vol.198
- GEIDAI#2 -2
●映画の見方がガラッと変わる瞬間
──『GEIDAI#2』その2
『second coming』©東京藝術大学
5/24-30 ユーロスペースにてレイトショー
『GEIDAI#2』の後編です。
東京藝大大学院 映像研究科 二期生の、
濱口竜介監督、吉田雄一郎監督、
プロデューサーの藤井智さん、
にお話をうかがっています。
前にシネマトグラファーのたむらまさきさんも、
藝大の馬車道校舎でときどき教えることがあると
おっしゃっていましたが、
まさにその生徒さんたちにお会いしたわけです。
(偶然です!)
やはり講義のあとには「呑みコース」に
なるそうで、そこでドキュメンタリーも
撮ってしまったとか‥‥。
一期生の池田千尋監督のデビュー作、
『東南角部屋二階の女』を
たむらさんが撮影されているので、
公開がほんとに楽しみです。
さて、それでは、
新進気鋭の監督お2人の作品について、
ご紹介します。
2本とも、脚本は監督のオリジナルです。
まず、吉田監督の『second coming』(45分)は、
なんと宇宙人が出演!?
というワクワクする設定のSFです。
宇宙人がふつうに地球に住んでいて、
人間を支配しようとしている‥‥。
宇宙人と人間のハーフの少女の心の葛藤や、
宇宙人と人間の対決アクションもあり、
未来を暗示しながら“いま”を見つめている、
なんとも不穏なエネルギーを孕んだ“B級SF活劇”。
そして、濱口監督の『Passion』(115分)。
前回も書いたけど、ド肝をぬかれました。
トレンディドラマが好きだったという濱口さん。
5人の男女が織りなす恋愛の物語。
しかし、一見「男女7人夏物語」系な感じなの?
と思わせながら、
とつぜん別世界へドーンと連れて行かれたり、
かなりジェットコースター気分も味わいます。
完全に「映画」としての迫力があって、
その世界へ引き込む力の強さが印象的です。
セリフひとつひとつがとても活きていて、
人間の本質と、社会的な生き物としての人間、
矛盾や、共調、摩擦が描かれます。
(占部房子さんや、
ダイワハウスのCMで岡田准一くんと
味のある芝居を魅せている渋川清彦さんも出演!)
では、作品のこと、将来のことに
ついても、じっくりうかがいます。
□“無理やりなシーンが好き”
(『Passion』)
── 『Passion』のキャスティングは、
プロデューサーが決めたんですか?
すごいキャスティングでしたね。
藤井 いや、濱口くんが、自分で。
濱口 みなさんハマってましたね。
── とくに『Passion』は役者にかかる比重が、
ものすごく高かったような気がしました。
濱口 大変だったと思います。
── それを演出するんだから、さらに大変?
濱口 役者さんのほうで、
脚本を気にってやってくださる方が
ほとんどだったので、
“引き出したっていうよりも、
気持ちを削がないようにした”
っていうほうが大きいです。
── 脚本が完成した状態で、オファーしたのですね。
濱口 占部房子さんは、最初、全然べつの役で
お願いしていたんですが、占部さんに決まってから、
占部さんに合わせてかなり変えました。
── これを言うのは難しいんですけど、
ストーリーに統一性があるんですけど、
なかのエピソードでかなり唐突な部分が
ありました。暴力を語る教室のシーンとか。
濱口 そうなんですよ。
── なぜそうしようと?
濱口 野島伸司世代として‥‥(笑)。
── あ〜、そうか(笑)。
濱口 暴力についてあんなに滔々と語りたかった
わけじゃないんですけど、
「教室もの」をやりたかったんですね。
すてきな空間だなと思ってて。
あと、じつはヒロインのカホ(河井青葉)は、
そのシーンまではあまりクローズアップ
されてなくて、でも後半になると、
かなりウェートを占めてくるので、
どこかであの人を無理やりにでも、
観客のなかに残さないといけないし、
キャラもハッキリさせないといけない、
と思ったんです。
── でもあのシーンの結末は、
フェードアウトというか、
解決されないままでしたね。
「そのまま立ってなさい」と
先生のカホが言ってる教室のシーンから、
ばっさりスパゲティシーンに‥‥みたいに。
濱口 僕、映画のなかにああいう無理やりなシーン
が出てくるのが好きなんですね。
ふつうの映画じゃないような感じがほしくて。
薄気味悪くなるじゃないですか‥‥。
── それから、誰が誰を好きで、
でもその人は違う人が好きで、
とか複雑な交換図がありましたね。
まさにトレンディドラマみたいに。
濱口 そんなにぐちゃぐちゃでも無いんですけど、
みんな片想いにすると、
映画っておもしろくなるなって。
「ハチクロ」みたい?
