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私をリングサイドに連れてって。

究極の戦いUFC、WOWOWで放送決定!
TKこと高阪剛が語る。


4月14日(日)午後6時、WOWOWに格闘技新番組
UFC(Ultimate Fighting Championship)が上陸する。
UFCとは、世界最強MMF(Mixed Martial Arts)選手を
決める戦いで、四角のリングではなく
逃げ場のないオクタゴン(八角形)で試合が行われる。
別名ケージファイト(金網試合)とも呼ばれ、
世界一のエンターテイメント国、アメリカで行われる、
世界一の格闘家を決めるイベントと言ってもいい。

まずUFCの魅力を簡単に説明しよう。

第1に、参加選手の質の高さがあげられる。
ランディ・クートゥアー※1を筆頭に
レスリングや様々な格闘技トップの出身者が参加しており、
打撃技、寝技を習得、パワー、技術ともに
最も進化した真の総合格闘アスリートを、
数多く目の当たりにすることができる。

次にオクタゴン(八角形)。
1ラウンド5分間、逃げ場がないのである。
日本でお馴染みの四方のリングやリングロープを絡めた
「死角」や「曖昧」なポジションは存在しない。
そこで時には残酷なまでのリアルファイトが展開される。

そして演出も大きなポイントだ。
ショービジネスの中心地、
ラスベガスやアトランティックシティ等に
イベントを持ってきた。
カジノが全面バックアップし、
従来の格闘技の持つ暗い側面を消し、
エンターテイメント路線を全面に打ち出し、
カラリとしたイベントに変身させた。
ラスベガスの興行ではチケットはほぼ売り切れだそうだ。

最後に、我々にとって最も興味をそそられることとして、
「日本人選手の可能性」がある。
ヘビー級の高阪剛はもちろんのこと、
ライト級(〜70.3kg)、ウェルター級(〜77.1kg)
ミドル級(〜83.8kg)という階級制の導入によって、
これまでは総合格闘技におけるヘビー級偏重で、
注目度がどうしても低かった日本人選手にも、
道が拓けてきたのだ。

すでに宇野薫、中尾受太郎が出場し、
3月には桜井「マッハ」速人の参戦が決定し、
5月には佐藤ルミナも有力候補として上がっている。
この軽量級はボクシングと同じく、
日本人の特徴にあった階級でもあり、
昨年のイチローの活躍同様、パワー主義全盛のアメリカに
一躍スピード、テクニック・センセーションを巻き起こす、
高い可能性を秘めている。

ではUFCとは一体どんなものなのか?
実際リングに立った選手に聞きたかった。
そこで今回はリングスでも活躍し、
UFCの戦いもすでに経験している、
高阪剛選手(TK)直々に、UFCやそれにまつわる
アメリカでのエピソードについて語ってもらった。

ちなみにTKをご存知ない方に説明すると、
日本人でUFCヘビー級王者を狙える
数少ない総合格闘家である。

―― アメリカ進出のきっかけは?
高阪 96年、リングスマットで
モーリス・スミス※2と戦いました。
試合後、彼が控え室に来て、
「これからは総合に進出したいから寝技を教えてくれ。
 俺は立ち技を教えてやるから」
それで、シアトルに行ったのが、
アメリカへの第一歩です。
特に試合とか目標という感じではなく、
自然と行ったのが最初です。
―― 98年にUFC初参戦しましたが希望したのですか?
高阪 いえ。
97年にシアトル、モーリスジムにいるときに
「コンテンダーズ」という寝技専門の大会に
1名空きができたので、
相手は大きいが出るかと、聞かれたんです。
寝技なら出ますと。
後から分かったんですけど、
1名空いていたのではなく、
実はトム・エリクソンという強豪選手の
相手がいなかったんです。(笑)
やってみると強かった。
このときは前田さんに了解を取るのに苦労しました。
なにしろリングスの所属選手で
トレーニングに行っていただけなので。
でもわずか2日で決まって、
異常なスピードだった印象が強いです。
話がきてから出場決定まで早かったです。

UFCへはエリクソン戦のテレビ解説をしていた
ペレッティ氏がその後UFCの役員になって、
声を掛けてくれたのがきっかけです。
当時は英語が分からなかったのですが、
ある程度分かってから確認すると
エリクソン戦の解説で他の2名は僕をけなしてたのに
ペレッティ氏は、
僕が下から試合をコントロールしている、
ただものではないと唯一誉めてくれていたんです。
―― UFC初試合はどうでしたか?
高阪 当時人気のあったキモ選手※3
ブランク空けの復帰戦ということで
非常に注目されていました。
印象的なのは控え室がトイレだったんです。
出場者が多かったんでしょうね。
パブリックスペースなんで人が入ってくるんですよ。
―― 緊張しました?
高阪 入場時に大ブーイングが起こったんです。
それで、あー俺は悪役なんだったな、って(笑)
その辺がリングスと全く違うなぁと。
おかげで、
なにくそ、やってやろうという気持ちが強くなり、
結果的にクールダウンできて、
試合に集中し、勝つことができました。

その後ブラジルや米国内で試合しましたが
ブーイングはありますが、減ってきて、
それは非常に快感がありました。
結局、声援でもブーイングでも
どちらでも集中できるんですけど(笑)。
でも客の声援は凄いです。
日本だとじーっと見て、
シーンとしてといった感じですが、
UFCは全く違います。
ただただ楽しんでる。
やっちゃえ!そんな感じなんで
ストレートに伝わってきて気持ちが高ぶります。

