vol.153
- Kurosawa/Kitano Seminor -
●映画は、学べるのだろうか‥‥
──「藝大映画週間」
『Westler Jeanne』(渡辺裕子監督) 『女の事情』(月川翔監督)
『見通しの良い道』(大門未希生監督) 『渚にて』(加藤直輝監督)
「新訳・今昔物語」5/25〜6/1まで、渋谷ユーロスペースにてレイトショー
□東京藝術大学「黒沢・北野ゼミ」の教え
東京藝術大学大学院 映像研究科の案内によると、
黒沢清さんは「作家性」を学んでほしいと言い、
北野武さんは「映画を壊す勇気を持て」と言う。
たとえば、
黒沢清さんのこの言葉にゾクゾクします。
「私は正直言って、たかが2年間映画の学校に
通っただけの若者にここまでハイレベルな作品が
撮れるとは思ってもみなかった。
断っておくが、私は何も教えていない。
彼らは自らの手法を勝手にあみだし、
熱意と努力と、それからめいめいが生まれ持った
才能を駆使して、恐るべき作品を作り上げた。
いちどきに、しかも大量に。
我々は画面の隅々から放たれる
強烈な映画の光芒に圧倒され、
俳優の指先まで充満する張り詰めた精神に驚嘆し、
かすかな風の音と、カメラがふっと動いて焦点を
結び始めるレンズのなまめかしさに陶酔するだろう。
ここに、間違いなく世界映画の最前線がある。」
映画専攻 教授 黒沢 清
(「藝大映画週間」チラシより)
つねづね映画のトークショーなどで、
明解な解説や、単刀直入でありながら、
感性と愛情溢れる言葉を拝聴するたびに、
「黒沢先生に教わりたい!」
なんて思ってしまうのです。
なにを教わるって言っても、映画かな、
いや、人生のなにか、がいいなあ、なんて。
東京藝術大学大学院に、
映像研究科が新設されて、
黒沢清さんと北野武さんが教えるという
ニュースが流れたときには、胸がざわざわ。
チャンスは皆無と重々わかっていても、
どんな人がそこで何を学ぶのだろうと、
なんというビッグチャンスなんだろうと、
期待と嫉妬で胸がいっぱいになったのでした。
それから2年が経ち、
現在、「藝大映画週間」として、
『第一期生修了制作展』と、
『新訳:今昔物語』をそれぞれ1週間ずつ、
渋谷ユーロスペースでレイトショー上映中。
(5/19〜6/1まで)
毎晩、立ち見が出る大人気になっています。
私も今日、床に座って観てました。
ムムム、すごいですよ。
“北野・黒沢チルドレン”と呼んでいいのか
わからないのですが、
“恐るべき子供たち”が来た感じがします。
すごい難関の入試に合格した俊才たちが、
さらに大学院の2年間で得たもの、
黒沢、北野両教授から吸収したもの、
そして彼ら自身が成長した軌跡を、
作品として観ることができるのは、
黒沢さんの言う“世界映画の最前線”に
触れている格別のドキドキ感に襲われます。
藝大修了制作展公開講評会の模様
左から黒沢清さん、中原昌也さん、山根貞男さん
監督コースの学生は、
2年間で4本の映画を撮るそうなのですが、
『新訳:今昔物語』は、
その3本目の作品のオムニバスになっています。
プロデューサーコースの学生が主体となり、
資金調達から配給、上映、DVD、ネット配信と、
実際に劇場上映される作品が辿る道のりを
ほぼすべて実践してみたのだそうです。
で、私は『新訳:今昔物語』を観たときに、
どこか教授たちの遺伝子を感じたのと同時に、
北野・黒沢作品のファンであればあるほど、
頭の隅に「映画って学べるものだろうか‥‥」
という、素朴で妙な疑問も湧き上がりました。
まあ、その答えは冒頭の黒沢さんの言葉にありますが、
教えを受けた学生さんたちにも、
そのあたりの実感を聞いてみたくなりました。
映画の技術や、作り方云々のノウハウは、
いまやカルチャースクールでも教えているし、
デジタル化で、子供だって映画を作れる時代。
そんななか、いま最前線を走る監督に学ぶ幸運!
