OL
ご近所のOLさんは、
先端に腰掛けていた。

vol.202
- Tengoku ha mada toku 2


なんちゃないから…。
──『天国はまだ遠く』その2




□人間のふつうに生きるリズムに戻れた‥‥。

『天国はまだ遠く』、
徳井義実さんの後編です。

会社や人間関係にどっと疲れてしまった
山田千鶴(加藤ローサ)は、
天橋立で有名な、京都宮津の山奥にある
「絶景の宿ー民宿たむら」に
たまたまたどりついて、そこで、
「たむら」の主人の田村(徳井)に会います。
そんな田村もじつは、
癒えない過去を抱えていました‥‥。

千鶴は素朴な民宿に滞在し、自然に抱かれ、
おいしいごはんを食べて、
田村の懐の大きさにも包まれて、
元気と笑顔を取り戻します。
映画を観てると、千鶴といっしょに、
田村さんの温かさにどっぷり甘えながら、
すごく穏やかな気分になっていきました。
イライラしたり、なにか不安だったことにも、
「なんちゃない」と思えるくらい、
なんだか「救われた」と感じました。

そのころ、殺人的スケジュールから
しばし逃れて、東京から離れ、
大自然のなかで撮影をこなしていた徳井さん。
徳井さんもまた「助かった」と思ったと‥‥。
その言葉に、ちょっと心がチクっとしました。


©2008『天国はまだ遠く』製作委員会

□木からヘンな汁でてるなあ‥‥。

── この山奥の自然に徳井さん、溶けこんでましたね。

徳井 溶け込んでるんですかね。

── こうやって都会で仕事してて、
   かっこよくて、すごく都会の人みたいですけど、
   この宮津の風景の中にいても、
   ぜんぜん不自然じゃないなって思いました。


徳井 もともと、僕の実家は、
   そんなにめっちゃ都会でもないんでね、
   すぐ山とか近くにあるとこなんで。

── じゃあ、懐かしい感じでした?

徳井 そう、懐かしい感じです。

── 撮影の合い間とか、
   自然みながらちょっとボーッとする時間は
   あったんですか。


徳井 うん、なんか、きれいやなと思いながら、
   タバコふぁ〜って吸って、
   「あ、虫や」とか「木から変な汁でてるなあ」とか。

── 汁出てたんだ(笑)。

徳井 そう、木の汁でてるわ〜とか、
   けっこうそこらじゅう触ってましたね、
   花とかね。

── こう、毎日がめまぐるしいから、
   ふだん木の汁みたり、ボーッとすることない?


徳井 ないですね。

── じゃ、撮影の合い間、ボーッとできたんですね。

徳井 はい、すごく、助かりました。
   だからほんまに去年、めっちゃ忙しい中で、
   やっぱり宮津にボーンと撮影で入ってしまうと、
   もう映画のゆっくりとしたペースでやれるから、
   すごく助かりました、個人的に。

── リセットできるみたいな?
   癒されたみたいな感じ‥‥?


徳井 癒されたっていうより、
   なんか“ふつう”に戻れました。
   人間のふつうに生きるリズムに戻れたっていうか。

── 徳井さん、もともとゆったりしたリズム、
   持っていらっしゃるんですね。
   もっと速いスピードの方かなって思ってたら、
   そうでもなくて、
   わりとのんびりしてるほうが好きな感じ?


徳井 けっこう、そうですね。
   生活の大半がどうでもいいことなんで。

── 笑

徳井 けっこう仕事以外はどうでもいいんです。
   だからあんまりよくないんですけど、
   約束した時間をそんなに守ろうとも思わないし。

── 笑

徳井 けっこうどうでもいいことが多いんで、
   基本的にはゆっくりしてますね。

── 田村さんの生活ってわりと理想型ですか。
   農業だから仕事は違いますけど、のんびりしてて。
   でもあれをやれと言われたらどうですか。
   いまからちょっと切り替えて、
   山奥で農業などいかがですかって言われたら?


