永田 |
いや〜、たったいま、
第5話を観終わりました! |
西本 |
お疲れさまでした! |
糸井 |
いやー、お疲れさまでした。 |
西本 |
見事に泣いてましたね? |
永田 |
泣いてねーっつーの! |
西本 |
いや、泣いてましたね。 |
永田 |
はい。 |
西本 |
うん。 |
永田 |
でもねえ、今回はね、
ぼく以上に、この人ですよ。 |
糸井 |
いやー参った! |
西本 |
泣いてましたねえ。 |
永田 |
ぼくより先に泣いてました! |
糸井 |
ま、そういう話に、いきなり本題に入るのもね。 |
西本 |
ええ、野暮ですからね。 |
永田 |
じゃ、まあ、くだらない話から。 |
糸井 |
えー、本日は、このドラマを観るまえに、
うちの事務所を、新婚夫婦が訪れまして。 |
永田 |
はいはい、解説しておくと、
去年、弊社を寿退社した元社員が、
ダンナさんとふたりで挨拶に来たのでした。 |
西本 |
残念ながらぼくは用事で不在でしたが、
どうでしたか? |
糸井 |
うん。まあ、とどこおりなく。
せんべいなどを手みやげにやってきてね。
ひと抱えのアルバムとともに。
結婚式の写真ですよ。 |
西本 |
それは、誰か、
「見たいから写真持ってきて!」
ってたのんだんですか。 |
糸井 |
それはしてません。
ちなみにご亭主のほうも
「アルバムはどうだろう?」と
言ったらしいですよ。 |
西本 |
「アルバムはいかがなものか?」と。
客が求めてると勝手に判断したんですかね。 |
永田 |
ま、でも、見たいじゃないですか。 |
西本 |
で、ネタは? 仕込みは? 笑いは? |
永田 |
なぜ、にしもっちゃんが
こんなに厳しいか、解説しておきますと、
その元社員は関西出身で、
笑いに対しては、女性ながら、
にしもっちゃん同様に
厳しい人だったからです。 |
西本 |
結婚式の写真で大爆笑ですか?
どっかんばっかんですか? |
糸井 |
いえいえ笑いは一切なしですよ。 |
西本 |
それはいかんなあ。 |
糸井 |
結婚の挨拶ですから、
しかたないでしょう。 |
永田 |
あっ、ありましたよ、笑い!
ひとつだけ爆笑ネタが。 |
糸井 |
なんでしたっけ? |
永田 |
糸井さんの隣に、
うちの事務所を代表して出席した、
とあるメガネの人が写ってたんですよ!
それが、まあ、気持ちが入っていない、
心、ここにあらずな感じで。 |
西本 |
あ。 |
糸井 |
はいはいはいはい(笑)。
すっごく心のこもってないメガネの人ね。
床屋に行きたてでね。 |
永田 |
なんかこう、集合写真でも
視線を外しがちな感じで。 |
西本 |
‥‥‥‥。 |
糸井 |
真ん前に大きな顔をして写っているから、
遠近法が台無しになっててね。 |
永田 |
「そこにいるのに、ここにいる」
という状態で。 |
糸井 |
直前に床屋に行ったということは、
にしもっちゃん‥‥いや、あのメガネの人は、
顔の分量を減らしたんですかね。 |
永田 |
あ、なるほどね。 |
西本 |
違う! ちが〜う!
