OL
ご近所のOLさんは、
先端に腰掛けていた。

vol.166
- Summer Days with COO 1 -


クゥに会えて、よかった‥‥
──『河童のクゥと夏休み』その1



©2007 木暮正夫/「河童のクゥと夏休み」製作委員会
シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー


□いちばん大事なものを見つめたい

クゥちゃん、元気かなあ〜。
おさら、渇いてないかなあ〜。
沖縄で思いきり泳いでるかなあ〜。

ついついクゥちゃんのことを考える毎日。
それほど、『河童のクゥと夏休み』の主人公、
礼儀正しい河童のこどものクゥちゃんは、
しっかりと心のなかに住むことができる
生命力溢れるキャラクターなんだと、
あらためてその存在感の確かさに驚きます。

きっと私だけじゃなくて、
この映画を観た人は、クゥちゃんのことを
一日に一度はふっと思い浮かべるんじゃないかな。
子供たちだったら、きっと何度もクゥちゃんに
話しかけているに違いない。
困った時、さびしい時、恐い時、うれしい時、
「クゥちゃん! きいて」っていうふうに。

「オメエさまも大変だな。でも大丈夫だ。
 好物のキュウリ食べてがんばれ!」

って言ってくれるとうれしいなあ〜。
(わたしはキュウリ好きです、河童か‥‥)

こんなに素敵な映画を産みだした監督って、
どんな人なのでしょうか、気になります。


クゥの映画を作ってくれたのは、
ご存じ、『クレヨンしんちゃん』を
手がけてきた原恵一監督。

『クレヨンしんちゃん』の
『嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』
『嵐を呼ぶ アッパレ! 戦国大合戦』は、
大人も楽しめるしんちゃんワールドで、
教育委員会もうなずかせた革命的な作品。
とくに『戦国大合戦』には、
複雑な人間のせつない心情が描かれていて、
じっくり泣かせてもらいました。

その原監督が、
木暮正夫さんの原作「かっぱびっくり旅」に
出逢ってから、20年間、
心のなかでずっと温め続けてきた「夢」が、
『河童のクゥと夏休み』という形になって
とうとう叶ったのだそうです。

20年間ってスゴくないですか‥‥。
そんなに長い時間、想いをキープしてきたなんて。
なんて我慢強い、というか、
それだけ愛の深さが違う気がします。


物語のはじまりは江戸時代。
龍神沼を干拓する計画があると聞いた河童の親子。
「自分たちの住む沼を無くさないでください」と
父さん河童が直訴するのですが、
あえなく侍に斬り殺されてしまう。
そしてこども河童は、ひとり、
そのとき起こった大地震で、
石のなかに300年間閉じ込められます。

‥‥そして現代、小学生の上原康一が、
学校帰りに偶然大きな石につまづき、
なにやら気になり家に持って帰る。と、
石のなかから「クゥ〜」と鳴いて出てきた河童。
「クゥ」と名づけられた河童と
上原家の同居生活がはじまり、
クゥをめぐっていろんなことが起こります。

伝説の妖怪、河童は、
現代になにを伝えようとしてるのでしょう‥‥。


©2007 木暮正夫/「河童のクゥと夏休み」製作委員会
上原家と(犬のオッサンと)クゥちゃん


今日は、原恵一監督と、
とくべつゲストにクゥちゃんにも来ていただいて、
お話をたくさん聞かせていただきました。
ちょっと長い連載ですが、
たっぷりと原監督とクゥちゃんの魅力をお届けします。

原さんは、だいたい同年代なんですが、
トツトツと話してくれて、
すごくまっすぐで、現代のハイテク時代とは、
対極に魂があるような、自然の土の匂いと、
とてもピュアな透明感を感じました。
クゥちゃんのように、澄んだきれいな水と森が
ときどきは必要になるのかな、と思いました。
まあ、私たちはみんなそうなんですが‥‥。

原監督とクゥちゃんです。
なんてラブリー、
クゥちゃんとおなじポーズの原監督!

