OL
ご近所のOLさんは、
先端に腰掛けていた。

vol.167
- Summer Days with COO 2


クゥに会えて、よかった‥‥
──『河童のクゥと夏休み』その2



©2007 木暮正夫/「河童のクゥと夏休み」製作委員会
シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー


□“自由”ってツライ‥‥。

もうクゥちゃんには会いましたか?
でもばったり道端で会ってしまったらどうしよう。
「お〜クゥ〜」ってドキドキしそうだなあ。
むやみに騒がないようにしないと‥‥。
万一に備えて、おさら用のペットボトルの水、
忘れず持ち歩かなくちゃ。

さてさて、
原恵一監督の20年来の夢。
でもクゥの映画化はむつかしいと感じていた監督。

立ちはだかる壁を抜けたときは
どんなだったのでしょうか。
でも意外にズルズルと進んでいったようですが‥‥。
そんななか「完全に自由であること」のツラさも
あじわったのだと‥‥。自由はツライか‥‥。
それから原作者の木暮正夫さんとの出逢いのこと。
さらにおもしろくなっていきます。

「夢の実現」の話のつづきを伺います。



ではクゥちゃんと一緒にどうぞ。

─ なにか突破口というか、
  むつかしいゾと思い続けてきたものが、
  現実味を帯びてくるときの、ザワザワ感というか、
  イケそうだなっていうのは、
  どのへんから感じてきたんでしょう。


原 それが、なかなか無かったんですよね。
  いろんな人に「この作品どうですか」って、
  ボクが、というよりもプロデューサーが
  持って歩いたわけですけど。


─ そのときは、脚本というのはできていたんですか。

原 いや、えっと、脚本は無いんですよ。
  それもマイナス要素だと思ってたんです。
  どんな映画になるの? っていうのは、
  どんな脚本なの? というので、
  判断することが多いでじゃないですか。


─ ‥‥ですよね。

原 ベストセラーでもないし、
  キャラクターが“新鮮味のないカッパ”で、
  「脚本読まして」って言われても、
  「脚本は作ってません」っていう話なんで。


─ じゃあ、木暮さんの原作を持って、
  「これをやりたいんです」というふうな
  説得だったんですか。


原 脚本は無いんですけど、
  プロットは作っていたんです。
  こういう流れの、こういう話になります‥‥って。


─ 絵コンテも見せて?

原 いや、絵コンテもまだ描いてない‥‥。

─ 文章なんですね。

原 なかなか簡単には乗ってくれる人は、現れなくて。

─ うんうん。

原 出来そうだけど、まだちょっとむつかしいかも
  という期間がすごく長かったんです。
  そんななかで、少しずつなんとなく出来そうだ、と。
  実際にお金を出してくれそうな人も固まりつつ、
  社内的にも(シンエイ動画)作らせようという話に
  だんだんなっていって。
  最初はボク1人の作業ではじまったんですけどね。
  プロットを元に絵コンテを描くという。
  でも絵コンテを描き始めてからも、
  なかなかやっぱり本決まりみたいなことに
  ならなかったんですよ。


─ それはどのくらいの期間があったんですか。
  絵コンテ描きながら悶々とする日々って。


原 いや〜、けっこう長かったです。
  だから、絵コンテ描きながらクサってる毎日が
  ずっと続きましたね。


─ ほかに(クレヨン)しんちゃんもやりながら?

原 合間にちょっと手伝ったりしてます。
  クゥの絵コンテ期間は
  すごい時間がかかってるんですけど、
  ずっと描き続けてたわけでもなくて。
  自分に、こう、ムチも入らなくて‥‥。


─ ふふふ。

原 もしかしたらポシャったら、
  この絵コンテ、ぜんぶ無駄になるんだよなー、
  って思いながらやるのは、
  けっこうツライんですよね。


─ そうですよね〜。
  でも、それだけに、
  現実化していくうれしさみたいなのって
  あるんじゃないかと‥‥。
  ムチが入ったのはなんだったんですか?


原 いや、じつは、あんまり入ってないんですよ(笑)。

  

─ 知らず知らずのうちに‥‥?

