vol.193
- Sunanokage 1
●映画を撮る人‥‥
──『砂の影』その1
©2008タキ・コーポレーション/エキスプレス
ユーロスペースにて絶賛上映中!
□現実と非現実のあいだの儚い影
ー皆がいう。見えたと。聞こえたと。
そこに向かうと何もいません。
皆がいいます。全部わかってると。
一体何が本当の事なのでしょうか?
形にしたらこの映画ができました。
物語はこれから始まります。
甲斐田祐輔ー
(『砂の影』公式ブログより)
『すべては夜から生まれる』で、
独特の渇いた世界観を印象づけた甲斐田監督の新作。
今回は、全編8mmで撮影された
『砂の影』が公開されています。
私も昨晩、ユーロスペースレイトショーを
観に行きました。
実際にあった“練馬OLラストダンス殺人事件”
を出発点にしたという、甲斐田監督の異色作。
売れない俳優の恋人と2人で暮らすOLユキエ。
OLを好きになる会社の同僚の男、真島との関係。
しかし恋人は、なにやら存在が曖昧な感じがする。
ユキエも、同じく、どこか影のよう‥‥。
そんな不思議な感覚を捉えるカメラワーク、
8mm独特の映像の質感、
危うく儚い空気、光、そして音。
すべてに内臓がザワザワする感じがしました。
映画については公式HPをご覧ください。
ここのところ、だいたい年間400本くらい
映画を観る機会があって、さらに、
映画に携わる多くの凄い方々にお話を聞くという、
貴重な機会にも恵まれてきたのですが、
映画を観れば観るほど、正直言って、
「映画というもの」がわからなくなっていく、
かっこよく言ってみると、
“映画のラビリンスに迷い込んでいる”
というか、
ときにどうしようもなく苦しくなる、
そんなことがあります。
それは、あまりにも私の映画に対する観念の幅が
狭過ぎたということの証明でもあるし、
それを押し広げてくれる
映画というものの持つ可能性が、
おそろしいほど大きいということでも
あるのだと思います。
甲斐田祐輔監督も、そういう意味で
映画への認識を覆してくれる、
刺激的な監督のひとりです。
□シネマトグラファーたむらまさきさん
そして今回は、監督ではなくて、
初めてのキャメラマンインタビューが実現しました。
『砂の影』で、ご自身初の8mmでの映画撮影をした、
やはり刺激的なシネマトグラファー、
たむらまさきさんにお話を伺いました。
たむらさんは、1939年、青森県生まれ。
岩波映画を経て、小川紳介監督作品で
シネマトグラファーデビューして以来、
『竜馬暗殺』(74)、『さらば愛しき大地』(82)、
『タンポポ』(85)、『2/デュオ』(97)、
『美しい夏 キリシマ』(02)等々の凄い作品を撮り、
まさに映画の現場で生きてきたキャメラマン。
最近では青山真治監督の
『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』(05)、
『こおろぎ』(05)、『サッドヴァケイション』(07)、
そして昨年末撮り終えたばかりの、池田千尋監督の
『東南角部屋二階の女』が公開待ちです。
©2008タキ・コーポレーション/エキスプレス(手前、たむらまさきさん)
60本を越える映画を撮ってこられた
名キャメラマンにお話を聞くという、
このうえない機会ですので、
この際、いちばん聞きたいこと、
「映画とはなんですか」という質問を
あえてぶつけてみることにしました。
「たむらさんが撮ってこられた、
映画とは、何なのだろう」ということに、
あっちこっち寄り道しながら、
さて、辿りつけるでしょうか‥‥。
じつは『砂の影』も、いろんな意味で、
たとえば撮影法、録音法にしても、
“映画の原点に還る”作品であることも、
この質問を聞く助けになりました。
しかも、もうすぐ、いよいよ(私事ですが)、
『ご近所のOLさんは、先端に腰掛けていた。』は
200回目という節目を迎えるのですが、
これまで漠然と追求してきたことの答えが
なにか見つかるかもしれない、という、
そんなたむらさんとの運命的な出会いに
とてもドキドキしました。
(じつはすでに去年、ひょんなところで
お会いしていたのは驚きですが‥‥)
それでは、
厳しくもときどきおちゃめなたむらさんの
まるで詩を読むように語る、
素敵な言葉の数々に、
耳を傾けてみましょう。
少し長い連載になるかもしれませんが、
最後までおつきあい下さい。
□“新宿ゴールデン街のハローワーク”?
─── たむらさんは、
どこか学校で教えていらっしゃるんですか。
たむら ええたまに。東京芸術大学の馬車道校舎で、
レギュラーの人が休んだりすると、
急に呼び出されて行くだけですけど‥‥。
─── 学生はラッキーですね〜。
たむら さあどうでしょうか。理屈めいたことは
何も教えたことがないので‥‥。
5時になると近くの店が開くのを知ってるから、
それまでなんとかつないで、
そろそろ課外授業に行こうってね。
─── それを楽しみにして?