ぼくは‥‥いや、その、
たぶん、そのメガネの人はですね! |
糸井 |
髪の短い人は。 |
永田 |
腕の短い人は。 |
西本 |
ええ、その、いろいろ短い、
メガネの人はですね、
たぶん、スピーチをする社長の
お供で行ってるんですよ。 |
ふたり |
そうかもしれませんね。 |
西本 |
そこでお供のメガネが
ふだん通りの伸び放題の髪のままだと
社長の格も
下がっちゃうだろうということを
気にして床屋に行っているわけですよ。 |
永田 |
社長だけでなく、その人の会社の
イメージダウンにもつながると? |
西本 |
ええ。そういうことです。
ふだんのメガネの男を知っている人には
かなり違和感のある短髪だったと思いますが、
さっぱりすることで
逆に目立たなくするという、
つまり、黒子に徹したわけですよ。
ただでさえ、結婚式という場は
新郎側VS新婦側の関係者どうしの
対抗戦になりがちですから、
そういう場で社長や新婦が
恥をかかないようにとの配慮です。 |
永田 |
ところが少々切りすぎてしまい、
顔面がむきだしになって‥‥。 |
糸井 |
写真全体の遠近感を狂わせる羽目に? |
西本 |
ひとつ、ぼくの顔面についての
エピソードを披露しましょう。 |
ふたり |
どうぞどうぞ。 |
西本 |
前職である吉本興業にぼくが入社したとき、
トミーズの雅さんに
ご挨拶に行ったことがあったんです。
「新入社員の西本です!」と。 |
永田 |
ほう。 |
糸井 |
で? |
西本 |
すると、トミーズの雅さんが、
ぼくを見るなり、
「‥‥キミ、顔デカいな!」と。 |
ふたり |
うはははははははは! |
西本 |
一発で名前を覚えてもらいました。 |
糸井 |
あの、トミーズの雅さんをして、
顔の大きさで驚愕させたと。 |
永田 |
いい話、持ってんなあ(笑)。 |
糸井 |
ところでにしもっちゃんは
今日、どこに行ってたの? |
西本 |
ぼくはそのころ新宿のルミネにいました。
福岡の吉本にいたとき、
いっしょに仕事をさせていただいていた
華丸・大吉というコンビが
東京に進出したというニュースを知って
「これはご挨拶に行かねば」ということで。 |
永田 |
不勉強で知りませんけど、
その人たちはおもしろいんですか。 |
西本 |
おもしろいです。
ぜひ、今度いっしょに行きましょう。
まあ、それはともかく、
盛り上がったんですか、
その、新郎新婦を囲む集いは? |
糸井 |
まあ、なごやかにね。
その、結婚式の写真なんていうものは、
けっきょくのところ、
それを「見る人」と「見ない人」に
はっきりと分かれると思うんですよ。 |
西本 |
「見る派」「見ない派」、ありますよね。 |
糸井 |
で、まあ、
基本的にうちは女性が多い会社ですから。
いわゆる女子部の人たちは、
「キレイ」だの「かわいい」だの
言いながら見るわけですよ。
写真を持ってきた元社員も、
そういうことばを聞きたくて
わざわざ重いアルバムを持ってきてるわけです。 |
西本 |
なるほどなるほど。 |
糸井 |
ですから、まあ、ボスとしては、
そういうことばをどんどん言いなさい、と
うながしまして。
正直、ぼくはそういう写真に
あまり興味がないもんですから、
「もっと『キレイ』と言ってあげなさい!」
なんていうことで場を盛り上げていたわけです。
‥‥そこで、永田くんなんですけどね。 |
西本 |
なにかやらかしましたか。 |
糸井 |
永田くんはそういうことについて
積極的じゃないとぼくは思っていたんです。 |
西本 |
ま、当然、そうでしょうね。
顔合わせだの、名刺交換だの、
地下鉄の乗り継ぎだの、苦手ですからね。 |
永田 |
地下鉄の乗り継ぎは関係ないだろ。 |
糸井 |
まあ、とにかく、
永田くんは見ないだろうなと思ってたんです。
ところがこの人!
どっしりと机の真ん中に座って
アルバムを本編から1枚1枚
めくりはじめたんですよ。驚きましたねえ。 |
西本 |
えっ、それは、
そういうネタなんですか?
フリですか? ボケですか? |
糸井 |
違うんですよ、それが! |
永田 |
あの、ぼくね‥‥結婚式、好きなんです。 |
西本 |
えええっ! |
糸井 |
彼は結婚式が好きなんです! |
西本 |
えええええっ! |
永田 |
驚きすぎだろ。 |
西本 |
そういえば、この人、
ぼくの結婚披露パーティーにも
なんか、夫婦同伴でやってきましたよ。 |
永田 |
おい、ちょっと待てよ。
それのどこがいけないんだよ。 |
西本 |
夫婦で来ますか? ふつう? |
永田 |
おいおい。こらこら。キミキミ。
出席して祝福した人に対して‥‥。 |
西本 |
ま、たしかに、誘いましたよ?
「永田さん、ぜひ来てください」と。
誘ったのは事実なんですが、
「ご夫婦でどうぞ」とは
ひと言も言ってないですからね。 |
永田 |
こらこら、待て待て待て!
ワシのことはええわい!
百歩譲ってワシのことはかまへんわい!
