新井田、復帰世界戦での戴冠ならず。
巧者アランブレッド逃げ切る。
天才肌ボクサー、新井田とは・・・。
新井田豊(ニイダユタカ、24歳)という選手を
知らない人も数多くいるだろう。
図抜けた素材との評判が関係者の間で広がり始めたのが
4、5年位前。
その評価通り日本王座を獲得。
そして2年前に世界初挑戦でいきなり
王者チャナ・ポーパオインに判定勝ちして
WBA世界ミニマム級王者となった天才肌の選手である。
さらに驚いたのがその後戦わずして
なんと世界王座を返上し、引退発表してしまうなど
当時は様々な意味で注目の存在だった。
まさに彗星のごとく日本ボクシング界に現れ、
去っていってしまったボクサーである。
その特徴はスピードと強打を持つ攻撃センスだった。
しかしやはりボクサーはボクサーを簡単にはやめられない。
2年のブランクを経て、新井田は現役復帰、
その実力も後押しして、いきなりの世界戦に挑んだ。
相手は星野を2度下し、すっかり日本でもおなじみとなった
ベネズエラの技巧派、WBA世界ミニマム級チャンピオン
ノエル・アランブレッドである。
2年のブランク、いきなりの世界戦、
技巧派アランブレッドなどの障害がありながらも
大方の予想は若干ながら新井田有利。
やはり潜在能力は凄いものがあるのだろう。
緊張の前半戦!
立ち上がりから両者手を出さない静かな展開。
会場のパシフィコ横浜のリングサイドに陣取る
TV実況者の声が直接聞こえてくるほどだ。
しかし新井田がみせる、
いきなりの左フック、ワンツーは鋭く、
何よりも敏捷そのものだ。
さらにガードを下げて顔のモーションで出方をうかがうなど
2年のブランクも感じさせない。
アランブレッドは様子を見ている体だろう。
しかしさすがは技巧派チャンピオン、
要所要所でのジャブやボディブローを的確にヒットさせる。
時折両者フックでの打ち合いなどもおこない、
闘志を前面に押し出した
緊張感漂う滑り出しとなった。
アランブレッドのテクニックが光る
カミソリのように鋭いオーラを纏っている新井田だが、
圧倒的に手数が少ない。
パンチに自信があるのは充分にわかるのだが、
世界レベルのボクサー相手に一発狙い打ちとなると
どうしても確率は低くなる。
相手がベテラン、アランブレッドであればなおさら難しい。
逆にアランブレッドは新井田の隙を突いて、
ジャブ、ボディブローをさらに重ねてゆく。
足を使い、新井田得意の左フックに万全の注意を払い
徐々にペースを握ってゆく。
観客席からも「手を出せ」という怒声や
隙をついては離れる29歳のアランブレットの狡猾さに
ため息が漏れ始める。
新井田、勝負を賭け捨て身の攻撃
8Rペースが変化した。
新井田が左ジャブを突き、前に出て
アランブレットを慌てさせる。
しかしペースは完全には戻らない。
やはりジャブを突いて崩した後、
瞬間的な攻撃に時間がかかってしまい、
足をうまく使われて逃げられてしまう。
ペースを上手くつかめないまま試合はすでに終盤、
ここで新井田が捨て身の打ち合いにでる。
もう少し早くに出ていれば展開は変わっただろう。
それほど迫力のあるものだった。
しかしさすがは世界王者アランブレッド。
攻め込まれると踏ん張り、逆に強いパンチを打ち返す。
軽量級といえどもやはり格闘技。
下がらないで打ち合いに出るのはやはり闘争本能であり、
経験からくるものだろう。
局面局面での切り替えでは非常に上手い。
最終12R、新井田はほぼ攻め通した。
しかし決定的なチャンスはつかめなかった。
判定は2−1で王者アランブレッドを支持。
ポイント差は非常に僅差だっただけに、
序盤から中盤、手数が少なくペースを取られたことが
今更ながら悔やまれる。
観客泣かせ!アランブレッドの技巧
しかしアランブレッドの試合は観客泣かせだ。
本当に僅差で世界タイトルを持っていってしまう。
パンチも強くないためダウンシーンもなく、
手数と微妙な部分での技術で勝負している。
具体的には足を使い、ジャブで隙をつき、
先手を奪っていく。
ポイントに結びつける主導争いには一日の長がある。
それは間違いなく「世界の技」なのだが、
客受けはしないと言っていいだろう。
相手にとっては圧倒的な存在とは映らないのも
かえって術中にはまってしまう一因だろう。
敗北感は無いが、全く達成感もないというのが
新井田の感想ではないか?
世界王座を取ったチャナ戦でも
手数とペースは押されていた。
チャナが打ち合いに応じたからこそ、
打ち合いの局面を的確にポイントにしての勝利だった。
やはり世界を取るには、さらに微妙な技術と
緩急のつけ方が必要だろう。
足と防御を駆使し、引いては出る、出ては引くという
アランブレッドに幻惑されてしまった。
新井田の課題と期待・・・
今回の試合で経験したことは2年前に勝った
チャナ戦での課題ではあったはずだろう。
しかし研究し、練習したものが出せないのも
世界タイトルマッチである。
前回の徳山戦でも書いたが
ジャブというパンチは
ボクシングの様々な局面に深く係わっている
本当に大切な武器なのである。
特に軽量級というクラスにおいては
その価値は高いといえる。
新井田はパンチとキレは相当なレベルである。
さらに手数やジャブ、連打のコンビネーション、
局面での判断が的確に出来るようになれば
間違いなく世界を取れる素材である。
皮肉にも復帰世界戦がプロ初黒星。
恐らく彼のプライドは傷ついただろうが、
同時に明確な目標と課題が見えたはずだ。
まだ24歳。
日本ボクシング界を背負っていける選手だ。
今後も注目してゆきたい。
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