20世紀の締めくくりは天才トリニダード!
無敵の暴れん暴、バルガスが合計5回もダウン!
あのバルガスがこれほどの屈辱を味わうとは……。
20世紀を締めくくる注目の中量級ビッグマッチ
WBA・IBF世界S.ウェルター級タイトルマッチ
「フェリックス・トリニダード
対
フェルナンド・バルガス」は、
ほぼ満員のマンダレイベイ・イベンツセンターで
行なわれました。
Forces of Destruction(破壊力の遭遇)
と銘打たれたこの試合ですが、
前日の計量ではトリニダードが1/2ポンドオーバーとなり
ひやり、としましたが、
30分程度後の再計量で問題なくパス。
世紀の一戦がいよいよ現実のものとなります。
昨年9月の「トリニダード対デラ・ホーヤ」が究極の、
ファイター対ボクサー(攻撃型対足を使うタイプ)
だとすれば、この試合はタイトルと前回の予想通り、
究極の、ファイター対ファイターの対決となりました。
会場はプエルトリコとメキシコの国旗が振られ、
入場前の両国国歌斉唱でボルテージは最高潮になりました。
しかしその余韻に浸るのもつかの間、
リングでは信じられない衝撃的な光景が起きました。
1R開始早々、バルガスがスロースターターの
トリニダードに先制攻撃をしかけ、さらに攻めた時、
バルガスの右のガードが離れ、そこにトリニダードの
必殺の左フックがヒット、
バルガスがガクガクになりダウン!
この間わずか30秒ほどだったと思います。
さらにトリニダードは、立ち上がったバルガスに詰め寄り
またしても左フックを炸裂させ、
完璧な2度目のダウンを取りました。
「これで終わりだ」と思いましたが、
そこはさすがバルガス、
残り時間、必死に距離をとりながら凌ぎました。
1Rの出来事に私は、声にならない衝撃に襲われました。
トリニダードは初回から完全にペースを握りました。
2Rは、トリニダードが足を使い、
バルガスを中心にして回り始め、
3Rは、バルガスにじわじわとプレッシャーをかけるなど、
さまざまな戦法でゆさぶりをかけていました。
4R、期待していたバルガスが
野生的なカンを見せてくれました。
左の打ち合いでフックがトリニダードの顎を
見事に撃ち抜き、今度はなんとトリニダードがダウン。
しかし一撃だったため、ダメージ回復は
想像以上に早いものでした。
すぐに立ち上がって反撃するトリニダード。
しかし勢い余ってのローブローでさらに減点され、
4Rは、バルガスが初めて制したラウンドになりました。
ボクシングはダメージの蓄積が、
スピード、スタミナ、反射神経、対応力など
全ての能力を奪っていきます。
バルガスも中盤になって、
右ストレートや、左右アッパーなどを
的確に相手に当てる場面もあり、
トリニダードが出し続ける得意の左フックを
ボディワークだけでかわすなど
才能の片鱗を見せつけました。
しかし、終始プレッシャーをかけられ続け
ダメージと疲労に襲われたバルガスは
徐々に弱っていきます。
10R、11R、トリニダードの容赦ない攻撃で、
あのバルガスが、グロッキー寸前となります。
最終12R、現代の中量級最強決定戦が幕を閉じます。
逆転を狙い攻撃にでるバルガスに、
それを待っていたかのように
トリニダードのパンチが襲いかかり、バルガスがダウン。
そして立ち上がったバルガスめがけ
再び左フックを浴びせてダウンを奪います。
気力だけで立ったバルガスには
残念ながらなんの力も残っていませんでした。
気力、意地さえ奪うトリニダードのパンチが
バルガスを再び襲い、最終ラウンドに3回のダウンを喫し、
12R1分33秒、レフリーが試合を止めました。
この瞬間、中量級現役最高最強のボクサーは
プエルトリコの天才パンチャー
フェリックス・トリニダード選手になりました。
敗れはしましたが、バルガスの勇気と
リカバリーは見事でした。
クリンチに頼らず、攻撃的な姿勢を常に崩さず、
メキシカンの誇りを汚さぬよう
最後まで勇敢にトリニダードに向かっていったのです。
特にボディワークと左右のアッパーはとても光ってました。
しかしバルガスにとって致命的だったのが、1Rに
