糸井 | 加地さんがキョロキョロしてる場所を ぼくは、お客さんとして 一緒になって忙しく見ています。 まんまとやられてますよ、ホントに。 |
加地 | いえいえ。 |
糸井 | いまは、芸人さんたちが スタッフの心になっちゃってる時代、 とでもいうのでしょうか。 以前から(萩本)欽ちゃんみたいな、 演者でありすごいスタッフでもあるという人が ときどきいたんですけども、 いまは、もしかしたら 3分の1ぐらいの芸人さんが 頭の中でスタッフをしてるかもしれない。 |
加地 | そうですね。 |
糸井 | この傾向は、まだまだ続く感じがします。 |
加地 | 10年くらい前までは、視聴率のことなんて 芸人さんは気にしなかったのに、 いまはみんな、視聴率はもちろん、 編集のことまで考えたりする人もいます。 「こういうふうにやっていかないと番組が終わる」 とか、そういうことまで。 |
糸井 | それは一種のマーケティングですよね。 |
加地 | それがもう、すごくなっちゃってる。 |
糸井 | うーん。 危ないと言えば危ないですね。 |
加地 | 芯がなくなっちゃうので、これは どちらかというと危ないです。 ですからぼくは、 『ロンハー』や『アメトーーク!』の収録中、 特にチャレンジ企画では、 数字を気にしなくていい、と 言うようにしています。 |
糸井 | うん、うん。 |
加地 | 番組の構成的にも、 ゲストを早めに画面に出すほうが 数字がいいことはわかっています。 「後輩の山崎に憧れてる芸人!!」の回でも、 山崎をすぐに出すほうが 数字はよかったに決まってます。 でも、その前にきっちりトークをして 山崎が出る用意ができてからの登場でないと ほんとうは成り立たないんですよね。 そのあたりは気をつけて 構成し、編集するようにしています。 |
糸井 | 数字だけにひっぱられた結果、 とんでもないことになっちゃったり。 |
加地 | ええ。例えば、 ある芸人さんがすごくがんばって 企画がおもしろくなって、 その芸人の名物企画になったのに、 数字が見えるということだけで、 ほかの芸人にやらせて 企画を平気で使いまわすような場面を目にします。 その企画は、その芸人さんだから成立してたし、 その芸人さんがヒットの立役者なのに。 |
糸井 | そのほうが新鮮だと思ったら‥‥ダメですよね。 |
加地 | もしもそこの場所で何度かやって飽きられたら 勇気を持ってやめて 新しい企画を考えなきゃいけないんです。 それがやっぱり 作り手の気持ちだと思うんですよ。 制作側は、番組を作っていく上で 毎週「視聴率」という数字で判断されて まわりからとやかく言われる状況があります。 それは、しかたない。 ふつうの人間は、そこで折れちゃう。 だけど、山崎のあのハートの強さのように(笑)、 そこに打ち勝っていく気持ちが必要です。 どれだけ強いハートで闘えるか、ということが いまのテレビの状況を乗り越えさせて いくんじゃないかなぁと思うんです。 |
糸井 | クリエイティブとかアートとかいうと変ですけど、 ものを作るということは、 ある意味ではひ弱なことです。 だけど、それを守るもうひとりの パンチを持った自分がいてなんぼ、 というところがあると思います。 |
加地 | うん、そうですね。 |
糸井 | 殴られても痛くない自分を もうひとり作らないと、 いまの時代、アートができないですよね。 |
加地 | いま、テレビになかなか 芯のある企画が出てこないのは、 以前から、どこの局でも、 毎週高い視聴率を取らなければいけないという 偉い人たちからの追い込みが 強くなっているからです。 現場の子たちは余裕がなくなってるし、 殴られても平気なんだという 強さも持てないでいるんです。 |
糸井 | 「もうちがうんだ、負け側にいるぞ」と 思ったほうがいいんだよね。 そういうときに、テレビの人たちって 意外とパワーを出すでしょう? フジテレビの三宅(恵介)さんがやった 『27時間テレビ』は、そうですよね。 |
加地 | はい。あれは反抗ですよね。 |
糸井 | (明石家)さんまさんとのスクラムの組み方は 『がんばれ! ベアーズ』みたいだったよ。 |
加地 | (笑) |
糸井 | 最高に力のある人がベアーズになったら 勝つよね。 |
加地 | 勝ちますね。 すばらしかったです。 最後のシーン、 CMを入れなかったんですよね。 |
糸井 | はー、そうなのかぁ。 |
加地 | スポンサーを入れちゃうとできないことがあって、 あそこはノー提供だったらしいです。 それは、会社が動かないとできない話なんですよ。 |
糸井 | あれは、三宅さんが 陰腹を切ってたんだろうね。 |
加地 | 三宅さんが、やっぱりすごいです。 |
糸井 | 三宅さんはパンチで闘うというのではなく、 のらりくらりとアホなふりを したりしてるけど(笑)。 |
加地 | そうですね。アホなふりをするって すごいと思います。 ぼくもなるべくやるようにしてます。 正論だけぶつけても、やっぱり勝てないから。 |
糸井 | 論争で勝っても一銭にもならないもんね。 |
加地 | そのとおりです。 自分がやりたいことを通すためには へらへらすることも必要ですし、 顔はいくつか、持っておかなくてはいけない。 |
糸井 | ケンカも必要、アホも必要。 加地さん、忙しいよね。 (続きます) |