vol.170
- Summer Days with COO 5
●クゥに会えて、よかった‥‥
──『河童のクゥと夏休み』その5
©2007 木暮正夫/「河童のクゥと夏休み」製作委員会
シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー
□なるべく生身の子供たちの、
生身の部分みたいなのを描きたいと思った‥‥。
原恵一監督とクゥちゃん、
とうとう最終回になりました。
河童のクゥちゃんのどこが好きか‥‥。
礼儀正しさ、義理堅さ、つぶらな瞳、相撲が強いとこ、
あるいはクゥの言葉。
クゥが話すのは昔言葉ながら、いつも心がこもっている。
「ありがとうごぜぇやす」
このシンプルな言葉にこもるクゥの威力。
ともすると忘れがちな「感謝する心」を
クゥはとても大事に体現しています。
声を演じた子役のみなさんも
泣かせてくれますよねえ。
河童のクゥの冨澤風斗くん、
上原康一の横川貴大くん、
上原瞳の松元環季さん、
菊池紗代子の植松夏希さん。
そして大人部には、
康一のお父さんのココリコの田中直樹さん、
お母さんの西田尚美さん、
キジムナーのガレッジセールのゴリさん、
クゥのお父さん河童のなぎら健壱さん。
芸達者なキャストが脇を固めています。
舞台挨拶のときの、左から原監督、主題歌の大山百合香さん、
ゴリさん、西田さん、田中さん、横川くん、真ん中にクゥと冨澤くん
アフレコ現場のお話から、いじめの問題まで、
「これを作るために、アニメの演出をやってきた」
と言い切る原監督にもっともっと伺います。
─ 子役さんたち、全員、すごいよかったですね。
とくにクゥちゃん、泣かせます。
原 それはありがたいですね。
長いことアニメーションやってますけど、
子役の演出って初めてだったんです。
でも今回は、子役で行こうと思ってたんです。
ひじょうに不安もあったんですけど、
とにかく子供でやる、というのは決めて。
実際に子供のオーディションをして、
キャスティングして、
アフレコをスタートしたんですけど、
やっぱり大人のプロの声優さんとは、
勝手が違って(笑)。
最初、ものすごい、あせったんです。
─ ええ〜(笑)。
原 オレ、なんか失敗しちゃったかもしれないって。
子供に負担が大き過ぎるなあと思って。
クゥちゃんなんて、
ものすごい量があるわけですよ。
出番もセリフの量も。
内容もけっこうむつかしいことを
しゃべってたりして。
でも、最初はそうやって心配だったんですけど、
子供がどんどんうまくなっていったんです。
その姿にボクも打たれまして。
「やっぱりお前たちでよかった」って
ひとりで激しく感動してましたね‥‥。
─ うん、うん、うん。
原 キャスティングもぜんぶ自分が決めたので、
最初のころ、あまり上手くいってないころ、
スタジオの中で
別に誰が言うわけじゃないんですけど、
みんなが「オレのせいだ」って、
心の中で思ってるなって‥‥。
─ ツラ〜イ空気が‥‥。
原 自分で思い込んでいたんだと思うんですけどね。
─ でもほんとにクゥちゃんの役は、
昔の言葉も使わなきゃいけないし、
レベルが高いですよね。
原 それで、答えをくれましたからね。
─ そうとう鍛えたんですか。
原 いや、そんなに、モノ投げつけたりとか、
どなったりとかしてないですけど(笑)。
なるべく粘り強くね。
大人のような微妙なニュアンスの演出指示って
子供にはなかなか伝わらなかったりするわけです。
それにも気づかされましたね。
─ 言い方を変えないと‥‥?
原 普通の声優さんは、
これだけ言えばこれだけわかってくれると、
なんとなく当たり前みたいに思ってたんですけど、
子供に対しては、わかりやすい言葉で、
わかりやすい指示をしないといけないんだと。
─ 学習過程があったんですね、監督としても‥‥。
原 うん、ありましたね。
ほんとにいい経験ができましたよ。
─ たとえば紗代子ちゃんの、
ちょっと歯の間から抜ける空気のぐあいが
すごく愛しくて、
サビシイ味がすごく出てましたよね。
原 紗代子ちゃんをやった植松夏希ちゃんは、
本人はものすごく明るく元気な子なんですよ。
あのサビシイ感じって、
ボクはとくに指示はしてないんですけど、
彼女はそういう役を作ってきてくれるわけです。
─ さすが‥‥。彼女は女優さんなんですよね、
声優さんじゃなくて。
原 ええ、子役としてテレビ、
映画、舞台で活躍してます。
─ ひーちゃんの松元環季ちゃんは、
『ドラえもん』もやってらしたんですね。
原 それがね〜、こっちのほうが先なんですよ。
向こうのほうが上映が早かったんですけど。
同じシンエイ動画で作ってるんです、両方とも。
─ 彼女は役の瞳ちゃんと同じくらいの年齢ですか。
原 環季ちゃんは8才くらいですね、いま。
子供ってスゴいのは、
アフレコやってたのは去年の11月頃なんですけど、
いまはもう学年もひとつ上がってるんで‥‥。
─ 変わりましたか。
原 みんなと会ってるわけじゃないので
わからないけど、そーか、子供の何ヵ月って、
大人の何ヵ月と違うよなって思いましたね。
─ こんど舞台挨拶で会うと、
きっともっと変わってますね。
原 ボクはぜひ会いたいですね。
─ 私はクゥちゃんの冨澤くんに会いたいなあ。
ホームページでクゥちゃんがしゃべってくれるので、
何百回もしゃべってもらってます(笑)。
それから、大人部のキャスティングも、
原監督がされたんですよね。
原 ええ、最終的にはボクが決めました。
─ 田中(直樹)さんのお父さん、なんか良くて。
あ〜田中さんでよかった、って思いました。
原 そう、ボクも思います。
みんな、西田さん、ゴリさん、なぎらさんも
やっぱり、この人でよかったと思いました。
─ みなさん、入り込み方がスゴいなあって。
原 みんな別録りなんですけどね‥‥。
─ へえ? そうなんですか。なおさら、スゴい。
原 子供は子供だけで録って。
大人のみなさんはけっこう忙しい人ばかりなので、
みんなひとりずつ孤独に、
スタジオで録ってました。
─ 原監督の孤独も、少し味わってもらったとか(笑)。
ところで、いちばん悩んだシーンってありますか。
ここは進めなくなっちゃったみたいなところ‥‥。
ラストの沖縄シーンは決まってたんでしょうか。
原 着地点はこうだろうって決めてました。
─ キジムナーも?