徳井 いや、それね〜、やっぱ、これ撮ってる最中も、
   いまでもちょいちょい考えるんですよ。
   もう仕事辞めてどっか田舎行ったり、
   実家に戻ったりして、そういうのやろうかなって、
   ちょっと思ったりするんやけど、
   飽きるなあ、と思って。

── 可能性はひくいと。

徳井 もしかしたら、もっと年いったら、
   たとえば50才とかになって、
   ある程度のことは仕事でやったなと思ったら、
   もうスパーンと辞めるかもわからんですけどね。

── 隠居生活に入る‥‥?

徳井 それか、もうひとつ案があるのは、
   40才になったら仕事辞めて、
   40から50才までの10年間で、
   1年に1ヵ所ずつ住むんですよ。
   世界を転々と1年、1年、計10ヵ所住んで。
   もう観光とかじゃなくて、住んで、
   ふつうにそこで生きて。ほんで、
   50才になったら日本に帰ってきて、
   そっからまた何か考えようかなとか、
   そんなプランがあるんですけど。

── へええ〜〜!
   それは世界なんですね。
   どこか行きたい国はあるんですか。


徳井 (しばし考える)オランダとか。

── (笑)急にオランダ。

徳井 いや、スペインとかポルトガルとか。

── ラテンの国、なんか似合いそう。

徳井 なんか関西っぽい感じがちょっとする。
   あとエジプト行きたいんです、ピラミッド見に。

── 見たいですね、ピラミッド。
   (このあと外国話がつづいた‥‥)

   またちょっと映画に戻りますね。
   田村さんが徳井さんだと思うと、
   ますます、こんな男の人いいなって、
   きっと女性は思うと思うんですよ。
   おもしろい話を毎日してくれるのも楽しいけど、
   じつは長い時間を一緒にいられるのは、
   こういうふうに“森”みたいに、


徳井 うん。

── ただただそばにいてくれる。
   そういう男性だったらいいいなっていうのが
   ひとつと。
   もうひとつは、徳井さんの“奥深さ”がでてる
   感じがしたんですね。


徳井 ハハハハ。

── どんなにヘンなかっこ悪いところを見せても、
   「動じない」みたいな。
   きっと徳井さんのほうがかっこ悪いこと
   いっぱいやってるから、
   「オマエのそんなとこ見ても、
    べつにたいしたことないよ」
   っていうふうに、見てくれるんじゃないか、と。


徳井 ハイハイハイ。

── そういう“深さ”って、
   いったいどこから出てるんだろうって、
   徳井さんに訊いていいのだろうか、って
   思うんですが‥‥(笑)。


徳井 深さですか‥‥。

── どれだけこの人って経験豊富なんだろ
   ‥‥みたいなね、そんなふうに見えるんですね。
   言われませんか? 女性に。


徳井 言われます(即答)。
   ただ、まあ、その深いように見られるっていうのは、
   たぶん、黙ってると、何も考えてなくても、
   すごく何かを考えてるようなふうに
   みえる“見た目”なんです、僕。

── おおお。

徳井 だからね、見る人によって、
   すごく思慮深いように見えるんじゃないですかね。

── 見える! だから黙っといて、みたいな(笑)。

徳井 ハハハ、そうなんですよ(笑)。
   ただ、でも、それってね、けっこう、
   映画みた方は「こういう男の人いいですよね」
   って言ってくれるんですけど、
   それを言う気持ちもわかるんですけど、
   やっぱりつきあう人によっては、
   結局、こういう人の優しさとか愛情とかって、
   女の人にはわかりにくいんですよね。
   ベタじゃないから、わかり易くないから。
   言葉にして「大丈夫?」とか、
   そういうのをポンポン言う人じゃないから、
   けっこうわかりにくいんですね。
   女の人って、わかりやすい愛情を
   求めるじゃないですか。

── 最初はそうかもしれないけど、
   そのうち見えますよね、
   本当に優しいのかどうか‥‥。


徳井 それはたぶん大人の女性やから。

── ‥‥すいません。

徳井 よう言われました。
   「なんでもうちょっと優しい言葉かけられへんの?」
   「違う、オレはな、こういうとこで
    優しさ持ってるんだよ」
   って言っても「そんなんわからへんもん」
   って、よう言われました。

── そっか‥‥。
   そういうわかり易さはないけど、
   それは原作にもあるんですけど、
   でも、そういう意味では、長澤(雅彦)監督は、
   徳井さんを見てるんですよ、ね。


徳井 ね。

── 「そんなベタなわかり易さを持った男じゃないぞ」
   というふうに、きっと監督は見てた‥‥。


徳井 ね、そういうのを見て下さったのかな、って。

── 撮影前に監督と、なんか話されました?

