vol.169
- Summer Days with COO 4
●クゥに会えて、よかった‥‥
──『河童のクゥと夏休み』その4
©2007 木暮正夫/「河童のクゥと夏休み」製作委員会
シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー
□クゥが見ているもの
原恵一監督のお話は佳境に入ってきました。
今日はクゥの映画を、
どうやって作っていったかを伺います。
河童のクゥが上原康一くんに拾われて、
上原家といっしょに住むようになってから、
ひとときの楽しい日々が続くのですが、
少しずつ上原家の中も外も変化が起きます。
ひとつはクゥがパパラッチに写真を撮られたこと。
河童の存在が世の中にバレてしまいます。
ふたつめはそのことで、
これまで学校でいじめる側にいた康一くんが、
こんどはいじめられる側になってしまうこと。
さらに、クゥの追っかけマスコミや野次馬は過熱、
さながら現代メディアの狂乱そのものです。
とうとうクゥはテレビに出ることになり、
そこでツライ現実と向き合うことになるのです。
クゥが昔住んでいた龍神沼は跡形も無く、
クゥが思いきり泳げるようなきれいな自然は、
もう見当たらない景色になってしまった。
環境破壊の問題にもさりげなく言及します。
ひとりになれる強さとやさしさ、自然の尊さ、
礼儀正しくすることの美しさなどが、
“クゥの視線”を追うことで、
ゆっくりと心に沁みわたっていきます。
原監督はどうやってこの“クゥの視線”を
描いていったのかでしょう。
「クリエイターは孤独です」の巻。
クゥ「おねげぇいたしやす。」
─ 印象的なのは、
いじめとか、自然環境を守ることとか、
いろんな要素がいっぱい盛り込まれながらも、
押し付けがましさが一切無いですし、
自然でさりげなくて、
ほんとに脚本がスゴイなあと‥‥。
原 ボクの場合は、
絵コンテが脚本作業でもあるわけですけど、
プロットにはセリフが全部書いてある
わけじゃないですし、
ストーリーの流れが大まかに書いてあるんですね。
で、絵コンテ用紙にむかって
このカットはこんな内容で、
こんなアングルで、こんなキャラクターで、
というのを描いて。
こんな芝居で、こんなセリフをしゃべる
というのを、実際に描きはじめて考えるわけです。
─ へぇぇ‥‥。
原 多少、先まで考えたり、
途中でわりとはっきりと、
ここはこうしようと思ったりするところも
あるんですけど、
ほとんどのシーンは実際に描きながら、
作っていく作業なんです。
クゥがこういう状況で、なんてしゃべる?
って、そこで考えるわけです。
─ おお〜、あの「すもうけ?」(相撲とるか?)も、
ここで相撲だな、って決めるんですね。
「すもうけ?」
原 まあ、そのへんはプロットにも書かれていたり
するんですけど。
どんな感じで相撲をとるってとこまでは
書いてなかったりするので、
絵コンテをやりはじめてから
決めていくことが多いですね。
─ それを思うと、ひとつひとつ、
ぜんぶ考えながら進めるのって、
気が遠くなりますね。
原 やっぱり、とり返しがつかない作業なんですよ。
絵コンテって、ほんとに。
絵コンテが終った段階で、
その作品の運命は決まるんです。
─ そこから作画に入っていくから‥‥?
原 それもあるし、いいか悪いかもわかるんですよ。
絵コンテを描ける人なら、
今回はうまくいったとか、
ちょっとうまくいかなかったというのは、
スケジュールの中で作業すると
両方あるわけです。
いいアイディアが思いつかなかったけど、
そこで絶対終らせなければならないとしたら、
そこに向けて作業を進めなきゃいけないですから。
クゥに関しては、そういう〆切りみたいな
ことは、わりと曖昧だったので、
絵コンテ期間はものすごいダラダラと
やっていたんです。
─ どこでOK出したらいいか、
“終りのない旅”みたいですね。
原 だから、それもあって、いくら考えても
正解が出ない、どこをやっても‥‥。
─ どうなんでしょう。
制約があったほうが、いいんですかね。
原 えっと、うーん‥‥。
ボクはものすごく、ボクだけの長い期間の作業、
つまり、絵コンテを描くという作業で、
不安だったんですけど、
出来上がったものを見た人が、
共感してくれたり喜んだりしてくれることで
判断するしかないんですよ。
─ そうは言っても、
最後まで出来上がってみないと、
みんなの判断も、
そこでもらうしかないですよね。
それで、クゥの関係者の方々も感涙したと
伺いましたが。
原 ああ、初号の試写ですね。
ボク自身はスタッフの顔はあまり見れなかった。
スタッフの感想ってやっぱりコワイんですよ。
絵コンテを描いてるときも、
それが全部終った段階で作画作業に入るんじゃなくて、
ある時期からオーバーラップしてるんです。
絵コンテもある程度進んだら、
作画も同時に入っていくというぐあいに。
普段からそんなに「どう、このシーン?」
とか聞かないんですけど、
今回はなおさら聞かなかったですね。
コワくて‥‥。
「これ、つまんないですよ」って言われたら
どうしようって。
自分としてはものすごく悩んで決めた展開
だったりするわけですよね。
それを最後まで終ってないのに否定されたら
この先の作業ができなくなると思って、
なるべく聞かないでいました。
─ うーん、それは孤独ですねえ。
でも、クリエイター冥利でもある‥‥?
