坊さん。
57番札所24歳住職7転8起の日々。

第60回 梵鐘を調べるおいじいさんが、やって来た。

ほぼにちは。

密成です。

最近、四国霊場の梵鐘(ぼんしょう、つりがねのこと)
を調べている人が栄福寺にも
やって来ました。

この方は元々、鋳物屋さんだった人で、
専門家ではないけれど、
調べる内に“取り憑かれた”ように
楽しくなってきて、
香川の霊場版は自費出版で一冊にまとめています。

一人で車を運転してきて、
脚立をヒョイと担いで、
てきぱき作業する姿は
とても80歳を越えているようには、見えません。




「お元気ですねぇ。」

「なんせ、取り憑かれてますから。へへへ。」

頂いた香川版の本を読んでいると、
なかなか、おもしろい。

栄福寺の梵鐘は以前にも少し触れましたが、
昭和23年の製作です。

「結構、新しいなぁ。」

って思うでしょ?僕も思いました。

でもね、その人が調べられた27個の梵鐘の内
14個が昭和時代の作で、
しかも、その、すべてが昭和20年以降なんです。

やっぱり戦争に梵鐘を供出したお寺は、
多いんだね。

ちなみに明治時代の作は2個で江戸時代は9個、
中世以前は2個、というのがその内訳です。

各お寺の梵鐘の記述も専門書より、
具体的で、かなり楽しい。

「音色は温和でG調即ちト調の黄鐘調?うじき)で
 余韻も長く一分間にも及ぶ」
(頂いた本より引用)

“G調すなわちト長調”と言われても
僕にはよくわかりませんが、ここまで書いてくれると
なんか、うれしくなります。

黄鐘というのは、日本の音名、十二律の下から8番目の音です。
黄鐘調というのは、この黄鐘の音を主音とした調子の1つで、
雅楽の六調子の1つの事です。
と、いうことは引用部分の“黄鐘調”は“黄鐘”で
あるべきかもしれませんね。
「ゴ〜ン」っていう一音のはずだから。

でも待てよ。ト長調?
やっぱり“黄鐘調”でいいのかな?
だんだん、音が変わっていくのかな?
よく、わかりません。
わかる人、いますか?

他にも
梵鐘の上の部分には、通常“乳”という
突起物がたくさんあるんですが、
あるお寺の御本尊(薬師如来)は、
疣(いぼ)に功徳があると言われているので、

「ブツブツじゃ良くない。」

とその部分に経文をいれている
梵鐘もあります。

最近の物では
“音響工学の専門家の指導”
を受けたという梵鐘まで、あるようです。

どんな指導なんだろうね。

「もっと上、もっと上、あっ、もうちょい下、
 そこ、そこっ!!」

って感じかね。なわけないか。

「栄福寺の梵鐘で、なんか変わったトコってありますか?」

「そうですね。日立造船が作ってるのは、おもしろいね。」

ほんとだ。「大阪日立築港造船」って書いてある。
戦争が終わって、色々な分野に、
手を拡げていた時期なのかもしれない。

梵鐘を“撞く”(つく)部分は
「撞座」(つきざ)という名称です。

そこの部分も梵鐘によって
いろんなデザインがあります。
このおじいさんは、この拓本も
とって回っています。

栄福寺の梵鐘の“撞座”のデザインはこんな感じです。





八葉蓮弁をモチーフにしているんでしょうね。

梵鐘をよく見ると、
若くして亡くなった
先々代住職の名前が彫ってある。

その上には「生滅滅已」の文字が。

これは「涅槃経」の一節であり、
葬列で使う四本幡の言葉、

「諸行無常、是生滅法、生滅々已、寂滅為楽」
(諸行は無常なり。是、生滅の法なり。
 生滅滅し已(おわ)って、寂滅を楽と為す」

の一部です。

滅しおわった
密勝上人(先々代)がありったけの思いを込めたであろう、
この梵鐘を見上げると、
会ったことのない、
密勝さんに逢えた気がしました。

ミッセイ

2002-06-13-THU

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