BOXING
私をリングサイドに連れてって。

タイソン英国戦第2戦・現地レポート(3)
大雨、中継大トラブル


やっと待ちに待ったタイソン戦がやってきました。
朝起きると、スコットランドに来てから
いちばんの晴天です。
神は私たちの中継に味方してくれたのです。

会場のハンプデンパークまでタクシーで約20分。
無事に会場入りして、
リングサイドのセッティングも無事終了。
ちなみに前から2列目という好ポジション。
すべてがいつも通り完璧……なはずでした。

しかし前座試合が始まった午後6時頃から
急に上空に暗雲が立ちこめてきました。
まさか……と思ったのもつかの間、
空からからは無情の雨が降ってきました。
放送機材というものは、通常の電化製品と同じく
非常に水に弱いのです。
部品のうち1つのパーツが濡れて、
NGになっただけでも
中継が麻痺することもあります。
しかもボクシングは一瞬で勝負が決まるスポーツです。
たとえ1秒の映像断でも、
決定的なシーンを逃す可能性もあるのです。

しばらくすると小雨になったので
「よかった〜」と一息ついて、
そのまま前座タイトル試合の
実況・解説を始めました。

しかし本当の悪夢はそこから始まりました。
日本いうと台風なみのものすごい雨が降り始めたのです。
通常はリング上の試合を見て実況するのですが、
なんとビニールシートをかぶって
モニターを見ながらの実況となりました。

ビニールシートのずれを直そうと立ち上がり、
ほんの20秒くらい外に出ただけで、
びしょ濡れになりました。
そんな中でも高柳氏、浜田氏は必死の実況を続けます。



以前、屋外で中継しているときに、
パラシュートがリングに降りてきて、
中継が40分間中断したという経験はありますが、
大雨に打たれての中継は生まれて初めてです。

怒り狂ったような大雨が、約50分間降り続けましたが、
幸いタイソン戦の前までにはやんでくれました。
しかし気温が下がり、雨に濡れていたため
体感温度が異常に寒くなって、
身体の震えが止まりませんでした。

その状況のなか、夜11時20分過ぎ、
やっとタイソン戦が始まりました。
入場時の異常に興奮した感覚が戻ってきました。
非常にピリピリしたムードです。

対照的に相手のサバリースはかなり怯えた表情です。
実は記者会見の時から
不安な表情を垣間見せていました。

試合が始まると
両者の表情そのままを反映した結果になりました。
タイソンのスピードは素晴らしく、
パンチも切れていました。

最初の一発がヒットして、サバリースが早くもダウン。
カウント8で立ち上がって、試合再開。
しかし勝負はすでに終了していました。
タイソンのコンビネーションを食らったサバリースは
一瞬意識が飛んだ、非常に危険な状態だと
すぐわかる崩れ方をしました。

そして、信じられない光景が目に入ってきました。
止めに入ったレフリーを巻き込み、
タイソンがさらに攻撃を加えようとしたのです。
タイソンは恐らく興奮状態にあったのでしょう。
レフリーの静止を無視して
意識が薄れているサバリースに対して、
さらに攻撃しようとしています。

リングサイドで見ていた私には、
タイソンはボクサーというよりも、
非常に獰猛な動物に見えました。
しかし、ルールあるスポーツの試合で、
レフリーの静止を無視して
相手に攻撃を加える姿はいただけません。

今回のタイソンは、
試合直前に親友が殺害されたり、
離婚報道もされるなど、
精神的にとても不安定な状態で
試合に臨まざるを得なかったようです。

しかし、そういったつらい感情を押えてこそ
真の世界トップです。
今後は精神的なバランスをとることが
必要となるでしょう。
それさえできれば、
やはり世界でいちばん強いボクサーでしょう。

タイソンが戦った、
1999年1月から今回にいたる、4つの試合のなかでは、
今回がずば抜けてできが良かったです。
WOWOWの中継や、新聞記事を見た人は
「どうせ相手が弱かったんだろう」という
印象をもった人が大多数だと思います。
しかしそれは違います。
「当たれば誰でも倒れる」のがタイソンのパンチなのです。
ルイス、ホリフィールドでも、当たれば結果は同じです。
そして、そのパンチが「当たる」状態にまで
タイソンの調子が上がってきているのです。
スピード、踏み込み、試合勘、
すべてが上向いてきています。

私はこれまで、ボクシングをはじめ、
さまざまな格闘技の試合をこの目で見てきましたが、
「恐ろしい」と感じたのは今回が初めてです。
これまで以上にタイソンから目が離せなくなりました。

しかし、中継が上手くいって本当によかったです。
たった38秒という短い試合時間でしたが、
その38秒は、さまざまな思いの結晶になりました。
私にとっては忘れられない中継になることは
間違いありません。
本音を言うと、
もう屋外でのボクシング中継は
やりたくありませんね。

WOWOWスポーツ部
小田真幹

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2000-06-27-TUE

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