カミサンのこと悪う言うてくれるなよ! |
西本 |
キャラ変わってますよ。 |
永田 |
マジメにいうと、それには理由があってね。
どういうことかというと、うちの妻は、
ぼく以上に、結婚式が好きなんですよ。 |
西本 |
おもろい夫婦やなあ。 |
糸井 |
まあ、とにかくね、
アルバムを見ているとき、
永田くんは誰よりも真剣でしたよ。
人っていうのは、わからないもんだなあと
ぼくは思いましたよ。 |
永田 |
や、でも、写真はばっちりでしたよ。
あえて細かいことをいうと、
やや料理の写真が少ないかなという
印象はありましたが、高品質でした。
また、ケーキが無意味にでかかったり、
お色直し後のドレスが派手すぎたり
といったことがなかったのも
個人的には好印象です。
なにより新婦がじつにいい顔をしてましたよ。
ナイスウェディングです。
本人にも「オッケー!」と言っておきましたよ。 |
糸井 |
うん。あれは本心でしたよ。
並みいる女子のとおりいっぺんの
「キレイ」や「かわいい」よりも
あのアルバムを救ったのは永田さんですよ。 |
西本 |
意外なところで、いい仕事しましたね。 |
永田 |
いや、でも、社長もすごい仕事をしましたよ。 |
糸井 |
そうです。今日、ぼくは、
自分が成長した、と思いましたよ。 |
西本 |
どういうことですか。 |
永田 |
そもそも、挨拶とか、儀礼とか、
そういうことをもっとも苦手にしているのは
糸井さんなわけですよ。 |
西本 |
ええ。ぼくも数々の取材に
同行してますから、知ってます。
今回の件も、決まった瞬間に、
「社長は逃げるんじゃないかな?」
と思いました。 |
糸井 |
うん、まあ、苦手ですよ。 |
西本 |
ああ、ぼくも苦手です。 |
永田 |
本来は、ぼくも苦手です。 |
西本 |
ていうか、男子部全員‥‥。 |
永田 |
そういうこと、苦手なんですよね。
それこそ新築祝いとかね。 |
糸井 |
「これはけっこうな」というような
ふつうのことばが言えない性質なんですよね。
ま、今回の件は元社員ということで、
知らない人じゃないですから、
ぼくは本人に、
事前にきちんと言っておきました。
「わたくし、そういうことが苦手なので、
できれば軽くすませたい」と。
向こうももちろんわかってますから、
「私もそのつもりでおります」と。 |
西本 |
ほうほう。 |
永田 |
で、なごやかに集いも進み、
写真もひととおりみんなが見て‥‥。 |
糸井 |
みんながそれぞれに祝福し、
いちおう、会合の役割は終わったねと
全員が思いはじめ、
すっとみんなの口数が少なくなったその瞬間! |
永田 |
その瞬間! |
西本 |
その瞬間! |
糸井 |
ぼくは機をとらえて言ったのです。
「‥‥じゃあ、帰りなさい!」と。 |
西本 |
うわあ(笑)! |
永田 |
座がどよめきましたよ。 |
糸井 |
自分でも仕事をしたなと思いました。
ダンナがホッとした顔をしてましたよ。
だってさあ、妻の元の会社で
ワーだのキャーだの言われながら
笑顔で座ってるダンナというのは
それはけっこう、きついでっせ。 |
西本 |
同性ならではの優しさとも言えます。 |
糸井 |
だろう?
新婦はもっと「キレイ」と
言ってほしかったかもしれませんけど、
ダンナ的にはベストタイミングですよ。 |
西本 |
なるほど。 |
糸井 |
ま、しかし、いろんな夫婦がいますよね。
なんだか知らないけど、
人というのは、男と女、つがいでもって、
生きていくようにうまくできているんですよ。
‥‥と、このようにまとめたそのわけは。 |
永田 |
枕、終わり。 |
西本 |
本編、突入。 |
糸井 |
おっしゃるとおりです。
今回は、夫婦がテーマのひとつでした。
まあ、ああいう展開でしたからね、
これはまた、永田くんが泣くんだろうなあと
思いながら観ていたら‥‥。 |
ふたり |
そのまえに! |
糸井 |
自分が泣いてしまいました。 |
永田 |
糸井さん、早かったですよねー。 |
糸井 |
うん、早かった(笑)。 |
西本 |
まあ、この3人でドラマを観るという企画も
けっこう長く続けてますから、
ぼくは、永田さんが泣くタイミングというのは
はっきりわかるわけです。
(指をパチンと鳴らしながら)
「はい、ここ! 永田、泣く!」というくらい
ピンポイントでわかるわけです。 |
永田 |
やかましい。 |
西本 |
ところがそのずっと前に
糸井さんが泣き出すとは! |
糸井 |
やかましい。 |
永田 |
おかげでぼくは、その尻馬に乗って
のびのびと泣くことができました。 |
西本 |
そういうもんですか。 |
永田 |
泣く人は泣く人で、
気まずかったり恥ずかしかったり
でもこらえきれなかったり、
いろいろあんだよ、これがー。 |
西本 |
エラそうに言うことじゃないっしょ。 |
永田 |
はい。 |
糸井 |
とにかく泣いちゃいましたね。
これ、うちでひとりで観てたら
もう、横隔膜をふるわせてたよ。
「オレの! オレの!
