OL
ご近所のOLさんは、
先端に腰掛けていた。

vol.157
- campaign 1 -


日本の選挙はおもしろい‥‥
──『選挙』その1



シアター・イメージフォーラムほか、全国順次公開中

□忍法、観察映画の術!

いや〜、おもしろい、おもしろ過ぎます!
日本の選挙って、
こんなに笑える「ネタ」だったのね‥‥?

想田和弘監督の“観察映画シリーズ”
第1作目の『選挙』は、愉快、痛快な
選挙観察ドキュメンタリーなのです。
隅から隅まで笑えることばかり。
笑って笑った末に、
一抹の哀れを感じてきました。
だれに対してかというと、
ものすごく人のいい「山さん」に、
どうしようもなく旧式な自民党に、
そんな日本と、そこに住んでる私自身に、
ため息とともに哀れ感がやってきました。
あ〜あ‥‥。
しかし、そんなやるせなさの後に
清々しい爽快感で満たされるのは、
想田監督の天才的なセンスのなせる技と、
なんと言っても「山さん」のおかげでしょう。

ニューヨーク在住の想田監督は、
東京大学時代のクラスメートで、
切手コイン商を営む“自由人”だった
「山さん」こと、山内和彦(40歳)さんが
いわゆる“落下傘候補”として、
縁もゆかりもない土地(川崎市)で、
市議会議員補欠選挙に立候補すると聞き、
ほかの映画を撮るつもりで準備していた日本行きを
急きょ、山さんを撮るために変更。
山さんの壮絶な選挙運動の12日間を、
監督がたった1人でカメラで追いました。

なにが天才的って、
ひとつには監督の気配の消し方です。
監督と言っても現場ではカメラを操るカメラマン。
選挙事務所の恐いおじさんや
おしゃべり好きのおばちゃんたちのなかで、
息を潜めてカメラを回しているわけです。
なぜこんなに、現実に選挙運動の現場にいる
誰もが自然に、カメラが居ないかのごとく、
振る舞っているのか、
もしかして忍者が撮ったのかと(本気で)、
とても不思議になりました。
しかも、そこは戦後50年間も、
堂々政権の座についている、
かの自民党の選挙事務所であり、
エライ先生やら、現職総理大臣まで現れる、
えらいこっちゃの渦中です、渦中!!!

そんなところにカメラを持ってウロウロしていたら、
なんやかやといじめられそうな気がするし、
撮影した後も上映許可を取るのに、
グチグチうるさそうな気がします。
どうやってそのへんの七面倒くさいことを、
クリアしたんだろう‥‥。
クレームはでなかったんだろうか‥‥。
なんて、余計な心配をしてしまうのですが、
そんなことより、びっくりは、現場に繰り広げられる、
ドがつくほどの正真正銘な「オヤジ」の世界。
ひんしゅくものの下ネタやら、女性軽視発言、
町内のラジオ体操参加やら、御神輿担ぎ、
狙ってないのに、出るわ、出るわ、
笑えないのに笑ってしまうことのオンパレード。

さらに、もっとおもしろいのは、
「山さん」のナイスなキャラクター。
マジメでマイペースな彼だからこそ、
くだらなくても緊張感のある選挙現場で、
こんなに味のある、ほのぼのとした
ユル〜い空気も生まれるのでしょうね。
にしても、いきなりの立候補に、
“「妻」じゃなくて「家内」と呼ばれる”、
奥さんも大変です。

いままでだったら、
選挙カーが家の前を通るたびに、
「うるさい、うるさい〜」
できるなら静かな人に投票したいと、
「名前の連呼」攻撃につくづく、
う〜んざりしていたのですが、
この『選挙』を観てからは、不思議と、
「ごくろうさんです」っていうような
変な親しみと(哀れみかもしれないが)、
この映画許可を出した自民党の、
なんというか「度量の広さ」に、
正直、「へえ〜、やるね〜」みたいな、
ちょっと好印象が生まれました。

ベルリン映画祭に作品が招待されたとき、
山さんも映画祭に駆けつけ、
映画上映後には、拍手喝采と
スタンディングオベーションを浴び、
「可愛い!」と言われていたというほど、
完全に「世界の山さん」です。
そんな山さんってどんな人なのか、
かなり興味津々になってしまいました。

そんないろんな疑問を全部ぶつけてみたら、
立て板に水のごとく語ってくれた想田和弘監督。
現場で“空気のように”なれる秘伝の「忍術」も、
だんだん明らかになりました。
とにかく、映画も、監督も、山さんもおもしろい!