原 いや、聞きたいんですよ、本当はね。
「どう、これ?」とか。で、願わくば、
「いいんじゃないですか」って言って
もらえればいちばんうれしいんだけど。
逆のこともあるわけで。
「これ、おかしいんじゃないですか」って。
─ そしたら凹んで進めないかも‥‥。
原 「いや、これでいいんだ」って言い張っても
いいんですけど。ボク、強い人間じゃないんで、
答えを聞くのはいやだったんで、
いつも以上に聞かなかったですね。
─ 「しんちゃん」のときは聞くんですか。
原 あんまり聞かないですね。
─ そうですか(笑)。
原 そう(笑)。
─ 「ずっと僕のアニメ化したい第1位でした」
っていう、その言葉がジーンときて。
そういう球を投げてくれる人って、
いろんな映画がたくさんあるなかでも、
なかなか出逢えないというか、
「いちばんです」と言ってくれると、
受けとる方もガッチリと受けとりたいです。
原 うそ、偽り、無しです。
だから、「夢が叶った」っていう感じなんです。
□アニメーターの道からスルッと横に逃げて‥‥。
─ 原さんが最初に絵を描きはじめたときって
こういうのを夢見ていたんですか。
原 最初はアニメーターになりたかったんです。
アニメーターっていう仕事があるなっていうのは、
高校卒業の頃になんとなく知ったことなんですけど、
すごい遅れてるんですけどね(笑)。
アニメをプロとして作るという仕事も
おもしろいんじゃないかなと思って、
それを学校で教えてくれるところがあるらしい。
それで専門学校のアニメーション科に行ったんです。
─ やりたかったことと合致したんですか。
原 最初は、アニメーターになろうとしたんです。
でも、絵のうまい人が日本中から集まってきてるし、
ボクレベルじゃどうにもならないなって
思うようになって‥‥。
映画が好きだったんですよ、子供のころから。
─ 『アラビアのロレンス』が好きだって
なにかでおっしゃってましたね。
原 親が好きだったんで、洋画を見てたんです。
─ はい。
原 それで“監督”という人が、
映画のいちばんエラそうな位置に名前が出て、
いったい何してるんだろうって。
よくわからないですよね。
でもいろいろ見てると、
この作品もこの監督でおもしろかったけど、
別の作品見たら同じ監督で、やっぱりおもしろい。
だとしたら、おもしろさを作ってるのは、
監督に違いないと思うわけですね。
それのほうがやり甲斐のある仕事なんじゃないか
って思うようになって、
アニメーターの道からスルッと横に逃げて(笑)。
─ 実写映画の監督になろうとは?
原 全然、思わなかったですね。
「オレなんかには無理だ」って思ってましたから。
実写の世界に入って、生身の人とぶつかって
映画というものを作っていくことが、
オレレベルでは全然無理だって思ってました。
─ でも今回は、声優さんも子供がいたりして、
生身の人間とけっこうぶつかりましたよね。
つづく。
「生身の人間とぶつかるのはムリ」って、
原監督、ほんとに正直で素敵だなあ‥‥。
だけど、今回のクゥちゃんの役も、
康一くんも紗代子ちゃんも、
子役の俳優さんを起用したので、
どうやら、なかなか、
体当たりだったみたいなんですよね〜。
次回は、
その子役の演出秘話やキャスティングのお話を。
とうとう最終回です。
お楽しみに。
★『河童のクゥと夏休み』
Special thanks to director Keiichi Hara
and Shochiku. All rights reserved.
Written by(福嶋真砂代)
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