オレの横隔膜を見ろ〜♪」
という感じですよ。 |
永田 |
そんなもん見たくないです。 |
糸井 |
5分だけでもいい! |
ふたり |
やかましい。 |
糸井 |
とにかく、キたなぁ、今回は。
いやぁ〜、参った。 |
永田 |
キましたねえ。参りました。
まあ、いろいろと、
とっちらかってた部分もありましたけど。 |
糸井 |
うん。とっちらかってた。
でもぜんぜん、気にならない。 |
永田 |
そうそう。 |
西本 |
もとの『厩火事』っていうのも、
ああいう話なんですか。 |
糸井 |
うん、あんなような、
笑わせるんだけど泣かせるみたいな話です。 |
永田 |
ちなみに『厩火事』は
ぼくも(古今亭)志ん生さんで聴いてました。 |
糸井 |
ひとつ、残念だったのは、
『厩火事』のなかには
「だいたい、おまえはなんで
あんな男といっしょになったんだい?」
「だって寒いんだもの」
という落語の世界の神髄のような
有名なセリフがあるんです。
落語ファンとしては、
あれを使ってほしかったですね。 |
永田 |
落語のなかに出てくる夫婦って
そういう感じですよね。
たいていみんなケンカしてるんだけど、
本気でいがみあってはいないというか
どこかのところで必ず仲がいいというか、
「まったくもう、この人は」みたいな感じで。
今回の夫婦はその典型なんじゃないですかね。 |
糸井 |
うん。落語にはけっこうな頻度で
ああいう夫婦が出てきますね。
しかも必ず貧乏で。
貧乏×夫婦というのはいいですね。 |
永田 |
あの、ダンナの愚痴をご隠居に相談して、
ご隠居がダンナを悪く言うと
「そんなに悪く言うことないじゃないですか!」
って言い返すところ、好きなんですよねえ。
落語で聴いてたときも笑ったけど、
西田さんの落語でもふつうに笑っちゃった。 |
西本 |
西田さんの落語のシーンでいうと、
今回の劇中劇はまたよかったですねえ! |
糸井 |
もろこし(唐)のところは
観てた人、みんな、喜んでましたね。 |
永田 |
だって、
チョンマゲで来ると思ってるところに
中国なんだもの(笑)。
あっちを劇中劇にするとは
誰も思わないじゃないですか。
だってあれ、落語のなかの劇中劇でしょ。
いわば、劇中劇中劇。 |
西本 |
細かいくすぐりもありましたよ。
「孔子のいえ」とわざわざひらがな表記で、
チープさを加速させてましたねえ。
あと、地味に中国訛り(笑)。 |
永田 |
「アイヤー」! |
西本 |
「たいへんアルよ」! |
糸井 |
また孔子が古田新太さんだからね(笑)。 |
西本 |
あれは、ずるいですよねえ。 |
永田 |
個人的には、あの場面は
ちびTがよかった。
なんかこう、一瞬なんだけど、
ものすごいテンションで。 |
糸井 |
ここぞとばかりに。
水を得た魚のように。 |
永田 |
そうそう。
ようやく水を得た魚、みたいな。
ていうかあのメンツ集めて
わざわざ中国コントやらせてるわけだから、
豪華な悪ふざけですよねえ。 |
西本 |
そのくせ馬小屋なんかは
ほんとにチープで。 |
糸井 |
バカバカしいことをゴージャスにやるのは
このドラマの痛快なところですよね。
それはそれとして、
めずらしくちょっと不満に思ったところを
先に言っておいていいですか。 |
永田 |
お。どうぞどうぞ。 |
糸井 |
あの、竜二がメグミをつれて
自分ちまで案内するあたりがね、
このドラマではじめて
「おもしろくないなあ」と感じたんですよ。
「ここなの?」「あ、ここなの?」と聞きながら
最終的に、すごくボロボロの家に着く。
というあたりがね、ちょっと、なんだなあと。
どうだろう? |
西本 |
なるほど。
ぼくはまあ、スウェーデン大使館で
ひと笑いさせてもらいましたから、
とりあえずその印象がありますけど。 |
糸井 |
うん、でもそのあとがね。
ひとつは、あそこからボロボロの家まで
きちんと段階を追っていけなかったというのが
あると思うんですけど。
これは東京という街の性質かもしれないけど、
金持ちと貧乏の家っていうのが両極端で
中間が見せられないんだと思うんだよ。
だから、中間のところが退屈になっちゃう。
それは自分が街を歩いてても感じるんだけど、
おおむね、ふつうに暮らしてるじゃない?
