「武井さん、大学病院へ行きましょう」

出社するなり西本が言いました。
だ、だ、だいがくびょういーん?!
せ、せ、精密検査?
先生、あたしそこまでわるいんですか!

「ぼくは先生じゃないし、あたしって誰ですか」

そりゃもちろん『赤い疑惑』の百恵ちゃんだけど。

 

「そういうことを言うから中年って呼ばれるんです。
 武井さん忘れたんですか、
 書いてたじゃないですか」

あ、そっか。いつも企画を一緒に考えている
伊勢丹の方が教えてくれた、
アンチエイジング外来のことだね!
その外来は、たしか、歯科の中にあるんだった。

そもそも──なぜデパートである伊勢丹の人が
アンチエイジングに興味を持っているのかというと、
じつはこれからの消費や商品計画を考えるにあたって、
アンチエイジングの視点を取り入れようという
大きな動きがあるからなのだそうです。
生活にアンチエイジング的な視点を入れることは、
「生活の質」(クオリティ・オブ・ライフ)を
高めることにつながっていくと。
なるほどなあ。

ぼくにしても、厳しい食事制限はしたくない、
けれども健康ではいたいわけで、
つまり、暮らしが楽しくなるのは大歓迎。
そういう提案を「大学病院の歯科医がしている」
っていうのが、
すごく面白いなあと感じていたのでした。

「そうですよ、武井さんは
 毎年、人間ドックでどれだけ言われても、
 ちっとも響かなかった人ですよ。
 その気にならなきゃ動かない。
 だからその気になってもらう必要があるなと
 思っているんですよ」

その気~。その気はあるよ!
だってもう生活は朝型だよ。
今朝も目覚まし時計を6時前にセットして起きて、
スムージー飲んで豆腐一丁食べたよ!
なんと、朝ごはんは、それだけさ。
そのあとちょっと二度寝しちゃったけどね!

「二度寝‥‥?」

そうだよ、早起きしてゴハン食べて、
ああ出社までに時間があるなあって思ったら、
だんだん眠くなってきてね‥‥
パトラッシュ‥‥だんだん眠くなってきたよ‥‥。

「それで寝たんですか」

ちょっとだけだよー。

「だめですよ!
 それはクオリティ・オブ・ライフじゃないですって。
 食べて寝るんじゃ、おすもうさんです。
 いや、おすもうさんだって、
 起床後すぐに激しい稽古です。
 お昼を食べてから、やっと昼寝ですから。
 そもそもあの人たちは1日2食ですし、
 武井さん、そもそも、運動してないじゃないですか」


きびしいなあにしもっちゃんは。
こんなぼくだって土曜日にはジムに行って、
30分ストレッチして、
30分ダッシュして、30分筋トレしたよ。
だからきょうはすごい筋肉痛なんだ。

「ううむ。
 これを言うとカチンと来るかもしれないですが、
 あえて言います。
 武井さんのジムは『たのしいエステ』
 みたいな感じなんですよ」

な、なぬ?!
あのキビチイ体育会系ジムを何というか!

「いや、追い込んでいるっていうのは
 きっと本当なんだと思うんですよ。
 でも週1回でしょう。
 小学生の体育でも週3回くらいありますよ。
 週1日動かしても、
 週のうち6日はなにもしない、
 っていうことを、どうなんだろうって思うんです。
 筋肉、落ちちゃあつけちゃあ、
 みたいな感じなんじゃないですか」

‥‥たしかに。効果的に絞れてたときは、
週に3~4回、ジムに行ってたものなあ。
加えて食事制限(炭水化物&糖質抜き)もして、
はじめてダイエットに成功したんだった。
いまは、そうじゃないものなあ。
あの成功体験に、ぼくは、いまだに、
すがっているのかもしれない‥‥。


「武井さん、じつはぼくは反省しているんですよ」

ん? 反省? 何が?

「武井さんを走らせるのは、時期尚早だったと」

えっ、どういうこと?

「走るには、いろいろな身体の使い方が必要なのは
 中年陸上部でも書いてきましたが、
 それ以前に、武井さんの身体は、
 走り始める以前に
 きちんと整えないといけなかったんですよ。
 先日、武井さんの走っているところを
 後ろから見ていて思ったんですが、
 ‥‥背中です。
 背中に肉がつきすぎなんですね」

えっ、そうかなー。けっこう背筋強くて、
背中だけは逆三なんだけどなー。
逆三っていうか、鼓型っていうか。

▲みごとな鼓型! これもボン・キュッ・ボン? どっちみち逆三とは言いません。

「肩甲骨が肉に埋もれてますよね?」

そうかも! 背中が甲羅みたいに硬いんだよ。
そういえば指圧の先生に
「武井さんの背中は押すのに一苦労だ!
 指がぜんぜん入っていかない!」
って言われたよ。

「それ、鍛えた成果だって思ってるでしょう」

えっ、ちがうの?