ではどんどんまいります。
またプチ連載です。


エネルギッシュな想田和弘監督

── まずは、選挙というテーマを選んだ理由を
   お聞かせ下さい。


想田 以前から興味のあるテーマで、
   具体的には、2000年のゴアとブッシュの選挙を
   目の当たりにしたときに、
   すごいショックを受けたことです。
   それまで選挙というのは、
   票は普通にカウントされて、普通に正確な結果が
   出るもんだと素朴に信じてたんですが、
   それが、あの選挙で、そうでもないということが、
   急にわかっちゃって(笑)。
   「どうなっているの?」と思ったんです。
   それで選挙についてのドキュメンタリーを
   撮ってみたいなという気持ちが芽生えたんです。

   ある日、大学時代のクラスメートの山内さんが、
   自民党から立候補するというのを聞いて、
   「あ、これだ!」とピンと来たというか、
   とくに自民党から出るというのが、
   僕には大きくて。
   自民党というのは、戦後の政治を牛耳ってきた
   政党で、ある意味、自民党の選挙を観察すると、
   きっと日本の政治を観察することに近い、
   日本の民主主義の在り方を観察することに
   近いんじゃないかと、直感があったんです。

   あとは、「山さん」というキャラクターが(笑)、
   すごいヘンな人で、ある意味、自民党とは、
   対極にある人。つまり、自由人で、
   組織には属したことが無くて、
   もうインディペンデントというか、
   なんというか、軽いしね(爆笑)。
   こんな軽い人、見たことないっていうくらい、
   軽いところがあるから、その対比みたいな、
   ミスマッチがおもしろくて。
   だから、絶対映画になるなって予感がしたんです。
   それで、やってみようと‥‥。


── 自民党のアクの強さというか、
   それを内側から見るおもしろさが、
   この映画でわかって、
   「やってくれたな」ってすごく思ったんですが、
   自民党であるがゆえにおもしろかったこと、
   逆に、むつかしかったことはありますか。
   たとえば許可関係などは大変だろうなと
   思っていたのですが‥‥。


想田 これは、すごく簡単だったんですよ!
   まず、山さんに許可をもらおうと思って、
   聞きました。そしたら山さんは二つ返事で、
   「撮って、撮って」「いいね、いいね」って。
   すごく軽い感じで。
   「山さん、自民党どうかな」って聞いたら、
   「うん、聞いてみる!(軽く)」って
   聞いてくれたら、
   「いいって言ってるよ」って言うから、
   「ほんとかよ」って思って(笑)。

   それで選挙対策本部の本部長に会って、
   聞いてみたら「いいですよ」ってことで。
   撮りはじめてからも実に和気アイアイとして。
   何度か「この会議は撮ってくれるな」
   というのはあったけど、
   それは普通あるものですよね。
   それは2回か3回くらいあったかもしれない
   ですけど、それ以外は、ほんとノータッチ。
   「どうぞ、どうぞ」っていう感じで。
   僕がごはんを食べに行ってたりして、
   大事なイベントを逃したりすると、
   「どこ行ってたの」とか言って、
   「さっきのおもしろかったのに」なんてね。


── そんなに協力的だったんですか!?

想田 すごい協力的!
   みんなカメラの前で自然だし、
   驚きました、正直言って。
   撮ったあとも、
   見せてくれとはまったく言われてないし、
   だから、見せてないんですよ。


── 出来上がりを見せてなくて、
   上映してるわけですか。


想田 そうです。

── クレームも無く‥‥。

想田 無いですね〜。
   山さんには見てもらってますけどね(笑)。
   っていうか、見たがったんで。
   山さんは僕のことを見くびっていたみたいで、
   「これ、ドキュメンタリー映画にするよ」って
   言ってるのに、「あ、そう、あ、そう」って。
   あとから聞いたら、
   「どうせドキュメンタリー映画とか言っても、
    きっと記録したやつを身内で見て、
    チャンチャンで終るだろう」と思ってたらしくて。

   それ聞いて「まったく失礼なヤツだな」と
   僕は思いましたよ(笑)。
   で、僕は「ベルリンでかかるよ」って言ったら、
   「えーっ、あのベルリン!?」ってすごく驚いて。
   「ほんとに映画になったの?」って言うから
   「なるって言ったじゃん」って。
   「じゃ見たい」って奥さんと一緒にNYに来られて。


── NYまで?

想田 そう、そのために来て。
   議会の合間をぬって、ハハハ。


── わぁ〜。

想田 2人で、昔のアルバムを見るみたいに
   「こういうこともあったね」と言いながら
   観てくれて。

   ただ、自分の発言とか気になったらしくて、
   いくつか「このシーンなんとかならないの」
   っていうところはあったんです。
   僕としては「編集権はオレにあるんだ」という
   スジ論で言ってしまうことも出来たんだけど、
   友だちだから撮らしてくれたというのもあるから、
   そういうスジ論だけで通すのはイヤだなというのは
   あって、すごい話し合ったんですよ。
   2日間、じっくり話し合って、すごくいい話し合いが
   出来たんです。最終的には、山さんも
   「まあ、作品としてはすごくいいから、
    僕があーだこーだ言うことじゃないね」って
   言ってくれて。
   「じゃ、これで行きましょう」という感じで。
   もちろん、ベルリンで上映したのも
   オリジナルバージョンだし、
   日本で上映するのも、そこから変更のない
   バージョンで上映します。


   つづく。

映画を撮るよと言ったら
「いいね、いいね、撮って、撮って」
とノリノリの山さん。
のっけから、山さんの「カルさ」爆裂です。
なんというレアな、好人物なんでしょう。
インタビューも笑いの坩堝になるほど楽しくて、
想田監督の「巧みさ」に惹き込まれました。
次回、さらに山さんの「変人ぶり」が‥‥。
そして想田監督の「悪いヤツぶり」も‥‥?

お楽しみに。

『選挙』


Special thanks to director Kazuhiro Soda and Astaire.
All rights reserved.
Written by(福嶋真砂代)

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2007-06-20-WED

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