OL
ご近所のOLさんは、
先端に腰掛けていた。

vol.148
- SUNSHINE 2-


太陽が消滅する可能性は‥‥?
──『サンシャイン 2057』その2


   
  © 2007 Twentieth Century Fox.
    4/14〜有楽町スバル座、他全国ロードショー
    (左はクリス・エヴァンス、右がキリアン・マーフィ)


アイルランドが生んだ神秘的な俳優、
キリアン・マーフィさんの第2回です。

『サンシャイン 2057』は、
50年後に太陽が消滅してしまうという設定で、
それをなんとか阻止するために、
精鋭部隊8人が宇宙船に乗り込み、
太陽に接近して行くという、
それはそれは壮大なSFなのですが、
もう、スリラーとかホラーと言いたくなるほど
恐くて、ビクビク息を詰めて観ている間に、
3回は確実に座席からジャンプ(驚いて)‥‥!!

そのほとんどがセットで撮影されたもので、
精密な宇宙船内部の描き方や、
リアリティ高いコンピューターグラフィック、
サウンドやヴィジュアルエフェクトが凄くて、
“太陽と闘う”というまったくリアルじゃない話なのに、
ものすごいリアルな体験をしている感覚が起きました。
いまだに目をつぶると宇宙船内部がありありと
目の前に広がり、まるでそこで生活している
みたいな気さえするのです。

ダニー・ボイル監督が、
『28日後...』(2002)の脚本の
アレックス・ガーランドと再びタッグを組んで、
NASAや、前回話に出てきたCERNの
ブライアン・コックス博士の協力を得て、
長く綿密なリサーチを重ねた上、
堂々たる国際的なトップスターたちにも、
学生寮で2週間の合宿を求めるという、
周到な演出の成果が、びっくりするほど
完成度の高さになって現れているんですね。

おそらく監督自身がコックス博士のような
科学者タイプの人ではないかと思ったりします。

また、キリアンさんや真田さん、ほかの乗組員も、
宇宙服を着て活動するシーンがあって、
宇宙服+“ヘルメットカム(カメラ)”を着用し、
さらに夏場に撮影したということで、
重くてちょっとの動きだけでも汗だくだくに。
映像に映っている汗は全部ホンモノだそうです。


記者会見で披露された宇宙服

さて、そんなボイル監督をキリアンさんは
どう思っているのでしょうか。
2度目の仕事はどうだったのでしょう。
どうぞお楽しみ下さい。

□僕たちはみんなスターダスト‥‥。

──── ダニー・ボイル監督とは、
     『28日後...』に続いて2度目ですね。
     私はじつは『トレインスポッティング』を
     何度も何度も観て、音楽も聴きまくり、
     まあ、いわゆるフリークみたいなもので(笑)、
     監督がどんなふうに映画を作っていくのか、
     とても興味があるんです。


キリアン 『トレインスポッティング』や
     『28日後...』を観るとわかると思うけど、
     それにこの作品もそうなんだけど、
     彼はメカニクスにすごい興味があるんですね。
     それと、ある人間のグループが、
     プレッシャーに対してどういう影響を受けるのか
     ということに興味があるんです。

     彼は100%を俳優に要求してきます。
     つまり、完全にコミットしないといけないし、
     それはもちろん肉体的にも感情的にもね。
     だからこそ、彼の映画は、
     驚くべきものに仕上がるんだと思います。

     それに、彼はとても変わってると思うんです。
     1ヵ月のリハーサルをすることだって、
     こういう映画の準備するために、
     すごく特別な時間のかけかただと思うしね。
     とりわけ、多くの俳優が一緒に住むなんて、
     絶対、普通じゃないです。
     でも僕はそういうやり方が大好きなんです。
     もうそこにどっぷり浸かって(dive in)、
     出来る限りのことをすべてやろうと。
     もちろんダニーも力いっぱいやるし、
     彼は見たところ、ほんとに限界を知らない
     エネルギッシュな人です。


──── 監督のインタビューも、
     映画の公式ホームページ(本国の)で
     見たんですが、じつにエネルギッシュです!