原 それも含めて。
─ ファンタジックな結びですよね。
はじまりは江戸時代からですけど、
そのあとは現実感のある日常にぴったりと
くっついていくのですが‥‥。
原 脚本の前段階のプロットも
けっこう何稿かあるんですけど、
最初に書いてたころのと、
最終的に決定稿にしたのって
違う部分がいくつかあって、
そのうちのひとつが、たとえば、
「龍の存在」だったりするんです。
最初のころは、たとえば東京タワーから
クゥが落ちたら、龍が現われて
空中でつかまえてくれるとか。
そんな形を考えてたと思いますね。
でも稿を重ねていくと、
‥‥と言ってもずっとやってたわけじゃなくて、
ほかの仕事をやりながらときどき改稿するんですけど、
だんだん、ちょっとそれは
ファンタジック過ぎるなあと思うようになって、
龍はあまり直接は絡まないやり方にしたんです。
そのへんも長い期間かけているからなんですけど、
自分自身も間違いなく年齢を重ねているんですね。
昔はそれでいいと思ったんだけど、
10年、20年経つと、
「いや〜、それじゃ満足できないな」って
思うようになったりするわけです。
龍の扱いなんかは、
最初はもっと派手になる予定だったんですけど、
20年経ってみたらあれがいいと思うように
なってきたんです。
─ 龍の出し方、なるほどね〜。
それからいじめの問題も描かれてて、
学校でいじめる側だった康一くんが、
いじめられる側に回るという、
立場の逆転が起こるところとかも、
印象的でした。
原 実際いま、いじめっていうことがいろいろ
取り沙汰されてるというか、
大きな社会問題になってるわけですけど、
作っている過程で、
多少注意して見ていたりしたわけです。
いまだから、とくに急にいじめを扱おうと
思ったわけじゃなくて、
最初のころから、河童のクゥの物語を借りて、
なるべく生身の子供たちの、
生身の部分みたいなのを描きたいと
思ってたんです。
みんながみんな元気いっぱいに笑って
遊んでるっていう世界じゃなくて。
子供どうしの陰湿な部分とか、
いまに始まったわけじゃないですから。
昔だっていじめはあったし、
そういう部分も入れたいと思ったんです。
最近はより悲惨な事件も
どんどん報道されるようになって、
そういうのを読んだりしてると、
自分がいじめられないようにするために
いじめる、とかね。
そういうこともあるんだって、
ボクも知らなかったわけです。
実際もう子供じゃないし(笑)。
それがものすごくいまの感じがしたんですね。
もしここでみんなと一緒にいじめなかったら
こんどは自分がいじめられる恐怖心があって、
別にいじめたくもないのに
みんなと一緒にくだらないことをやってしまう。
それがくだらない、ということは
子供もわかってるわけです。
─ でも、守るものができたときに、
勇気がわく、強くなれる‥‥。
ヘラヘラと人のあとについて
くだらないこをやってる場合じゃないんだと
いう局面を、康一くんは迎えるんですね。
原 そういう局面では、ボクの理想的な乗り越え方を
してもらいたいなと思ってたんです、康一くんが。
─ 康一くんの成長ぶりに、
ほんとにウルウルしました、うれしくて。
あと蛇足ですが、
私のクゥちゃんのベストショットは、
「リュックサックから片目」のクゥです。
せつなくてかわいい‥‥。
原 笑。
─ 「メッセージを下さい」と言うのは、
じつは苦手なんですけど。
原 そのほうがありがたいです。
いろいろ聞かれるんですけど、困るときもあって。
今回はとくに大きな1つのメッセージだけを
言いたいわけじゃなかったので、
いろいろな要素を作品に持たせたかったんです。
─ ほんとに一言で言えない重厚感があります。
監督、クゥに会えてよかったです。
ありがとうごぜぃやした。
おわり。
劇中、ところどころに
ガムランの幻想的な音色が流れて、
これがなんともいえない大人の
原監督の独特の世界観を表してる気がします。
そしてエンディング、
大山百合香さんの透き通った歌声がくると、
顔がぐちゃぐちゃになっていることと思います。
子供たちだけに独り占めさせないで、
ぜひ大人のみなさんも劇場に行って、
クゥちゃんとの夏休みを過ごしてみて下さい。
ご感想をお待ちしてます。
クゥちゃんコンビ「ありがとうごぜぃやした!」
次回は、超未来なアニメ映画『ベクシル』。
ひさびさにセンタンなセンタンなお話、
曽利文彦監督に直撃します。
お楽しみに。
★『河童のクゥと夏休み』
Special thanks to director Keiichi Hara
and Shochiku. All rights reserved.
Written by(福嶋真砂代)
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