けっきょく同じようなもんなんだよね。
つまり、都会の中で貧富の段階を表すって
むちゃくちゃ難しいなあと思って。
だから、よくないというよりは、
よしたほうがよかったのかなと思ったんですよ。 |
永田 |
ぼくは中間というよりは、
最後のボロボロの家に違和感というか
不自然さを感じていて。つまり、
「好きな女の子を、
あのひどい家につれていくというのは
いくらなんでも、ないんじゃないか?」
っていうふうに思ったんですよ。
なんでもアリのドラマといっても、
これは変でしょ、って。 |
糸井 |
ああ、なるほどね。 |
永田 |
でも、下のベッドから河本さんが
飛び出してきた瞬間に、
もう、吹っ飛んじゃって。
「ああ、そういうことか」と。 |
糸井 |
あれはおっかしかった(笑)。 |
西本 |
ずるいですよねえ。 |
永田 |
今回、感想としていちばん強く思ったのは、
このドラマって、ぐしゃぐしゃに見えるけれども
じつはすごくバランスに
気を遣ってるんだなということで。
こう、おもしろいことをどんどんつけ足してて、
デコボコしているように見えるんだけど、
片方が飛び出しているようなところは、
その反対側に違うものを置いて、
最終的には釣り合うようにできているというか。
あの部屋にメグミをつれこんで、
これはあまりにもリアリティーがないなと
感じたつぎの瞬間には、
ボロの家、さらにそこを間借りしている竜二、
さらにさらにもうひとり住んでいる河本さん、
という矢継ぎ早の展開で不自然さを
吹っ飛ばしてしまうという。 |
糸井 |
そうだねえ。あそこでゲラゲラ笑って
退屈さが見事にリセットされたというのは
ぼくも永田くんといっしょですからね。 |
永田 |
同じ意味で思ったのは、
序盤、古田さんが生い立ちを語るところで
お母さんが自殺するところ。
なんか、必要以上に
足が長く映ってるなあと思ったんですよ。
ちょっとドキッとするくらい。
でも、最後にもうひとつ、
清水さんの死がドカンと出てきますよね。
あれ、序盤の足がないと、
気持ち的に準備が足りないというか
重すぎるような感じに
なったんじゃないかと思うんですよ。
だから、デコボコななかにも
観る側がスッと観られるように
いろいろバランスをとっていると思いました。
あと、竜二の家の話に戻っていえば、
とにかく竜二とメグミのあいだに
障害を置きたかったのかなあと。
っていうのは、あのまま行くと、
竜二とメグミがふつうに恋人どうしに
ならない理由というのがないんですよ。
美人と二枚目がふつうに
つき合っちゃうことになっちゃう。
だからそこに、いったん、
「貧乏はイヤなの!」という障害を
持ち込んで、竜二とメグミの関係を
縦軸としてふくらませるんじゃないかと。 |
糸井 |
うん。突っ込んで考えると
メグミというキャラクター
の価値観というのを表現するために
ああやってわざわざ
段階を追って見せたのかなあとも思えますよね。
ま、そうやって小難しく考えなくても、
河本さんのところでオッケーなんですけどね。 |
西本 |
あれ、ずるかったなあ(笑)。 |
永田 |
あの人は、なんだっけ、
「次長・課長」だっけ? |
西本 |
そうです。「次長・課長」です。
じつは、今日観た
ルミネの舞台にも出てたんですが、
「次長・課長」は
生で観ておいた方がいいですよ。 |
永田 |
あ、そうですか。 |
西本 |
ブレイク直前の
「おもしろオーラ」が出てますよ。
今日もそうとう笑いました。 |
永田 |
それは、にしもっちゃん特有の
「エールとしての笑い」じゃなくて? |
西本 |
エール抜きです。純粋に笑えます。 |
糸井 |
それにしてもいいタイミングで
あの人をキャスティングしたよね。
出番は一瞬だけだけど‥‥。 |
西本 |
いちばんいい使われかたですよ。 |
糸井 |
しかも、いちばんいい時期でしょう? |
永田 |
大ブレイク中、というのでもないし、
まったく知られてないという時期でもないし。 |
西本 |
ああ、そのとおりですね。 |
糸井 |
「次長・課長」はぼくにとっては
吉本興業の価値を底上げする存在でしたね。
まあ、にしもっちゃんに
気を遣って言うわけじゃないけど、
つまり、知らない人が
こんなにおもしろい会社だったら
そりゃあすごいんじゃないかってことですよ。
