冒険王、 横尾忠則。   横尾さんの展覧会で、横尾さんにお会いしました。 「‥‥あなたという人は!」と 何度も叫びそうになりました。すごいです。 さぁ、みなさん。ご本人といっしょに 横尾忠則さんのすばらしい冒険の記録を 見て回りましょう。
002 こんなことを、いつのまに。
 
横尾 このルソーの絵の部屋で、
一番人気なのはこの絵なんです。

僕はコピーライターじゃないから
せいぜいこのくらいのタイトルにしか
できなかったんだけど‥‥

糸井 はははははははは。
横尾 これが、もとのルソーの絵で。

ぼくが描いた絵がこっちです。

糸井 そのとおりだ、そのとおりですよ。
これね、笑いますよ‥‥うわはははははは。

横尾 ぼくの絵のほうが合ってるわけですよ?
みんな、ルソーが描いた人物が
大きいということに気づかない、
ちゃんと見てないんですよ。
糸井 たしかに、左にいる人たちと比べると
中央の人物は完全に大きいんですが、
そういうもんだと思って見てました。
横尾 ね?
おかしいんだよ。
正確に描くと、これでいいわけです。

糸井 うははははは。
横尾 美術展だから、
あんまり笑わないでください。
糸井 これは、ダメです。
本人は、この絵を
笑わないで描いたんですか?
横尾 笑わないよ。真剣だもん。

糸井 人が笑うのは想像しました?
横尾 うーん‥‥人が笑うと思って描いたら、
もっと俗っぽくなるんじゃないかな。
糸井 ああ、
そこはとっても大事なところですね。
横尾 ね?
糸井 はい。
また、そこで
笑いが増幅されていくんです。
いやぁ、ダメだわ、
最初の部屋だけで、
こんなに引っかかって、引っかかって。

しかも、これは、
ルソーの絵を描き替えるというコンセプトを
あらわしただけじゃないんですからね。
横尾さんは、
ルソーの表現を会得したうえで、
これを描いてるんですから。

横尾 アンリ・ルソーというのは
ものすごく個性的な
アーティストに思われてますけど、
あまり個性がないんですよ。
どちらかというと、技術はアマチュアです。
糸井 なるほど。
横尾 アマチュア気分になれば
ルソーに近づけるんですよ。
これは、わかる?
「すっきりした」
というタイトルなんだけど。

糸井 このあたりのセンスは
とっても好きだなぁ(笑)。
これは何年作なんでしょうか‥‥えーっと、
2006年ですね。
2006年に、横尾さんは静かに
こういうことをしてたんですね。
なんにも知らなかったなぁ。
横尾 さっきの
「正確な寸法で描かれたルソー像」は
2008年の、できたてのほやほやだからね。
みんなの知らないうちにやってるんだよ。
さ、次、次。移動するよ。

糸井 うわぁ、「Y字路」のシリーズですね。
ここで見る「Y字路」は、
これまでの美術展で拝見したものより、
なんだか強く見えます。
広さのせいかな?
さっきのルソーとは、ホントにぜんぜん
雰囲気が違いますね。

横尾 うん、かなり違いますよ。
もしかしたらルソーのほうが
「ルソーと対決してる」みたいに
思われるかもしれないけど、
全然対決してない。
どちらかというと「Y字路」のほうが
対決してるみたいな感じがするわけです。

糸井 たくさん「Y字路」の絵がありますが、
ご本人はどの「Y字路」が好きかとか、
そういうことはあるんですか?
横尾 そのとき描いてるその作品が
いちばんいいと思って描いてるからね。
だけど、描き終わったら、
「そうでもないな」ということに
気がつくわけよ。

糸井 (笑)それは、どうしてでしょう。
横尾 なんでだろうね。
‥‥描いてるときは、
三昧(ざんまい)気分になってるからだろうね。
糸井 「Y字路」での対決は、
三昧なんですね。
横尾 うん、三昧ですねぇ。
三昧になればスムーズに
絵はどんどんどんどん進行していくけれども、
それがないと、なぁんか、
七転八倒みたいになっちゃうんだよ(笑)。
  (続きます!)
 
2008-05-30-FRI
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