先制攻撃を仕掛けておきながら逆にダウンを奪われたこと、
そして、右のガードが甘い(離れる)ことでした。
トリニダードの勝因は、大舞台での経験、対応力、
驚異的なスタミナ、ダメージ回復力、パンチのキレ、
冷静な試合運びでしょう。
特にバルガスとは対象的に
ダウンを奪われた後も、右ガードを顎から離さず、
クリーンヒットを受けませんでした。
攻めでも、独特のリズムから、常に強いパンチを打ち込む、
という自慢のスタイルに曇りなく、ズレというものが
全くないボクシングでした。
ウィテカー、デラー・ホーヤ、リード、バルガスと
アメリカの誇る五輪出場チャンピオンを破った
トリニダード選手の実績は素晴らしいものです。
今回は「WOWOWエキサイトマッチ」の
ゲストで同じみの俳優、香川照之さんも
休暇をとって、ラスベガスで観戦していました。
右が香川さん 左が筆者
香川さんは中学校入学くらいから、
海外のボクシングに興味をもち、
近年ではボクシングマガジンにも
連載やコラムを持っていた海外ボクシング通です。
先日の「ルイスVSトゥア」戦とこちらと、
どっちを観戦するか迷った挙句、この試合にしたそうです。
「20世紀を締めくくるにふさわしい試合でした。
ボクシング100年の重みや、
レナード対ハーンズ戦を思い出しましたが、
彼らは1980年代に登場した新しいスタイルで、
個性の戦いでもありました……。
しかしトリニダードとバルガスはプエルトリコと
メキシコという、非常に伝統的な
いわばボクシングの歴史の王道の対決でした。
21世紀の後輩ボクサーたちに多くの残すものを見せた
4つの拳の壮絶なる交わりでした。
映画のような期待以上の試合を見せてくれた
両選手には言葉がありません。
バルガスは敗れましたが、レナード戦後の
ハーンズのように成長して
再び時代の中心になって欲しい。
バルガスファンも勝敗を別にしたら
納得しているでしょう。
とにかく本当に感激しています」。
試合の後、香川さんはそう語っていました。
本当に素晴らしい試合でした。
前座では、あのリカル・ロペスが、
完成された芸術品のようなボクシングを見せ
3R、TKO勝ち。
サウスポー相手の左アッパーを打てるのは
世界でも彼だけでしょう。
連打、打ち分け、フットワーク、ディフェンス、
どれをとっても非常に完成された美しいものでした。
WOWOWでは1月6日(土)午後6時から
この素晴らしい試合を放送いたします。
「素人から玄人まで楽しめる試合です。
私が具志堅さんの試合を見て魅了されたような
さまざまな要素が入っています。
ボクシング見たことない人ならば
この試合から入ると面白さがきっとわかると思います」
と香川さんも言っています。
今年も「モラレスVSバレラ」「デラ・ホーヤVSモズリー」
「バルガスVSクォーティ」「ルイスVSグラント」など、
好ファイトが続出しました。
21世紀、世界ボクシングはどうなっていくのでしょう?
「メイウェザーVSコラレス」「ハメドVSバレラ」など
続々とビッグマッチの情報も入ってきています。
香川さんはこう言っています。
「やはりマイク・タイソン。彼が初めて
不利な予想をされるであろう、ルイス戦がどうなるのか?
20世紀最強の男の看板がどうなっていくのか?
いちばん興味があります」と。
日本でも師走の今月
「ガンボアVS星野」「徳山VS名護」という、
2つの世界戦が行なわれます。
「WOWOWエキサイトマッチ」では、
2000年の最終回として、
「2000年総集編」を用意しています。
これからもまだまだボクシングが楽しめます。
最後にトリニダード選手の今後ですが、
会場に来ていたシェーン・モズリーや
前座に出て快勝した1階級上の
WBA世界ミドル級チャンピオン
ウィリアム・ジョッピーとの3階級制覇戦、
はたまたバルガスとのリマッチなど
考えるだけでわくわくする対決が予想されます。
全世界から追いかけられる強打の天才。
フェリックス・トリニダード。
21世紀も彼から目が離せません。
WOWOW 小田真幹
ご意見はこちらまで Boxnight@aol.com
|