「鍛えても、やわらかい筋肉であればいいんです。
 武井さんの筋肉は硬い。
 もともと身体が硬いこともあるんでしょうが、
 走るときにちゃんと肩甲骨が動いていないんですよ。
 武井さんの体型、走り方だと、
 ふつうは10キロも走れないはずなんですが、
 どういうわけか走れてしまうのは、
 もともと体力があって、
 脚の筋力もあるからでしょうね。
 脚に頼って10キロいけちゃう。
 でもその方法じゃ、それ以上の距離は難しいし、
 心肺への負担も大きい」

そういえば、10キロ走ると
頭痛でたいへん。酸欠になっちゃうんだ。

「そうじゃない走り方をすれば
 さらに距離を延ばす事もできると思います。
 だから走るより先に背中の肉を落として、
 やわらかくしておくべきだったんですよ。
 それがぼくの反省です‥‥。
 たぶん、武井さんの性格もあるんですよね。
 ものわかりはいいし、やることはやるけれど、
 ときどき自己流が過ぎる。
 だから最初にちゃんと
 データをとってもらって
 話を聞いたほうがいいと思うんです」

データなら人間ドックでとってるけどねえ。


「確かにそうです。
 ぼくら毎年ちゃんと
 人間ドックに行ってますからね。
 でも、検査成績表、ちゃんと見ました?」

うん、見たよ。これだよ。

ほら、心臓も胃も腸も胆のうもすい臓も、
造血もぜんぶAだし、呼吸器系もA(異常なし)だし、
筋肉、骨格、関節、運動器系もAだよ。
ほかの検査ではピロリ菌もないし、肝炎ウイルスもない。
前立腺や消化器系の腫瘍も大丈夫だよ。
要治療だとか、要再検査っていうのは、
ひとつもないんだよ。

「武井さんは基本的にタフなんですね。
 でも“いいところ”ばかりじゃなく、
 だめなところを読んでみてください。
 C、つまり『要注意』の項目があるでしょう?」

ん? ‥‥あ、あるね! ほんとだー。
あんまりちゃんと見てなかったよ。

あははー。
前は内臓脂肪ぜんぜんなかったのになー。
これはたしかにそうだね。
そうそうこれは毎年書かれちゃうの。
これもね‥‥。
いま75キロくらいあるからねえ‥‥。


ただ、ぼくは「がりがり」に痩せたいわけじゃないんだ。
健康でしっかりした身体であればいいんだよ。

「たぶん、武井さんのなかで
 自分のキャラクター設定っていうのが
 あるんだと思うんですよ。
 それは『よく食べて小太りで元気』です。
 そのイメージは別にかまわないと思うんです」

そうだよね。ぼくは、ぼくの身体がきらいじゃない。
ぽんこつでもなんでも、この乗り物に乗って
ちゃんと生きて行く覚悟は、あるんだ。

「そうですよね。
 だからこそ血圧が高かったらよくないわけだし、
 そこから動脈硬化だとか、
 いろんな病気の可能性が出てくるわけですよね。
 そして小太りのイメージはいいにしても、
 やっぱり背中の余分な贅肉は要らないと思うんです。
 つまり、イメージをそんなに変えずに
 すっきりさせることはできると思います。
 それだけで着られる洋服も増えますよ」

はっ! 洋服!
そう、ぼくは一時、洋服馬鹿一代と呼ばれるほど
あるメーカーの服に嵌まっておりました。
もちろん今でも大好きですが、
このごろ、そのメーカーのサイズが、
どうも小さめになっちゃって、
デザインが好きでも着られないものが増えちゃった。
最近しゅっとしたデザインが多いからなあ!

「‥‥いま、読者のみなさんが
 総ツッコミしてますよ。
 いいですかみなさん、御一緒に。

『それは
 お前が
 太ったんじゃ!』

え‥‥そうなの?
このごろ、ほら、上着がタイトで
ズボンがだぼっとしてるの流行りだから、
そういうことかと思ってたよ!
そういえば同僚のも、
このごろなんだか洋服が合わないと
もらしていたなあ。
それも背中の肉かもね。
こないだふと見たら、こうだもの。

▲山下の背中もぱっつんぱっつん! これが中年のあかし?

「ともかく、大学病院に行きましょう。
 そしてアンチエイジング外来の先生に、
 いろいろ教えてもらいましょう。
 きっと面白い話が聞けますよ。
 じつはぼくもすごく興味があるんです。
 こうしてフルマラソンを走れていますし、健康です。
 でも、考えるんですよ。何か足りないと。
 40歳をすぎて、その気持ちはどんどん増しています。
 たぶん食生活じゃないかなって思うんです。
 それをちゃんと知りたくって」

そうでした。人間ドックの結果を聞くときって、
お医者さんから食事の話をされるけれど、
「何々を必ず食べましょう」とは言っても、
「こんなふうにおいしく食べましょう」は、ない。
そこがぼくに響かないポイントなのでした。

よし、わかった! 行こう!
大学病院アンチエイジング外来へ!

(ということで、次回につづきます!)

 

最近、来日したローリング・ストーンズ。
御年70歳にして
東京ドームを駆けまわるミック・ジャガーは
毎日、13kmのジョギングをかかさないんだとか。
それまで日々10~12kmのジョギングで
ランナーを気取っていたぼく。
「あかんやん、
 全然、ミック・ジャガーに負けてるやん」と。
それから、13~15kmに距離を伸ばして1ヶ月。
身体の節々が痛くて痛くて‥‥。
ミック・ジャガー恐るべしと改めて思ったのでした。

2014-04-10-THU