OL
ご近所のOLさんは、
先端に腰掛けていた。

vol.181
- Tenten 3


●散歩と小ネタ、そして‥‥。
──『転々』その3



©2007「転々」フィルムパートナーズ、渋谷アミューズCQN、
テアトル新宿他にて全国<和道(なごみち)>ロードショー


『転々』三木聡監督、最終回です。

三木さんは、お父さんと
よく散歩をしていたという経験がある
ということで、そのときの記憶が
『転々』のなかにどんなふうに
息づいているのかうかがいました。

「煎じ詰めると出てるかもしれない」

それは文哉演じるオダギリジョーさんと、
福原演じる三浦友和さんが
歩いているときの“距離感”なのかもしれないと。
微妙に変化していく二人の距離に注目です。

(ネタバレの部分は伏せ字にしました。ご了承ください。)

□終りはスパッと終りたい、そこだけは死守したい!

三木 たぶん、煎じ詰めると出てるかもしれない。
   あのいい加減な距離感。
   歩いている距離感って変じゃないですか。

   三浦さんとオダギリさんの歩いている感じが、
   これは役者さんの手柄だと思いますけど、
   だんだん変わってくるんですね。
   最初のギクシャクした感じから、
   だんだん慣れていく感じっていうのは
   表現してもらってると思いますね。


── このあたりの演出って、
   心の変化がつもっていくあたりですが、
   脚本のなかに盛り込まれていて、
   二人が表現していったんですか?


三木 盛り込まれているのと、
   立ち位置に関しては、
   最初、文哉が早く行きたいという気持ちで
   ちょっと歩くのが速いんだけど、
   だんだん行きたくなくなるから、
   下がってくる、みたいな単純な距離
   みたいなことは話をしました。


── こんなこと言うと失礼なんですが、
   小ネタとか現象で攻めてくる
   三木さんの作品のなかでも、
   かなり『転々』は心情にくるものがあって。


三木 それは音楽と映像と役者に騙されてると
   思います(笑)。


── 今回は小ネタには騙されないぞ、と。
   つまりそこに潜むものを観ようとして‥‥。


三木 でもこれが不思議なもので、
   いやもちろんある種のペーソスとか、
   ノスタルジックなところをまったく考えずに
   作ってるかというとウソになるけど、
   たとえば三浦さんが神社で長く拝んでいる
   じゃないですか。
   あれも編集の高橋(信之)さんの話だと、
   すごく哀しくて奥さんのこととを
   思ってるんじゃないかと。
   オレは単に「なげ〜よ」って。
   「長いだろ、拝むのが‥‥」という一点で
   やってるわけです。


── はい(笑)。

三木 だからその結果表れたものが、
   心情的な部分を含んでいることが
   あったにしてもね。
   最後におばあさんがXXXXXなのも
   「哀しい」とみてくれる人もいるんだけど、
   あれを見送る二人の表情が
   もう終ってしまってさびしいんだけど、
   でもオレとしては「おまえもかよ!」
   ってことでやってるわけです。
   ベーシックに作る原動力はその部分で、
   結果としてできたものが、
   いろんなことを含めて、
   そういうふうに見えてくることはありますね。
   それが散歩の気分‥‥ってことなんだろう
   とは思いますね。
   なんか束縛されないっていう感じとか。

   で、終りはスパッと終りたい
   と初めから決めてて、
   アメリカン・ニュー・シネマじゃないけど、
   『イージーライダー』も最後は、
   「ダン!」って撃たれて終るじゃないですか。


── かっこいいですよね。

三木 とにかくポンと終りたい、という
   そこだけは死守したいとずっと思ってて(笑)。
   たまたまムーンライダーズのエンドテーマの
   (「髭と口紅とバルコニー」)イントロが長くて、
   エンドクレジットが上がって来ない
   真っ暗闇の30秒があるんです。
   意外にそこでみんないろんなことを考えてくれる
   って感じになったりして、
   それはおもしろかったですね。


── 最後はほんとに「あ!」って感じでした。
   こう来たか〜、みたいな。


三木 それをやりたかったんです。
   しかもエピローグ‥‥、
   ときどき日本映画って
   エピローグが長いのありますよね。


── はい、ありますね。

三木 いろいろ事情があるんでしょうけど、
   そのほうが好きな人もいるけれども、
   僕の個人的な好みだと、スパーンと終るほうが
   いいんじゃないかというのがあるので、
   とにかく『転々』は、さびしい気分だけど、
   最終的にポン!と終りたいと。
   そこのセリフ「XXXXX」
   のところに、オダギリくんが最終的に
   自分のテンションを持っていってるんですね。

   じつは録音状況が、
   結果的には問題無かったんだけど、
   あんまり良くないんですよ、
   車の騒音とか入ってて。
   だからアフレコで処理しようとしたんです。
   実際に録音もしました。
   でもね、オダギリくんは、
   最後のあの「XXXXX」に芝居上の全神経を集中して
   現場でセリフを言ってくれている。
   だから、抜群の出来なんです。
   結局、オリジナルの音を使いました。
   芝居ってそういうものなんだと勉強になりました。
   その差異は明らかだろうと思います。


── ほかの部分でアフレコだったところは
   ありましたね。でも最後は‥‥。


三木 うん、どうしても。
   1ヵ月間一緒に東京を歩いてきた最終的な気分を
   現場にぶつけてくれてるから、
   あのテンションなんだろうな。


── いまも耳に残ってます。

三木 すばらしい役者さんですよね。

── 『イン・ザ・プール』からずっと
   三木さんはオダギリさんを
   見ていらっしゃいますけど、
   変化というか、会うたびに違いますか?


