鮮烈KO!タイソン健在!
昨年6月レノックス・ルイスに7RKO負けした
「鉄人」マイク・タイソンの復帰戦が行われた。
会場はメンフィスのピラミッド・アリーナ。
奇しくもルイスに屠られた同じ会場である。
通常ならば全ての嫌な記憶は払拭したいとの感覚があり、
あえて違う会場を選んだりするものだが、
やはり再起、そしてルイスへのリベンジを果たすのだという
思いが強いのだろう。
しかし今回の興行はこれまでに例を見ない経緯をたどった。
それも全てタイソンの理由によるものである。
2月17日、タイソンが試合をキャンセル。
理由は体調が万全ではないというもので、
インフルエンザの影響による
トレーニング不足という説が強かった。
しかし、2月18日になって急遽180度変わり、
今度は試合を行うという。
うって変わって体調は万全だということだ。
こうなると何が本当なのかわからない。
プロレスやエンターテイメントとしてなら
よく聞く類の話だが、ボクシングでは前代未聞。
ましてやそれが世界が注目する
マイク・タイソン戦であればなおさらである。
WOWOW解説陣は出発前日になって渡米をキャンセル。
その後、試合復活に伴う対応で
急遽、東京のスタジオからの実況となった。
タイソンショックはまだ続いた。
なんと公式の場に姿を見せたタイソンの左目周辺には
NZマオリ族のシンボルという刺青が施されていたのである。
写真提供:Tom Casono/SHOWTIME
試合キャンセル、そして開催、顔の刺青と
やはり普通の感覚から見れば理解は難しい。
ルイス戦で終わってしまったという終焉説や
心のバランスが崩れているとの憶測が流れるのも
不思議ではないだろう。
しかしどんなことが起きようとも
プロボクサーとしての答えはリングの中にある。
ゆえに私はこの試合に非常に注目した。
相手のクリフォード・エティエンヌは
WBOでは3位、IBFでは7位にランクされ戦績も
24勝17KO1敗1分と申し分ない。
身長も188cm、体重も101kgとバランスも良く、
タイソンよりも8cm大きい。
エティエンヌが先に入場する。
表情は記者会見等の悠然なものと比較するとやはり硬い。
そしてタイソン。
驚くべきは事前のトラブルが嘘のように
非常に集中した良い表情をしている。
やはり闘争本能なのかもしれない。
1Rのゴングが鳴る。
試合はあっという間に終りを迎えるだろう、
そんな激しさに満ち溢れたものだった。
両者一気に距離を詰め、フックの打ち合い。
エティエンヌはタイソンに近づき、打ち合いの中で
タイソン得意の左フックをかわし、
その隙にハードパンチを当てる作戦に出た。
一度、もつれた状態ではエティエンヌが
タイソンを押しまくり、
タイソンが下がりながらもエティエンヌを振り払おうとし、
背中からロープに倒れてしまう場面もあるなど、
両者1cmたりとも後ろには下がらないという
気迫が溢れていた。
しかしエティエンヌの積極策も60秒と持たなかった。
タイソン得意の左フックを
ダッキング(下にもぐるようにかわす)して踏んばり
必殺のパンチを放とうとしたその瞬間、
続けざまに飛んできたタイソンの
右ストレートが顎をとらえ、仰向けにダウン。
自分が全体重をかけ踏込んだ瞬間に
タイソンのパンチを受け、
立っていられるボクサー、いや人間は皆無だろう。
1R49秒タイソンKOで試合は終了した。
KO直後に印象的なシーンがあった。
立ち上がれないエティエンヌをタイソンが
両脇を抱え、立たせて、深い慈しみを
与えるように抱き包んでいた。
試合前のさまざまな憶測を裏切るかのような
非常に落ち着いた表情が特に印象的だった。
エティエンヌも完敗を認め、笑顔さえ出ていた。
試合後のインタビューでタイソンは
トレーニング中に腰を痛めたことを明らかにした。
つまり今回のドタバタは故障による調整不足を隠すための
カムフラージュだったということだ。
それでも世界ランカーを一発で葬ってしまうタイソンの力は
未だトップランクといえる。
やはりルイスやクリチコなどの
的確で安全運転する長身アウトボクサーや
トゥアのような怪力ボクサーとの凌ぎ合いを
世界戦という舞台で見てみたい。
さて話は来週に飛びますが、ボクシングを知らない皆様にも
ぜひ注目してみて欲しい試合が
3月2日(日)に行われます。
WBA世界ヘビー級タイトルマッチ
「ジョン・ルイス対ロイ・ジョーンズ」
ヘビー級のタイトルマッチではありますが、
ロイ・ジョーンズは実は2階級下の
(1階級下にはクルーザー級という階級があります)
L.ヘビー級の統一王者です。
両者にはおよそ20kgの体重差があります。
しかし現世界で最も優れたボクサーという
評価を得ているがゆえの挑戦でもあります。
柔道でいうと無差別級。
篠原対井上ということになります。
自分の体重よりも25%も重い
現役世界ヘビー級チャンピオンに挑戦するこの試合は
現代のロマンともいえます。
今まで現役L.ヘビー級で
ヘビー級の王者になった選手はいません。
階級制というボクシングの公平な根底を覆す
歴史的瞬間が見れるかもしれません。
また、常識を覆すだけに、どのような展開になるのか、
それだけを想像するだけで楽しみです。
WOWOWではこの試合を3月2日(日)
昼12:00から独占衛星中継いたします。
ご意見はこちらまで Boxnight@aol.com
|