徳井 撮影おわってから、
   「よくこんなね、テレビで変態だのエロだの、
    言ってる男を、この役にはめましたね」
   みたいなことをちょっと飲みながら
   話したことがあって。
   ほな、なんか「いやみんなそう言うんだけど、
   俺はイケルと思ったんだよね」って
   言ってはったから。
   それまで(監督と)僕は接点もなにも無いですし。

── そうなんですか‥‥。

徳井 素の僕を見たこともないのに、
   なんとなくそういうのをわかってはったのかなって。

── スゴイですよね。
   テレビ、見てらしたんでしょうね、きっと。


徳井 たぶん、わかんないですけど、
   一応、ネタとかもちょこちょこ見たことはあった
   とは思うんですけど、
   番組とかでチラっと映る、
   “なにもしゃべってへんときの僕”とかね。

── うんうんうん。

徳井 ボケてないときの僕とか、なんかそういうのを
   みてくれてはったんかな、って。

── この間『笑っていいとも増刊号』見てたとき、
   座りトークのとこで、徳井さんだけ、
   しゃべってなかったんですよね。
   そこにいた人、ひとりずづみんなしゃべってたのに。
   徳井さんだけしゃべんなくて、それで
   「あ〜終ってしまった〜」
   と思ったことあったんですけど、
   しゃべってない徳井さんの“空気”みたいなのって
   なんかありますね。


徳井 ‥‥なんですかね。

── なんでそういう“空気”があるんだろう
   って思うんですけど、きっと、
   “闇”があるんだな‥‥って深読みしてしまう。


徳井 う〜〜ん、ありますね、闇が。

── そこに堕ちていくことあるんですか?

徳井 いや、僕、けっこう強いんで、
   そこに堕ちていったりはないです。

── 闇があるな〜って見てる感じ?

徳井 「あるな〜」って。

── ちょっとだけわかった気が‥‥。
   そういうものを少しでも持った人じゃないと、
   ひとが死ぬのを止められないというか。
   止めたところで、その人が本当に死にたかったら、
   死ぬんでしょうけど、
   でも(田村さんは)何もしないのに、
   一緒にいるだけで‥‥、っていうのは、
   すごいことだなって思って‥‥。
   いい人ですよね〜、徳井さん。


徳井 ありがとうございます(笑)。
   いい人なんですよ、僕。
   オカンがいい人なんで、遺伝してんのか
   何なのか、いい人なんです。

── 人を放っておけない?

徳井 無理に「大丈夫か」とかは言わないですけどね。

── 人の気持ちをわりに読めたりしますか?

徳井 いや、勘違いかもわからないですけど、
   読めるつもりではいます。
   合うてるかわかんないですよ。
   人が何考えようがそれは人の勝手だし、
   それは人はいろんなこと思うから。

── わかりました。
   わかってないかもしれないけど(笑)。


   おわり。

ほんとに徳井さんは「田村さん」みたいだなあって、
お話していてもめちゃ感じました。
みなさんもぜひ、山の民宿「たむら」で、
田村さんの徳井さん、に出会ってください!
それと、福田さんも名演技してます。
福田さんもいい味です!


(お笑いバージョン>前回のもみてね)

『天国はまだ遠く』
11/8〜シネセゾン渋谷ほか全国順次ロードショー

ついに次回「最終回シリーズ」の最後、
パレスチナのラシッド・マシャラーウィ監督を
お迎えします。

お楽しみに。


Special thanks to Yoshimi Tokui,
Rie Kajita, Yumiko Yamazaki(Media Box).
Stylist:Chika Miura, Hair&makeup:Hajime Ito(Crollar)
Interview, writing, and photos
by(福嶋真砂代). All rights reserved.

ご近所のOL・まーしゃさんへの激励や感想などは、
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2008-11-07-FRI
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