第6回 場所が変わればクリエイティブも変わる。それをまぜこぜにするたのしさ

糸井 「ほぼ日」にも、いくつか
投稿もののページがあります。
うまくいった話を
募集してもそんなにメールが来ないんだけど、
失敗した話というのは、そうとう来ます。
加地 はい。負の笑いは、
『アメトーーク!』もけっこう好きです。
「泥の97年」もそうでしたが、
負の笑いはやっぱり鉄板です。
負のことは、言っても嫌味に見えないんですね。
タイトルをつけるときも
そのことは、意識します。
糸井 そのあたりの加減を
知ってるか知らないかで
番組がけっこう変わっちゃいますよね。
そういう意味で
失敗したケースとか、ありますか?
加地 そうですね‥‥
周りから何か言われたということでも
ないんですけれども、
3年くらい前に『アメトーーク!』で
「ブログ芸人」という企画をやりました。
演者はがんばってくれたんですが、
手前味噌の話になってしまって、
いくら笑いにしていても、
どうしても嫌味に聞こえる部分が
出てしまいました。
やるんだったら
「ブログやってるけどアクセス数ほぼない芸人」
とかでやるべきだったかなぁ。
糸井 なるほどねぇ。
ぼくらからすれば、ぜんぶ
おもしろいと思えるんだけど、
「あ、いけね」というものは
加地さんの中にはあるんですね。
加地 あります。
なんとなくおもしろくはなってるけど、
収録の現場で「違うな」と。
糸井 負け犬ぶったり貧乏ぶったりする
必要はないんだけど
嫌味にはならない、という中なら、
きっと大丈夫なんですよね。
そこはものすごい広さがあるんだと思います。
加地 そうなんです。
嫌みにはならないとはいえ、
糸井さんのおっしゃるとおりで、
「ぶらないほうがいい」んです。
特に『アメトーーク!』で話すような
内容のトークは、実際
身についてないとできません。
つまり、ちゃんと実体験があったり、
その趣味にとても精通している人間が
きっちりしゃべれる人間だ、
ということになります。
糸井 これまで最多出場の芸人さんは、
どなたですか?
加地 最近はヒデ(ペナルティ)かなぁ。
ヒデか関根(勤)さんか、ツッチーあたり‥‥。
糸井 ヒデさんのよさも
あの番組でよくわかります。
とっても、いいよねぇ。

ペナルティのヒデさん。
加地 ヒデは、企画ばっかり送ってくるんです。
糸井 ヒデって、目がいいですよ。
正直な顔してますね。
加地 (笑)
糸井 スタジオに、役者としているんじゃない。
素の顔です。
素の顔なんだけど、打たれりゃ打ち返すし。
加地 そうですね。すごく一生懸命で、予習型です。
ヒデは『アメトーーク!』に出たいという気持ちを、
あざとくなく純粋に出してくれるんです。
番組に出ることを喜びに思ってくれていて、
でも、出るからにはちゃんと勉強して
結果を出したいという気持ちが強い。
だからぼくらも気持ちを動かされて、
ヒデに声をかけてしまうんです。
糸井 みんながヒデのことを好きなんだね。
出たくて出てるんだということを
テレビに出てる人が言っちゃうと
ホントはいけないはずです。
だけど、上手にやるとできる。
加地 いまそれは、違うかたちですが、
いろんな人がやっています。
糸井 そういうことについて、芸人さん同士って
ものすごく目ざといし、
ちゃんと拾っていきますね。
ハリセンボンが出てきたときも‥‥。
加地 あれはやっぱり
「ふたり揃えてきた」というのがすごいですね。
奇跡のコンビですもん。
糸井 すごい武器です。

ハリセンボンのおふたり。
加地 あの見た目に、
近藤さんの頭の回転の速さと、
箕輪の大喜利の強さ。
糸井 だけど、ハリセンボンのあの力が出るまでに
ずいぶんかかったでしょう?
加地 テレビという場で
ほんとうの意味でのよさを出すのは
少しかかったかも知れません。
でも、周りの先輩芸人さんたちが、
特に蛍原さんなんかは、
おもしろいのに気づいてたんですよ、やっぱり。
糸井 それはすばらしいですね。
「こいつら、おもしろいんだよ」と。
加地 ほかの芸人でもそうですが、
地上波の大きなところでは
そんなに結果を出していなかったとしても、
たとえば「よしもと無限大CS」やルミネなど、
いろんなところでおもしろくからんでる。
そのからみ方を地上波でやる流れです。
そして、それを観て
ちゃんとファンも少しずつついてくる。
糸井 なるほどねぇ。
あのね、いま、
「コンテンツのマルチユース」
ってよく言うでしょ?
加地 はい。
糸井 だけどそれは逆で、
クリエイティブのマルチクリエイティブ、
つまり、場が違ったら
全部違うクリエイティブがあるわけです。
お笑いではもう既に、
それをまぜこぜにする仕事が
できてるんですね。
加地 そうですね。
糸井 「ここではおもしろい」ということを
誰かが見てて、
そのおもしろさをこっちに使おうとか、
こっちで持った自信をこっちで使おうとか‥‥
これはすごいヒントだね。
加地 おそらく、糸井さんは
既に思ってらっしゃると思いますけど、
いま、おもしろくないと言われているテレビでも、
おもしろいところは、ちゃんとあります。
それはキー局だけじゃなくて、
ローカルにもあります。
糸井 うん、おもしろいとこ、
どんどんまじってきてるようですね。
加地 テレビ東京もTOKYO MXもいいし、
あとは、名古屋に
けっこうおもしろい番組が多いんですよ。
ですから、いまはみんなが
いろんな場所に行こうとしています。
糸井 野球だって、シニアリーグも
独立リーグもありますもんね。
それは、言うなれば、
マルチシチュエーションと言うのかなぁ?
加地 そうですね、マルチシチュエーション。
そこで鍛錬したことや自信が、
大舞台で披露できます。
あとは、クチコミはデカいということも
言えると思います。

(続きます)

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2009-10-27-TUE

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