vol.150
- Shindo 2-
●身体のなかに音楽が響くとき‥‥
──『神童』その2
© 2007「神童」製作委員会
前回にひきつづき、
『神童』萩生田監督のお話、第2回です。
ではさっそくどうぞ。
□“越えられる”という感覚を伝えたい。
─── この映画の音楽的なところは、
すべてがもちろん本物志向で、
一流の才能の方々で固められていますけど、
さらに胸に迫るところは、
うたとワオの、コアな関係性でした。
原作を読んだときにはどうだったでしょうか。
すでに浮かび上がっていたとは思うんですが、
うたちゃんの特殊性という部分は‥‥。
萩生田 “神童”というか、自分では
コントロールできない力を持った人がいて、
それでも日常生活を生きていかなきゃ
いけないわけです。
だから、変わった人なのか、どうなのか、
いかにも“神童”なのか、どうなのか、
脚本家の向井さんは、
人物のキャラクターを大切にする人なので、
それについては向井さんといろんな描き方をして
試してみたりとかしたんです。
うたは、ピアノはすごいけど、
でもやっぱり普通の女の子で、
でもちょっとあばれん坊なところもあって。
ちょっと日常とはリンクできないようなものが
あるけれども、それなりに、そのなかで普通に、
普通の女の子として生きているんじゃないか
と思って。
うたを成海璃子さんにやっていただくことが
決まってから、彼女としてどうするのかな、
というのを台本に書いて探っていったんです。
─── 成海さんとは以前にお会いになってたんですか。
萩生田 いや、ぜんぜん。
何人か、ピアノが出来る中学生前後の方たちに
ポツポツと会わせてもらっていました。
それで、成海さんと会ったときは、
彼女がちょうど沖縄から帰ってきたときでした。
短い時間だったんですけど、話をしてみると、
すごく大人びて、なんとなく、
業界的に話を流す部分も兼ね備えつつ、
すごく男のコっぽいところもあったりとか。
それこそ少女っぽいそのままのところもあり、
いろんな面があって、
いったいこのコどれなんだろう
みたいな感じがあって、
おもしろいなと思ったんです。
このコのうただったら、
「うたのイメージにぴったり」
というんじゃなくて、
「どんなうたになるんだろう?」
っていうのがありました。
© 2007「神童」製作委員会
─── 成海さんは、うたを生きてましたね〜。
それを感じたときに、
一瞬にして私のなかにパァーっと
なにかが入り込んできて、
というか、うたが私に入り込んできた、というか、
そんな気がして。
どこのシーンかっていうとですね、
うたちゃんがあるところで、
ワオとちょっと喧嘩するんですけど、
絶対に謝らないうたがいて(笑)。
萩生田 (笑)はい、はい、はい。
─── あの強さというか、
うた自身のなかの複雑さが出てて、
突然、すごく入りましたね〜。
さらに、ワオに対する気持ちがあるんですが、
2人はプラトニックな、目に見えないもので
繋がっているというところを描いているので、
受けとる側も、難しいと言えば難しいけど、
一度入ると「わかる」みたいに思えて。
萩生田 こんな2人の感じがあってもいいだろうし、
あり得なくはないだろうというのが、
出せるといいかなと。
─── 松山さんと成海さんとの
コンビネーションもよかったですね。
きっと監督の予想を越えたんじゃないかと、
想像してみたりするんですが。
萩生田 僕は、何もしないタイプの監督なので(笑)。
2人がその場で演じて作ってくれましたね。
「どうですか」「いやいいんじゃないかな」
みたいに(笑)。
2人がバーンって叩くときも、
「どうする?」って言って、
「いや本当に叩いてもらったほうがいいです」
って指示して。
「じゃあ叩いてみよう」とか、
「もうちょっと叩いてみよう」とか。
バーンって叩いて睨まれると、
松山くんは松山くんで、
自分を開いてお芝居する人だから、
叩いちゃったことと、睨まれてることで、
もう、もう、いっぱいいっぱいになっちゃって。
「もう撮ろう!」っていう、
そんな感じです。
─── 高揚感の絶頂のときですね‥‥。
萩生田 松山くんも、いま、すごい痛いんだろうなと。
お互いにそれを感じながら、
やってくれてるところがあって。
見ててすごくおもしろかったです。
─── 『帰郷』のときのインタビューで、
監督がおっしゃっていたんですが、
現場の大切さというか、なにが起こるかわからない
おもしろさを大切にしたいと。
萩生田 そういうのがあるといいな、と
思っているんですけどね。
ああ、串田和美さんもすばらしかったし‥‥。
─── お〜、串田さんの大学教授、泣けますね。
萩生田 大学のシーンで「続けて!」っていうところ、
あるじゃないですか。
もう、もう、泣きそうになっちゃった。
「オレも続けたいよ」って。
「オレにも言ってくれ」って思いました(笑)。
─── 串田さんの包容力というか、すごいですね〜。
萩生田 あれ、びっくりしました。
いま撮っときゃよかったって‥‥(笑)。
西島(秀俊)さんとかも、
入ってきて1回バーッとやったとき、
「カット」って言ったら泣いちゃうぞ、
もう、ジーーン‥‥、そんな感じです。