「はじめまして。」


─ 原監督、クゥちゃん、よろしくお願いします。
  じつはあまりアニメを観ないほうなのですが、
  「3回観て3回とも大泣きしました」
  っていうお誘いを宣伝の方からいただいて、
  グラッときて、拝見しました。
  そしたらタオル1枚じゃ足りなくて、
  ハナは出るわ、涙は出るわ、ぐちゃぐちゃになって、
  帰りに挨拶できなくなって困ってしまいました(笑)。
  『クレヨンしんちゃん』の監督さんって伺って、
  「ああ、そうなんだ〜」少し意外だなと思って‥‥。


原 いや、ボクはあまり違うもの、
  っていう感じではなくて、
  しんちゃんのときにも、やっぱり、
  今回の作品を作るみたいな気持ちで
  やっていたんですね。


─ そうなんですか‥‥。

原 ずっとではないですけどね。
  『オトナ帝国の逆襲』を作ったときぐらいから、
  ちょっと気持ちが変わりまして。


─ ええ。

原 なんかヘンに“ターゲット”って言葉、
  ありますよね。テレビとか映画とかでも。
  そういうのを考えて作るのを、
  もうやめようって思うようになりました。


─ やりたいことをツラヌこうと‥‥。

原 ま、できる範囲で、ですけどね。
  ボクもね、そんなに豪腕ではないんですよ。
  わりとスラローム人生で来てるんで。
  壁に正面からぶつかって突破するみたいな
  人生をおくってないんですよね。


─ ふ〜ん。

原 むしろ壁があったら、迂回する、みたいな(笑)。

─ はい(笑)。そういうやり方をいままで、
  していらっしゃったのにもかかわらず、
  今回はちょっと押したいな、みたいなんですか。


原 あんまり言われるままにルートを変更するのは、
  ちょっとしたくないなと思うようになって。


─ はい。

原 今回の映画なんかは、ほんとに長いこと考えて、
  アニメ化したいと思ってたので。


─ 20年くらいあたためていらしたと‥‥。

原 うん、常にありました。
  それを思いながらも、ほかの仕事をしてるときは、
  どこかに仕舞っておいたりしてるわけですけど。


─ 支え、みたいな感じですか。

原 ええ、まあ、夢だったですね、ボクの。
  っていうぐらい難しいと思ってたんです、
  実現するのが。


─ 時代に対して、ですか?

原 いや、やっぱり自主制作ではないので、
  人様のお金を使って作るわけですよね、商業作品は。
  そうすると、この映画を作ろう、
  この映画にお金を出そうって思ってもらえるような
  企画ではないと思っていたので。


─ ‥‥。

原 出資者が「だったらお金出そう」
  と思えるような要素は無かったんです、
  この企画自体に。


─ 最初のうちは、ってことですか。

原 いや、もう、ずっとです。
  それはムリも無いことだと思ってるんですね。
  いろんな人に話してるんですが(笑)、
  誰もが知ってるベストセラーの原作ではないし、
  アニメとはいってもカッパっていう、
  ありふれた妖怪だし‥‥(笑)。


─ ちょっと古いキャラクターではありますね。

原 そう。だから、新鮮味は無いと思ってたので。
  劇中、ボクは日常をちゃんとしっかり描いて、
  ファンタジー色は強く出さないように
  したかったんです。
  そういうののどれもこれも、
  お金を出す側からすると、
  マイナスの要素でしかないと思うんですよ。

  だから、やりたいとは思ったんですけど、
  この企画に乗ってくれる人は、
  そう簡単には現れないはずだと、
  ずっと思ってたんです。

  それが、本当に作ることができたので、
  ボクとしてはアニメーションの監督としての
  当面の夢は叶ってしまったんです。


  つづく。

初日の舞台挨拶で(7/28)、
「夢が叶ってしまって、いまは虚脱状態です。
 ボクの今後には期待しないでください‥‥」
って、正直に話してた原監督。

作品ができてお客さんに観てもらううれしさと、
クゥがいよいよ手を離れて世に送り出された、
一抹のさびしさもちょこっと感じました。
もしかしたら、映画でクゥを見送ってた、
上原康一くんのような心境だったかもしれません。

次回は、もう少し、
監督の夢が叶う過程について伺います。

お楽しみに。


(2人の足は同じように組まれていました‥‥)

『河童のクゥと夏休み』


Special thanks to director Keiichi Hara
and Shochiku. All rights reserved.
Written by(福嶋真砂代)

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2007-08-07-TUE

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