vol.168
- Summer Days with COO 3
●クゥに会えて、よかった‥‥
──『河童のクゥと夏休み』その3
©2007 木暮正夫/「河童のクゥと夏休み」製作委員会
シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー
□ずっと僕のアニメ化したい第1位
映画完成目前にして他界された
原作者の木暮正夫さんに、
原恵一監督はこんな言葉を贈っています。
「あなたの書いた『かっぱびっくり旅』は、
20年間ずっと僕がアニメ化したい作品の
第1位でした。〜略〜
木暮さん、クゥを僕にあずけてくれて
本当にありがとうございました。
どうか見ていて下さい。」
(『河童のクゥと夏休み』プレス資料より)
原さんが木暮さんに会いに行ったのは、
本に出逢ってから10年後のこと。
そのとき「木暮さんに言われたこと」の
衝撃(笑撃?)エピソードをうかがいました。
さて、なんと言われたのでしょう‥‥?
そのときの原さんの心境は‥‥?
─ ちょっと20年ほど前にさかのぼって、
原作を読んだときのお話を伺いたいのですが。
そのとき映画の原作を探していらしたのですか。
原 アニメの、なんとなく行く末みたいのが
不安になるころがありまして。
マンガ原作ばかりがアニメになる‥‥ということに。
いまの状況は全然ちがいますけどね。
オリジナル作品が、いまはすごく作られていますけど。
そのときは、このままじゃ、マンガ原作しか
アニメーションにできなくなっちゃうかもな‥‥、
って危機感があったんです。
─ ふむ、ふむ。
原 それもおもしろくないので、
なにか別の道はないだろうか、
日本の児童文学はどうかなあと思って、
当時、そんなに読んではなかったんですけど、
探してみようかなあと思って。
─ それは本屋さんで見つけたんですか。
原 児童書の専門店が渋谷にあって、
そこにいつも行ってました。
─ クゥはそこにいたんですね。
原 マンガじゃないので、
絵で選ぶってわけにはいかないんで、
なんとなくあらすじを読んだり、
ちょっと何ページかを立ち読みして、
おもしろそうだと思ったのは、
毎回、一度に何冊かずつ買って帰ってました。
─ これは原作の表紙ですか?
岩崎書店の特設ページ
原 これは原作者の息子さんが
新しく書き下ろしたものですね。
─ こぐれけんじろうさんは、
息子さんなんですね。なるほど〜。
それで、アニメの企画を出そうと、
その許可をいただくために
木暮さんに初めて会いに、
東久留米までいらしたんですね。
原 それが、10年ぐらい前ですね。
─ そのときの木暮さんの印象は?
どんな方なんですか。
原 作家さんなので、いろいろ注文つけられるかなと
思ったんですけど。
「クゥが、どんな形でもまたよみがえる、
というのが、すごくうれしい」と言って下さって。
その時点で脚色をしたいという話をしたんです。
「全然それはかまわないですよ。
おまかせします。クゥがもう一度よみがえる
だけでうれしいので」っておっしゃって。
─ わぁ、クゥを愛してる‥‥。
原 そのときにボクは3部作の1作しか
持ってなかったんですけど、
ほかの2作を木暮さんが家から持ってきてくれて。
「これどうぞ」ってもらったんです。
─ そうだったんですか。
(3部作中、2作が映画の原作になりました)
で、そのときに東久留米はいいゾ!