8番バッター候補みたいな選手を集めて
チームを作ったらリーグ優勝しちゃった
というようなことじゃないですか。 |
西本 |
売れてる、売れてないは別として
「おもしろい人」は
いっぱいいる会社ですよ。 |
糸井 |
オレ、いまでも覚えてるんだけど、
ずいぶん昔に、西本に
「いま、誰がおもしろい?」って訊いたら、
「DON DOKO DONのぐっさんです」
って答えたのね。当時、
DON DOKO DONも、ぐっさんも、
まったく観たことがないころですよ。
あと、あの一輪車の人の話も聞いたりしてね。 |
西本 |
あ、Mr.ボールドさんですね。
お亡くなりになりましたけど。 |
永田 |
ああ、あの人か。
『いいとも!』で観たけど、
おンもしろかったなぁ。 |
西本 |
あの人は関西では
「滑らない人」と呼ばれてましたから。 |
糸井 |
つまりね、Mr.ボールドさんと
DON DOKO DONのぐっさんというのが
ぼくらからは見えないところで
ふつうに暮らしていたわけですよ。
知ってる人から見たら
ビッカビカのおもしろい人なんだけど
俺たちからしたら知らないわけで、
いわば吉本興業というのは、
内部に無数の小劇場を
抱えているわけじゃないですか。
それは、感心するよね。すごいと思う。 |
西本 |
ルミネに行くと、
いろいろおもしろい人いますよ。 |
永田 |
そういうのテレビでやらないんですかね。 |
西本 |
いや、ルミネに行くべきでしょ。 |
糸井 |
でも、こうやって、ドラマから分岐して
いろいろ語れるというのが
クドカンシリーズのおもしろさだね。
寄席に行く人もいるし、
芸人それぞれを追っかける人もいるし。
小劇場に行く人もいるし、
街に行く人もいるし。 |
永田 |
ドラマの話に戻りますけど、
今回は「漫才」を出してきましたよね。
なんといってもあの、
古田新太さんと清水ミチコさんの
コンビが強烈でしたけど。 |
糸井 |
あのキャスティングはすばらしいよね。
あれ、不思議だったんだけど、
漫才っていうのは、
「役者が落語を演じること」にくらべると、
ずいぶん落ち着いて観られますね。
できてる、っていう感じがするんですよ。 |
永田 |
客席が爆笑してるっていうことも含めて、
パロディーとしてすぐに成立するからですかね。
落語だと、鑑賞する経験が少ないぶん、
元がどうだかが観る側に染みついてないから
パロディーになりにくい。 |
糸井 |
元・お笑い本職のにしもっちゃんとしてはどう? |
西本 |
まあ、ぼくも、
永田さんの言う
パロディーとして観てたというか、
「漫才という記号」として観てたんですけどね。 |
糸井 |
ちゃんとできてるなぁと思わなかった? |
西本 |
う〜ん、ま、細かいことをいうと、
どつき漫才ですから
ネタやしゃべりのうまさ云々よりも
どつき具合がポイントなんですよ。
だから、跳び蹴りとかは
もっとキレイにやってほしいなあと‥‥。 |
永田 |
厳しい(笑)!
それ、本職の芸人さんに対するコメントじゃん。 |
糸井 |
ついついそういう目で見てしまうほど
できていたということでもあるね。 |
西本 |
あ、そうかもしれませんね。
だからこそ、跳び蹴りが惜しい。
売れる直前のころの
雨上がり決死隊の宮迫さんレベルの切れ味を
ついつい求めてしまいます。
こう、高く跳んで、バーンっと。 |
糸井 |
それじゃプロレスになっちゃうぞ。 |
永田 |
そういや今回は序盤から
「蹴り」が続いてましたね。
ドラゴンソーダの店員の子も
キレイに決めてました。 |
糸井 |
ま、パロディとしてでも記号としてでも、
それができていたというのは、
もちろん、古田さんとみっちゃんの
技量によるところが大きいわけだけど、
もうひとくくり大きな枠でいうと、
やっぱり「漫才」っていうものの
力だともいえますよね。
つまり、観る側までその記号を
スッと理解できるというのは、
日本人にとってやっぱり身近なんですよ。
ほら、日本人だったら
誰でも演歌が歌えるじゃないですか。
それに近いですよね。 |
永田 |
あああ、なるほど。
「演歌のマネ」って、
みんなすぐにできますよね。 |
糸井 |
そうそうそう。 |
永田 |
逆にいうと、だからこそみんな、
「漫才」に厳しいんだということも
わかりますよね。
男女を問わず、年齢を問わず、みんな平気で
