加地 | ほんとうは、ケンカもアホも、 調整はプロデューサーに任せて、 ただ現場はものを作るという体制が いちばんいいんだと思います。 「お前ら、おもしろいもんだけ作りゃいいんだぞ」 ということにしたい。 なのにいまは、それを 下の人間にも求めてしまう時代です。 ですから、ちょっと かわいそうだなぁと思うんです。 |
糸井 | だけど、その「かわいそう」は、 やったほうがいいってことかもよ? |
加地 | そうなんですかねぇ。 |
糸井 | ぼくは、わりとそのあたり、 「半」分業がいいなぁと 思っているところがあります。 例えば、会社の経理が めんどくさそうなことしてるときに、 たまたまそれを見た別の部署のやつが 「大変だね」と言うのは、きっと重要なんですよ。 「手伝おうか」とか、 「やめてください!」とか。 |
加地 | (笑) |
糸井 | それがないとね、 人間がやってることとしての かたちにならないと、ぼくは思います。 「だってぼくは、核爆弾のスイッチを 押す役ですから、考えません」 という、超分業の人がいたとしたら‥‥ |
加地 | 恐ろしいことになりますね。 |
糸井 | 一生懸命仕事するというのは、 そういうことですからね。 だけど、その人が帰宅したら、 そこには家族もいることでしょう。 原爆があっち側に落ちるかもしれないな、 と思う心は、やっぱりあると思います。 自分のいる場所がわかってて、 そのうえで、「ここは任せとけ」「頼む!」 ということができるといいなぁと思います。 テレビも、貧乏じゃないと、 どんどん分業になっちゃいますから、 貧乏をどう上手に作るかが、 わりと重要なんですよ。 |
加地 | いや、ホントにそうかもしれませんね(笑)。 |
糸井 | 加地さんが 考えの最初に置いていることって 何ですか? |
加地 | そうですね、やっぱり たのしいのがいちばんです。 みんながたのしく仕事できたらいいなぁ、ぐらいに いつも思っています。 それが画面から伝わって、 視聴者もたのしい気分になれるのだと思ってます。 ぼくは、もともとほんとうに テレビが大好きだったんですけど、 最近は、テレビが好きなのか、 お笑いが好きなのか、 芸人さんという人たちが好きなのか、 わかんなくなってきました。 もしかしたら芸人さんのことが 好きなだけなのかな? そんなことをまぁ、ちょっと思ったりしてて‥‥ おかしな悩みなんですけどね(笑)。 |
糸井 | ああ、それはもっと広がっているということで、 つまり、加地さんは 「人間」というものが おもしろいんじゃないでしょうか。 |
加地 | ああ、そうですね! だから、ぼくはすぐに 「気持ち」とかいうところに 話を持っていくのかもしれません。 |
糸井 | 芸人さんというのは 上司のいない世界で生きてる人たちだし、 甘いだの酸っぱいだのを 自分で判断するチャンスがたくさんあるので、 「人間」が出やすいです。 笑われてなんぼ、というところもあるし。 |
加地 | そうなんです。 ぼくなんかは、サラリーマンの道を選んで、 いままで来ました。 |
糸井 | うん。 |
加地 | フリーになるとかならないとか、 迷ったこともあったりしたけど、 彼らは最初から、 安定を捨ててやってきたんです。 もしかしたら明日から 一銭も入ってこないかもしれない世界です。 |
糸井 | そうですね。 |
加地 | そうやってあの道に飛び込んで、 ある程度結果を出してる人たちです。 そういうステージをあがって出て来た人たちを、 やっぱりないがしろにしちゃいけないというか、 雑に扱っちゃいけない。 そういう尊敬の気持ちも、 番組を作る自分の中にあるんだろうと思います。 |
糸井 | 芸人さんたちって、特に、 階層として低いふりをしてるでしょう? |
加地 | はい。 |
糸井 | 社会が無意識で持っている、ある種の見方を 利用して育った人たちだとも言えます。 昔だったら博士や政治家になった人が いまは芸人になってるんじゃないかな? |
加地 | そうかもしれませんね。 すごい人たちがテレビで笑わせている時代。 |
糸井 | ああいう人たちが テレビに出てるんだから、 ぼくは懲りる前に テレビに出るのを減らして よかったなぁと思うんです。 |
加地 | うーん。 糸井さんはご自分のことも、 客観的に考えるんですね。 |
糸井 | うん。自分をまぜて考えられることは けっこう大きな力になってると 自分で思います。 |
加地 | その強さは、すごいですね。 そういう人は、きっと 殴られても平気な顔ができる。 「へらへらできる」というのは まさにそういうことです。 それはホントにすごいことだなぁ。 |
糸井 | うーん‥‥それはきっと、 自分がもともとは ゼロだということが 痛いほどわかってるからですよ。 |
加地 | ああ! それは、ぼくもそうなんです。 最近それに気がついたんですけど そう思えてから、 ほんとうに楽になりました。 |
糸井 | でしょ? |
加地 | だけど、ぼくはクリエイティブという言葉を 糸井さんからはじめて聞いたと思ってます。 その糸井さんがそうおっしゃって‥‥ なんか、すごいことを聞いた気がする(笑)。 |
糸井 | ゼロなのは、ほんとうにそのとおりですよ。 |
加地 | ぼくはクリエイターでも何でもありません。 ゼロからは何にも思いつかないです。 この世界に入った頃、 放送作家の人、芸人さん、 みんな新しいことを ゼロから思いついてすげぇなぁ、 俺はこの世界では生きていけないなぁ、 と思ってました。 でも、ゼロのぼくが何をしなきゃいけないのか、 この頃だんだん見えてきたんです。 あっちで得た経験をこっちに活かしたり、 スタッフをこう固めてみよう、 芸人さんが考えたネタをやっちゃおう、 ほんとうにいろいろ出てくるんです。 |
糸井 | そうなると、何でもできますよね。 |
加地 | クリエイティブというよりも‥‥ そうですね、 「展開」のようなことが おそらく自分は得意なんだと思います。 |
糸井 | うん。だけど、ゼロって、 1だの10だののふりをしないと、 みんなの票が入んないんですよ。 そのうち、それに耐えられなくなります。 |
加地 | うーん‥‥。 |
糸井 | 1だ、2だ、合わせて10だ、 と言いたくなるところを、 それはもうおまけの話なんだと思うことにして、 自分はゼロだと言い張ってたら おもしろいですよ。 それ、できる人、少ないですから。 |
加地 | よくわかります。 |
糸井 | 逆に、負であることは ゼロよりも強いんですけど、 負は、成り上がって満足したら おしまいになってしまう。 それは、矢沢永吉さんが、 ずっと苦労なさっているところです。 |
加地 | なるほど。 |
糸井 | 負で反抗するのでもない、 正で権威をふりかざすでもない、 ぼくはわからないけど、という態度で どんな人ともちゃんとつきあえる。 芸術家が来ても、資産家で威張ってる人が来ても へっちゃらです。 |
加地 | フラットなんでしょうね。 すごくよくわかります。 いやぁ、今日の話はぼくにとって 大収穫になりました。 |
糸井 | ぼくもです(笑)。 これからも楽しい番組を、お願いします。 |
加地 | ありがとうございます。 |
(今回で、この対談はおしまいです。 ご愛読ありがとうございました!!) |