あと困ったのは、当時、
バス・ルッテンがアメリカに移ったこともあり、
パンクラスがアメリカで放送されてたんです。
それで僕はリングスです、というと、
関係者はパンクラス※4より低くみて相手にしない、
といった事もありました。
―― UFCの魅力はなんですか?
日本の他団体に出た方が、
経済的な魅力もあるんじゃないかと。
高阪 一言でいうと闘争本能の場です。
戦士体験というのでしょうか。
究極の格闘神経が、MAXまで刺激されるというか。
格闘場にいる感覚なんです。
これは正直、他の団体や日本のマットでは
体験できない感覚だと思います。
僕は98年から参戦しました。
あの頃からルールは変わっていますが
あとは何も変わっていないんです。
控え室や選手状態、例えば試合前すでに、
控室では選手が興奮して、
ウガウガ、ウゴウゴ唸ってるんです。
こういう高ぶりは本当に凄いものがあります。
あと観客です。
アメリカ人は楽しけりゃいい。見て楽しむんだ。
大騒ぎながら見ています。
これが非常にドライで戦いやすいんです。
―― 軽量級の日本人も活躍してますが?
高阪 80kg以下の選手には目標になるでしょう。
日本では、どうしても90kg以上の重量級ばかりが
注目されてしまいますから。
モチベーションは一気に上がるでしょう。
ライト級(〜70.3kg)、
ウェルター級(〜77.1kg)、
ミドル級(〜83.8kg)では、
シュート(修斗)※5やパンクラス系の選手が
一気に世界へ進出する可能性も
あるんじゃないでしょうか。
―― 今後の目標はまずUFCでのリベンジですね?
高阪 まあそうですけど・・・・・。
―― ただのリベンジではないのですか?
高阪 99年に日本開催のUFC-Japanで、
レフリーストップで負けました。
相手のパンチで眼窩側壁を骨折したんです。
実はその前の顎をかすめられたパンチで
記憶が飛んでて、
レフリーはそれに気がつかったんでしょうね。
試合を止めなかった。
その次に飛んできたパンチが眼を直撃して
眼圧がおかしくなって、眼痛で記憶が戻ったんです。
その敗戦もあり、
また、前後してリングスマットでは
アイブルと試合して、顔をカットして負けました。

その時期は結果も伴わないし、
大きい怪我もありました。
非常に悪い時期だったんです。
治療に半年かかりました。

今思うと中途半端だったんですね。
リングスとUFCという2つのマットで戦って
相当疲労していたんだと思います。
肩も上がらなくなりました。

複数団体への参戦と疲労、そして怪我。
今回のリベンジは自分自身のそういった、
色々な嫌な記憶にケジメをつけるための
リベンジともいえるんです。
体調もいいですし。
―― 5月に出場予定ですが。
高阪 そうですね。
単に勝つということではないのです。
UFCは出場基準が非常にシビアなので、
ここのところ結果が残せていない僕は、
もう後がない感じです。
ただし僕の相手に小さいやつはいない(笑)
(先頃TKO負けした)宇野選手もそうでしょうけど
すでに崖っぷちに立っている感じですね。
後がありません。
体調はベストに近い状態になっているので
とにかく頑張らなければいけませんね。
―― 最後にWOWOWで見る人やほぼ日読者にメッセージを。
高阪 現地に来て見て応援してください(笑)
そうでないとあの感覚、迫力は
簡単に伝わるものではないと思います。
それほどインパクトがあるイベントなんです。

高阪選手は不思議な選手である。
アメリカで成功するという野心に
満ちていたのかと思ったら全く違い、
「おいしいと思って前田さんに直訴した」
リングスでのモーリス.スミスとの対戦が
その後の彼のグローバルな活動の原点となるのである。
そして練習のための渡米で、一躍UFC参戦。
まさにアメリカンドリームである。
しかし彼は、UFCの魅力は、
単にメジャーでアメリカ進出するということではなく、
「闘争本能の場」で「戦士になれる」という、
格闘家の本能を刺激する、
日本マットでの試合では味わえない緊張感であると
言い切る。

ボクシングでいうとアウェイ、
加えて人種の壁という環境を、
高阪選手は逆に「集中できる」と
吸収してしまう図太さを持ち備える。
UFCとリングスの2つのマットでの
怪我や様々な経験、それらの苦労を乗り越える中で、
自らの行くべき道、やるべき事が
「光の筋」のごとく明確になったのだろう。
発言に迷いはなく、それでいて自分を
「崖っぷち」と平気で言ってしまう。

戦いに関しても常に自然体で、一個人としては
スポットライトを浴びる注目選手としての
私利私欲や邪魔なプライドは何も無い。
それはイチロー、新庄をはじめとする
日本人メジャーリーガーが、
「楽しく、一生懸命、のびのび」と野球に臨む姿勢と
だぶって見える。
しかしその眼からは同時に
「戦場での勝利」「チャンピオン」という
本能として存在するのであろう野心も伺うことができた。

格闘技の真のメジャーともいえるUFCでのTKや
軽量級日本人選手の活躍が楽しみになってきた。

WOWOW 小田真幹

※1 ランディ・クートゥアー
   レスリング出身、現UFCヘビー級王者
※2 モーリス・スミス
   元キックボクシングヘビー級王者、
   その後UFCヘビー級王者にもなる。
※3 キモ選手
   94年UFC初期に活躍した大型悪役選手。
※4 パンクラス
   元UWFの船木誠勝が設立した総合格闘団体。
   ミドル級中心のスピードとパワーが特徴
※5 シュート(修斗)
   元UWFで初代タイガーマスクの
   佐山聡が設立した団体。キックと寝技を融合し
   佐藤ルミナ、宇野薫、桜井速人等人材を輩出。



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2002-03-15-FRI

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