BOXING
私をリングサイドに連れてって。

注目の世界ヘビー級タイトルマッチ
「レノックス・ルイス 対 デビッド・トゥア」
その試合の真実は……?


試合会場になったマンダレイベイの満席の観衆は
9R過ぎに席を立ち始めた。
これ程までのビッグマッチなら試合終了まで、
固唾を呑み席を離れられないはず……。
観衆が席を立ったのはなぜなのか???

WBC・IBF世界ヘビー級タイトルマッチ
「レノックス・ルイス 対 デビッド・トゥア」
(日本時間11月12日)。
試合は予想通り、長距離では王者ルイス、
接近戦では挑戦者トゥアのペースでした。
4Rまでは、トゥアが飛び込みながらの左フックを
積極的に出し、ルイスは明らかに狼狽していました。
ルイスのジャブは、トゥアにとって邪魔ではありましたが、
脅威にはなりませんでした。

しかし同じ攻撃の繰り返しで勝てるほど、
世界タイトルをとるのは甘くありません。
中盤からは“トゥアは左フックだけ”と確認した
王者ルイスの反撃が始まりました。
ここで焦点となるのが、その戦法です。
ルイスは、防御を最優先にした
危険の最も少ない戦術を選んだのです。
接近戦でのトゥアの左フックがあくまでも怖いルイスは、
ジャブで相手との距離を保ち、
トゥアの動きが止まったらワンツーを出す
ということを繰り返し、
5Rから後は、完全にポイント支配しました。

東京のスタジオでゲスト出演されていた、
元WBA世界S.フライ級チャンピオン飯田覚士氏は
放送前、ルイスのインタビューを見てこう言いました。

「ルイスは勝ちにこだわると言っています。
 今回は特に勝つことに意識が集中しているように
 感じました。倒し倒されというよりは
 安全運転する可能性が高いんじゃないですか?」

結果はそのとおりになりました。
この攻防はテレビや会場で観戦している人に
失望感を与えたことでしょう。
王者ルイスが安全運転を始めた試合のペースを破る鍵は、
挑戦者トゥアにしかなかったのです。

現地から解説していた浜田剛史氏も
試合前に気になる発言をしていました。

「トゥアは近づいてからの練習しかしていない。
 接近戦に持ち込む(踏み込み)までの練習はしていない。
 これが気になります」
 
浜田さんの予想どおり、
トゥアは接近戦に持ち込むためのプランを封じられ、
さらにオプションを出せず(もしくは持たず)、
ルイスは労せずして試合終了のゴングを
きくことができたのです。

結果として王者ルイスの右ストレートと、
挑戦者トゥアの左フックが想像どおり強烈なあまり、
お互いに、その武器封じに終始してしまったのです。
そういった試合の状況下でのポイント勝負では、
王者ルイスが長けていたということです。

今回の試合は、トゥアが挑戦者として、
接近戦に持ち込むための戦術に工夫が足りなかった、
そして右での攻撃や、ジャブに変化をつける工夫が
試合中にできなかった。
王者ルイスは、評判どおりだったトゥアの強打を
警戒することを優先して、
倒せる可能性もあったにもかかわらず、
リスクを排してポイント優先で勝つボクシングに徹した。
……という事になるでしょう。

王者ルイスは前後左右へのフットワーク、
距離感、スタミナ、パンチ力、判断力など、
現在のヘビー級選手では図抜けた能力をもっていました。
恐らく、あの巨体にもかかわらず、
中量級選手なみの運動量をもっていると思います。

体重100キロを超える、訓練され尽くしたプロの、
トップ選手たちの試合なので、
生死に限りなく近い恐怖を感じるのでしょう。
ルイスがそういう選択をした本当の気持ちは、
常人には想像もつきません。

しかし、ボクシングという世界には、
観客が望むものを体現してこそプロではないか……、
という興行的な側面もあります。

ルイスは今後、タイソンとの試合も噂されています。
解説の浜田さんは
「タイソンの踏み込みはもっと早い。
 今日のルイスを見る限り、
 タイソンにチャンスはあると思います」
と言いました。

そういえば、今回の試合の序盤に、
ルイスが恐怖の表情を見せた瞬間がありました。
ゲストの飯田さんは
「ルイスはメンタル的に強くないんじゃないか?」
と印象を語っていました。

実際に4Rまでは、トゥアの攻めを受けて、
後ろに下がる一方でした。
その後盛り返したものの、タイソン相手では
それではすまないでしょう。
早く夢の対決が見たい。
そして鳥肌が立つような打ち合いが見たい
というのが私の願いです。


それでは、話題をかえて、
年末にかけて、日本で開催される
3つの世界戦を紹介します。

11月23日(木、祝)
WBA世界S.バンタム級暫定王座決定戦
「ヨベル・オルテガ 対 石井広三」

(名古屋レインボーホール)

12月6日(水)
WBA世界ミニマム級タイトルマッチ
「ガンボア小泉 対 星野敬太郎」

(パシフィコ横浜)

12月12日(火)
WBC世界S.フライ級タイトルマッチ
「徳山昌守 対 名護明彦」

(大阪・舞州アリーナ)

強打自慢の石井広三や、ガンボア小泉。
北朝鮮籍をもつ徳山昌守 対 強打の名護明彦
といった対戦カードに、名勝負を期待したいですね。

なお、私は12月2日(土)に、
米国ラスベガスで行なわれる注目の中量級決戦
「トリニダード 対 バルガス」の観戦に行きます。
久しぶりに現地ラスベガスからの
レポートができれば……、と思っています。

ご意見はこちらまで Boxnight@aol.com

2000-11-15-WED

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