キリアン うーむ、それが伝染するんだよね‥‥。

     
     エネルギッシュなダニー・ボイル監督

──── 監督は研究者タイプですね、きっと。

キリアン この映画を作るために、
     プリプロダクションから撮影まで、
     彼の人生の中で3年間も費やしているし。
     で、ポストプロダクションと
     プロモーションに1年です。
     僕たち俳優は、撮影に4ヵ月と、
     あとはプロモーションだけのことだけど。
     ダニーは映画と僕たちにすべてを捧げてたし、
     それだけのものが出来上がってると思います。


──── はい。
     それと、だいたいセット撮影のはずですが、
     リアリティの高さにもうびっくりしました。
     もちろん宇宙船内部の装置とか、
     メカセットのリアルさもあるんですが、
     俳優の演技が、たぶんブルーバックで
     演じてるだろうなと推測してたりするけど、
     でもCGやVFXとかが合成されて
     映像になったとき、
     もの凄いリアリティで迫ってきて恐かったです。


キリアン うん、僕だって観てびっくりしたよ(笑)。
     ダニーはありとあらゆる工夫をして、
     僕たちがブルースクリーンの前で演技することは
     決して無いようになってたんです。
     たとえば、初めてマーキュリーと出逢う
     シーンがあって、そのときは、
     大きな壁みたいな、金と銀みたいな
     材質のカーテンがあったりして、
     そこに相当量のライトを当てて、
     それに向って僕たちが演技するとか。
     ほんとに何も無いのに演技することが
     無いように、彼はすごい尽力してました。


──── そうやって想像力を引っ張りだすんですね。

キリアン そう、もちろん、想像力を動かす何かが要るし、
     空っぽの部屋ではできないです。


──── 無重力体験とかされたそうですが、
     どんな感じでしたか。


キリアン すごく短い時間だったけど、
     飛行機に乗って突然降下するみたいな。
     ものすごく気持ち悪いし、疲れました。
     もう絶対やりたくないです(笑)。


──── (笑)飛行機に乗って、
     エアポケットに入ったりすると気持ち悪いし
     恐いですよね。そんなのと似てるんですかね。
     ま、でも飛ぶのはおもしろいとは思います。


キリアン うん、僕もそう思うけど(笑)。

     

──── 今回は物理学者の役をやって
     なにか影響を受けたりしたかと思いますが、
     俳優としてというよりも、キリアンさん自身、
     最近の異常気象などに不安とか感じてますか。


キリアン もちろん。
     誰もが、いま地球に起きていることに対して、
     すべきことがあると思うんです。
     温暖化を食い止められるなら、
     出来る限りのことをしないといけないと
     思ってます。

     ただ今回の映画は、ちょっと違う状況で、
     人間の力によって起きた現象じゃないし、
     逆に地球が冷えていってるわけですよね。
     僕が思うに、この映画が強調したいのは、
     僕たちの惑星がどれだけ不安定で、
     環境のシステムがいかにデリケートか、
     ということだと思うんです。
     いま僕たちがやっていることが、確実に、
     未来に影響を与えているということです。


──── 太陽に向っていくということは、
     科学者として挑むということと、
     同時に、なにか哲学的なというか、
     もっと深い意味があったように思います。


キリアン そうですね。
     太陽が人類の起源であると考えてみると、
     僕たちはみんなスターダストなわけですよね。
     すべてです。このテーブルも、僕も、あなたも。
     おそらくは、“神の領域と科学の領域の衝突”
     のような気がしてます。
     その2つの領域のクラッシュなんですね‥‥。


     おわり。

「僕たちはみんなスターダスト‥‥」
なんて美しく深く響くのでしょう。
キリアンさんの低くよく響く声のせい‥‥?
思慮深い俳優が表現する世界のなかに
入り込むのは、宇宙的な旅だなあと思います。



ほんとにキリアンさんの言うように、
映画では、太陽に向っていくし、
対する敵は太陽なのだけど、
描かれるのはやっぱり人間ドラマであり、
人間がいちばん難しいもので、また愛しいもの。
太陽に向うということは、つまりは
自分の起源(人間)に対峙することになり、
“神の領域と科学の領域の衝突”とまで語るほど、
それはそれは複雑なカオスなのだろうな、
と、テーマの深さにさらに感動します。

どうか太陽が消滅しませんように。

次回は、『神童』の、
スイートな萩生田宏治監督が登場します。
お楽しみに。

『サンシャイン 2057』


Special thanks to Cillian Murphy and
Twentieth Century Fox. All rights reserved.
Written by(福嶋真砂代)

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2007-04-23-MON

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