おもしろいだの
おもしろくないだの言うもんなあ。
そう考えると、やっぱりあれを成立させてる
古田さんと清水さんもすごいですね。 |
糸井 |
うん。だって、「漫才師」の役じゃなくて、
「実力がある漫才師」の役だからね。
そのあたりは、さすがですよ。 |
西本 |
あれはよくできたなと思いましたよ。
とくに清水さんはたいへんだった思うんです。
古田さんは大阪ですけど
清水さんは岐阜の人ですから、
やっぱりノリというかタイミングって
違いますからねえ。 |
糸井 |
しかも、笑わせるだけじゃなくて、
笑いの向こうにある
「すごみ」みたいなものを
出さなくちゃいけないじゃないですか。 |
永田 |
むしろ、今回のそっちの部分が
出なきゃいけない役どころで。 |
糸井 |
出てましたよねえ。
いやあ、でも、清水さんに
泣かされるとは思わなかったなぁ。 |
西本 |
ふたりして。 |
永田 |
最後の舞台のところはとくにキましたねえ。
しかも、
「おいおいその舞台、どうするんだよ」っていう
心配みたいなものも作用するんですよね。
シ〜ンとしたお客さんと同じ状態で観てる。
で、泣かされて、そのまま
シロクロ写真にボン! ですからねえ。 |
糸井 |
気持ちのいい乱暴さですよね。
もうちょい表層のところでいうと、
あの「まりも・まるお」にはまた、
「どっかで見たことある感じ」
というのがたくさん詰まっててよかったよね。
正司敏江・玲児がまざってたり。 |
永田 |
あの、頭の花を引っ張って、
「ぽよよ〜ん!」って言う人は
誰でしたっけ? |
西本 |
「かつみ・さゆり」さんですね。
さゆりさんは昔、
会社の廊下ですれ違ったことがあるんですけど、
「なんてきれいな人がいるんだろう」
と思いましたよ。 |
永田 |
若き日の西本が廊下で思わず
ぽわわわわ〜ん、と。 |
西本 |
そうそう、ぽわわわわ〜ん、と。
女優さんかと思ったら
芸人さんだったんですけど。 |
糸井 |
なんかの番組ではピアノを弾いてましたよ。
たしかあの人たちって、
借金返すために嫁を漫才師にしたとか、
そういう感じでしたよね?
だからそのへんもまるおたちと
ちょっとかぶるんだね。 |
西本 |
ええ。かつみさんは元々は
「どんきほ〜て」
というコンビだったんですけど
コンビ解散をして
素人だった奥さんと組むことになったんです。 |
永田 |
え、素人なんだ! |
西本 |
そうなんですよ。
「借金返すためにがんばりや!」と
みんなが応援しているうちに
それなりに見れるようになってきて。 |
糸井 |
すごい話だろ。しかもね、
それを知っててテレビを観ている人の数って
ものすごく多いと思うんだよ。
それって演芸の世界ならではって思うんだよね。
元々、素人で、借金があって、
かり出された奥さんで、というのを知ってて、
「ぽよよ〜ん!」を観てるわけだよ。
それはね、やさしいと思うよ。 |
永田 |
それは、みんな知ってること? |
西本 |
大阪の人はほとんど知ってると思いますよ。 |
糸井 |
知ってるよね。 |
永田 |
へええ。知らなかった。 |
西本 |
まあ、今日も東と西の
文化の違いということが出てきましたが。 |
永田 |
あれ、ソバ屋が泣きながら言うところは
ゲラゲラ笑っちゃったなあ。 |
糸井 |
あれはよかったですね。
ふたりの生き様を
東と西の文化に重ねてるのもおもしろかった。
同じ道を歩んでたんだけど、
暴力に行くか、笑いに行くか、
ふたつに分かれるという。 |
西本 |
どの状況においても
笑いを優先するというのが
とくに関西のお笑い芸人の宿命ですから
刑務所に行っても笑いを
とろうとするというのは
それっぽいなあと思いました。 |
永田 |
虎児もよかった。 |
糸井 |
よかったですねえ。
さらに大きい人として描かれてました。 |
永田 |
前々回あたりからそうなんですけど、
おもしろいものを観ると素直に笑う、
というのが虎児の「大きさ」を見せる
いい演出ですよね。 |
西本 |
「だって、もったいねえじゃねえか」
というひと言で、マネージャーまでやって。 |
糸井 |
あのへんはいいよねえ。
『タイガー&ドラゴン』も、
まだまだもったいないですよ。
もっと大勢に観てもらいたいですね。
嘘臭い世界を描いているんだけども