たむら そっちの方が楽しみで、アハハ。
─── うらやましい授業だなあ。
それが深夜まで続くんですね。
たむら まったく、何をやってんだろね(笑)。
─── 学生にとっては、
そうやって話を聞けるのはうれしいでしょうね。
たむら でもこの間もちょっとウンザリしたんだけど、
何でも聞いてくるんですね。
聞くばっかりなんです。
聞くばかりでちっとも覚えてないなあと
ハナからわかってから「もういいや!」
という感じになるんですよ、気分はね(笑)。
だから僕が先生なんかできるわけがないんです。
─── もっと自分の頭で考えろと。
たむら 聞けばもういい、みたいでね‥‥。
─── たむらさんが、撮影を教わってたときは、
厳しかったですか。
聞いても教えてくれなかったとか‥‥。
たむら 昔はとくに、そうですね。
助手で付いてるだけですからね。
見て、倣ねて覚えるだけでしたから。
─── 「酔眼のまち ゴールデン街 1968〜98年」
(たむら まさき/青山 真治著 朝日新書 79)を
読ませていただいて、
たむらさんが名立たる監督と仕事をしてきた頃の
様子が伺えてすごくおもしろかったです。
たむら いや、呑んでるだけの話です。
タイトルどおり。
─── 「たむらさんと会うなら、
新宿ゴールデン街のジュテに行きなさいよ」
って、とある編集長に言われました(笑)。
たむら そうですよ、ジュテに行けばいい。
今日もやってますよ(笑)。
─── ゴールデン街でハローワークしてたって、
この本に書いてあったけど、
おもしろいですね。
たむら そう。青山(真治)が言ったんですけど、
“ゴールデン街のハローワーク”ってね。
なるほど、確かにそうだったと思いますね。
─── 「仕事ください」っていうんじゃなくて、
話をしてると「じゃ、次の作品撮らない?」
っていう感じになるんだって。
たむら ええ。
別に履歴書とか提出するわけじゃないです(笑)。
─── いい場所ですね〜。
たむら そんな時代でした。
いまはそんなことないですけど。
映画の人もあんまり来ないしね。
─── ヴィム・ヴェンダースや
クリストファー・ドイルも昔は来てたとか‥‥。
そして太地喜和子さんも。
たむら 太地さんは早くに亡くなられて、
ほんとに惜しかったですねえ。
─── いままでいちばん感動した女優さんは
どなたですかと聞きたかったんですけど、
聞くまでもないですね。
たむら ええ。太地さんですね。それはそうでしたね。
─── そうなんですか〜。
たむら うん、いるとすごく楽しくなっちゃう人でした。
緊張とかで空気がピーンと変わるとか、
全然そういうことじゃなくてね。
─── ウキウキする感じですか‥‥?
たむら そう、いるだけで場が楽しくなりましたね。
─── あ〜、すごい。
たむら すごいですよ。
─── そういう方がいらっしゃるだけで、
現場のアドレナリン度が違いますね。
最近はそういう感覚はないんですか?
たむら 石田えりさんも、そういうとこありますね。
─── たむらさんが撮られた
『サッド ヴァケイション』に
出ていらっしゃいますね。
たむら もう1つ、『美しい夏 キリシマ』のときも
撮ってるんですけど‥‥。
ほんとにあの人は、
まだまだ撮りたいですね〜。
つづく。
なんと言ったらいいか、
たむらさんの撮る映像には、
儚さと危うさの間にたゆたう色気‥‥
そこはかとないエロティックさがあると、
なんだか内臓をくすぐられているような、
私にはドキドキする映画が多いことは確かです。
『砂の影』でもそれはとても感じます。
「時効警察」のサネイエ、そしていま
亀梨和也くん主演「1ポンドの福音」でも
おカタいシスターがすっかり嵌っている、
演技の幅がひろ〜い江口のり子さんが、
やはりたむらさんのカメラの前で色っぽく‥‥。
そうそう、光石研さんもいつもより過激な感じ。
ARATAさん、米村亮太郎さんも、
たむらさんにかかるとちょっと不思議な光を放ち、
さらに、ガランとしたアパートの部屋も、
冷めたコンクリートの街も、オフィスの倉庫にも、
刹那さと、切なさを感じさせてくれます。
次回もたむらさんに、
まだまだた映画のことを伺います。
お楽しみに。
★『砂の影』
★「酔眼のまち ゴールデン街 1968〜98年」
Special thanks to cinematographer Masaki Tamura
and Satoko Shikata(Slow Learner).
All rights reserved.
Written and photo by(福嶋真砂代)
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