世界でも影響力のある、しかも個性の強い、
ひと癖もふた癖もある作風のクリエイターに
学生はなにを学ぶのだろう、と、
あえて背伸びして聞いてみたくなりました。
北野武さんはカンヌ映画祭にいらしてて
残念ながらお話を聞けませんでしたが、
黒沢清さんに(幸運にも)伺えました。
「僕はとくに何も教えてないんです。
何か問題があると学生と一緒になって考えて、
僕自身も日々学んでいましたね。
あいつらは僕にとっては強力なライバルですから、
何も教えたくないですよ。
“作らせるものか”という意気込みで、
めいっぱい出し惜しみしましたね(笑)。
「映画を作る」ということそのものが、
人間を成長させていくものですから。」
“絶対に成熟しない”黒沢清監督の、
この独特の語り方にうれしくなります。
それを監督コースの月川翔さんに伝えると、
「いや、黒沢さんがホメてるうちは、
まだまだ、っていうことなんですよ。
これが、急に冷たくなってくると、
いよいよ意識してるのかもしれないですけど(笑)。
黒沢さんはよくメールでも教えて下さって、
簡潔で適確に、鋭い言葉が書いてあって、
それをじっくりこちらが考える、って感じです。
やはり最初にメールをもらったときは感激でした。」
と、うれしそうに語ってくれました。
「でも黒沢さんが忙しくて、
学校に来られなくて時間が開いたりすると、
”飲みに行きますか?”なんて、
誘いのメールが来るんですよ。」とも。
う〜、なんともうらやましい〜。
月川さんはすでにプロダクションに就職し、
某有名監督の映画のメイキングを撮っていたりして、
大きな荷物を抱えて現場からユーロスペースに
駆けつけていましたが、頼りになる感じで、
彼の明るいキャラが、恐らく、辛いときも
みんなをひっぱっていたのかなと感じました。
それにしても愛のこもった黒沢さんの教え方、
感動しますね。
“監督”でも“先生”でもなく、“○○さん”と
学生に呼ばれている関係性がなんだか素敵でした。
さらに、
プロデューサーコースの筒井龍平さん、
監督コースの加藤直輝さん、大門未希生さん、
渡辺裕子さん、
脚本コースの大石三知子さんにも
深いところまで聞かせていただきました。
左上から筒井龍平プロデューサー、加藤直輝監督、
大門未希生監督、左下から渡辺裕子監督、脚本の大石三知子さん。
(月川翔監督は別に会いました。)
将来、映画制作を考えている方も、
きっとおもしろいのでは、と思います。
ぜひ、読んでみて下さい。
5人の学生へのインタビュー
□プロデューサーの極意はお茶汲み
それから、ユーロスペースの代表であり、
プロデューサーコース教授の堀越謙三さんにも
映画のディープな裏話を聞かせていいただき、
目からウロコがポロポロ落ちました。
プロデューサーとしての極意を伺うと、
「現場のお茶汲みです!」と。
「びっくりする学生が多いですけどね。
ものづくりは、まず現場中心ですから、
現場でスタッフとちゃんとつきあえないと、
信頼されるプロデューサーにはなれない。
だから“お茶汲み”は大事なことなんです。
そうしながらクリエイターの気持ちがわかること、
それからシナリオが読めること、
企画が立てられること、
人を使うという“帝王学”を会得すること。」
“帝王学”とは? さらに聞くと、
「人の文句は1回目は聞き流すこと。
プロデューサーが、
文句を言う人と同じレベルで、
一緒になって熱くなってはダメなんです。
一段上のところで俯瞰できること。
2度めに言ってきたら、本気だから、
そのときは聞きましょう。(おもしろい〜!)
最終的には、判断力が必要です。
大抵はどちらでもいいんです。
ただ、“決める”ことが大切なんですよ。
失敗しても大丈夫ですから、みたいに、
どこまで楽観的でいられるかということも
かなり大事な要素ですね。
制作、講義、海外のイベントへの参加、
そして映画を観ること、などなど、
2年間、学生たちはそりゃ大変だったと思います。
だからこそ、実力がついていますよ。」
国内外の名立たる監督たちを育て、
重要な作品の数々をプロデュースしてきた
インディペンデント系映画の立役者、
堀越さんならではの奥深い言葉です。
プロデューサーの極意は、いろんな意味で、
お腹にズシンと響きますね。
こうして映画漬けの毎日を過ごし、
息つく暇も無くみっちり鍛えられた、
新しい映画人たちが生まれます。
「映画は学べるのだろうか」の素朴な問いにも
答えてくれる作品がきっと観られるはず。
どんな映画を作ってくれるのか、
ワクワクせずにはいられません!
★『新訳:今昔物語』
6/1まで渋谷ユーロスペースにてレイトショー。
今後の上映については下記お問い合せください。
東京藝術大学馬車道校舎
TEL: 050-5525-2682
Special thanks to director Kiyoshi Kurosawa,
Kenzo Horikoshi, Tokyo Geijutu Daigaku Students,
Tayo Nagata and Yuri Kajitani. All rights reserved.
Written by(福嶋真砂代)
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