横尾 |
このルソーの絵の部屋で、
一番人気なのはこの絵なんです。
僕はコピーライターじゃないから
せいぜいこのくらいのタイトルにしか
できなかったんだけど‥‥
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糸井 |
はははははははは。 |
横尾 |
これが、もとのルソーの絵で。
ぼくが描いた絵がこっちです。
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糸井 |
そのとおりだ、そのとおりですよ。
これね、笑いますよ‥‥うわはははははは。
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横尾 |
ぼくの絵のほうが合ってるわけですよ?
みんな、ルソーが描いた人物が
大きいということに気づかない、
ちゃんと見てないんですよ。 |
糸井 |
たしかに、左にいる人たちと比べると
中央の人物は完全に大きいんですが、
そういうもんだと思って見てました。 |
横尾 |
ね?
おかしいんだよ。
正確に描くと、これでいいわけです。
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糸井 |
うははははは。 |
横尾 |
美術展だから、
あんまり笑わないでください。 |
糸井 |
これは、ダメです。
本人は、この絵を
笑わないで描いたんですか? |
横尾 |
笑わないよ。真剣だもん。
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糸井 |
人が笑うのは想像しました? |
横尾 |
うーん‥‥人が笑うと思って描いたら、
もっと俗っぽくなるんじゃないかな。 |
糸井 |
ああ、
そこはとっても大事なところですね。 |
横尾 |
ね? |
糸井 |
はい。
また、そこで
笑いが増幅されていくんです。
いやぁ、ダメだわ、
最初の部屋だけで、
こんなに引っかかって、引っかかって。
しかも、これは、
ルソーの絵を描き替えるというコンセプトを
あらわしただけじゃないんですからね。
横尾さんは、
ルソーの表現を会得したうえで、
これを描いてるんですから。 |
横尾 |
アンリ・ルソーというのは
ものすごく個性的な
アーティストに思われてますけど、
あまり個性がないんですよ。
どちらかというと、技術はアマチュアです。 |
糸井 |
なるほど。 |
横尾 |
アマチュア気分になれば
ルソーに近づけるんですよ。
これは、わかる?
「すっきりした」
というタイトルなんだけど。
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糸井 |
このあたりのセンスは
とっても好きだなぁ(笑)。
これは何年作なんでしょうか‥‥えーっと、
2006年ですね。
2006年に、横尾さんは静かに
こういうことをしてたんですね。
なんにも知らなかったなぁ。 |
横尾 |
さっきの
「正確な寸法で描かれたルソー像」は
2008年の、できたてのほやほやだからね。
みんなの知らないうちにやってるんだよ。
さ、次、次。移動するよ。
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糸井 |
うわぁ、「Y字路」のシリーズですね。
ここで見る「Y字路」は、
これまでの美術展で拝見したものより、
なんだか強く見えます。
広さのせいかな?
さっきのルソーとは、ホントにぜんぜん
雰囲気が違いますね。
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横尾 |
うん、かなり違いますよ。
もしかしたらルソーのほうが
「ルソーと対決してる」みたいに
思われるかもしれないけど、
全然対決してない。
どちらかというと「Y字路」のほうが
対決してるみたいな感じがするわけです。
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糸井 |
たくさん「Y字路」の絵がありますが、
ご本人はどの「Y字路」が好きかとか、
そういうことはあるんですか? |
横尾 |
そのとき描いてるその作品が
いちばんいいと思って描いてるからね。
だけど、描き終わったら、
「そうでもないな」ということに
気がつくわけよ。
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糸井 |
(笑)それは、どうしてでしょう。 |
横尾 |
なんでだろうね。
‥‥描いてるときは、
三昧(ざんまい)気分になってるからだろうね。 |
糸井 |
「Y字路」での対決は、
三昧なんですね。 |
横尾 |
うん、三昧ですねぇ。
三昧になればスムーズに
絵はどんどんどんどん進行していくけれども、
それがないと、なぁんか、
七転八倒みたいになっちゃうんだよ(笑)。 |
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(続きます!) |