と思われたんですね。
原 そう、なんとなく、東久留米が
この話の舞台に合ってるんじゃないかなあと。
原作者の木暮さんが住んでるというのも、
ちょっと意味を感じて、勝手に(笑)。
─ 笑。アニメのロケハンってなんか、
不思議だなあと思うんですけど、
その場所でキャラクターが生きてるってことを
想像しながら歩くわけですか。
原 ま、アニメなんだから、
架空で作ってもいいんですけどね。
ボクはなんとなく、実際に在る場所に、
物語のキャラクターがいるのを想像するほうが、
膨らむタイプなんです。
─ ふ〜ん。
原 ここにクゥがいたら、康一がいたら、
紗代子がいたら‥‥と。
実際にそういうシーンをたくさん作ってます。
─ 学校のシーンとか、通学路とか、
馴染んだ感じというか
「ああ、ここでこの子たちは生きてるんだな」
って、そんな感じがとてもしました。
そこにクゥがいるのが不思議じゃないんですよね。
原 木暮さんはね(突然、思い出した!)、
最初に会ったときに、ボクとプロデューサーと
2人で行ったんですけど。
アニメ化を考えてるので許可してくださいと、
ボクらはシンエイ動画という会社で、
『クレヨンしんちゃん』というアニメを
作ってます、と説明したんです。
そしたら木暮さんが、
「ウチの孫がマネして困ってるんです」って
ちょっと迷惑そうな‥‥(笑)。
─ お〜お〜(しんちゃんで)。
原 率直に言われたのを憶えてますけど。
「もう見るナって言ってるんだけど」って。
─ しんちゃんの監督を目の前にして‥‥。
原 それを聞いても全然不愉快にも
ならなかったですけど(笑)。
─ おもしろい〜!! 影響力大ですもんね。
私の子持ちの友だちも、
「もう、しんちゃんだらけだよ、毎日」って
言ってました。好きで好きでしょうがないって。
木暮さんに、最初に許可をもらいにいらしてから、
ずっと時間が経って、またパイロット版を
一度見せたんですよね。
原 実際に木暮さんに会ったりして、
ボクも実現に向けてちょっとずつ、
ちょっとずつ、歩み始めたんですけど。
何度も無理かなあと思いましたからね。
─ 挫折があった‥‥。
原 これに乗ってくれる人は、
やっぱり現れないんじゃないかと
何度も思いました。
─ 木暮さんが「よくねばるね」って
おっしゃったって。いい言葉ですね。
原 ボク自身も10年前に一度行って、そのときは
制作スタートまでいかなかったんですけど、
また何年か経ったときに会って、
「なんとか作れそうです」って言ったときに
そうおっしゃって。
ボクはそれこそ「いまごろですいません」って
言って(笑)。
─ ずっと連絡はとり合っていたわけではなく?
原 なんとなく音信が途絶えてる期間が長かったりして、
木暮さんには結局2回しか会ってないんですよ。
パイロットフィルムを作って
それを見てもらったときにも会社に手紙が来て、
それを読んだって感じだったんです。
─ その手紙にはなんと書いてあったんですか。
原 パイロットの出来をよろこんでくれてる内容で、
本編を楽しみにしてるって。
─ それで前に進もうと‥‥。
原 でもボクらや木暮さんがいくらアニメ化したいと
思っても、まわりの人が「うん、やろう」って
言ってくれないと、実現しないですよね、
商業作品っていうのは。
だからその辺は、ボクらがどんだけ強い思いで
作りたいと思ってもしょうがないことなんですよね。
─ 説得するのに、これは効いたかも、
っていうのは?
原 ボクは企画を持って説得は直接やってなくて、
プロデューサーがやってくれてましたけど、
徐々に、「じゃ、やろうか」って言ってくれる人が
少しずつ増えていった感じです。
─ 原さんは、作ることに専心する係ですね。
原 さっきも言いましたけど、
実際に作れるってなったときに、
さあ、じゃ、よしやるゾ、って気持ちも
まあ、あるんですけど、
すごい不安な気持ちにもなって。
それが今回はほんとに逃げも隠れもできないゾ
っていう‥‥。
─ 腹をククルしかなくなる。
原 そうですね。自分で決められる環境になったんで。
─ いざとなると‥‥。
原 シリゴミしてましたね。
で、最後までウジウジウジウジ、くよくよ悩んで。
悩んだまま絵コンテ終って‥‥。
─ ははは。
原 へへへ。
つづく。
原監督はスゴイ才能の人なのに、
謙虚すぎるほど謙虚に、
最近の王子よりも“ハニカミ”は本物。
心のこもった嘘のない言葉を探しながら、
きちんと伝えてくれる人です。
その人柄にとても動かされます。
それがクゥちゃんやクゥを取り巻く人々にも
うつっているのか、映画を観ると、
心があったか〜くなります。
映画の試写会を観に来た子供たちが、
帰り際に係の人を探して、
「ありがとうございました」と
口々に言って帰るのが感動的だったと、
宣伝の人が教えてくれました。
ちゃんと伝染してますね〜、クゥちゃん。
台北映画祭で観客賞に選ばれやした! バンザーイ。
次回はクゥの「作り方」を聞きます。
「クリエイターは孤独です」の巻。
お楽しみに。
★『河童のクゥと夏休み』
Special thanks to director Keiichi Hara
and Shochiku. All rights reserved.
Written by(福嶋真砂代)
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