─── 今回、西島さんは、出番は短いですね。
萩生田 短いですね。撮影は1日だけだったから。
─── 短いわりには、なんか、
もう全編に影響してて、不謹慎にも
「おいしいな〜」なんて思って(笑)。
萩生田 全編、影響力ありますよね(笑)。
─── 西島さんがいないと、
成り立たなかった話だらけですからね。
**この先ネタバレ気味になります。
申し訳ありませんが、ご注意ください。
話が急展開しますが、
西島さんが出てきたので伺いたいのですが、
ラスト近く、ふっと手が映るときに、
私のなかではもう「あ、お父さんだ」と
思い込むくらいになってたんです。
ワオがお父さんになっちゃった‥‥(笑)。
萩生田 うん、そうそう。
お父さんを求めて行ったんでしょうね。
倉庫に入ってきたときは、きっと、
お父さんだったんですけど。
だけど現実があるから、
そこでふと、「ワオと」ってところで、
うたが帰って行けたらいいなっていうふうに。
あそこも、西島さんでやってもらおうか
どうしようか、迷ったところあるんです。
─── 私、手は2人分を撮ったんじゃないかと
思ってたんです、おこがましくも。
萩生田 それもあったと思います。
なんか、自分のなかでは、
うたがパンパンになってるものが、
フッと解ける感じがあるといいなと‥‥。
あれでお父さんと弾いちゃったら、
うたは、そのまんま、ですもんね(笑)。
出て来れない感じですもんね。
だからフッと‥‥。
─── そのためにはワオの存在感はすごく
大きかったですね。
萩生田 なんにもしてないようで、ね。
─── ワオは、飄々と我が道を行く人
でもあるんですが(笑)。
松山ケンイチさんはどんな役者さんですか。
萩生田 松山さんはすごく“真摯な”感じっていうと
ちょっと凡庸な言い方なんですけど、
すごく自分の役と、それから相手の役を、
自分のことのように引き受けて考えちゃって。
うたのことも「こうしてあげたいんだけど‥‥」
ということをものすごく考えてるんですよ。
で、だけど、いまの話のなかでは、
ワオはここまでしかわかってないから、
それは手を差し伸べられないし、
「うん、でもどうしよう」みたいに、
真剣に考えてるんですよ。
─── いいひとだ〜、松山さん。
大好きになりますね〜。
萩生田 そう。で、お芝居するときに、
頭デッカチになるかというと、
ぜんぜん、そんなことなくて。
ポンと出ると、その場面をほんとに生きちゃう
というような感じで、
見てておもしろかったですね。
松山くんが撮影に入って、
最初のシーンを演じたとき、
スタッフも、なんか「あーーっ」って、
音録ってる人も、画撮ってる人も、
みんなすごく納得してました。
─── なるほど〜。
『デスノート』のLとは違う人物ですよね〜。
そういう意味じゃ、アプローチは違うけれども、
パーッと入っていく方なんですね。
萩生田 自分がどう見られるかということよりも、
映画を作ってる、いまこの場面を作ってる、
みたいな意識が2人ともありますね。
成海さんも、そんなに冗舌な方では無いから、
1回動いてみてから、確かめるみたいな
感じですけど、その場面を作ってるという
意識がすごく高いんだと思います。
─── 最後に『神童』に込めた
監督の想いをお願いします。
萩生田 はじめにマンガを読んだときに
「これ何かな」と思ったもの。
空間とか、時間とか、音が響いている間に
共有できるもの、ささいなことでも共有して、
なにかを越えられる、ということ。
相手を「こんな人」と決めてかかるんじゃなくて、
“越えられる”という感覚を、お客様にも
伝えられたらいいなと思います。
おわり。
はあ〜、感動的にやさしい萩生田監督。
そしてやはり無類の現場好きですね。
「見てておもしろかったですね」って
しばしばおっしゃるところがありましたが、
監督なのに、現場をものすごくおもしがっている
っていうと変ですが、そういうところが、
西島秀俊さんに通じるものがあるんだなあと。
監督も「西島さんは、月に1回は会いたい人」
と言ってました。毎日じゃない、んですか(笑)。
私は毎日でもいいです。あ‥‥。
さて、こんなに素敵な監督に愛され、
あたたかくやさしい現場で作られた、
『神童』だからこそ、観ながら、聴きながら、
身体が幸せな響きで満たされたんだなあと、
あらためてうれしくなりました。
★『神童』
***お知らせ***
5月4日(金)ユーロスペースにて
『世界はときどき美しい』のレイトショー
上映後、女優の片山瞳さんとまーしゃが、
トークショーを行ないます。
片山瞳さんのドラマチックなデビューの
お話などを伺いたいなと楽しみにしています。
詳しくはセカトキブログをご覧ください。
では会場でお待ちしています。
次回は、公開中の『ドレスデン、運命の日』、
ローランド・ズゾ・リヒター監督にお話を伺います。
お楽しみに。
Special thanks to director Koji Hagiuda and
Bitters End. All rights reserved.
Written by(福嶋真砂代)
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