝日がきれいだなとか、
夕陽を見ていいなとか、ふとしたことに
気づける映画です。僕もこの映画を観て、
この世界もまんざらじゃないなと思ったりするので、
ぜひ、観てください。」
と、メッセージをくださいました。
ユーロスペースの2日目の舞台挨拶に
伺ったのですが、
松田龍平さん、浅見れいなさん、監督が舞台に上がり、
それぞれ感激を、観客のみなさんとシェアしていました。
私にもその気持ちが流れてきて、胸が熱く‥‥。
立ち見も完売してしまう大盛況。
なんだか感無量です〜。
そして名古屋、大阪、広島、宮城と
上映館がどんどん拡大しています!
どうか、みなさんも劇場で
『セカトキ』の空気を吸ってきてくださいね。
次回は、石垣島の映画『恋しくて』の
中江裕司監督がナイスに登場します!
お楽しみに。
© 2006「世界はときどき美しい」製作委員会
★『世界はときどき美しい』
Special thanks to director Osamu Minorikawa and
producer Kenjiro Nishi. All rights reserved.
Written by(福嶋真砂代)
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