OL
ご近所のOLさんは、
先端に腰掛けていた。

vol.158
- campaign 2 -


日本の選挙はおもしろい‥‥
──『選挙』その2



シアター・イメージフォーラムほかにて順次公開中

想田和弘監督の第2回です。

痛快なドキュメンタリー映画『選挙』の
特徴のひとつとして、
ナレーションも音楽も無く、
とてもシンプルな作りになっている
というのがあります。

想田和弘監督は1993年からNYに住み、
フィクション映画やドキュメンタリーを制作。
『ザ・フリッカー』(97)という短編映画が、
ベネチア国際映画祭銀獅子賞にノミネート、
ほかにもNHKのドキュメンタリーを
数多く手がけています。
これまで撮った50本くらいの
TV用ドキュメンタリーとは違って、
この劇場用映画『選挙』では、
素材そのもので勝負したいと、
ナレーションや音楽をつけず、
「映像とは多義的なものである」
という映像の可能性を最大に活かし、
観る人が自由に解釈できる余白を
たくさん残してくれています。

そのあたりのことから伺いましょう。

□素材だけで、勝負できないかなと‥‥。

想田 ナレーションとかあると、
   どうしても「こう見なさい」という作用が働いて
   一義的にしてしまう。
   映像というのは、じつは多義的なもので、
   同じ映像を観たからといって
   同じ印象をみんなが受けとるとは限らない。
   たとえば、同じおじさんの映像を観ていても、
   光がきれいだと思う人もいれば、
   おじさんかっこいいと思う人もいるだろうし、
   かっこ悪いなと思う人もいる。
   本質的に映像は多義的だと思うんです。

   ところが、ナレーションを付けると、
   急に一面的に解釈が1つに定まる。
   それが僕は好きじゃないというか、
   不必要というか、邪魔だと思うことが
   あったんです。
   だから最初から、そういうものは無しで、
   素材だけで、勝負できないかなと
   思ったんですよね。


── 撮影する時、山内さんが友だちだという
   ことで、気をつけたことありますか。


想田 どういう距離をとるのかというのは、
   ひじょうに考え、工夫したところです。
   友だちだから近いんだけども、
   べったりだと気持ち悪いし、
   ある程度距離間を保たないといけないなと
   思ったんです。
   だからその部分はかなり慎重にやりました。
   友だちなのに、山さんのカッコイイところだけ
   じゃなくて、むしろ失敗してるところとか、
   言いたい放題言ってるところだって
   「山さん、こんなこと言っちゃっていいの?」と
   思いながら、入れてるんですよね(笑)。


── 監督は策士ですね(笑)。

想田 ドキュメンタリー映画を
   作っている人間っていうのは、
   基本的に悪い人間が多いんですよね(笑)。
   絶対そうですよ。だって、だいたい
   人が隠したいと思うようなことが映ってると
   おもしろいんだから(笑)。
   だから基本的には悪いヤツですよね。
   山さんが翻弄されればされるほど、
   こっちはウキウキしちゃうみたいな。
   友だちなのにヒドいヤツだなと思いながら
   撮るみたいなところはありますね。


── 読まれないようにしつつ?

想田 そうですね。撮影中、
   山さんに友だちとして忠告したいことも
   いろいろあったんだけど、
   そこはグッとこらえて何も言わないとかね。

   正直、山さんが最初に観るときは、
   ものすごいドキドキしました。
   大丈夫かなーって思いましたね。
   ただ、山さんはすごく懐の広い人だなと
   思ったのは、彼といい話し合いが持てたあとは、
   すごく映画をサポートしてくれて、
   ベルリンにも一緒に来て街頭演説をしたり、
   パリ、スイス、香港の映画祭にも来てくれたんです。

   そこでけっこう僕がほっとしたのは、
   映画を上映したあとに山さんが現れると、
   みんながものすごく湧くんですよ。
   わーって感じで、1分間も2分間も、
   スタンディングオベーションがありました。
   それを見て「よかったー!」と。
   たんに山さんが翻弄されている情けない人物
   みたいに思われちゃったらイヤだなと
   思っていたので。