三木 そういう意味での緊張感はオダギリくんに対しては、
   持つようにしてますね。
   それは岩松さんとかに対してもそうなんだけど、
   よく会う役者さんだからこそ、
   緊張感が無いとダレた関係になってしまったら
   やり続ける意味がないというとアレですけど、
   劇団とか、だいたい慣れてくると、
   ダメになってくるじゃないですか。
   だから壊してリビルトするみたいな関係が、
   オダギリさんにはあるなと思いますね。
   自分が作ってきたものを1回壊すことに
   躊躇しないというか、
   破壊衝動みたいなことも含めてなんだけど。


── ほぉ〜。

三木 それは芝居の鮮度を保ちつづけるいい方法
   なんだろうと思います。


── そうそう、ふせえりさんに伺ったときに、
   絶対みんなで飲みにいきませんからね、って。
   撮影中に。


三木 そう、行きませんね。

── 岩松さんも映画と芝居とでは、雰囲気が違うと。

三木 映画は芝居と違って、
   そのときに来てもう会わない。
   リハーサル、衣装合わせ、本番やったら
   もう会わないんですよね。
   その潔さみたいなのが岩松さんにもあるし、
   だからその距離感でつきあえる。
   そういう緊張感は忘れないようにしようと、
   岩松さんに教えられましたね。


── 岩松さんも映画撮られましたよね。

三木 そうそう、ひさしぶりに。

── けっこう『時効警察』メンバーで(笑)。

三木 そう、私まで出る。

── え〜、そうなんですか。

三木 いや〜、やめてほしい(笑)。
   カットになってると思うんですけど。


── ダメですよ、それは。

三木 オダギリくんと麻生くんと
   共演しなきゃいけないんですよ。
   僕の役はライブハウスの受付なんだけど、
   共演がもうイヤで、目が合うのがイヤ。
   だって向こうは超一流の役者で、
   オレ、素人じゃないですか。


── な〜におっしゃってるんですか(笑)。
   撮影は1日だったんですか。


三木 そう1日。
   でも役者の気分みたいなことを
   勉強さしてもらったというか、味わえたなって。
   俳優さんってこういう感じでいるんだなって。


── やっぱり撮ると撮られるとじゃ違いますか。

三木 ぜんぜん違いますね。
   意外に監督に何も言ってもらえないものだなあ。
   自分で考えていかないといけないんだって。


── そうそう、けっこう放っておかれると
   ある役者さんも言ってました。
   「見てほしい〜」って。


三木 監督が「OK」って言ったら、
   それ「OK」にしなきゃいけないんだけど、
   「よかったよ」とは言ってもらえない。


── そうなんですね。

三木 そりゃそうですよ。
   オレ自分で「ハイOK。次は〜」って感じで、
   いちいち「う〜ん今のすごくよかったよ」
   って言わないですから。
   なかには演出方法で「もう最高だね〜」っていう人も
   いるし、それはそれだけど。
   だいたいは、次の段取りに追われて、
   撮影部と話したりしてるから、
   役者は放っとかれて。
   「あ〜、こんなに放っとかれるだ」って
   麻生くんには話しました(笑)。
   そういう意味ではおもしろかったですね。


── じゃあ、次撮るときはちょっと変わるかも‥‥?

三木 いや〜、変わんないですよ。

── そりゃ〜観ないと。

三木 『たみおのしあわせ』

── こんなとこで岩松さんの映画宣伝ですけど(笑)。

   おわり。

あれれれ。
岩松了さんの映画の話で終ってしまいました。
たのしみです。
『転々』も『たみおのしあわせ』も。

まずは『転々』。
ぜひエンディングを確かめてください。

なんといっても、
三浦さんとオダギリさんのツーショットが
夢のようです。

かっこいい人たちが演じるデコボココンビ。
ふとそこに、
デニス・ホッパーとピーター・フォンダ、
ジーン・ハックマンとアル・パチーノ、
みたいに「自由」を求めた男たちの旅
が重なって見えたりして‥‥。


完成披露舞台挨拶で、オダギリさん、吉高さん、三浦さん

『転々』


次回は『呉清源〜極みの棋譜』の、
チャン・チェン(張震)さんが
いよいよ登場です。

お楽しみに。


Special thanks to director Satoshi Miki
and ELECTRO89. All rights reserved.
Written by(福嶋真砂代)

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2007-11-11-SUN

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