糸井 | あのね、ジャイアンツのピッチャーで 香田(勲男)という選手がいたんです。 香田選手のあだ名、何だと思います? ‥‥シャーミーっていうんですよ。 |
加地 | 幸田シャーミンの。 |
糸井 | だけど(笑)、 「シャーミン」でさえないんですよ。 |
加地 | 「シャーミー」ですか(笑)。 |
糸井 | 選手同士で話すとき、 「シャーミーがさぁ」って言うんです。 その工夫のなさは、 何といったらいいんだろうなぁ(笑)。 ちなみに、川相(昌弘)はジイですよ。 ジイだ、シャーミーだ、 斎藤(雅樹)はセイロクですよ? |
加地 | 雑ですね(笑)。 |
糸井 | でも、その雑さって、 なんだかみんなが忘れてったものなんだよなぁ。 「シャーミー」ってあだ名を つけられちゃったやつが、 その後どんなにとんちのきいた いいあだ名を付けられても、 「シャーミー」には必ず負けると思います。 |
加地 | とてもよくわかります。 雑って大事ですよね。 |
糸井 | そこは、テレビも忘れてる部分では ないでしょうか。 |
加地 | そうですね、どちらかというと、 ぼくもわりと雑じゃないのかもしれないです。 だけど、ほかの番組を見ていると 「もっと雑なほうがおもしろいんじゃないかな」 と思うことはあります。 |
糸井 | そこがねぇ、 ものすごく悩ましいところなんですよ。 |
加地 | 「雑に作る」って、 一歩間違うと悪く見える。 だから、勇気が要るんですよね。 |
糸井 | どのくらいわざとかという加減のしかたも、 伝わんないようにしなきゃいけないですからね。 |
加地 | ええ、それもつらいです。 |
糸井 | それ以上よくやると落ちるし、 それより下はダメだし。 そこで出てきたのが、あの 有吉(弘行)さんですよ。 「おしゃべりクソ野郎」 ‥‥クソ野郎はひどいでしょう。 |
加地 | はははは。 |
糸井 | 「クソ」もひどいし「おしゃべり」も「野郎」も、 全部ひどいんだけど、 3階建てにして、 相手が品川だったらできる。 |
加地 | そうなんですよね。 マルチミックスです。 |
糸井 | あのときのオンエアを見てたんだけど、 ホントによくできてた。 これは誰かにあとで言うだろうなと 思ったことを憶えています。 |
加地 | 「おしゃべりクソ野郎」は、忘れないですよね。 |
糸井 | そう、宮迫君のあだ名も、よかったはずなのに 忘れちゃった(笑)。 「おしゃべりクソ野郎」だけは憶えてる。 有吉さんは、きっと ほんのちょっとだけでも、 本気でそう思ってたんですよね。 |
加地 | ええ。本気で思ってないと、 あれは出ないですね。 |
糸井 | 芸だから、というには ストレート過ぎるし。 |
加地 | (笑) |
糸井 | あれは、『アメトーーク!』という劇団の中でも 最高の部類に入るドラマでした。 |
加地 | あとでよーく観てみると、 「おしゃべり」と言ったあと、 有吉は一瞬、つまってるんですよ。 そして、何か言わなきゃいけないと いうふうになって、出たのが 「クソ野郎」です。 その場で出た言葉であるということが、 自然に本音度を載せることになった。 それがおもしろいんですよね。 |
糸井 | なるほどねぇ。 |
加地 | 「一度言いかけた」という 絶妙な間合いがよかったんです。 有吉が、あだ名の一発目を もしもスッと言えてたら おもしろくなかったと思います。 |
糸井 | それじゃあ作品になっちゃうんですよね。 有吉さんの「あだ名」は、 作品じゃなくて詩ですね。 |
加地 | ああ、そうです。 |
糸井 | 見事でしたよ。 あの後もよくめげずに、有吉さんは 「作品のようでいてそうじゃない」 というあたりで、耐えています。 |
加地 | そうですね。 |
糸井 | あの人の、無駄じゃなかった 苦労時代が そのあたりにちゃんと 効いてるんでしょうね。 |
(続きます) |