   僕は山さんは魅力ある人物だと
   思っているから、その魅力が伝わる上でも、
   やさしいがゆえに弱いとかいう部分を、
   見せる必要があると思ったんです。
   だからこそ、あえて悪いひとになって、
   というか悪い人間なんですが(笑)。

   かっこいいところばかり見せても、
   人間って繋がれないというか、
   かなり素の部分、かっこ悪いところも含めて、
   人間の全体像を示してはじめて共感できる
   ことってあると思うんですね。
   それを僕は目指していたので、
   国や文化の違う人たちも山さんに共感できて、
   山さんを人間として見てくれたのは、
   ほんとにうれしいことでした。


   

── 山さんにどんどん惹かれていきます。
   もっともっと山さんを知りたいのですが。


想田 山さんは、東大のクラスメートと言っても、
   東大の前に気象大学校とか信州大とか、
   転々として、5浪ぐらい仮面浪人してて、
   東大に入ったときは24歳だったんです。
   なんか1人だけオッサンがいるなと思って(笑)。
   24歳つかまえてオッサンは無いですけど、
   僕は18歳だったから、オッサンに見えたんですね。
   オッサンのくせに自分のことを「山さん」
   って呼んで。「山さんがさー」とか言ってて。
   「一人称、山さんかよ」って(笑)。
   なんかヘンな人だなあと思ってて。
   年は離れているんだけど、横のつながりを
   築く人で、だれでも友だちになっちゃうんです。
   上下関係とか、年の差とか、全然関係なく。
   どっちが上、どっちが下ってことは、
   全然作らない人なんです。
   だからすぐみんなと友だちになっちゃって。
   「山さん、山さん」ってすごく慕われる存在でした。

   ただ、クラスメートっていうんだけど、
   クラスで一度も見たことがなくて、
   全然授業には出て来ないんですよ。
   1回も見たことがない。
   じゃ、どこで見るかというと、コンパとか、
   遊びに行くときは必ず来るんですよ。
   「皆勤賞」とか言ってるんですけど、
   遊びに関しては。

   山さんは駒場寮というところに住んでて、
   古くてボロい寮で、いまはもう亡いですけど。
   左翼の学生に占拠されてたから、
   まったく予算が無くて、荒れ放題。
   ドアに鍵もついてないし、
   人間の住めるようなとこじゃないんだけど、
   そこに山さんは住んでいたんです。
   キャンパス内に住んでいるのに、
   通学距離ゼロなのに授業に出て来ない(笑)。
   僕らは山さんちにしょっちゅう遊びに行って、
   溜まり場になっていたんですね。
   そこでいつまでもみんなウダウダしてる、
   みたいな感じでした。

   山さんは5浪して東大に入ったのに、
   全然授業に出て来なくて、それで、
   3年くらい留年してやっと卒業して、
   そしたら切手コイン商やって、みたいな、
   けっこう謎の人生を歩んでいたんです。
   僕がNYに住んでからも、年賀状とかマメで、
   切手マニアだからちょっと珍しい切手を貼って
   完璧な消印を押してあって、
   それが年に1回必ずくるみたいな、
   そんな感じでずっと連絡を取り合っていたんです。


── いいひとですね〜。

想田 ものすごくいいひとで、こんなにいいひとで
   いいのかなってよく思いますよ。
   山さんとは、ほんとにすぐ友だちになれると
   思います。垣根が低いですから。


   つづく。

あ〜ますます、山さんに会いたくなりました。
ひとまず山さんのブログ
山さんに接近しましょうか。

監督ブログも熱いです!

次回、選挙を撮るうちに、
「見えてきたもの」について、です。
お楽しみに。

『選挙』


Special thanks to director Kazuhiro Soda and Astaire.
All rights reserved.
Written by(福嶋真砂代)

ご近所のOL・まーしゃさんへの激励や感想などは、
メールの表題に「まーしゃさんへ」と書いて
postman@1101.comに送ってください。

2007-06-22-FRI

BACK
戻る