第7回 テレビがちょっと忘れてる、雑な場面で誕生するもの。

糸井 あのね、ジャイアンツのピッチャーで
香田(勲男)という選手がいたんです。
香田選手のあだ名、何だと思います?
‥‥シャーミーっていうんですよ。
加地 幸田シャーミンの。
糸井 だけど(笑)、
「シャーミン」でさえないんですよ。
加地 「シャーミー」ですか(笑)。
糸井 選手同士で話すとき、
「シャーミーがさぁ」って言うんです。
その工夫のなさは、
何といったらいいんだろうなぁ(笑)。
ちなみに、川相(昌弘)はジイですよ。
ジイだ、シャーミーだ、
斎藤(雅樹)はセイロクですよ?
加地 雑ですね(笑)。
糸井 でも、その雑さって、
なんだかみんなが忘れてったものなんだよなぁ。
「シャーミー」ってあだ名を
つけられちゃったやつが、
その後どんなにとんちのきいた
いいあだ名を付けられても、
「シャーミー」には必ず負けると思います。
加地 とてもよくわかります。
雑って大事ですよね。
糸井 そこは、テレビも忘れてる部分では
ないでしょうか。
加地 そうですね、どちらかというと、
ぼくもわりと雑じゃないのかもしれないです。
だけど、ほかの番組を見ていると
「もっと雑なほうがおもしろいんじゃないかな」
と思うことはあります。
糸井 そこがねぇ、
ものすごく悩ましいところなんですよ。
加地 「雑に作る」って、
一歩間違うと悪く見える。
だから、勇気が要るんですよね。
糸井 どのくらいわざとかという加減のしかたも、
伝わんないようにしなきゃいけないですからね。
加地 ええ、それもつらいです。
糸井 それ以上よくやると落ちるし、
それより下はダメだし。
そこで出てきたのが、あの
有吉(弘行)さんですよ。
「おしゃべりクソ野郎」
‥‥クソ野郎はひどいでしょう。
加地 はははは。

有吉弘行さん。
「アメトーーク!」の収録中、品川庄司の品川祐さんに
「おしゃべりクソ野郎」というあだ名を命名した。
糸井 「クソ」もひどいし「おしゃべり」も「野郎」も、
全部ひどいんだけど、
3階建てにして、
相手が品川だったらできる。
加地 そうなんですよね。
マルチミックスです。
糸井 あのときのオンエアを見てたんだけど、
ホントによくできてた。
これは誰かにあとで言うだろうなと
思ったことを憶えています。
加地 「おしゃべりクソ野郎」は、忘れないですよね。
糸井 そう、宮迫君のあだ名も、よかったはずなのに
忘れちゃった(笑)。
「おしゃべりクソ野郎」だけは憶えてる。
有吉さんは、きっと
ほんのちょっとだけでも、
本気でそう思ってたんですよね。
加地 ええ。本気で思ってないと、
あれは出ないですね。
糸井 芸だから、というには
ストレート過ぎるし。
加地 (笑)
糸井 あれは、『アメトーーク!』という劇団の中でも
最高の部類に入るドラマでした。
加地 あとでよーく観てみると、
「おしゃべり」と言ったあと、
有吉は一瞬、つまってるんですよ。
そして、何か言わなきゃいけないと
いうふうになって、出たのが
「クソ野郎」です。
その場で出た言葉であるということが、
自然に本音度を載せることになった。
それがおもしろいんですよね。
糸井 なるほどねぇ。
加地 「一度言いかけた」という
絶妙な間合いがよかったんです。
有吉が、あだ名の一発目を
もしもスッと言えてたら
おもしろくなかったと思います。
糸井 それじゃあ作品になっちゃうんですよね。
有吉さんの「あだ名」は、
作品じゃなくて詩ですね。
加地 ああ、そうです。
糸井 見事でしたよ。
あの後もよくめげずに、有吉さんは
「作品のようでいてそうじゃない」
というあたりで、耐えています。
加地 そうですね。
糸井 あの人の、無駄じゃなかった
苦労時代が
そのあたりにちゃんと
効いてるんでしょうね。
(続きます)

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2009-10-28-WED

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