リアリティーがものすごくあるじゃないですか
これを味わって欲しいですね。 |
西本 |
ええ。人がどういうときに悲しくて
どういうときにうれしくて、たのしくて、
というリアリティーですよね。 |
糸井 |
そういうことが
ぜんぶ入っているじゃないですか。
すばらしいですよね。
あと、細かいところでなにかありますかね? |
永田 |
「さゆりちゃんが泣いてる」シリーズは、
「まりもちゃんが泣くと私も泣くよ」
とさゆりちゃん本人に言わせるという
複雑な展開を見せてました。 |
糸井 |
あれ? 今回、「ヅラ」はあった? |
永田 |
ありましたよ。 |
糸井 |
どこ? |
永田 |
お葬式というか、
遺影の前にみんなで喪服でいるところ。 |
糸井 |
え、そうだっけ? |
永田 |
はい。あそこ、
カツラを取って座ってるんですよ。 |
糸井 |
え? どういうこと? |
永田 |
喪服のときは、カツラを取るんです。
そういう、静かな静かな、カツラシリーズ。 |
糸井 |
あはははははは。 |
永田 |
あと、細かいところでは、阿部サダヲさんの、
「器が割れやしないか?」と
36回言うというのがすごかった。 |
糸井 |
ああ、あれはすごかったねえ。 |
永田 |
よく落語で
「三十六っぺんも言ったんだよ」みたいな
言い回しが出てくるんですけど、
それを実際にやると
ああなるのかと感心しました。 |
西本 |
あと、二ツ目になって、
虎児に出囃子ができてましたよ。 |
永田 |
あれ、笑ったなあ。
『仁義なき戦い』! |
西本 |
♪チャラーーーーーー! |
永田 |
♪チャラララーーーー! |
糸井 |
あ! あと、「まりも・まるお」の
出囃子もなんだか
聴いたことのあるような曲だったぞ。 |
西本 |
そうそう、なんかの曲だろうな、
みたいな感じでしたよ。
(※読者の方から寄せられたメールにより、
ドリカムの『EYES TO ME』だと判明。
ちなみに冒頭のメグミの出囃子は
『魔女っこメグちゃん』だったらしい!) |
永田 |
最後に、ものすごく
どうでもいい話をしていいですか。 |
ふたり |
どうぞどうぞ。 |
永田 |
思えばぼくら、3人でずっと、
同じコマーシャルを見続けているわけですよ。 |
西本 |
まあ、そういうことになりますね。 |
永田 |
考えてみたらそれが妙なことだなあ、
と思って。
っていうのはね、なんか、あの、
家のコマーシャルあるじゃないですか。
なんか、台所で母と娘が話してて、
父親が部屋でパソコンやってて‥‥。 |
西本 |
「来てたのか?」ってやつ。 |
永田 |
そそそそそそ。
あれでね、カーペンターズが流れるでしょ。
『遙かなる影』が。
あれをね、毎回毎回、
糸井さんが口ずさむんだけど、
必ず、おんなじ場所からなんだよ。
「♪Why do birds‥‥」の
「birds」のところからなの。 |
西本 |
ああっ、そうそうそう! |
糸井 |
うわーー、そうだっけ(笑)? |
永田 |
「♪ぅわい、どぅ、ばぁ〜っ‥‥」の
「ばぁっ」から入ってくるんですよ、糸井さん。
で、毎週、この人はおんなじところから
入ってくるなあと。 |
糸井 |
どうでもいいじゃないかそんなこと! |
西本 |
ついでに言わせてもらうと、
あのコマーシャルは、
どういうストーリーなんですか! |
ふたり |
え? |
西本 |
あれ、話の筋がちっともわからないんですよ。
オヤジに家を建てる借金を頼みに来た娘なのか
離婚して出戻りの娘なのか? |
糸井 |
え? あの「来てたのか?」のオヤジ?
あれは「お父さん、私結婚するのよ」とか
そういう話じゃないの? |
西本 |
いや、そういう感じじゃない。 |
永田 |
ちなみにぼくは、毎回、糸井さんの
「♪ぅわい、どぅ、ばぁっ」の
「ばぁっ」に気を取られているので
まったく覚えていません。 |
西本 |
結婚を打ち明けるにしては
ちょっと歳がいってるし。
やっぱり出戻り? |
永田 |
娘夫婦がいっしょに住みたいと思ってるとか、
それで家を増築するとか、
そういうことじゃないの? |
西本 |
それにしては最初からデカいんですよ、あの家。
もう、「次長・課長」の河本さんが
何人住めんねん、というくらい。 |
永田 |
気になってきた。 |
糸井 |
来週、注目してみよう。 |