坊さん。
57番札所24歳住職7転8起の日々。

第71回 いにしえの伝説のかたりべ


ほぼにちは。

元気ですか?

ミッセイです。

今日は地元の子供達が、
お寺にやってきて、
「お薬師さん」という行事がありました。

この行事は、僕の子供の頃もあって、
お薬師さんが、近づくと
子供達は、僕達が住んでいる
「八幡」(やはた)という場所の、
全部の家を訪ねます。

「あつめもの」といって
お金をもらって回るんです。
500円ぐらいが普通だったかな?

10円の家とか、
3千円もくれる家とか、
イロイロでした。

それで、お薬師さんのお供えを買ったり、
その日、自分たちが食べるお菓子を
買ったりするんです。

だから、僕が子供の頃は、
八幡の家、全部を知っていました。

「オレ、管本家(かんほんけ)、行ってくるわ。」

「オッケー、
 じゃあ、オレ、
 下の
(この辺では海に近い側を“下”(しも)
 山に近い側を“上”(かみ)と言います。)
 大河さんトコ。」

そうやって、
毎年、地域の家を回っていると、
子供心に、

「あそこの、おっさんは、ちょっとヤバイ。」

とか、

「あそこの、おばはんは、恐ろしくケチだ。」

とか、感覚でわかってきます。
(今から思えば、信仰の問題とか
 経済的な事情とかも、
 もちろん、あるんですが。)

つまんない言葉で言えば、

“地域社会の自衛的側面”

みたいなのも、あるんでしょうね。
こういう行事には。

でも、
だからといって、
失われつつある、昔の地域社会を、
全面的に肯定するのも、

「ちょっと、違うのかな。」

って思います。

“よそもの”や“考え方の違う人”
に対する(一部の)昔の人の
感覚っていうのは、
僕らからすると、ちょっと、
どぎついというか、
醜い時があるからね。

中立的な立場からの、
バランス感覚っていうのは、
僕達がちょっと考える以上に、
重要な話なんじゃないかな?

話が一方に偏りかけている時、
(例えば被害者・被告、信者・住民、
 空爆する人、される人・・・。) 

「注意しなきゃ。」

と考えるようにしています。

というわけで、子供達が
栄福寺の薬師堂にやって来ました。



ここでは、地域の人達の
健康を祈願して、
僕がお経を唱えます。

その後、
毎年、栄福寺のお薬師さんの
伝説を話します。

むかし、むかし。

栄福寺の薬師堂の前に、
おおきな桜の木があったとさ。

そこでは、毎年、村の人達が、
花見をしながら、大宴会をしました。

しかし、ある年。

鍋の中に素人料理で、
フグを入れた人がいました。

すると、宴会の途中
みんな、お腹が痛くなってしまい、
鍋の残りを、木の根本に捨てて家に帰りました。

幸い、亡くなった人は一人もいませんでしたが、
桜の木はその年で、枯れてしまいました。

それからというもの

八幡では、毎年“身代わり”になってくれた、
お薬師さんの、桜の木に感謝して、
お供え物をお薬師さんに、お供えしているのです。

オシマイ。

子供達は正直なので
毎年、毎年、
同じ話に、飽き飽きしています。

僕も、相手が退屈してるのに
ベラベラ話すのって、苦手です。
得意な人って、いますよね。

でも、“いにしえの伝説のかたりべ”
というのも、
僕の仕事の重要な部分だと
感じているので、
毎年、話すことにしています。

ちょこっと
“会者定離”の話なんかも、
しながらね。

お経の時だって、
子供は、だまちゃいない。

だから、今年は作戦を立てました。

「お薬師さんには、“真言”っていって、
 超強力な呪文みたいなのがあるんだ。

 これは、みんなの身体をかなりの
 パワーで守ってくれるから、
 僕がせーのって言ったら、

 “オン コロコロ センダリ マトウギ ソワカ”

 って7回、一緒に言おうね!」

ターゲットはポケモン世代である。

 「練習しまーす。

  せーのっ!」

「ウン コロ コロ! うんこ! うんこ!」

こういうタイプの子って、
いつの時代にもいるんですね。

僕、そういう子でした。

でも、お経のあとにさぁ、
僕が、「せーのっ」って言ったら、

みんなが、すーごい、でっかい声で
真言、一緒に唱えてくれたんだよ。

しかも、声が、だんだん、でっかくなる。

最後には狭いお堂に、
大きな声がビリビリと響き渡りました。

振り返ると、
すごいみんな、ニコニコしてて、

「どうよ、和尚っ!」

てな顔してやがる。

“素朴な信仰”って
自分の中で少ないのかなぁ
って思ってたけど、
今日は自分でもびっくりするぐらい、
うれしかった。

お薬師様も、
さぞ御満足だろうなぁ

って顔を見てみたら、

「しょーがねーなー、こいつら。」

みたいな顔してました。


ミッセイ

2002-08-22-THU

BACK
戻る