なぜ「星空の」
質問箱なのか。
こんにちは、ほぼ日の菅野です。
前回は谷川俊太郎さんのことをご紹介しました。
今回は『星空の谷川俊太郎質問箱』にある
(と私が勝手に思っている)
谷川俊太郎さんの視点について、
自分なりに記したいと思います。
みなさんは、誰かから
相談や質問を受けたら、どんなふうに答えますか?
「ただ聞くだけ」のこともあるかもしれませんが、
問われていることを多少なりとも分解し、
おおもとに何があるのか、選択肢は何なのか、
どういう気持ちでどんな行動をすればベターなのか、
ひととおり考えるのではないかと思います。
私は昨年、この本の編集をするため、
谷川さんの回答文をまとめて読みました。
すると、
「もしかしたらこれは特別な回答なのではないか」
という感覚になりました。
やっぱり谷川俊太郎さんにしか書けない何かが、
この本にはあるのです。
しかしそれは「詩」そのものではありません。
ではいったい何なのか?
私は編集しながら、
谷川さんの回答には、大きくみてふたつの要素が
含まれていると考えていました。
まずひとつ。
人が社会のなかで、どう生きたらうまくいくのか、という
「社会的な視点」です。
これは、友や先生に相談すると教えてくれることに
似ているのではないかと思います。
もうひとつ。
社会に左右されない、
生きものとしての自分が持つ
「自然的で宇宙的な視点」です。
これは、芸術作品が追求する分野に
通じるのではないかと思います。
私たちは何らかの問題に面したときに、
まずは「社会的な視点」で
解決しようとすることが多いのではないでしょうか。
しかし、谷川さんは、
詩人ならではの世界の見せ方で、
「自然的で宇宙的な視点」を基本に置くように
回答をしているのではないか? と、
私は思いました。
昼間の空は星が隠れていて、その下で
私たちはいきいきした日常を暮らしています。
しかし、夜になると星があらわれ、
私たちが宇宙の一部であり、
孤独な個人であることを思い出させてくれます。
「住所は村ではない 町でも県でも国ですらない
住所はこの惑星 そして銀河系
光にみちびかれ 闇にひそむエネルギーに抱かれて」
──宇宙連詩 より 谷川俊太郎
「社会の視点」で動き回っている私たちを、
星空の下に連れ出すような谷川さんの回答は、
「ああ、こっちがほんとうだったんだ」と
思わせてくれるような爽快感があります。
しかし谷川さんは、
星空の下に私たちを置いておいてはくれません。
詩人はくり返し、回答でこう言うのです。
人間は群生生物だからひとりでは生きていけない、
人には社会が必要である、と。
「社会的な視点」と「自然的で宇宙的な視点」は
相反するものではなく重なり合っているのだと、
私は本の構成を考えながら、
イメージするようになりました。
谷川さんは詩人で、芸術家です。
しかし、デビューした若い頃から、詩を通じてずっと、
社会との関わりを感じてきたとおっしゃっていました。
たとえば「詩でお金をもらう」ことで
人とつながれたことがわかったし、
責任も否応なく感じてきた、と。
「芸術だけが大切」という立場ではない。
この『質問箱』から見える世界のとらえ方は、もしかしたら
谷川俊太郎さんにしかできないのではないか。
そして、ほんとうにほんとうのことは、
ここにあるんじゃないか?
いまの私は、そう思っています。
谷川俊太郎さんの代表作のひとつに
「さようなら」という詩があります。
男の子の自立がテーマ(だと思う)なのですが、
これからこんな大人になっていくから心配しないでね、と
お母さんに少年が言っていく詩です。
その詩のなかで、このような一節が出てきます。
「ぼくすききらいいわずになんでもたべる/
ほんもいまよりたくさんよむとおもう/
よるになったらほしをみる/
ひるはいろんなひととはなしをする/」
ああ、まさにこれだ、と思いました。
必要なのは「夜の星」と「昼の人」だ、と。
この本のページを開いたみなさんの上に星空がひろがり、
この本を閉じて歩いていくみなさんの上に
人とつながれる青空がひろがることを祈って、
本のタイトルを『星空の谷川俊太郎質問箱』にしました。
このコンセプトを長々と話し合い、
「すべての人びとの心にある星空を絵にしよう」と、
祖敷大輔さんにたくさんの絵を描いていただきました。
巻末エッセイは詩人の最果タヒさんです。
言葉とは何か、質問とは何か、
そして、言葉で何かを伝えていくという行為は何か。
とても大切で本質的で切実なことが書かれていて、
心がふるえました。
そして、谷川さんの詩のうち、
宇宙や星にかかわるものを5つ選んで
掲載することにしました。
どれもすばらしい詩ばかりです。
特に、第4章に入れた「ありがとう」という詩は、
自分と自然をつなぐ、
この本の大切なテーマになっていると思っています。
みなさん。
64個の質問の星空、ぜひお楽しみください。