── なるほど〜(笑)。
□“多少無理でも、
宇宙人を出すことにしたんです”
(『second coming』)
── 吉田さんは『second coming』で、
宇宙人と共存する社会が来るという
予見をしようと‥‥?
吉田 いや、そういうわけじゃなくて(笑)。
『宇宙戦争』みたいなスペクタクル映画を
我々の規模で作れないかと最初考えたんです。
でも、まったく無理だとわかって。
いろいろ試行錯誤して、
宇宙人しかないだろうということで、
スピルバーグの1万分の1くらいの規模だけど、
どうにかなるんじゃないかと思って。
フィクション度が高くなると危険だろうと
思ったんですが、多少無理でも、
宇宙人を出すことにしたんです。
── 台本には「宇宙人」と書いてあるんですか。
吉田 台本は「叔父」「叔母」とか
書いてあるんですが、
いちおう注意したのは、自分で「宇宙人」とは
決して言わないこと。それだけはね。
── 「ハーフ」の存在はおもしろいですね。
なるほど〜と思いました。
吉田 とくべつ強く意識してないんですが、
移民的とか、混血児的な現実の世界を
宇宙人と人間のハーフの関係で、
反映できたらいいなと思って作ってました。
「ハーフ」というと、
どこにも属さない、微妙な、
アイデンティティの薄い、ツライ存在だと。
そういうポジションにいる主人公の女の子が
最後、だからこそ、世界が大混乱しているときに
人間も宇宙人も拠り所がなくなって、
どうしようもなくなっているなか、
ひとりだけ突き進んでいくという、
そういうことをやりたかったのだと思います。
□「揺さぶり」をかける映画を作りたい
── では将来的なお話を。
どんな映画を撮っていきたいですか。
濱口 黒沢さんに入学の祝辞で、
「一生、映画と関わりつづけるのが、
プロである」と言われました。
それはお金をもらうとかもらわないとか、
そういうことじゃなくて。
それに僕はけっこう感動して、
そうしようと思ったんです。
だからと言って、関わればいいかという
レベルじゃなくて、
とにかく、撮っていこうと思ってます。
「撮る」というカタチで関わりつづけたい
と思ってます。
「どんな映画か」というのは、
こういう恋のサヤあて系が好きなんです。
‥‥ってこれ、記事になるのかと思うと(笑)。
(‥‥なっちゃいました)
もちろんオファーが来れば断らないですが、
基本的にやりたいのは、
今回の修了作品の方向性をどんどん
発展させていくことです。
── 濱口さん見てると不思議なんですけど、
濱口さんの実生活が作品に出てます?
こんなに恋愛が書けるなんて‥‥。
濱口 出てないんです。
むしろ、出てないというのが、恥ずかしい(笑)。
10代のころトレンディドラマを見て
培ったものが、
20代の映画生活でねじ曲がった、
ということだと思います。
── なるほど、うまく発酵した感じ‥‥。
吉田さんはどんな映画を撮っていきたいですか。
吉田 抽象的な言い方になるんですが、
自分が観てきた映画で受けた「揺さぶり」
のようなものを、
自分の映画で再現していきたい
ということだと思います。
僕がいま映画をやってるという現実みたいに、
人生を狂わせるぐらいの恐ろしい力を、
映画というものは持っていると思うんです。
だから、人の感情に揺さぶりをかけられるような、
フィクションに、もっと意識的に力を借りた
作品を撮っていきたいと思います。
たとえば、カサヴェテスや相米慎二を観て
受けたショックとか、
ふだん僕らが生活しているなかで感じる
感情とは違うなにかを表現して、
いったいなんだろう、わけがわからないと。
ときと場合によっては、
一生、心に残って、まったく違う人生に
導くかもしれない。
自分もそういうものに逢ったからこそ、
いま映画を撮ってますし、
そういうものを自分の作品で再現させたいと
思います。
おわり。
うん。人それぞれの映画体験があって、
ショックの受け方も千差万別だけど、
だからこそおもしろいし、
また次にも、新しいなにかを見たい、感じたい、
そう思わせる、ちょっと麻薬的なというか、
魔法のような不思議な力がある。
そんなすごい力を生み出してくれる映画人たちに、
日々感謝をしたい気持ちです。
濱口さん、吉田さん、
藤井さん
(発言少なかったけどしっかり支えてくれました)
ありがとうございました。
デビューのときにはぜひ教えてください。
人生を狂わせてしまうほどの映画を、
楽しみにしています。
(濱口さんと吉田さん)
★『GEIDAI#2』
★東京藝術大学大学院映像研究科
Special thanks to Ryusuke Hamaguchi,
Yuichiro Yoshida and Satoshi Fujii.
All rights reserved.
Written and photo by(福嶋真砂代)
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