原 いや、えっと、これもいろんな人に
  話してることなんですけど、
  今回、何の逃げ道もない話なんですよね。
  ほんとにボクだけがやりたかった話を、
  一緒にやろうかという人がどんどん増えて。

  実際に作りはじめたときにも、
  理想的と言えば、理想的なんですよね。
  あらゆることを判断するのはボクだったんです。
  それらを決めていく作業というのは、
  「楽しい」という言い方も、
  たぶん出来ると思うんですけど、
  でもいざ決める立場になると、
  やっぱり自信を持って判断することは、
  すごく勇気の要ることなんですよ。
  マンガの原作があったりするわけじゃないので、
  キャラクターの性格をどうするかとか、
  どんな絵柄にするかとか、
  そういうこともぜんぶ含めて。
  そういう点では、今回はとくに、
  誰からも言われてないんですよね。


─ ああしろ、こうしろという制約がなく、
  まったくの自由だったんですね。


原 そう。けっこう長い時間ずっと抱えてたんですけど、
  そのなかでも、どんな判断をしても、
  どんな結論を出しても、
  それが正しいとは思えなくなってたんですよね。
  だからものすごく悩みましたね、ずぅっと。


─ ツライ毎日‥‥。

原 ツライ、ツライ。
  セリフを書いても、
  このセリフでここはよかったんだろうかとか、
  普通は絵コンテとか書き終えると、
  それなりに達成感みたいなのを感じるんですけど、
  今回は無かったんで、
  ひじょうに淋しかったんです(笑)。


─ 誰に確かめることもできず‥‥。

原 そう、自分で納得するしかないんですよ。

─ その納得点というのは、
  やはり原作にもどるんでしょうか。
  これでいいのかってOK出すところって。


原 まあ、自分に聞くしかないですよね。
  ほんとに、とことん。


─ すごい、自問自答ですか‥‥。

原 うん、ずっとそれの繰り返しで、
  大きいことやら、小さいことやら‥‥ね。


─ たとえば、表情とかしぐさとか、
  そういうところも決めるわけですしね。


原 そうですね。絵コンテというものを
  アニメーションは作るんですけど、それで、
  その人にどんな芝居をさせるかによって、
  どんな性格かというのも、
  見てる人に伝えるわけです。


─ 登場人物って、原作の2作
  「かっぱびっくり旅」「かっぱ大さわぎ」から
  基本的なものは決まってたんですか。


原 いや、ボクがオリジナルで入れこんだ
  キャラクターは、妹の瞳ちゃんと、
  飼い犬の「オッサン」。
  あと、康一のクラスメートの紗代子ちゃん。
  この3人をプラスしました。


─ この3人(1人は犬ですが)、
  大きいですね〜。
  オッサンには泣かされました。
  紗代子ちゃんもいちばん大事なところに
  登場してきますし、
  紗代子ちゃんがらみの問題も、
  重要な主題の1つですしね。
  それから、ひーちゃん(瞳ちゃん)は、
  微妙にクゥちゃんといい距離感をとるのですが、
  ひーちゃんのポジションのとり方には、
  なんか同感しちゃいますね〜。
  私も末っ子だからなんかわかっちゃって。


原 うまくいったようですね、じゃ。

─ いきました! なんておこがましいですが、
  私のなかでは、ひじょうに大きな3者ですね。


  つづく。

「オッサン」は、
康一に拾われた上原家の飼い犬で、
ずっとクゥを助ける重要な役目を果たします。
オッサンの生涯にも哀愁がこもってて、
切々とうったえるものがあります。
オッサンを想うとまたじわじわ来てしまいました。


©2007 木暮正夫/「河童のクゥと夏休み」製作委員会

次回は、「原監督が、
原作者の木暮さんに言われた“衝撃の言葉”とは‥‥」
をお送りします。

お楽しみに。

『河童のクゥと夏休み』


Special thanks to director Keiichi Hara
and Shochiku. All rights reserved.
Written by(福嶋真砂代)

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2007-08-10-FRI

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